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インタビュー 重要社会課題 | 生活水準の向上

次世代アグリ事業

農業にイノベーションをもたらし
持続可能な食糧生産の実現へ

世界の人口増加や気候変動の問題が深刻化する中、人類が地球上から飢餓をなくし、食糧の安定供給と栄養事情の改善を実現するためには、今後、農業の生産性向上と環境負荷低減を両立させ、持続可能な食糧生産供給システムを確立することが不可欠だ。
これまで約70年間にわたり、世界各地で農業ビジネスを展開してきた住友商事では、こうした課題の解決に貢献すべく、2022年4月、中長期的な視点から、農業の未来を支える新たな技術やソリューションの普及に向けた事業開発を担うアグリイノベーション部を新設した。長年培ってきた農業ビジネスの知見を活かした、持続可能な次世代の農業を実現するための挑戦とは――。未来の農業に向けて奮闘する2名の担当者に話を聞いた。

Interviewees

岡田 啓佑 黒江 彩

アグリイノベーション部

岡田 啓佑

2008年入社。建設機械事業本部で鉱山・建設機械の販売事業や建機工場向けのサプライチェーンマネジメント等に携わった後、2013年10月から約3年間、アフリカ現地法人で新規事業開発を経験した。帰国後、精密農業分野の事業開発を担当。2022年4月に設立したアグリイノベーション部に参加し、スマートファーミング分野の新事業開発を担当している。

アグリイノベーション部

黒江 彩

2008年入社。基礎化学品・エレクトロニクス本部で、プラスチック原料や半導体材料のトレードを経験した後、2020年7月、エネルギー本部に異動し、カーボンクレジット関連ビジネスの立ち上げに携わる。2022年4月、新設のアグリイノベーション部へ異動。現在は、同部でカーボンクレジット創出を含めたクリーンファーミング分野の新規事業開発を担当している。

Why

増大する食糧需要や気候変動に対応した農業・食糧生産の実現に向けて

農業・食糧生産を取り巻く環境は、近年、一層厳しさを増しています。グローバル規模では、世界の人口増加や食生活の変化に伴い食糧需要が増大する一方、気候変動による作物の生育条件の変化、干ばつや洪水の増加、土壌の流亡など、食糧増産の壁となるさまざまな問題が顕在化しています。日本国内に目を向けても、農業人口の減少、後継者不足、耕作放棄地の増加など多くの社会課題が山積みです。これらの問題を解決し、持続可能な食糧生産システムを構築していくためには、農産物の生産性向上や作業の自動化・省力化、環境負荷の低減など、農業分野にイノベーションをもたらす新たな技術・ソリューションを実用化・普及させていくことが求められます。

世界全体の品目別食糧需要量の見通し

What&How

アグリ事業を次世代成長戦略テーマに掲げ中長期的視点から新規事業開拓に取り組む

住友商事は、約70年前に農薬・肥料の輸出入事業に着手したのを皮切りに、その製造・ディストリビューション事業、さらに農業機械などを含めた農業資材の直販事業をグローバルに展開する等、世界各国の農業の持続的発展と食糧の安定供給に寄与するビジネスを推進してきました。これら長年の事業を通じ、世界の主要農産地をカバーするグローバルな販売ネットワークとバリューチェーンを構築する一方で、直販体制を通じてお客様である各地の生産者の方々にダイレクトにアクセスし、きめ細かなニーズや課題をくみ上げることができるのも当社アグリ事業の大きな強みです。
人類の持続可能性や食糧安全保障に関わる課題として農業・食糧生産への注目が高まる中、住友商事は、農業ビジネスを中期経営計画「SHIFT 2023」の次世代成長戦略テーマの一つに位置付け、全社体制で事業強化・育成をしています。アグリ事業SBU(Strategic Business Unit)では現在税後利益 165億円(一過性利益を除く)を2030年度に400億円超に成長させる計画です。
この方針のもと、アグリイノベーション部では、ICTを活用して高効率の食糧生産を目指す「スマートファーミング」、低環境負荷の食糧生産を追求する「クリーンファーミング」、ゲノムや培養技術等を駆使した「次世代食糧生産」の事業開発に取り組んでいます。

ICTやバイオ、環境対応技術等を活用した持続可能な次世代農業の実用化に挑む

「スマートファーミング」は、IoT・ICTやAI解析といった最先端の情報技術を活用し、農業機械の稼働データや農作業記録、土壌データ、気象データ、衛星や空撮画像による生育分析等、農業に関するさまざまなデータを集約・分析することにより、収穫量の最大化や品質向上、農作業の自動化・効率化を実現する事業です。こうした先端農業技術・ソリューションを普及させていくための営農受託事業にも力を入れています。その一環として、国内で農業用自動飛行ドローンの開発・販売と、画像解析による生育・病害診断等のAIサービスを開発するナイルワークス社への出資も行っています。また、新規事業検討領域では、オートメーション技術を活用した精密農業の普及、解析・ソフトウェアのサブスクリプションサービス、農作業の受託や資材流通のモバイル決済サービス等を通じた新興国・小規模農家向け支援サービスの開拓等にも取り組んでいます。



「クリーンファーミング」では、農業由来のGHGを削減するため、土壌の有機物を増やすことで地中にCO2を貯留し、農地や生態系の保全・改善を図りながら作物を栽培する「再生農法」に注目しています。また、それによって創出したカーボンクレジットを流通させることで、持続可能な事業化を目指しています。その他、畜産・酪農業で発生するGHGを削減するため、畜牛のげっぷに含まれるメタンガスを低減する効果のある飼料添加物を利用した事業開発、代替タンパクとして期待されている昆虫由来タンパク質を用いた畜産・水産飼料やペットフードをはじめとした用途開発に力を注いでいます。
「次世代食糧生産」は、次世代技術を活用して循環型の食糧生産システムを構築し、人々の豊かな食生活を支えていこうという取り組みです。具体的には、ゲノム編集技術を駆使した高機能農産物品種やバイオ農薬の開発、藻類から生成した食用油・燃料の実用化、培養肉、代替肉の開発・生産等を目指しています。

持続可能な農業に取り組むインドの現地パートナー、農家の皆さんと住友商事社員

既存のアグリビジネスとの連携はもちろん、住友商事の幅広い事業とのシナジーを追求

プロジェクトの進捗状況はさまざまですが、それぞれの案件でマイルストーンを設定して、一歩一歩達成していく方針です。すでに実証実験等で成果を上げている案件であっても、実際に事業化するためにはコスト面が大きな課題となる可能性があります。そこで、機械設備などの導入コストがかさむ事業に関しては、サブスクリプションサービスとして提供する等、初期投資の難しい中小規模の生産者の方々にも広く活用していただけるビジネスモデルの構築を目指します。
また、新規事業開発にあたっては、アグリ事業SBUの既存事業はもちろん、グリーンケミカル開発部やエネルギーイノベーション・イニシアチブ(EII)等、他のSBUや全社組織において環境対応ビジネスやカーボンニュートラルの実践に取り組む専門チーム、各地域の当社拠点やグループ会社との連携を推進しています。このように社内のさまざまな事業とのシナジーを追求しながら、持続可能な次世代の農業・食糧生産システムの実現に貢献できるのは、住友商事ならではの強みだと考えています。

Going forward

パートナーとビジョンを共有し、課題を一つひとつ解決していく

「スマートファーミング」のプロジェクトでは、農機やドローンなどの機器メーカーやITベンダー等はもちろん、ユーザーである農業生産者や、作物の需要家である食糧加工会社や流通業者も含め、多くのパートナーとの協力関係が非常に重要です。農場での実証実験は結果が得られるまで半年から1年以上かかることもあります。そういった中で、実験段階でプロジェクトが止まってしまうことのないように、より長期的な目線で農業を持続可能なものにしていこうという、同じ課題感を持っていただけるパートナーと一緒に事業を展開していくことが大事だと思いますし、住友商事としてその一助を担いたいな、という想いで仕事をしています。また、当社には、国内はもちろんアジアやアフリカ、ヨーロッパ、南米など世界に拠点があり、そこにはその国の農業や社会の発展に貢献しようという情熱を持った人たちがいます。そんな仲間たちと一緒に、次世代の農業・食糧生産を支える新しいビジネスを創出していきたいと考えています。

農業における環境負荷削減を収益化できるビジネスモデルの構築へ

アグリイノベーション部では「Innovation for the Earth」というミッションを掲げており、まさに私が担当する「クリーンファーミング」は、これからの農業に不可欠な取り組みで、極めて社会的意義の大きな事業であると確信しています。ただ、現状では農業における環境負荷の低減がただちに生産者の収益に結びつくわけではないので、持続的なビジネスとして普及させていくにはバランスが難しい事業だとも感じています。そこで私たちは、カーボンクレジット創出などで環境価値を経済価値へと変換する仕組みを導入したり、コスト削減を追求する等して、「クリーンファーミング」を収益化するためのビジネスモデルの確立に力を注いでいます。また、各生産者で個別に事業化するのは効率的ではないので、各業界や地域等と協力して取り組むことで、より大きなGHG削減効果を創出し、社会的なインパクトをもたらせるよう、ビジネスをコーディネートしていきたいです。