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インタビュー 重要社会課題 | 循環経済

航空機アフターマーケット事業

役目を終えた航空機の有効活用により、
航空機産業からサーキュラーエコノミーの構築に貢献

航空業界はコロナ禍によって深刻な打撃を受けたが、世界各国の渡航・入国制限が緩和・解除されたことで航空機需要は再び伸長しつつある。また近年、世界の航空会社は持続的な社会と企業の成長を両立させるべく、サステナビリティ経営に力を入れている。このような背景のもと注目を集めているのは、航空機の「アフターマーケットビジネス」だ。航空機のライフサイクルの持続性を高めるこのビジネスに、なぜ住友商事はこれまで注力してきたのか、どのような未来を描いているのか。航空事業開発部の機体リサイクル事業とパートアウト事業の担当者に、ビジネスの現状と今後の展望、事業にかける想いを聞いた。

Interviewees

塚本 有沙 近藤 俊典

航空事業開発部

塚本 有沙

2006年入社。航空機部品・MRO(Maintenance Repair Overhaul:整備・補修・オーバーホール)の対日代理店業務、エンジンリース事業会社の管理等を担当した後、経営企画部でマテリアリティ策定などに携わる。現在は、航空事業開発部で機体リサイクル事業に携わっている。

Executive Vice President, Werner Aero, LLC

近藤 俊典

2008年入社。航空機リース事業、エンジンリース事業等に携わった後、オランダのエンジンリース事業会社に出向。2020年からパートアウト事業に携わり、2022年からは米国のパートアウト事業会社であるWerner Aero, LLCに出向している。

Why

航空産業をめぐる深刻な環境問題「退役後航空機のリサイクル」

航空機のライフサイクルは25~30年といわれ、年間700機以上が退役していますが、退役後は「航空機の墓場」と呼ばれる米国の砂漠地帯に放置される事例が多く見られています。退役後の航空機のリサイクルには多くの課題があり、航空機を循環利用する必要性が高まっているのが現状です。
そういった中、世界の航空需要は、新型コロナウイルス感染症の収束とともに再び需要が回復しつつあり、航空業界におけるCO2排出量削減・脱炭素化を喫緊の課題とした航空会社はサステナビリティ経営をもとにした成長戦略を策定・実践しています。
これらの市場背景も重なり、航空機のライフサイクル自体の持続性を高めていくことが求められています。
航空ビジネスを大きく展開する当社グループにおいて、高価な金属の塊である航空機の退役後に、リサイクルできる部品を回収・販売し、さらに残った航空機部品から金属を取り出し、二次利用できる金属として販売する等、航空ビジネスを通じてサーキュラーエコノミーの構築に貢献していくことが、当社グループの責務だと考えています。

What&How

住友商事が挑む「アフターマーケットビジネス」

住友商事では、長年にわたり航空機のリース分野でのビジネスを柱としつつ、グローバルネットワークを活かしながら規模と幅を兼ね備えた多様な航空関連事業を展開してきました。そして近年は、航空機のライフサイクル全体を見据えた事業の展開を目指し、航空機の機体や部品などを再利用する「アフターマーケットビジネス」に注力しています。
航空機リース事業における新造機の1次リース期間は5~15年ですが、航空機の耐用年数は25~30年で1次リース後も長く活躍します。そこで、住友商事では航空機のライフサイクルの「入口」に当たる1次リースだけでなく、「出口」となるアフターマーケットビジネスとして、「パートアウト事業」「機体リサイクル事業」「エンジンMRO事業」を展開し、航空機のライフサイクル全体を持続可能なものにすべく、事業を開発・推進しています。

アフターマーケットビジネス

退役機の部品を有効活用する「パートアウト事業」

退役した航空機から取り出して再利用できる部品は1000種類以上。着陸の際に使用する車輪である「ランディングギア」や補助動力装置の「APU」といった巨大なパーツから、客室の座席、座席横のパネルまで多岐にわたります。航空機パートアウト事業は、そうした部品の整備・販売を行う事業で、住友商事においては、アフターマーケットビジネスの拡大に向けて2022年8月に出資した米国のWerner Aero, LLC(以下、Werner)がその中核を担っています。

出向先のWerner Aeroにて

 

米国で約30年にわたってパートアウト事業を展開するWernerは、多くの航空会社と強固なネットワークを持ち、高い在庫管理力や機材調達力、部品販売力も有しています。着実な成長が見込まれている航空機アフターマーケット市場において、人材の増強や調達する退役機の量・種類の拡大を推進することで、今後はさらに創出価値を高めていく計画です。
住友商事は、航空機パートアウト事業の成長ビジョンとして、自社の持つ資金調達力、知見を掛け合わせてWernerの事業拡大を図りつつ、機体パートアウト事業と航空機リース事業、エンジンリース事業とのシナジー創出を目指しています。さらに、機体リサイクルなど周辺事業を取り込むことでアフターマーケット市場において存在感のあるプレイヤーになりたいと考えています。

解体後の航空機部品

出向先のWerner Aeroにて

出向先のWerner Aeroにて

解体後の航空機部品

解体後の航空機部品

「機体リサイクル事業」では廃棄処理の難しい炭素繊維強化プラスチック(CFRP)のリサイクルにも取り組む

「機体リサイクル事業」は、パートアウト事業で必要な部品を取り終わった後の航空機の残骸を細かく細断・分別し、金属の二次合金としてリサイクルする事業です。住友商事では、自動車のリサイクルにおいて金属・プラスチック等の99%を再資源化する技術力を有し、航空機の適正なリサイクルを推進する国際団体「AFRA(Aircraft Fleet Recycling Association)」から日本国内で唯一認証を受ける総合リサイクル会社「豊富産業」をパートナー企業として事業化を検討。2022年に住友商事と豊富産業が共同で実施した機体リサイクルの実証実験では、96%のリサイクル率を達成しました。

焼却前の構造材



また、航空機の機体の中でも特に廃棄処理が難しいとされる素材である、 CFRPのリサイクルにも挑戦しています。2035年頃からは、軽量で頑丈な特殊素材であるCFRPを機体全体の50%以上含んだ航空機の退役が本格化しますが、CFRPは現時点でリサイクルの方法が確立しておらず、地中に埋めるしかないといわれています。そこで、住友商事では、2040年にCFRPの廃棄量が現在の10倍近くになるという予測なども踏まえ、社内の炭素部や外部のパートナー企業とも連携してリサイクル方法の確立に注力しています。すでに、岐阜県にあるカーボンファイバーリサイクル工業社の技術を活用したCFRPリサイクルの実証実験において、CFRPを十分に再利用可能な形状で取り出せることが確認できており、各企業、大学やその他研究機関とも協力しながら再利用可能な活用方法を検討していく方針です。

焼却・加工後のペレット

焼却前の構造材

焼却・加工後のペレット

Going forward

航空機産業の「入口」から「出口」まで責任を持って行う事業を確立したい

砂漠に朽ちかけた飛行機が並ぶ「航空機の墓場」は、誰がどう見てもサステナブルではありません。航空機を適切にリサイクルできるパートナーとのネットワークと住友商事のケイパビリティを最大限に活かし、航空機業界をサステナブルな形態に変えていくことは非常に意義のあることと認識しています。また、アフターマーケット市場は今後も着実な伸長が見込まれており、部品の再利用によるリターンも大きいため、事業化に成功すれば収益の大きな柱になるという点にも大きなやりがいを感じています。
私は経営企画部に所属していた時に、マテリアリティの特定に参画したのですが、当時は実事業に紐づけるほど意識していませんでした。それが今や、本部内では「サーキュラーエコノミー」をキーワードにESG投資を奨励するという機運が高まっています。採算性は確保しながらも、採算性だけにとらわれず社会的な意義もきちんと評価してもらえます。今後も、航空機産業の「入口」から「出口」まで責任を持って事業を行うポートフォリオの確立に貢献していきたいと考えています。

航空機業界のアフターマーケット市場で新たな事業創出に取り組んでいきたい

今、航空業界は大きな転換期を迎えていますが、その変化に適応するには多彩な資産・機能が必要になります。特に航空機のリサイクルにおいては、機体の調達ルートの確保や解体・リサイクルの技術、金属に関する知見など、幅広い領域のノウハウやネットワークが求められ、そこに総合商社である住友商事の強みを感じています。
「遠く離れた人に会える」という機能も果たす航空機事業の存在意義は、航空機の安定供給を通じて世界中の人々の幸せや豊かさに貢献することだと考えています。航空機業界は長年にわたり欧米のメーカーが主導してきました。しかし今後はアフターマーケット市場の拡大を好機と捉え、日本企業として市場を牽引していけるよう、アフターマーケットビジネスにおける新たな事業創出に全力で取り組んでいきます。