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特集 Ⅱ:一段高いレベルの利益成長を目指して

世界のエネルギー市場の構造改革「シェール革命」

米国のエネルギー事情は、シェールガスの採掘に成功したことで一気に様変わりしました。2000年代半ばまでは、米国は将来的に世界最大の天然ガス輸入国になると見られていましたが、今や液化天然ガス(LNG)の輸出さえも現実のものとなっています。
シェールとは、泥が水平に堆積して固まった頁岩と呼ばれる岩のことで、シェールガスとは、その隙間に貯留している炭化水素ガスのことです。シェールガスが世界の至るところに存在していることは早くから知られていましたが、以前の掘削技術だけではシェールガスを地上に取り出すことが難しく、商業生産には至っていませんでした。その開発にいち早く成功したのが米国です。2000年代に入り、水平掘削と水圧破砕の技術が確立されると、シェールガスの生産性が大きく改善し、2006年頃から本格的にシェールガスの商業生産が開始されました。シェールガスの開発が成功するまでは、天然ガスの供給地は中東が中心でしたが、米国各地でシェールガスの開発が進むことで、天然ガスをめぐる世界市場の構造変革が進展しました。

水平掘削と水圧破砕の技術
水平掘削と水圧破砕の技術

シェールガス開発からタイトオイル開発へ

北米における主なシェールガス・オイルの開発拠点
北米における主なシェールガス・オイルの開発拠点

住友商事の石油・ガス開発事業は、これまで英領及びノルウェー領北海油田を中核資産と位置付け、開発に注力してきました。さらなる優良資産の積み増しの可能性を追求してきましたが、このように、石油・ガス開発業界に大きな変革をもたらしているシェールガスに大きな可能性を見い出し、2009年12月、シェールガスの有数の産地である米国テキサス州バーネット・シェール・フィールドにおいてCarrizo Oil & Gas, Inc.が推進するプロジェクトへの参画を決定し、アジア企業として初めてシェールガス開発に着手しました。さらに、2010年9月には、ペンシルバニア州マーセラス・シェール・フィールドの開発プロジェクトに参入しました。マーセラス・プロジェクトにおいては、2020年までの間に1,100本以上の井戸を掘削する計画です。
当社の石油・ガス開発事業への取り組みは、さらにタイトオイルの開発へと拡大します。タイトオイルとは、シェール層、ライム(石灰岩)層、浸透率の低い砂岩層などに貯留している原油のことで、シェールガスと同様、水平掘削技術及び水圧破砕を用いて抽出されます。2012年9月、当社は、テキサス州パーミアン・ベースンでDevon Energy Corporation(デボン社)が進めているタイトオイル開発プロジェクトへの参画を決定しました。当社の資源・エネルギー上流分野のポートフォリオ戦略の中で重点戦略商品の一つと位置付ける石油・ガス資産の拡充を実現し、中長期的に収益の飛躍的な向上に資するプロジェクトです。
本プロジェクトの開発エリアであるパーミアン・ベースンは北米最大の埋蔵量を誇り、全米の原油生産量の20%を占める鉱区で、シェールガスやタイトオイル開発技術の発展に伴い、現在は、全米でも特に活発な開発エリアとなっています。また、パートナーであるデボン社は、業界で初めて水平掘削の技術を用いた開発を行うなどシェール開発の先駆者であり、現在最も技術的経験・ノウハウを持つトップオペレーターです。
このように、ポテンシャルの高い有望な開発エリアを有力なパートナーとともに開発を進めることにより、バーネット及びマーセラス・シェールプロジェクトを通じて獲得した非在来型エネルギー開発のノウハウ、知見、業界でのプレゼンスという強みをさらに高めていき、非在来型エネルギー開発分野における本邦のリーディングカンパニーのポジションをより一層追求していきます。

上流開発から総合力を活かした多面的な展開へ

シェールガス、タイトオイルなどの非在来型エネルギー事業は、掘削、生産、輸送など、上流から中下流に至るまでの各工程において様々な機能が求められています。当社はこうしたニーズを捉え、上流開発事業に加え、当社の強みである総合力を発揮した多面的なビジネス展開を実現しています。

北米鋼管事業のさらなる成長を目指す
米国のシームレス鋼管製造会社における鋼管の切断加工の様子 米国のシームレス鋼管製造会社における鋼管の切断加工の様子

世界では年間約1,200万トンの油井管が消費されており、米国は、この半分にあたる約600万トンが消費される世界最大の市場となっています。 当社の北米における事業展開は歴史が古く、25年前には本格的に問屋事業に参入しています。その後も独自の問屋網を軸として、活況を呈するシェールガス・オイル開発を背景とした顧客ニーズの変化に対応しながら、製造や加工事業への展開も進め、現在では、米国で消費されている油井管のうち、約20%の市場シェアを誇っています。
その油井管市場では、2007年頃からのシェールガス・オイル開発の増加に伴い、この開発用に径の小さい小径油井管の需要が急増しています。それを受け、当社は2011年9月に、フランスの大手鋼管メーカーVallourec S.A.による小径シームレス鋼管製造事業に参画し、2012年秋から稼働を開始しています。2013年にはフル生産に達し、年間約35万トンの鋼管を生産する予定であり、油井管事業においてさらなるシェア拡大を狙っていきます。
また、油井管事業に隣接する油井機器・サービス分野(Oil Field Equipment。以下、OFE分野)への展開を図る足掛かりとして、2006年末にHowco Groupを買収しました。シェールガス・オイルの革命的増産により、OFE分野の市場規模は現在40兆円と巨大なマーケットとなっており、Howco社が持つ油井機器の加工と問屋機能という強みを活かし、こうした需要を着実に捉えていきます。
北米鋼管事業における当社の強みである、①スーパーメジャーから中小独立系まで幅広い石油会社との長期契約を中心とした顧客基盤、②高品質の製品をジャストインタイムで供給する問屋網、③油井管サプライ・チェーン・マネジメント(SCM)スキームといった独自システムによる円滑なオペレーション支援体制、などの基盤をさらに強化するとともに、Howco社を中心としたOFE事業、ラインパイプ・特殊管関連事業を拡大することで、上流から中下流にかけて、鋼管事業のトータルソリューションプロバイダーとしての機能を深化させていきます。

天然ガストレードの実績をもとに、LNGの輸出へ
ドミニオン社が運営するコーブポイントLNG基地 ドミニオン社が運営するコーブポイントLNG基地

当社は、2013年4月、Dominion Cove Point LNG, LP(ドミニオン社)が、メリーランド州ラスビーで推進するコーブポイントLNGプロジェクトへの参画を決定しました。本プロジェクトは、現在LNG受入基地として稼働中のコーブポイントLNG基地に新たに天然ガス液化プラントを建設し、シェールガスをはじめとする米国産天然ガスを液化してLNGとして輸出するという取り組みです。米国エネルギー省による自由貿易協定(FTA)未締結国向けのLNG輸出許可発行等を経て、2017年の稼働開始を目指しています。当社は、100%子会社のPacific Summit Energy LLC(PSE社)を通じて、ドミニオン社と年間約230万トン分の天然ガス液化加工契約を締結するとともに、生産されるLNGを、2017年より20年間にわたって東京ガス(株)及び関西電力(株)に販売する基本合意書を締結しています。
当社は2004年にPSE社を設立し、米国内の天然ガストレーディング・マーケティング事業を開始しました。現在では、日本企業が100%出資する会社としては唯一、LNG換算で年間1,000万トン規模の天然ガスを米国内で取引するまでに成長しています。PSE社は本プロジェクトにおいて、米国の天然ガスマーケットや当社権益など多様なリソースを組み合わせ、競争力のある天然ガスを、安定的かつ長期にわたって液化プラントに供給する役割を担います。
このように本プロジェクトは、前述のシェール上流開発とPSE事業で培った天然ガストレードのノウハウ及びガス調達力という強みを活かすことにより、シェールガスの開発から流通、液化、輸出に至るまでの天然ガス・LNGバリューチェーンを構築しようという試みです。当社は、このバリューチェーンを基盤として、米国産天然ガス価格に連動したLNGを日本へ供給し、日本のLNG調達先及び調達価格フォーミュラの多様化を図り、日本のエネルギー安全保障に貢献していきます。

当社グループの強みを結集し、新たな価値を追求する

非在来型エネルギー事業の拡大
非在来型エネルギー事業の拡大

これ以外にも、当社の強みを活かせる非在来型エネルギーの事業領域は多岐にわたっています。例えば、シェールガス・オイル開発では水圧破砕を行うため大量の水を利用しますが、少量ながらも化学物質が混じっているため、直接河川などに破棄できず、専用の井戸に捨てるか、水処理をして放流またはリサイクルする必要があります。今後、環境保全のための排水処理・リサイクルのニーズが高まると予測されることから、環境・インフラ事業部門では、これまで海外で展開してきた水処理事業の実績やノウハウをベースにした取り組みを検討しています。また、シェールガス・オイルの生産時には、エタン・プロパン・ブタンなども併産されますが、資源・化学品事業部門が、長年のトレーディングでの経験を活かし、石油化学品事業・LPG事業への幅広い展開を図っています。
当社は、2012年9月より、非在来型エネルギー事業に関する全社横断ワーキンググループを立ち上げ、各営業部門のみならず海外拠点との連携を強化し、グローバルに新規事業・投資機会の発掘に関する情報共有を行う体制を整えました。また、中期経営計画「Be the Best, Be the One 2014」においては、非在来型エネルギー事業の周辺分野を全社育成分野として、戦略的に投融資を行っていく方針です。「シェール革命」によりもたらされたパラダイムシフトを着実にビジネスチャンスとして捉え、裾野の広い非在来型エネルギー事業周辺分野の拡大に向けて、当社の強み・機能を結集し、総合力を発揮することで、新たな収益の柱にしていきます。