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インタビュー 重要社会課題 | 気候変動緩和

バイオマスエネルギー開発

パルプ由来の新たなカーボンフリーエネルギー製造への挑戦

カーボンニュートラル社会の実現に向けて、化石燃料の代替としてカーボンフリーエネルギーの製造及び安定供給が世界的に求められている。水素やアンモニアはその代表例で、住友商事でも複数の案件が進行中だ。こうした流れの中、新たなカーボンフリーエネルギーの製造に挑むプロジェクトがある。50年以上にわたって取引を続けてきた日本製紙とともに、パルプ由来のエタノールを生成し、ジェット燃料の原料として販売することでCO2削減に貢献する――。国内森林資源の利活用、非可食由来であること等も含めて、社会的意義が非常に高い本事業は、世界でも先進的なチャレンジである。同プロジェクトが船出を迎えるまでには、数十年にわたり積み上げてきた取引先からの信頼と、次世代バイオ分野での新規事業開発に粘り強く幅広い検討を重ねた経緯があった。長年、日本製紙との取引関係を構築してきた担当者と次世代バイオ事業の開発に取り組んできた担当者のプロジェクトにかける想いを紹介する。

Interviewees

大森 夏樹

バイオマスエネルギー開発部

大森 夏樹

1994年住友商事入社。紙パルプ第二部パルプチームで木質パルプ輸入・国内販売業務を担当。2008年にセメント部に異動したのち、2013年には、インドネシア・ランプン駐在でバイオマス関連開発業務を担当。その後、バイオマス関連業務を経て、2021年から現在のバイオマスエネルギー開発部バイオマス発電燃料チームで木質ペレット輸入業務及び次世代バイオ原燃料開発を担当

横山 誠人

バイオマスエネルギー開発部

横山 誠人

2019年住友商事入社。バイオマス原燃料部チップチームに所属し、木質チップ輸出入業務を担当。2021年に現在のバイオマスエネルギー開発部バイオマス発電燃料チームへ異動。木質ペレット輸入業務を担うとともに木質由来の次世代バイオ原燃料開発業務も担当

Why

世界各国で注目されている非可食由来のバイオエタノール

現在、バイオエタノールは、再生可能エネルギーやSAF※1のようなバイオ燃料の原料、環境負荷の低い化学品原料として、カーボンニュートラル社会の実現に向けて世界各国で注目されています。バイオエタノールについては、砂糖やでんぷん、植物油などのバイオマスの可食部を原料として製造されたものを“第一世代バイオエタノール”、木質バイオマス・バガス(砂糖製造後のサトウキビ残渣)などの食料と競合しない非可食バイオマスを原料とするセルロース系エタノールを“第二世代バイオエタノール”と呼び、特に後者の木質バイオマスについては森林資源が豊富な我が国において、国内森林資源の利活用、エネルギー安全保障やエネルギー自給率の向上といったさまざまな問題を解決できる可能性があります。

※1 Sustainable Aviation Fuelの略語。持続可能な航空燃料。生産・収集から、製造、燃焼までのライフサイクルでCO2排出量を従来燃料より大幅に削減し、既存のインフラをそのまま活用できる持続可能な航空燃料のこと

バイオエタノールの区分

What&How

日本製紙、Green Earth Instituteと共同検討を開始

住友商事は、日本製紙、Green Earth Instituteとともに、木質バイオマスを原料とする国内初のセルロース系バイオエタノールの商用生産及びバイオケミカル製品への展開に向けた検討を開始し、年間数万キロリットルの国産材由来のバイオエタノール製造を目指しています。 非可食由来、特にパルプからのエタノール製造は世界でも先駆け的な取り組みです。単に石油由来の燃料の代替として脱炭素に貢献するだけでなく、木材という非可食原料を使用することで、現在の主流であるコーンや砂糖からのエタノール生成と比較しても低炭素で環境負荷が低いという特長もあります。さらに、生産工程でもパルプ製造時の黒液を使用することで他の燃料と比較し圧倒的な低炭素化の実現を目指しており、また、国産の間伐材等を有効活用することで、国内の森林資産保全にもつながります。 製造したエタノールは、今後、主に需要の急増が見込まれる国産SAFなどの原料としての利用を前提としています。さらにバイオエタノール製造で副次的に生成されるCO2の回収・利活用(CCU)や、発酵プロセスの残渣を有効活用して飼料や燃料にするなど、脱炭素社会に寄与するカーボンリサイクルの仕組みの構築も視野に入れています。 我々が商用生産を目指すバイオエタノールをジェット燃料として使うためにも、また新たな技術が必要で、石油会社各社が取り組んでいます。循環型カーボンニュートラル社会を実現するため、世界各地で並行してチャレンジが進んでおり、その一翼を我々が担っていると考えるとわくわくしますし、何としても成し遂げたいと強く思います。

想定商流とモノの流れ

一番左の木材チップから、パルプ、糖化発酵培養液とする工程を経て、一番右のバイオエタノールがつくられる=日本製紙及びGreen Earth Institute提供

プロジェクトの方向性を合宿で議論(日本製紙、GEI、当社)

強固な関係性を基盤としてWin×Winの協働を実現

当社と日本製紙の協業は、約50年前の南アフリカからの木材チップ輸入に始まり、その後も南アフリカや南米での植林事業を中心とした協業、トレードを続けてきました。今回の第二世代バイオエタノール事業は、これまでの長年にわたる協業・取引を通じ揺るぎない信頼感を得ていたことや、当社が持つ事業会社運営についての知見・ノウハウへの期待から実現したものです。
また、本事業はパルプ製造の遊休設備の有効活用にもなるため、気候変動緩和という社会課題の解決だけでなく、製紙産業が抱える課題解決の糸口となり産業全体の活性化への貢献も期待される事業といえます。

住友商事の総力を挙げて事業化に向けた挑戦を続ける

2023年2月の基本合意書締結後、エタノールの製造を開始するまでにはまだ多くの課題がありますが、課題解決に取り組む中で、総合商社である“住友商事の底力”が新たな事業を生み出そうとしています。2021年4月に新設された営業組織「エネルギーイノベーション・イニシアチブ(EII)※2」には、エネルギー、インフラなどの専門家が集結しており、パートナーである日本製紙やGreen Earth Instituteからエンジニアリング面でのアドバイスを求められることもあります。また、当社グループには他にもさまざまな分野のスペシャリストが在籍していることから、化学品ビジネスラインから派生したグリーンケミカル開発部とのコラボレーションや、エタノールの製造プロセスで発生する残渣の有効活用について住商フーズやアグリサイエンス事業部との連携も進んでいます。
事業間のつながりと創造性について、改めて住友商事ってすごいな、と思いますし、当社が擁するスペシャリスト人材の豊富さが持続可能な事業成長を支えていることを肌で感じています。

※2 脱炭素・次世代エネルギー分野での次世代事業開発に取り組む、部門の枠組みを越えた営業組織

Going forward

Win×Winを超えた事業の次世代へつなぐ架け橋となりたい

このプロジェクトには強い思い入れがあります。今年ようやくリリースまで漕ぎつけましたが、ここに来るまでにすでに部を離れた人も含む多くのメンバーで「木材を活用して何か新しいことができないか」と検討を重ねてきたこと、その地味でも粘り強い取り組みがこのプロジェクトにつながったと感じています。また、長年深い信頼関係を持ってお付き合いしてきた日本製紙さんと新たな事業に取り組めることには、万感の思いもあります。本事業は、協業3社はもちろん、国内林業、航空産業、さらには地球環境に対して多くのメリットをもたらすものであり、個人的にはWin×Winを超えた“Win×10乗”を実現できると思っています。長期的なプロジェクトですから、横山の代で事業を一気に大きくしてもらえるように、次世代へつなぐ架け橋となりたい。その結果、日本の産業の持続的な発展と脱炭素を支えていけるような事業を育てていきたいと考えています。

日本製紙さんと協働し、社会課題の解決に取り組んでいきたい

私は大学で「木」の研究をしてきたということもあって、入社以降木質バイオマスの新たな活用方法について部内や木材資源事業部のメンバーとともに検討を重ねてきました。こうした検討が実を結び、セルロース系バイオエタノールの商用生産によって、製紙用途以外でのパルプ活用の道が開けていくことは非常に嬉しく思っています。また、入社後に初めて担当した取引先が日本製紙さんだったので、協働して社会課題の解決に取り組めることに深い縁を感じ、わくわくしています。今後、しっかりと事業を実現させて、将来的には木質チップ由来のペットボトルの製造などのバイオケミカル分野にも取り組んでいければと考えています。

インタビュー

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