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インタビュー 重要社会課題 | 気候変動緩和

森林事業

100年先を見据えた森林経営で、カーボンニュートラル化に貢献

森林は、CO2の吸収・固定を通じてカーボンニュートラル化に貢献するとともに、貯水、生物多様性の保全などの機能も有する、地球にとってなくてはならない資産である。しかし近年、全世界の森林面積は減少を続けており、1990年以降の30年間で、日本の国土面積の約5倍に相当する1億7,800万ヘクタールもの森林が失われている。ますます重要となる森林の吸収機能を最大限発揮させ、次の世代に資産を残していくためには、植林から伐採までのサイクルを何度も回し、長期的な視点を持った事業経営が不可欠だ。住友グループとして400年、住友商事として100年の歴史を持つ当社が、100年先を見据えて、ニュージーランドで取り組む持続可能な森林経営とは? 同事業の意義と今後の展望について、在ニュージーランド子会社、Summit Forests New Zealand Limited(以下SFNZ)社長の想いを紹介する。

Interviewee

大河 健司

Managing Director, Summit Forests New Zealand Limited

大河 健司

2006年住友商事入社。生活資材本部 木材建材部で外壁材の輸出入に携わったのち、語学研修生制度にて2009年から2年間、ロシアで学ぶ。帰国後は木材資源事業部でロシア関連事業の管理及び営業実務を担当。2013年の当社によるSFNZ買収後、2014年からSFNZの事業管理を本社側で担当し、2017年に同社へ経営企画・ビジネス開発担当マネージャーとして赴任。2023年4月、同社社長に就任。

Why

森林、木材の環境価値に着目し森林経営へとビジネスを拡大

森林は大気中のCO2を吸収し、固定する機能を持っています。また森林からつくり出される木材は、計画的な伐採と育林を繰り返すことによって、永久的に再生が可能な循環資源です。気候変動問題の解決に向けて世界全体がカーボンニュートラルを目指す中、森林の重要性はますます高まっています。
高度経済成長期より木材の輸入ビジネスを手掛けてきた住友商事は、2000年代に森林経営へとビジネスの幅を広げ、よりサステナブルな森林資源の確保と活用に取り組んできました。そして今、これまでに培ってきた森林経営に関する知見・ノウハウを活用しながら、持続可能な森林経営とグローバルな森林資源の拡大に取り組もうとしています。

Summit Forests New Zealand Limited林区面積推移

What&How

ニュージーランド国内に約5万ヘクタールの広大な森林を保有

温暖な気候を活かして、計画的な植林と伐採が行われているニュージーランドは、森林資産の有効利用と地球環境との共生を実現している林業先進国です。住友商事は、2013年にニュージーランドの森林を取得するとともに子会社の「Summit Forests New Zealand Limited」(以下、SFNZ)を設立し、ニュージーランドにおける森林事業に参画しました。
SFNZは、ニュージーランド国内に約5万ヘクタール(東京都23区の約80%に当たる面積)の森林を保有しており、これは森林事業を行う商社として最大規模です。この広大な森林において、ラジアータパインという松の木を30年サイクルで植林・育林し、伐採した木材は梱包材や建築用資材としてニュージーランド国内で販売、または中国・韓国に輸出しています。そして、伐採後の土地については、再植林が契約上許されていない一部を除くほとんどの土地で再植林を行い、長い時間をかけて森を守り、育てていきます。
SFNZは創業以来、こうした森林管理のノウハウを蓄積し、持続可能な森林事業を展開することで、健全な森林を長期的に維持しています。

※林道や非商業林区を除いた伐採可能な面積

Summit Forests New Zealand社

SFNZ林区での間引き作業

適切な管理によって健全な森林を未来につなげる

健全な森林を育て、良質な木材を獲得するためには、苗木を植えて終わりではありません。森林の成長に応じて樹木の一部を伐採し林内密度を調整する「間引き(間伐)」や、樹木の成長過程で育ちの悪い枝を除去する「枝打ち」といった作業に加えて、土壌管理や広大な森林内のモニタリング、木の成長状況のデータ管理、災害の予防などが必要です。こうした適切な森林管理によって長期的に健全な森林を守り続けることが、安定的なCO2吸収にもつながっています。
また、森林経営では植林から伐採までのサイクルが30年にわたり、30年後にようやく経済的な利益が生み出されます。従って、事業運営には長期的に事業を継続できる資本力と未来を見据えた戦略が必要になりますが、これらの点においては住友商事がこれまでに培ってきた強みが活きています。そして、将来的には森林のCO2吸収機能をクレジットとして販売するなど、さらなるビジネス拡大の機会もあると考えています。
今後の事業活動においては、ニュージーランドの広大で豊かな森林をサステナブルに管理・運営し続けていくために、コストダウンや安全性の向上を目的とした伐採・植林・枝打ちなどの機械化、ドローンや自動測量技術の導入などのDX推進にも注力していく方針です。

強固な信頼関係を構築

住友商事は森林事業において、植林から伐採までの30年・1サイクルだけではなく、100年先を見据え、事業経営を考えています。ニュージーランドにおける事業展開では、経済的な体力だけでなく、歴史を踏まえた長期的な視点で戦略やビジョンを語れることがビジネスの基盤となってきました。
SFNZの事業地の大半は、ニュージーランドの先住民である「マオリ」が所有する土地であり、その方たちとの関係づくりは事業を行う上でなくてはならないものです。歴史とこの土地をとても大切にするマオリの人々に、長期的視点を持った事業経営という当社の姿勢を伝える一つの方法として、住友グループが持つ400年の歴史や、明治時代に別子銅山で起きた煙害の対策として行った大規模な植林等の話を説明しています。マオリの方々が、「そんなに長い時間をかけて取り組んでくれるんだ」と興味を持ち喜んで当社の歴史と展望の話を聞いてくれる。地主と我々の考え方がマッチしていると感じる瞬間です。また、長期的な視点での話は、森林での作業を任せている現地パートナー企業の“取引に対する安心感”にもつながっています。さらに、SFNZでは、ニュージーランドの国鳥であるキーウィを繁殖させて森に返す活動や、森に棲む野生馬との共存等、生物多様性の保全活動も実施しており、地域コミュニティからも感謝されています。こうした取り組みが、ニュージーランドの人々との強い信頼関係の基盤になっています。

※SFNZにおける生物多様性保全の取り組みを、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)のパイロットテストとして分析しました。詳しくは『ESGコミュニケーションブック2023(データ編)』をご参照ください。

2023年にはCoromandel地域Whangapoua林区におけるキーウィ100羽目の放鳥を達成

Going forward

未来を見据えて一日一日を積み重ね、事業拡大とカーボンニュートラルの実現につなげたい

私は森林事業そのものが、サステナブルな観点なしには運営できないものだと思っており、事業について判断をするときは常に“サステナブルであるか?”を意識しています。SFNZでは毎年、伐採した面積とほぼ同じ面積の700~800ヘクタールの土地に植林していますが、植えた瞬間にその後の30年間、適切に管理し続ける責任が生まれます。もし30年にわたって事業を継続できない、あるいは適切に管理できないのであれば、植林してはいけない。一つの決断に大きな責任が伴うため深く考えます。長期的に運営していくことが必須の事業で、では何が大事なのかを改めて考えてみると、未来を見据えて一日一日を積み重ねていくことだと思うのです。SFNZには今、この事業に真剣に取り組む良い仲間たちが集まっています。私は社長として、集まってきてくれた仲間がこれからも一日一日の積み重ねを楽しめる組織文化をつくり、住友商事の存在感をこのニュージーランドの地で出していきたい。それが、カーボンニュートラルの実現とさらなる事業拡大につながっていくと考えています。

インタビュー

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