../header.html

インタビュー 重要社会課題 | 気候変動緩和

大型蓄電事業

電気を「ためる」プラットフォームを提供し、
再生可能エネルギーへの転換を後押し

脱炭素を進める上で、再生可能エネルギーへの転換は本丸であり、その重要性は論を待たない。ただし、日本の再生可能エネルギー導入率は欧州等と比較するとまだまだ低く、送電線の容量が足りていないことが主要因の一つとされている。この課題に対して、住友商事は、送電線の容量不足を補うことができる大規模な蓄電事業を展開し、電気を「ためる」事業を日本全国に広げていくことを目指している。全く新しい事業を立ち上げ、2024年に日本初の大型蓄電設備操業開始を予定するまでに辿った道と、現場における課題や今後の展望は――。担当者の考えと想いを紹介する。

Interviewee

和田 聡

ゼロエミッション・ソリューション事業部

和田 聡

2013年入社。金属事業部門 鋼管本部 鋼管企画開発部で投資事業に携わったのち、2015年に国内鋼管メカニカル鋼管事業部で自動車部品用鋼管のトレードに従事。2018年には、米国Nippon Steel Pipe America営業部に出向。2020年に帰任、メカニカル鋼管事業部を経て、2021年にゼロエミッション・ソリューション事業部に所属。

Why

再エネ普及の課題を大型蓄電池で解決

脱炭素の世界的な潮流の中で、日本の再エネ比率が20%程度という低い水準にとどまっている理由の一つは、再エネが日照、風などの自然条件によって発電量が大きく左右される不安定な電源であること、また、現在の日本の電力系統※1にこの不安定さを受け止めるだけの余裕がないことにあります。再エネ事業者が電気を電気使用者(一般家庭や工場など)に届けるためには、電力系統に接続する必要がありますが、想定を超えるペースの電力が接続された場合、電力の安定供給に支障をきたす可能性があります。そのため、例えば再エネ事業者が太陽光発電所の新設や増設を計画しても、電力系統を管理する電力会社が、電力系統への接続を受理できないケースが発生しており、再エネ普及への妨げになっています。
そして今、このような問題に対する解決策の一つとして、大型の蓄電池を電力系統に接続し、再エネ発電の過不足分を蓄電池の充放電によって調整する蓄電事業に注目が集まっています。

※1 電力会社の発電、送配電を統合したシステム。エリアごとに管理されており、例えば東京エリアでは東京電力が管理。

再生可能エネルギーの活用割合

What&How

リユースバッテリーを活用した大型蓄電池システムを構築

住友商事は、他社に先駆けて、10年以上前から電力系統に接続できる大型蓄電池の社会実装に向けた取り組みを進めています。2015年には、鹿児島県薩摩川内市甑島の電力系統に接続した国内初の系統蓄電の実証事業を開始し、現在も安定稼働させています。
当社の系統蓄電システムの特徴は、電気自動車から回収したEVリユースバッテリーを使用している点にあります。日本における電気自動車普及率はまだ1%程度ですが、日本政府は2035年までに乗用車新車販売で電動車100%を実現することを目標としています。これは同時に、廃棄されるバッテリーが増えていくということでもあります。住友商事はこの点に着目し、廃棄されるバッテリーを大型蓄電に再利用することで、電動化社会、省資源社会に対応した持続可能なサプライチェーンを構想しました。
このような構想のもと、2010年に日産自動車と共同でEVバッテリーの再利用を行う「フォーアールエナジー」を設立して以降、住友商事は、より経済的で、高出力・大容量の大型蓄電システムの実用化を目指し、技術・運用のノウハウを蓄積してきました。そして、10年以上の実証を経て、再利用バッテリーを数百個単位で接続し、電力系統に接続できるほどの高出力・大容量の大型蓄電システム「EVバッテリー・ステーション」を開発。2024年には、これまでに蓄積してきたノウハウの全てを注ぎ込んで、北海道千歳において日本で初となる大型系統用蓄電所を開始する予定です。

EVバッテリー・ステーションのコンセプトと蓄電事業のロードマップ

EVバッテリー・ステーション浪江の蓄電設備内に立つ和田氏

再エネ電力とEVバッテリーを効率的に活用してCO2を削減

当社の系統蓄電事業は、大きく2つの観点から脱炭素に貢献しています。一つ目は、蓄電プラットフォームの全国展開です。電力系統の容量不足によって再エネ電力を効率的に活用できていないという課題に対して、大型蓄電池を活用して電気を「ためる」プラットフォームを全国レベルで展開し、再エネ電力の活用を促進することでCO2削減に貢献します。
2つ目は、EVバッテリーの再利用です。EVバッテリーは製造時に1台分で約3トンのCO2を排出するともいわれています。蓄電システムにリユースバッテリーを活用することでバッテリーを新たに製造する必要がなくなり、その分だけCO2が削減できることに加え、EVのライフサイクルアセスメントにも貢献します。また、フォーアールエナジーでは、太陽光パネルと蓄電システムを設置し、太陽光電力を昼夜に活用して系統電力を買わないことで、バッテリーの再利用工程におけるCO2排出ゼロに取り組んでいます。

CO2削減と経済性を両立して持続可能なビジネスに

再エネ発電を主流とする持続可能な社会の実現には電力系統の容量増強が必須ではあるものの、送電線の拡張工事には莫大な時間・費用がかかるため、蓄電池を用いたインフラ整備がより現実的なアプローチだと考えています。そして、蓄電池のインフラ化に持続的に取り組んでいくためには、補助金を前提とした事業モデルではないマネタイズの仕組みが不可欠です。現在、住友商事が進めている系統蓄電事業は、改善を重ねて蓄電設備のコストを削減したこと、収入源となる需給調整市場、容量市場、卸電力市場の環境整備が急速に進んだことで、補助金を前提としなくても採算が取れる段階まで来ています。
これら3つの市場においては、電気の需要や価格の動向を予測して適切なタイミングで充放電することが共通して重要になり、市場予測が収入に直結します。そこで、住友商事では蓄電設備の拡充と並行して、市場予測を行って収益を最大化するプログラムの開発にも取り組んでいます。
再生可能エネルギーへの転換を実現していくためには、経済性を追求して、持続可能なビジネスとして成り立たせることが重要になります。住友商事は、系統蓄電事業のパイオニアとして蓄電設備を設置し事業を展開してきましたが、将来的に商社として目指すのは、開発中の市場予測プログラムをはじめとしたサービス提供です。ビジネスエリアを拡大しつつ、より経済性を追求した仕組みづくりにも取り組み、より大きな価値を生み出したいと考えています。

補助金を前提としないマネタイズ計画

Going forward

再生可能エネルギーへの転換に貢献する事業を軌道に乗せ、豊かな生活を残していく

まだまだこれからが本番ですが、ここまで漕ぎつけられたのは、実証実験を繰り返して「とにかくやってみる」ことが認められた点が大きかったと思います。系統蓄電事業が海外で成功していても日本で成功するかは分からない。またEV再利用も絡めるとなると、海外でも成功事例がない。さらに全く新しい事業なので既存のルールとの闘いが頻発する。そんな状況だったので、所轄省庁や専門家、事業パートナー等、色々な人と話して、反論してもらう前提で仮説をぶつけていき、実証実験につなげていきました。コストをかけて実証実験ができたこと、幅広いネットワークがあったことは、住友商事の事業規模と先人が築いたビジネス基盤があったからこそと思っています。
再生可能エネルギーへの転換は、自分たちの代で成し遂げるべきものであり、将来にわたって豊かな生活を残していくためには絶対に必要なものだと強く思っています。私は社会人になったとき、新たな事業で新会社をつくり、世の中に自分が創り上げた新事業をリリースするという目標を立てました。先人の積み重ねの上で、まさに今、再生可能エネルギーへの転換に貢献する系統蓄電事業を社会に送り出すタイミングで本事業に携われたことはとても幸運で、光栄に思っています。まずは本事業を成立させて軌道に乗せた上で、その後も社会課題の解決に貢献する新たな仕組みづくりを続けていきたいと考えています。

インタビュー

  • ../card/CO2-reduction-interview.html
  • ../card/forest-interview.html
  • ../card/bio-interview.html