石油・天然ガスが地下の固い岩石中に閉じ込められているなど、在来型よりも“開発しにくい状態”で自然界に存在している化石資源を「非在来型資源」と呼びます。中でも薄くて脆いシェール(頁岩)層に存在するシェールガス・オイルが北米を中心に注目されています。その存在は早くから知られていましたが、開発の難しさから商業生産には至っていませんでした。2000年代に入り、米国にて水圧破砕(ハイドロフラッキング)と水平掘削の技術が確立され、大幅に開発コストが低減されたことで、2006年頃からシェールガスの商業生産が本格化しました。その後、2010年からは原油価格の高位安定を背景にシェールオイルへと開発の中心がシフトしています。
これらのシェールガス・オイルは水平掘削部分が長く、従来より径の小さい油井管が使用されるため、2007年頃から小径油井管の需要が急増しています。
こうした環境のもと、住友商事は2011年10月に、米国で小径シームレス鋼管製造工場の建設に参画しました。
この工場は、シェール開発が最も盛んなペンシルバニア州マーセラス・シェール鉱区の近郊という好立地であることに加え、当社が2002年にフランスの大手鋼管メーカーVallourec S.A.とともに買収したオハイオ州のV&M Starに隣接しており、同社と原材料を共有することで、効率的な生産を行うことができます。
2012年秋に稼働し、2013年には年間約35万トンの鋼管を生産する予定です。
世界では年間約1,200万トンの油井管が消費されていますが、この半分に相当する約600万トンが北米で消費されており、住友商事グループはそのうち約20%の取り扱いシェアを誇っています。当初、住友商事の北米鋼管事業は、日本で製造された鋼管を米国に輸出する「トレード」が中心でした。ところが1970年代後半から日米間の貿易摩擦問題が浮上し、油井管の輸出も次第に規制を受け始めるようになりました。この状況の打開を模索した結果、米国内で流通事業に参入することを決意し、1987年に油井管問屋を設立しました。この問屋を通じて、大手石油会社(メジャー)を中心とした顧客と長期にわたる安定供給契約関係を結ぶことに尽力し、1993年から在庫管理に加えて様々なサービスを組み合わせた油井管のSCM(サプライ・チェーン・マネジメント)契約を締結、マーケットの変化を捉えて、米国への輸出業から、米国内で調達した油井管を米国内で販売するという「現地化」を進めました。
その後、1995年、米国のアンチダンピング措置により、日本製油井管の米国への輸出が完全に停止されました。その際、それまで取引のあったメジャーなどの顧客から、「我々のニーズを理解している住友商事に引き続き油井管の安定供給をして欲しい」との要請が寄せられたため、本格的に米国内で鋼管供給ソースを確保すべく奔走しました。これが2002年にVallourec S.A.とともに米国シームレスミルを買収することにつながり、川上化への第一歩となりました。その後も顧客のニーズや環境の変化に対応し、大手問屋への資本参加や、油井関連機器の加工メーカーへの資本参加など、バリューチェーンの拡充に力を注いでいます。
こうした北米鋼管事業の原動力となっているのは、①大手メジャーから中小独立系まで幅広い石油会社との長期契約を中心とした顧客基盤、②高品質の製品をジャストインタイムで供給する問屋網、③油井管SCMスキームといった独自システムによる円滑なオペレーション支援体制、という当社の強みです。
通常、石油・ガスは地中深くに存在しており、それを汲み上げる油井管は高温高圧に耐え、かつ耐腐食性などの高い性能が求められます。我々の顧客である石油会社は、油井管等資機材の調達のほかにも、加工や在庫管理、メンテナンスなど、本業の石油ガス開発の他に多くの付帯業務を抱えていました。住友商事は、これら付帯業務のアウトソースを受けることで、お客様が効率的にガス・原油開発に専念できるような環境づくりに努めてきました。
また、油井やガス井は、掘削場所によって、規模や深度、圧力などの条件が異なります。個々の開発フィールドで、それぞれの掘削環境に最適な井戸設計を行って使用製品を決定する必要があります。そのためには、蓄積した知見やノウハウに基づいた高度な判断が必要です。住友商事は掘削を行う石油会社のニーズに応えるエンジニア集団を擁して、井戸環境に合った製品アプリケーションなどの提言をしています。
さらに、油井掘削は石油・ガスの産出地で全てオペレーションされているため、様々な機能を現場に集約させる必要があります。また、その現場をマネージできる有能な人材が不可欠となります。住友商事は、こういったオペレーションを包括的に受託し、施設や事業の立ち上げ、運営維持、システム構築、人材育成にあたる機能を担うSCM専門のサービス会社も有しています。
住友商事は北米だけでなく世界12ヵ国13拠点で、油井管のトータルソリューションプロバイダーとして、メジャーを始めとするお客様のニーズに応えながら油井管SCMを展開しています。
今後もエネルギー需要の増加に伴い、世界中で油井管の需要も伸びることが期待されています。住友商事は、継続的なバリューチェーンの深化と知見やノウハウの蓄積により、変化する環境や顧客ニーズに応えながら、新しい価値を提供していきます。