2022年11月25日
ゲノム編集スタートアップ・セツロテックとの資本業務提携について~安全・安心な品種改良を通して食料生産の安定に貢献~
住友商事は、ゲノム編集の研究開発受託サービスを提供するスタートアップ企業、セツロテックと資本業務提携契約を締結しました。今後は、同社製品の事業化・国内外における市場開拓を進め、ゲノム編集技術の社会浸透を推進していきます。
「生物の多様な能力を引き出す」ゲノム編集技術
現在、世界では急速な人口増加、気候変動や紛争に伴い、深刻な食糧不足が大きな問題になっています。このような食糧問題への抜本的な解決策として期待されているのが「ゲノム編集技術」です。生物をより安全・安心で美味しくするためには品種改良(育種)が必要であり、食卓にのぼる野菜や肉のほとんどは、数千年から1万年に及ぶ長い時間をかけて徐々に品種改良されてきたものです。
現在、生物の品種改良(育種)を行う上で一般的に用いられているのは、「選抜育種法」と呼ばれる、突然変異などによって生まれた特定個体を選び出し、これらを掛け合わせる方法です。しかし、選抜育種法は長い期間(~数十年)と多大な労力を要するうえ、効率的に生物の突然変異を起こすために、放射線照射や薬品投与などの手法が取られることもあります。
一方、ゲノム編集は、生物が持つ遺伝子情報を高精度に編集することで、生物の形質を変化させる画期的な技術です。特定の遺伝子のみを編集できるため、従来の手法とは比較にならないほど短期間(数年)で、特定の機能のみを生物に与えることができるため、糖度の向上や耐病性を与えることで従来よりも安心・安全で美味しい品種を作ることができるようになります。例えば、ゲノム編集技術によって耐病性が強化された新種の豚を開発できれば、世界の養豚業の効率化や食料の安定確保に貢献できます。
また、類似の技術である「遺伝子組み換え技術」(※2)とは異なり、外から遺伝子を導入せずに、自然界でも起こりうる突然変異を意図的に引き起こす技術であるため、生態系への影響も少ない点が特徴です。
これらの点から、ゲノム編集は生物の品種改良を根底から変える技術と期待されており、市場規模は2020年の200億ドルから2030年には580億ドルに成長することが予測されています。
「徳島をゲノム編集産業発祥地に」挑戦を続けるセツロテック
セツロテックは、2017年に創業された、徳島大学発のベンチャー企業です。同大学で開発されたゲノム編集技術やノウハウを基盤として、アカデミア・企業向けの研究支援、ゲノム編集動物の開発・販売、高付加価値の新品種開発など、幅広い事業を行っています。さらには、現在最も広く用いられているゲノム編集因子(※3)であるCas9タンパク質(※4)に代わる独自のゲノム編集因子『ST8』を開発し、医療分野のほか、農業や畜産分野において品種改良を高速化する研究開発を進めています。

ゲノム編集技術を通して食糧問題の解決に貢献する
住友商事は、本年4月より農業畜産分野におけるイノベーション事業の開発に取り組む新組織を立ち上げ、スマートファーミング(農業DX・精密農業)、クリーンファーミング(低環境負荷農業)、次世代型食料生産の構築をテーマに掲げています。本提携のもと、セツロテックが開発した技術を活用し、社内外の事業パートナーと連携しながら新品種の開発・販売を推進するほか、同社独自のゲノム編集因子である『ST8』の海外展開を支援します。セツロテックへの出資を通じて、ゲノム編集分野における知見を積み重ね、安全・効率的な食肉・種子・作物の開発を行うことで、グローバルに食料生産の安定や生活水準の向上に貢献していきます。

- ゲノム:生物の持つDNA内のすべての遺伝情報のこと
- 遺伝子組み換え技術:ある生物が保有する特定の遺伝子を別の生物に導入する技術で、同種内の交配では作出できない有用な形質を持つ品種を作出可能である。遺伝子組換え技術で作出された品種は健康や生物多様性への影響評価が義務付けられている
- ゲノム編集因子:ゲノム編集技術に必要な物質。DNAに結合することができる「案内役」として働く「ガイドRNA」やDNAを切断する「ハサミ」として働くタンパク質などの複合体
- Cas9 タンパク質:第三世代のゲノム編集技術である「CRISPR/Cas9(クリスパーキャスナイン)」を構成するゲノム編集因子の一種で、DNAを切断する酵素(タンパク質)。「CRISPR/Cas9」を発表したエマニュエル・シャルパンティエとジェニファー・ダウドナらは2020年にノーベル化学賞を受賞した
■セツロテック概要
■セツロテック概要
代表 | : | 竹澤 慎一郎 |
所在地 | : | 徳島県徳島市蔵本町3丁目18番地の15 藤井節郎記念医科学センター |
設立年 | : | 2017年 |
事業内容 | : | ゲノム編集による研究支援サービスおよび新品種の事業化 |