グローバル事例
世界最大規模のニッケル生産事業
「アンバトビー・プロジェクト」
マダガスカル
電子機器の材料などに広く利用されているニッケル。その採掘から地金精錬までを行う大規模なプロジェクトに住友商事が参入したのは、2005年のことでした。マダガスカル共和国を舞台にしたこのプロジェクトでは、公共施設建設、教育システム構築、人材育成といった社会活動も同時に進めています。資源供給を通じた「地域社会・経済の発展」と、現地の「人権尊重」推進を目指す取り組みをご紹介します。
ニッケル需要の高まりを見据えて
ニッケルは、ステンレス鋼のほか、電池材料、電子材料などに幅広く利用され、特に最近では電気自動車(EV)などの急伸に伴って、世界的に需要が高まっています。
しかし、それらに使用される高品質ニッケルの生産者は限られており、大型資源事業の開発によってニッケル需要の伸びに応えようというのが、住友商事グループがマダガスカル共和国で進めている「アンバトビー・プロジェクト」です。一からの生産設備とインフラ建設を完了して2012年に生産を開始。生産事業者として事業推進するとともに、製品を日本・欧米・アジア向けに販売し、さらなる事業の発展を目指して競争力強化に向けた取り組みを進めています。
精錬までの一貫生産を行う世界最大規模プロジェクト
当社がアンバトビー・プロジェクトに参画したのは2005年10月。世界最大規模のニッケル生産事業で、採掘から地金精錬を同一国内で一貫して行うという世界的にもまれなプロジェクトです。韓国鉱害鉱業公団(KOMIR)と共に、プロジェクトを推進しています。日本・韓国というニッケル需要国が共同推進する初めての資源開発案件で、将来にわたる両国の経済協力という側面からも、意義深いプロジェクトといえます。
ニッケル地金の22年生産実績は3.6万トン(世界市場シェア約1-2%)、それ以外に副産物としてコバルト地金、硫酸アンモニウム等を生産しています。
インド洋上に浮かぶ自然豊かな島国
マダガスカル共和国は、東アフリカの東南、インド洋上に浮かぶ島国。マダガスカル固有種の猿、アイアイやシファカでも知られています。日本からは片道2日。この遠い島国で展開されているアンバトビー・プロジェクトは、マダガスカルの将来につながるチャレンジングな取り組みです。
2000年まで世界最貧国の一つだったマダガスカルでは、01年より世界銀行の指導で経済改革がスタートし、翌年には外貨獲得を促すために「大規模鉱山投資法」という法律が施行されました。アンバトビー・プロジェクトは、この法律により為替管理や税金等に関する長期安定的な取り扱いを保障されています。同国がこのプロジェクトに寄せる期待の大きさは、ここからもうかがえます。
プロジェクトの意義を相互に理解し合う
資源開発プロジェクト推進に当たっては、地元地域の理解が必要不可欠です。このプロジェクトでは、開発当初より外交団や融資銀行団の協力も得ながら、政府や地元住民に対して、「このプロジェクトがマダガスカルの将来にとって極めて重要であること」を伝えており、プロジェクトの意義が広く地域に定着しています。
2012年からニッケル・コバルトの生産が始まり、製品の輸出額は22年のマダガスカル輸出総額の約30%超を占めるなど 、大きな経済効果をもたらしており、国民全体からのプロジェクト支持に結びついています。
地元への高い貢献と、環境保護へのきめ細かな配慮
同プロジェクトは雇用効果も大きく、現在プロジェクトで働く従業員は約1万人。直接雇用のうち現地マダガスカル人が約90%を占めており、その家族や関連産業従事者を含めれば多くの国民の生活が、このプロジェクトによって支えられることになります。プロジェクトでの就業経験を通じて専門スキルを身に付けられるのも、将来に役立つはずです。
さらに、港や道路の整備、学校・保健所などの公共施設の建設、教育システムの構築などを推進。周辺農家に対しては農業指導や技術支援、中小企業向け経営指導など、自立を支援する試みも実施。まさに「この国に暮らす人々の笑顔が見えてくるようなサポート」を推進しています。
環境面への配慮も、森林や生物保護のための多様なプログラムを実施。鉱山周辺には希少生物保護のためにバッファーゾーン(※)を設置し、環境に配慮したパイプラインルートの設定や、絶滅危惧種の生物保護など、多様な取り組みを行っています。
このように、世界最大規模のアンバトビー・プロジェクトは、安全・環境・社会的影響に配慮した事業運営を軸とし、今後も世界を代表するニッケル生産プロジェクトであり続けることを目指します。
- バッファーゾーン:保護地域外からの影響を緩和するための緩衝地域・地区のこと
2023年03月掲載
キーワード
- 中東・アフリカ
- 鉱物資源
- 資源グループ