グローバル事例
長崎から世界に発信する
エアバッグ・クッション工場
日本
一段上の安全性能を実現するサイドカーテンエアバッグ
生活必需品や自己表現のツールとも言われるように、自動車は人々の暮らしを便利で豊かにする身近な存在として普及してきました。自動車の魅力や価値をより高め、暮らしに役立てるように、住友商事は自動車部品の原材料提供から開発、製造、そして完成車の販売まで、幅広く自動車事業に携わっています。
近年、重要視されてきた機能の一つが、安全性能の向上です。とりわけ新たな注目を集めているのが、前後列のドアと窓を覆い、衝突時の衝撃吸収と乗車している人の車外飛び出しを防ぐサイドカーテンエアバッグです。日本において、エアバッグは1990年代から急速に普及し始め、現在、事故発生時に運転席や助手席の前面から膨らむフロントエアバッグは、ほとんどの車種で標準装備になっています。安全性能をさらに一段高めるのがサイドカーテンエアバッグで、北米や欧州を中心に装着率が一気に向上すると予想されていたのです。
世界中の車に搭載されるサイドカーテンエアバッグ用クッション
2004年11月、エアバッグの原料開発から特殊な製法(OPW製法:特別な織機で生地を袋状に織り上げ、織布と同時に縫い目なく膨張部を生産する製法)の開発も手掛けた旭化成せんい(現旭化成)と自動車内装資材メーカーの住江織物をパートナーとして長崎県松浦市に住商エアバッグ・システムズ(SAS)を設立。OPW製法によるサイドカーテンエアバッグ製造事業に進出しました。
現在SASが製造したサイドカーテンエアバッグ用クッションは、世界有数の安全システムサプライヤーを通じ日本車はもちろん、世界各国で生産されている自動車に装着されています。
長崎で作られたエアバッグ用クッションが、世界中の自動車の搭乗者の安全を守っているのです。
一気に採用が進むOPW製サイドカーテンエアバッグ
通常、サイドカーテンエアバッグは、サイドウインドウの窓枠上部に沿って格納されています。そして側面衝突を感知すると0.015~0.02秒でカーテン状に開き、衝突の衝撃から乗車している人の頭部を保護します。このようなサイドカーテンエアバッグは「ファーストインパクト仕様(F/I)」と呼ばれています。
サイドカーテンエアバッグにはもう一つ、「ロールオーバー(R/O)」という仕様があります。R/Oは衝突時だけでなく、数秒間膨らんだ状態を保ち、車体が横転しても乗車している人を保護し続け、車外へ放り出されることも防止します。この仕様に適している製造技術が、SASで導入しているOPWです。OPWは無縫製でエアバッグを作り上げるので、気密性に優れ、膨張保持時間が長い点が特徴です。
F/IとR/Oを合わせたサイドカーテンエアバッグの装着率は、2016年には北米でほぼ100パーセント、欧州では90パーセント超、日本や中国などのアジアでも40パーセントを超えていると考えられています。背景にあるのは、09年3月に米国で発効した側面衝突事故への対応を求める法律です。この法律で側面衝突時の車外放出を抑える対応が段階的に始まっており、16年9月には全車に義務付けられました。現在この要求に対応できるのは、数秒間乗車している人を保護するR/O仕様のエアバッグだけ。中でも膨張時間の長いOPW製が、世界で急速に広がっていくと予想されています。
先進のチャンバーレス技術を世界に先駆けて開発
現在、OPW製でエアバッグを製造できるメーカーは、世界で6社のみ。日本ではSAS1社です。OPWは高度で特殊な技術と高額な設備機器が必要になることから、新規参入は難しく、今後もこの6社で技術を高め、世界のニーズに対応していくことが求められています。
その第一弾として、SASは「チャンバーレス(Chamberless)」という先進技術を業界に先駆けて開発しました。
従来のOPW製エアバッグは、チャンバーと呼ばれる大型の膨張部分が数個できる構造です。一方チャンバーレスは、小さな膨張部分がバッグ全体に多数形成される仕様のため、バッグ内のガス拡散がスムーズで破裂する危険性も低く、より速く均一に膨張し、衝突時の衝撃を高レベルで吸収できます。いま主流の窓枠全体を覆う大型タイプではなく、自動車メーカーが求める「よりコンパクトで高機能なエアバッグ」が実現できる技術として、今後の普及に期待が寄せられます。
安全・安心の未来のために
R/Oの採用が進むことにより、今後OPW製エアバッグは、大きな伸びが見込まれます。数年先の受注も確定しつつあり、SASは2017年度の出荷数を前期比10パーセント増のおおよそ700万枚と見込んでいます。この生産規模に対応するため、SASでは新たな設備投資を実施しています。
SASでは安全性の高い優れた製品を低価格で提供することで、サイドカーテンエアバッグの装着率増加に貢献し、安心して運転できる車社会の創造に取り組んでいきます。
2017年04月掲載
キーワード
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