グローバル事例
年間40隻近い船を建造世界の国々の船舶輸送を支える
グローバル
戦後の日本経済を支えた基幹産業
戦後、造船は日本の経済発展を支える一大基幹産業でした。世界最大の建造量を誇っていた英国を抜いて、日本が世界一の造船国となったのは1956年のことです。60年代に入ると、国内の造船産業はいっそう活気づき、高度経済成長を加速させる役割を果たしました。2000年代に入って、韓国、次いで中国の造船量が増えたことで日本はトップの座を譲ることになりましたが、現在でも世界第三位の造船大国であり続けています。
住友商事に船舶部門ができたのは、60年代の後半でした。造船所に資機材を納入するビジネスからスタートし、のちに完成した船舶の販売を手掛けるようになりました。大きな転機が訪れたのは、70年代に入ってからです。1971年、大阪の造船会社から新工場建設の相談を受けた当社は、工場建設予定地の長崎県大島町を視察したのち、住友グループの住友重機械工業と共に工場経営に参画することを決めました。
大島は、かつては炭坑事業で大いに繁栄しましたが、炭鉱の閉鎖によって深刻な打撃を受け、新たな地場産業を探しているところでした。広大な用地を必要とする造船会社と、産業を呼び込みたい地元のニーズが合致したことによって、この地を拠点とする新会社「大島造船所」が誕生したのです。
世界最大級を誇る生産性
住友商事と住友重機械工業が出資して誕生した大島造船所は、1973年に設立され、75年には第一号の船舶が進水しています。
船舶は、荷物を運ぶ貨物船と人を運ぶ旅客船に大きく分けられます。貨物船はさらに、液体を運ぶタンカー、コンテナを積載するコンテナ船、石炭・鉄鉱石・穀物といった固形物を運ぶ撒積貨物(ばら積み船)などに分類されます。大島造船所が造ってきたのは、この中でも特に汎用性の高いばら積み船です。76万平方メートルの広大な敷地で造られた全長230メートルに及ぶ巨大な船舶が、年間40隻弱ほどこの造船所から誕生し、進水していきます。
通常、大規模な造船所には船を建造するドックが数カ所から十数カ所ありますが、大島造船所には一つしかありません。単独ドックで年間40隻弱を建造できるのは、世界でも大島造船所だけです。生産性の高さの要因として、船のタイプをばら積み船一種類に絞っていること、自動車をはじめとする他の製造分野のノウハウをうまく取り入れていること、1,200トンもの重量を釣り上げられる巨大クレーンを導入していることなどが挙げられます。
もう一つ、大島造船所の大きな特徴は、創業以来、地元の人たちと一体となった船造りを続けてきた点にあります。船舶完成後には、オーナーを招いて盛大な命名式を催します。地元保育園の子ども達や和太鼓グループが演奏を披露し、社員と共に顧客をもてなす。そんな光景が年約40回見られるのもこの造船所だけです。
技術力とグループの総合力を融合させる
住友商事は船舶分野において、資機材納入、造船、船舶販売のほか、1996年からは自ら船舶を保有するオーナービジネスも手掛けています。その中にあって、大島造船所と共に進める造船事業は、船舶ビジネスの最も太い柱の一つであり続けています。
貨物船舶には資源や食糧、エネルギーを運び人々の生活を支えるという重要な役割があります。日本の人口はすでに減少期に入っていますが、世界の人口は現在も増加を続けており、それにともなって船舶の需要は今後も増え続けるとみられています。それを見込んで世界では造船所の新設が進んでおり、競争はいよいよ激しくなっています。
造船市場は「世界単一マーケット」であり、大島造船所の取引先も7割は北欧など海外の企業です。グローバルな競争に勝ち残っていくためには、造船の高度な技術に加え、より利益率の高い案件を獲得する営業力、世界中の企業との取引を実現させる信用力、事業を支える資金力などが必要になります。大島造船所の技術力と、それをサポートする住友商事グループの総合力。その融合こそがグローバル市場で競争力を発揮する鍵となります。
デジタルの力でより生産性の高い造船体制を目指す
住友商事では現在、各組織が連携してデジタル技術の活用を推進する動きを進めています。とりわけ注力しているのが、ものづくりの領域のデジタルトランスフォーメーションです。日本がかかえる少子化・人口減少問題対策の切り札の一つでもあります。
造船業は、その製品が巨大であるがゆえに、工場で流れる製造中のワークとそれを扱う設備もまた巨大で、デジタル技術活用による自動化が最も困難な領域ともいわれています。
大島造船所では、少子化時代における生き残りをかけて、生産性・品質向上を実現するためにデジタル技術を活用した知能化工場を目指しています。住友商事が注力するデジタルトランスフォーメーションと大島造船所の取り組みを融合し、新しい時代のビジネスモデルを構築していきます。
2019年04月掲載
キーワード
- 日本
- 輸送機・運輸
- 輸送機・建機グループ