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2025.3.17
Business
航空機、新幹線、ロケットにも。社会を支える住友精密の「No.1製品たち」

1961年の創業以来、航空機のプロペラから始まり、独自技術による「ものづくり」で私たちの暮らしを支える住友精密工業(以下、住友精密)。2023年3月には、住友商事(以下、住商)100%出資のグループ会社となり、両社の強みを生かした連携で、事業拡大を図っています。今回は、生活に欠かせないインフラから宇宙に飛び立つロケットまで、住友精密が国内シェアNo.1を誇る3つの製品について、住友精密 広報担当の菅原聖子が紹介します。聞き手は、住商で事業をともに推進する増田遥香が務めます。
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住友精密工業 総務人事部 総務グループ
菅原 聖子
自治体職員や食品メーカー勤務を経て、住友精密工業にキャリア入社。総務グループにて、広報業務全般を担う。モットーは「社会に役立つ仕事をする」。
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住友商事 防衛宇宙・技術SBU
増田 遥香
住友商事へ新卒入社し、輸送機・建機業務部にて、人事・業績管理等を担当。その後、現職にて、住友精密工業の主管業務を担当している。
航空機のプロペラから、ロケットの小型センサーまで。社会を支え続けて60年超
増田航空機のプロペラ製造から始まり、現在はロケット搭載の小型センサーまで手掛けている住友精密ですが、その事業の歩みを教えてください。
菅原住友精密は1961年、住友金属工業(現・日本製鉄)の航空機器事業部門を継承して発足。プロペラ製造からスタートし、脚(きゃく)、エンジン・熱交換器などに事業領域を拡大してきました。


増田ちなみに、住友金属工業が航空機のプロペラ製造に携わるきっかけをつくったのは、住友最後の総理事・古田俊之助。古田は、住商の誕生にも大きく携わった人物です。住友の事業精神を受け継ぐ両社。2023年から、住友精密が住商の100%グループ会社となったのは、感慨深いですね。
その後、航空機の技術を応用し、産業機器事業に参入していくんですよね?
菅原はい。新幹線などの鉄道車両や電力設備、産業・社会の幅広い分野に熱交換器を供給しています。ほかにも、プラスチック製品などを作る射出成形機に用いる油圧制御ポンプなども製造しています。
さらに新規事業開拓で生まれたICT(情報通信技術)事業においては、半導体製造で使用する「オゾン発生装置」や、スマート社会の実現に欠かせない「MEMS(※1)・半導体製造装置」「MEMSデバイス」などを提供しています。こうした幅広い事業において、国内シェアNo.1を誇る製品が実はたくさんあるんです。
※1 Micro Electro Mechanical Systemsの略。微小電気機械システムのこと。スマートフォンや自動制御機能付き自動車などで多く使用されている。
国内唯一の航空機「脚」メーカー。次世代につなげる住友精密の基盤事業
菅原例えば、航空機の脚。ボンバルディア社(現 MHIRJ社)の「CRJ」をはじめとする民間航空機や、防衛省向けの機体も手掛けている、国内では唯一の脚メーカーです。世界を見渡しても、小型ジェット旅客機の脚を独自に設計・製造・試験まで一貫して行えるメーカーはそう多くありません。


増田そうした独自技術は、どのように磨き上げてきたのでしょうか?
菅原創業から培ってきた航空機器の技術やノウハウ、設備を含めてあらゆる積み重ねが土台にあります。例えば、脚の素材は、「300M」という、一般産業で使われるより3〜5倍も硬い鉄。そうした硬い鉄をミクロン単位で加工する高度な技術を持っています。また、脚の落下試験設備など、特殊な試験設備を自社保有していることも、大きな強みです。
加えて、航空機器の国際的な安全基準は、年々高まっており、脚以外の部品が壊れたときの対処法など、要求は多岐にわたります。住友精密は過去の開発で蓄積した知見を生かして、リスクをつぶすための設計を提案できるのです。こうした対応は、他社がいきなり新規参入しようと思ってもなかなか難しいと思いますね。


増田脚の開発は、どのような体制で行っているのでしょうか?
菅原技術伝承を念頭に、ベテラン・若手・中堅と、バランスの取れたメンバー20〜30名で構成しています。航空機体の開発は、10年に1回ほど。開発の機会があれば、次世代の技術者にも積極的に携わってもらうようにしており、航空機の電動化に対応した脚の開発も進行中です。脚は住友精密の基盤となる事業ですし、国内の災害支援や海外での人道支援に派遣される機体に採用されていて、メンバーも誇りに感じているようです。
開業時から全ての新幹線に搭載される熱交換器。データセンター向けに応用も
菅原次は、新幹線の熱交換器です。熱交換器は新幹線の運転中に発生する熱を冷却するもので、一車両に複数種類が搭載されています。住友精密の熱交換器は、1964年の新幹線開通当時の0系から最新型のN700Sまで、全車両のどこかで使われていて、特に新幹線の心臓部とも言える主変圧器(※2)やブレーキの熱交換器は、100%住友精密製です。一つの部品ではありますが、代わりの効かない、なくてはならないものを作っているという使命感があります。
※2 架線からの高電圧を新幹線の制御に適した電圧に変換する装置


増田熱交換器のリーディングカンパニーとして50年以上の実績がある住友精密には、他社にはまねできない、ノウハウや技術があるということですね。
菅原はい。新幹線の熱交換器は、車に搭載されているものと比べてもかなり大きく、長辺は1m程度もあります。熱交換器に使われているアルミニウム合金は、そもそも溶接の難易度が高い素材です。溶接工程を減らして手作業で組み上げ、「真空ろう付け」で接合していく技術は、まさに職人芸。世界水準の技術を誇り、台湾新幹線やイギリスの高速鉄道などの海外鉄道事業だけでなく、エネルギー分野ではLNG(液化天然ガス)気化装置など、さまざまな種類の熱交換器を手掛けています。


増田最近は、新幹線向けの技術を応用して、データセンター向けの熱交換器も製造しているようですが。
菅原はい。情報化社会において、高性能サーバーを設置するデータセンターが増えていることを背景に、新規事業を創出しようと、開発を進めています。データセンター向けの熱交換器は、10cm角くらいと小型なのですが、対面積あたりの発熱量(発熱密度)は非常に高く、高性能の冷却手段が必要です。そこで新幹線でも採用している特殊な熱交換技術を応用して、試作品を作っています。
データセンター向けの製品を開発するには、エンドユーザーとなる海外の大手テック企業の声を聞いていくことも必要なので、ワールドワイドに事業を展開する住商と連携を強めていきたいと考えています。
JAXAと共同開発。国産ロケット搭載の高精度ジャイロスコープ
菅原最後は、国産ロケットの飛行経路の計測に用いられる高精度のジャイロスコープです。ロケットの打ち上げ時に、設定した軌道からズレていないかを計測する装置です。いわば、ロケットの安全装置のようなもので、これを国内で作っているのは、住友精密だけ。住友精密がJAXAと共同開発した「MRN-01」は、H3ロケットなどに順次搭載されていく予定です。

増田JAXAとの共同開発に至るまでには、どのような経緯があったのでしょうか?
菅原元々住友精密では、「MEMS」技術を用いて角速度を検知するセンサー(MEMSジャイロ)を製品化しています。スマートフォンやゲーム機などの身近な機器に搭載されていて、一つ100円程度と安価なものが一般的です。しかし、住友精密はそれらと差別化を図るべく、超高精度化に注力。MEMSの製造では、髪の毛一本より細いミクロン単位で立体的な加工を施す高度な技術が求められます。MEMS製造に欠かせないシリコン深掘り装置の製造を自社で手掛けていることも、強みの一つとなっていますね。
きっかけとなったのは、2012年にJAXAが主催する公募型の共同研究に参加したことです。そこで住友精密の高度な加工技術や、MEMSジャイロのポテンシャルが評価されました。その後JAXAが、既存の海外製のものよりリーズナブルかつ高性能な国産品を開発しようと、共同プロジェクトを立ち上げ。JAXAのニーズに、住友精密の技術力や提案がうまくマッチして誕生したのが「MRN-01」なのです。

増田宇宙用ということで、開発に苦労したことはありますか?
菅原やはり宇宙用となると、信頼性や環境耐性など要求される項目が多く、試験や解析にも苦労しました。例えば、放射線や、発射時の振動・衝撃への耐性などですね。また、一度宇宙に行ってしまったら壊れても戻れませんから、同じセンサーを二つ積んで「冗長性」を確保。試行錯誤しながら、21年には実証実験で、宇宙に飛び立つところまでたどり着きました。
増田宇宙用の開発経験を生かして、鉱山での資源採掘に使用される装置も開発しているんですよね。
菅原はい、「Northfinder(ノースファインダー)」という製品を開発しています。地球の外側だけでなく、内側も宇宙と同じく過酷な環境ですから、ノウハウが生きていますね。

住友精密が誇る、3つの「No.1製品たち」
- 航空機「脚」は国内シェア100%。小型ジェット旅客機の脚を設計・製造・試験まで一貫して行える企業は、世界でも希少。
- 新幹線の熱交換器は、初代0系から最新のN700Sまで全車両に搭載。主変圧器やブレーキの熱交換器は、100%住友精密製。
- 国産ロケットに搭載されている高精度ジャイロスコープの製造も国内唯一。JAXAとの共同研究で宇宙分野にも挑戦。
住友精密の技術力×住商のネットワークで、さらなる飛躍を
増田改めて、半世紀以上をかけて積み重ねてきた住友精密の技術力・開発力を実感しました。また、時代の変化に合わせ、各事業で新しい製品を開発中ということなので、住友精密の新技術をより広い領域へと展開していけるよう、住商のネットワークを駆使していきたいと思います。住友精密は、30年度までに「売上高1,000億円、営業利益100億円、営業利益率10%」を掲げていますが、目標達成に向けて住商もあらゆる面で貢献していきたいです。
菅原住友精密はこれまで高い技術力がありながらも、外に情報を発信する、顧客を開拓するという部分が弱みでした。その点、「広い視野で、広い人脈で、広い言語で」という武器を持つ住商の存在を、非常に頼もしく思っています。お互いの強みがかみ合えば、より良い事業がつくっていけるはず。社会に不可欠なインフラを支えるのはもちろん、未来に向かって皆さんにワクワクしてもらえるような技術革新を起こしていきたいですね。
