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2024.8.23
Business
航空機のリサイクル「アフターマーケットビジネス」に挑み続けるプロフェッショナルの舞台裏
住友商事が長年取り組んできた、航空機やエンジンのリース事業を核とした航空機ビジネス。近年は、航空機のライフサイクル全体を見据えた事業の展開を目指し、航空機の機体や部品などの再利用、整備や解体などを中心とした「アフターマーケットビジネス」に注力しています。今回は、退役機の部品を有効活用する「パートアウト事業」を手がける Werner Aeroに出向している近藤俊典と八木雄平に、彼らが挑み続ける航空機ビジネスの舞台裏について聞きました。
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Executive Vice President, Werner Aero, LLC
近藤 俊典
2008年に新卒入社。航空機リース事業、エンジンリース事業等に携わった後、オランダのエンジンリース事業会社に出向。20年からパートアウト事業に携わり、22年からはアメリカのパートアウト事業会社であるWerner Aero, LLCに出向し、航空機の調達や営業チームのマネジメントをリード。18年、Airline Economicsより、航空業界で活躍する40歳未満の40人を表彰する「40アンダー40」を受賞。
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Werner Aero, LLC
八木 雄平
2016年に新卒入社。航空機エンジンリース事業における主管業務を経て、住友商事グループの三井住友ファイナンス&リースへ出向し、航空機を対象とした資産投資の営業を担当。22年から、アメリカWerner Aero, LLCに出向し、航空機の中古部品の営業を担当。
逆境でも、航空機の変わらぬ価値を強く信じてビジネスに参入
航空機のパートアウト事業の概要と参入に至った背景を教えてください。
近藤パートアウト事業とは、使わなくなった航空機から部品を取り出して再利用する、いわば“航空機のリサイクル”を担うビジネスです。車輪や補助動力装置といった巨大なパーツから、客室の座席や座席横のパネルまで、1機あたりおよそ1,000種類以上の部品を整備・販売しています。
これまで住友商事は、航空機リース事業とエンジンリース事業の2軸で航空機ビジネスを展開してきました。その中で、資材価格の高騰や航空各社のコスト削減方針拡大により、中古部品の需要がより一層増加することを見込んで、新たなビジネスの柱として、2016年ごろから事業への参入を検討していたんです。
参入当時はコロナ禍で、航空業界にとっては厳しい状況だったにもかかわらず、新しいビジネスを推し進めた決め手はなんだったのでしょうか?
近藤確かに、当時はコロナ禍で人々の移動が制限され、航空業界は大打撃を受けていました。しかし、「遠く離れた人に会える」という機能を果たす、航空機自体の価値は変わりません。それまでも航空業界ではさまざまな危機がありましたが、1、2年の期間で回復していました。そのため今回も、同様に回復することを信じていたんです。
コロナ禍での参入はリスキーだと多くの人に反対されましたが、一時落ち込んでいて、その後確実に伸びると思われる分野に賭けるのは、むしろビジネス的に正当なことだと考え、なんとか社内を説得しました。結果として22年、アメリカで約30年間パートアウト事業を展開しているWerner Aeroとタッグを組むことができました。
アフターマーケットビジネスという大規模なプロジェクトに参加することが決まったときは、どのような思いを抱きましたか?
近藤オランダで、航空機エンジンリース会社・SMBC Aero Engine Leaseの創設にも関わって、エンジンリースという部門を1から立ち上げる経験をしました。同時に、バリューチェーンを伸ばす商社の本領を発揮するためには、既存事業に終始することなく、航空機のライフサイクル全体を見据えた事業展開の必要性も感じていました。そのため、アフターマーケット事業への参入は自然な流れであり、前向きに推進していきたいと考えました。
八木私が入社した16年ごろから継続して部内ではパートアウト事業への参入が検討されてきましたし、ようやく本格的に事業に参入することになったタイミングで、最前線から事業を伸ばしていくというミッションを与えていただいたのは素直にうれしかったです。加えて、それまで担当していた航空機を丸ごと資産として販売するという仕事は、同じ航空業界とはいえ、取り扱う商品の知識や顧客の範囲も大きく異なります。そのため、現場でしっかり1から吸収しないといけないなと思いました。
航空機500機が置かれた広大な解体現場で、プロの知見を生かしてニーズに寄り添う
Werner Aeroにて現在お二人が担当している業務について教えてください。
八木 Werner Aeroはアメリカ・ニュージャージー州に本社を構え、約30名のメンバーが働いています。本社にはオフィススペースに加え、2,500平方メートルの巨大な倉庫があり、そこで10,000種類以上の航空機部品が管理されています。
私は営業の担当者として、部品の提案・販売を行っています。顧客は主に北米のエアラインや機体の整備業者です。彼らと密にコミュニケーションを取り、需要を把握することと、常に自分たちが持つ在庫の情報や市場価格を把握し、顧客への販売につなげることが私の主な仕事です。
近藤 私は機体調達と八木が所属する営業チームの責任者です。実は業界の慣習として、航空機単位の取引は一般にほぼ公開されていません。航空機ビジネスで叩き上げてきたベテランの方々による内々のネットワークの中で売買されることが多く、その中に入っていないと情報自体が得られないのが実情です。そのため、航空機業界に参入してから今に至るまで、世界中で実施されるカンファレンスや会合に積極的に参加するようにし、業界内でのリレーションシップ形成に努めています。
実際にWerner Aeroと仕事を進める中で、改めて実感した同社の強みはありましたか?
近藤創業者である社長はいつも、「自分たちはパーツを売っているのではなく、お客さまへのソリューションを提供している」と繰り返し話します。その言葉の通り、顧客のニーズを聞き取り、売れそうな部品を見極めて事前に整備しておく“目利き力”は、他社にはない大きな強みだと感じます。
また、アメリカでは航空機部品の転売だけを行う会社も多い中で、退役機の買い取りから、解体、整備、販売まで一連の流れを手がけるビジネス構造も独自性があり、総合商社である住商のマインドに通じるところがあることにも気づきました。
八木確かに、顧客のニーズに寄り添ってピンチを解決しようとする姿勢が我々にはあります。消耗しやすい部品などの売れ筋はもちろん、顧客が急に必要になった多少レアな部品も、競合他社がすぐに取り扱えないこともある一方、我々は退役機を丸ごと買っているという強みもあり、提供できるケースがあります。
出向してまもなく、機体の解体を委託している業者のアリゾナ州にある解体現場に、Werner Aeroのオペレーションリーダーと出張に行ったときのことも印象深いです。まず、東京ドーム約100個分の広大さを誇る砂漠の敷地内に、500機以上の退役機が置かれている光景が圧巻でしたが、リーダーは解体中の機体に実際に乗り込み、どの部品を優先して解体し、輸送するかといった難しい判断をその場で行っていました。
解体作業については基本的にパートナー業者に任せていると思っていたのですが、実際はとてもきめ細かくコミュニケーションを取っていて、Werner Aeroには、プロフェッショナルな人員と約30年に及ぶ過去の蓄積データによるノウハウが豊富にあり、それがビジネスにしっかり生かされていると改めて感じました。
「パートアウト企業といえば、Werner Aero」を目指して
最後に、担当されているビジネスのやりがいと、今後のプロジェクトに対する展望をお聞かせください。
近藤事業規模が大きい航空機ビジネスは会社・社会に与えるインパクトも大きいため、ミスはしないことは大前提に、常に業界のプロフェッショナルであり続けたいという思いがあります。また、長きにわたり航空機業界は欧米のメーカーが主導してきましたが、アフターマーケット市場の拡大を好機として、日本企業として市場けん引役を目指すことも大きな原動力になっています。
さらに、アフターマーケット事業だけでなく、住商の航空SBUが取り組む機体リサイクルなど周辺事業までを取り込むことで、住商グループ内で、私たちや顧客の利益はもちろん、サステナビリティにも寄与するエコシステムの構築に取り組みたいですね。そのためにも、数年のうちにWerner Aeroのメンバー数、取り扱う機体数、倉庫面積をおよそ倍にすることが今後の目標です。
八木私たちが届ける部品の一つ一つが合わさることによって、航空機が安全に空を飛んでいることへの責任と誇りを感じながら、仕事に取り組むようにしています。今後も、各案件を正確かつ迅速に行うことで、顧客が困ったときに助けを求めてもらえるような関係性を築いていきたいです。
アフターマーケットと一言でくくられますが裾野がとても広い業界なので、この地でしっかり経験を積みながら、マーケットでたくさんの方と関係を築き、今後の住友商事の戦略実行に役立つノウハウを獲得していきたいと考えています。
まずは、会社を大きく成長させて、航空業界の皆さんに「パートアウト企業といえば、Werner Aero」と思ってもらえるように、取り組んでいきたいです。