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2024.11.12

Business

バングラデシュにゼロから工業団地を開発。住商の30年超の実績が政府を動かす

住友商事(以下、住商)は東南アジア・南アジアを中心に6カ国9拠点(2024年10月現在)で工業団地を開発しており、日系工業団地ディベロッパーとしてNo.1の展開力を誇ります。現地政府やパートナーとともに、数百ヘクタール規模の広大な土地を収用し、インフラを整備。入居企業の誘致から操業サポートに至るまで、各地域でのものづくりを支えています。今回は、住商にとって6カ国目の開発地である「バングラデシュ経済特区(BSEZ)」のプロジェクトを推進した工業団地ユニット チーム長の田川智晴に、事業へかける思いを聞きました。

  • 工業団地ユニット チーム長

    田川 智晴

    2008年に新卒入社。総合物流部で輸入実務を担当後、タイに駐在し物流事業会社でオペレーション管理・支店運営を経験。14年より海外工業団地部(現・工業団地ユニット)に所属し、16年からBSEZ開発に携わる。18年にバングラデシュへ駐在し、BSEZ含む新規事業開発を担ったのち、22年から現職となり、工業団地事業全体の戦略策定もリードしている。

人口2億人以上が見込まれるバングラデシュで、「産業の多角化」を目指す

そもそも田川さんはどのような経緯で「バングラデシュ経済特区(BSEZ)」の事業を手がけるようになったのでしょうか。

学生の頃から、住商の工業団地事業に興味を持っていました。広大な更地にインフラを整備してビジネスを展開するダイナミックさや、進出国の経済・社会発展に貢献できるグローバルな点に引かれたんです。縁あって住商に内定をもらうことができてからも、一貫して工業団地に関係する仕事がしたいと希望。入社して最初に配属された総合物流部では、工業団地のものづくりにも欠かせないロジスティクスについて学びました。

2014年に海外工業団地部(当時)に配属され、ベトナムとミャンマーの工業団地事業を経験すると、「新たな国での工業団地開発に、ゼロから携わってみたい」という気持ちが強まりました。その思いを上司に伝えたところ、バングラデシュにおける新規事業検討に16年6月から挑戦させてもらえることに。その後は立場を変えながら8年以上にわたって本事業に携わっており、BSEZは私の30代のライフワークといえる大切な事業になっています。

バングラデシュのどのようなところにポテンシャルの高さを感じたのでしょうか。

バングラデシュは、北・東・西の三方をインド、南東部をミャンマーと接しており、南アジアと東南アジアをつなぐ地理的な要所です。日本の約1.4倍の人口(世界第8位の約1.7億人)を有し、今後も労働人口が安定したペースで増加するなど人的資源が豊富。また、近年の経済発展は著しく、内需も今後大きく成長することが見込まれています。こうした背景から、ものづくり拠点としての圧倒的な潜在力の高さを感じました。

一方、バングラデシュの面積は日本の4割ほどしかなく、国内資源も多くありません。また、輸出産品の約9割を縫製品が占めており、産業構造もまだまだ脆弱です。そのため今後2億人以上に膨らむとされている人口を支えるには、「産業の多角化」が重要なポイントになると考えたんです。


検討当時のバングラデシュは、電気・水道・通信などの基礎インフラや、事業を行うための各種制度が整備されていませんでした。一方、こうした投資環境を改善することができれば、海外からの直接投資が進み、ものづくり拠点としてのポテンシャルが顕在化するはず。ここに住商の工業団地事業の知見を生かすことで、同国の経済発展に寄与できるのではないか、という仮説を立てました。

バングラデシュではODA(政府開発援助)を活用したインフラ整備が急ピッチで進んでおり、特に円借款(※)を通じた日本・バングラデシュ間の協力関係は非常に強固です。同国の投資環境改善に向け、私たち民間の力で進められない部分は、日本政府と連携することで解決できるかもしれない。そうした考えから、住商初のバングラデシュでの事業会社立ち上げに踏み切ることができたんです。

※ 日本が開発途上国に対し、低金利かつ長期の緩やかな条件で開発資金を貸し付けること

開発国の根源的な課題に目を向け、着実に土台を築く

バングラデシュで事業を進める中で特に印象に残っている出来事を教えてください。

実はプロジェクト開始早々に、大きな分岐点がありました。16年の6月末に初めてバングラデシュに出張し、政府関係者とキックオフ会議をしたのですが、その直後の7月1日にダッカでテロ事件が起こったんです。住商社内では、同国での事業検討を懸念する反応が少なからずありましたし、もしかしたら自分自身が被害に遭っていたかもしれないという恐怖心もあり、「本当にこの国でやっていけるのか?」と突きつけられるものがありました。

しかし、この出来事は「何のためにこの事業をやるか」を改めて考える機会にもなりました。テロの要因は、宗教的な背景含め非常に複雑です。しかし、その根底には人々の社会に対する不満や不安があるのではないか。国・社会が豊かになれば、根源的な問題の解決に少しでもつながるかもしれない。自問自答するうちにこうした考えが芽生え、工業団地開発という仕事を通して、自分が貢献しなければという強い思いを持つことができました。

バングラデシュ政府との会議の様子

より“自分ごと”としてバングラデシュにおける開発事業と向き合うようになり、その年の11月には、同国の投資環境改善に向けた英文100ページを超える提案書をバングラデシュ政府に提出しました。法律・制度の改正、大規模なインフラ整備などを求める内容で、一民間企業の提案としては相当高いレベルのもの。場合によっては門前払いされてしまうのではとの不安もありました。しかし、「バングラデシュ政府と国をあげて本気で取り組みたい」という私たちの熱意が伝わり、当局も「ぜひ一緒に開発を進めたい。住商が培った30年のノウハウを生かしてほしい」と言ってくれました。このような厚い信頼をいただけたのは、住商が築いてきた信用や日系工業団地ディベロッパーとしての実績あってのことだと思います。バングラデシュ政府から「住商と一緒であれば取り組みたい」と言っていただけたとき、このプロジェクトは必ずうまくいくと確信しました。

提案書の受理から3年後の19年に、BSEZの開発事業会社を設立されます。その間はどんな準備をされていたのでしょうか。

この期間はバングラデシュ政府とともに、事業を開始するために必要な「土台づくり」に奔走しました。法改正を提案するためバングラデシュ政府の省庁や中央銀行を回って交渉したり、国際協力機構(JICA)の専門家や日本政府とともにインフラ整備に関する調整を進めたり、ときには政府担当者から開示された法律改正の草案をチェックするような場面もありました。ここまで政府に入り込み投資環境を改善していく取り組みは、住商としても初めての試みであり、すぐには成果が出ない非常に難しいチャレンジだったのは事実です。ただ、国外から産業を呼び込み、雇用を生み、地域と国の発展を進めるためには、こうしたしっかりとしたベースを築くことが何より重要だと言い聞かせながら、必死で取り組みました。

社内では、他部署にも積極的に協業の提案をしたり、バングラデシュに関する社内セミナーを開催したり、「この国はこれから絶対に変わる」という思いを伝え続けました。住商には熱い気持ちを持ったメンバーが多いので、次第に共感の波が広がっていったように思います。

BSEZ起工式でBSEZのメンバーと撮影した一枚

団地をつくって終わりではない。街づくり・国づくりにつながる仕事

満を持して22年に開業した、BSEZの特徴と強みを教えてください。

BSEZは、電気・ガス・水・通信・洪水対策の盛り土など、国際水準のインフラが整備されたバングラデシュ初の経済特区。日本政府・JICAの尽力により、進出のための各種許認可手続きを一気通貫で引き受けるワンストップ・サービスセンターも設置されています。

BSEZ開発前後の変化

BSEZは「日本・バングラデシュ官民連携プロジェクト」だからこそ実現した事業です。両国それぞれの関係者が、「バングラデシュの産業多角化と雇用創出」という目標に向かって、一丸となって突き進む。その中で住商は、30年以上に及ぶ工業団地事業を通して培った、600社以上の製造業の皆さまの海外進出支援に関するノウハウ・知見で、ものづくりのプラットフォームをハードとソフトの両面で具体化する役割を果たしていると自負しています。

BSEZの第一期には、国内外から家電・化学品・日用品・食品・設備・衣料資材などさまざまな業種の企業に進出を決めていただいています。順調に販売が進んでおり、24年2月からは第二期先行開発エリアの造成に着手。バングラデシュの産業多角化と雇用創出をさらに現実化していくため、より重層的なサプライチェーンを持つ産業を呼び込むことが目下の課題です。

最後に、工業団地事業のやりがいや、今後の田川さんの展望を教えてください。

経済特区ができあがる一部始終に関与し、竣工後も現地の方々の生活が変化する様を目の当たりにしている今、工業団地事業は、産業発展や雇用創出はもちろん、その先の街づくり・国づくりにも広がっていくもののように感じています。

工業団地が立ち上がることで生まれる住宅・商業関連の新たなニーズに対応し、DX・GXなども取り入れた付加価値を提供することが、住商として次に挑戦すべきことです。既にベトナムやフィリピンでこれらの要素を反映した住宅・商業開発の検討を進めていますし、企業の再エネ調達ニーズに対応するための太陽光発電事業なども広げています。今後はバングラデシュでの事業を安定化させるとともに、他国でも新たな工業団地事業を展開していくつもりです。

これからも泥くさく、開発国の豊かさと夢の実現に本気で貢献したい。少しおこがましいですが、私の40代を懸けて、これまで自分が工業団地開発プロジェクトで得た知見や教訓を、若手社員にも継承していきたいと思っています。

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