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2025.2.19
Business
商社で築くスペシャリストの道。不動産事業で育んだ、人々の暮らしに寄り添う視点
住友商事(以下、住商)は2021年改定の新人事制度で、専門性を生かし、担当ビジネスにおける戦略の担い手となる「エキスパート職群」を管理職に設置。マネジメント至上主義ではない、複線型のキャリアパスを描けるようになりました。今回はそんな住商で、専門性を磨きながら、その道をまい進する社員を2回にわたって紹介します。前編は、新卒入社から14年間、一貫して不動産ビジネスに携わる嬉野綾香が登場。育休復帰後、一級建築士の資格を取得するなど、自分らしくキャリアを築く姿に迫ります。
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ビル事業ユニット
嬉野 綾香
2011年に新卒入社で、住宅・都市事業部へ配属。以来13年間、2度の産休・育休を挟みながら、一貫して住宅事業に携わる。第1子の育休復帰後、一級建築士の資格を取得。24年に自身初となる部署異動で、ビル事業ユニットへ。
商社の中でも珍しい「ハンズオンでのものづくり」に引かれて
入社以来、13年間携わっていた住宅事業では、どんなお仕事をされてきたのでしょうか?
住宅事業ユニット(旧住宅・都市事業部)では、分譲マンションや賃貸マンション、学生マンションなど、住商で扱う住宅商材のほとんどに携わってきましたが、特に分譲マンションを多く手掛けてきました。基本的には一つの物件に対して、土地の購入から物件の企画、販売方針の策定、お客さまへの引き渡し、アフターフォローまで、担当者は全てのフェーズに携わります。建物の完成までにはたくさんのステークホルダーが関わりますが、各部門のプロフェッショナルを束ね、プロジェクトを推進していくのが、私たちの仕事です。
一つの部署でキャリアを長く築くことは、ご自身で希望されていたのですか?
特に希望を出していたわけではありませんが、不動産事業に携わりたいという思いは、入社前から持っていました。元々「ものづくり」に興味があって、大学時代は建築の「意匠」を学び、大学院では「建築史」を専攻していました。
就職活動の際には、デベロッパーを中心に受けていましたが、その中でも住商に引かれた理由は、商社の中でも数少ない、「ハンズオン」でものづくりができる会社だったから。ハンズオンというのは、商社として開発事業に出資をするという方法ではなく、土地の購入からアフターフォローまで、自社で行うデベロッパーとしてのやり方です。多くのデベロッパーは、それぞれの過程を分業化して、別々の部署で担当しますが、住商では一部署であることもあり、一気通貫で全てのフェーズに携わることができます。ものづくりが好きで、「現場でものづくりがしたい」と思っていた私には、住商のスタイルがとても魅力的に映りました。
暮らす人のことを想って。一気通貫だから描ける、一本筋の通ったコンセプト
一気通貫で住宅事業を手掛ける中で、どんな専門性が身に付くのでしょうか?

土地の取得時から建物の完成を明確にイメージして事業を開始するため、「どんな人にどのように使ってほしいのか」といった、分業制では難しい、一本筋の通ったコンセプトを竣工まで持てます。また社内には住宅にもビルにも、各領域を知り尽くしている「レジェンド」のようなベテラン社員がいて、そういう人は図面を見ただけでも、いろんなことが分かってしまうんです。例えば、「このエリアの物件の駐車場なら、高級車の重量やサイズに耐えられるよう自走式にすべきだ」とか、「この面積に対して、それぞれの居室は何畳まで造れるはずだ」とか。通常のマンション企画時には気が付かないような細かい部分まで、アドバイスをくれます。
そうしたプロフェッショナルにもまれながら、どうやってご自身の強みを磨いてきたのでしょうか?
ただ先輩たちの意見をうのみにするのではなく、担当者として「こういう意図や制約があるからこうしているんだ」と議論を交わすことで、先達(せんだち)の知見も得ながら、マンション建設のプロセスやそこに住む人がどういうものを求めているか、理解が深まっていったような気がします。
また、最近は社内異動も多くなっており、私のように入社時から分譲マンションを担当してきた「たたき上げ」の社員は、少なくなってきています。分譲マンションの特徴として、「建物が完成する前に売り出す」ことがあるので、「建物の完成を明確にイメージする」という点で、より一層鍛えられたところがあると思います。お客さまにとってマンション購入は大きな決断ですから、まだ建ってもいない住宅の魅力を伝え、「この物件がほしい」と思っていただくのは、非常に難しくもやりがいがありますね。
分譲マンションの企画で大切にしていたことはなんですか?
モデルルームの立ち上げ時から、そこで暮らす人の目線で、どういう動線でどういうストーリーを見せるかを意識していました。住宅はお客さまが日々を過ごす場所ですから、見た目がかっこいいだけではダメで、機能的でなくてはいけません。柱の位置と家具の関係や、コンセントの高さ一つとっても、生活の中で使いやすいかどうかが大事になります。
そうしたお客さま視点はどのように培われるのでしょうか?
住商では一人の担当者がアフターサービスまで一貫して担っていることが、強みになっていると思います。お客さまへ物件を引き渡した後も、担当者が検査報告などを受けて対応するんです。また、「設計標準」という社内独自の住宅を造る指針があるのですが、定期的に改定をしており、そのタイミングで、お客さまからいただいた声を元に最新の住宅事情を反映しています。例えば、ライフスタイルの変化に伴い、リビング重視の傾向が強まっているとか、宅配ボックスの数を増やした方がいいなど。
私自身、そういった基準をベースに商品企画をしていましたし、どうしたらお客さまが一番使いやすい形になるかを常に考えていましたね。物件が完成すると、お客さまがそこでの暮らしに慣れた頃を見計らって、近くまで見に行くんです。窓から色とりどりの照明の明かりが漏れて生活の気配がすると、うれしくなりますね。いつかは自分が造ったマンションに住んでみたいとも思います。
悔しさをバネに。「今できること」に集中して磨き上げたものづくりの専門性
現場での経験も積む一方、育休からの復職後には一級建築士の資格も取得しています。
私はこれまでに2度、産休・育休を取得しているのですが、1人目の子を出産して復職した時、会社の支援制度を使って、資格取得のための学校に通いました。きっかけは復職当初、以前のように働けないことが、すごく悔しかったから。時短で働いていて、子どもが体調を崩すとすぐに保育園から呼び出されるようなこともしばしば。それまで、主担当として現場にいたのに、サポートに回ることが増え、もどかしい思いをしていました。ですが、そこで中途半端に責任の大きい仕事を増やしてもらうよりも、自分でコントロールできる時間の中で、ずっと取りたかった資格を取ろうと一念発起。平日は会社、土日は学校に通い、家でも図面を引くような生活を1年間続けて、晴れて一級建築士に合格しました。
一級建築士の資格を取得したことで、仕事にはどのような影響がありましたか?
勉強をしたおかげで、建物の企画段階から解像度を上げて、さまざまな要素を検討できるようになりました。それまでは設計者から、図面を受け取ったらそれを「ベスト」な解としていましたが、今は「この寸法なら、上まで積み増せるから、容積率が消化できるんじゃないか」とか、事業性の観点からもより良いアプローチが模索できるようになりました。
「住まいづくり」から「まちづくり」へ。積み上げてきた経験を糧に、新天地で挑戦
現在、ビル事業ユニットで取り組んでいるプロジェクトについて教えてください。
24年7月に異動してからは、住商が戦略的重点地域と定めている東京・神田エリアの再開発事業に携わっています。住商のビル事業はただビルを1棟建てるのではなく、「まちづくり」という視点を持っていることが特徴です。今までは「住む人」のことだけを考えていましたが、「まち」「都市」とスケールが圧倒的に大きくなって、また違ったやりがいを感じています。
住宅事業で培った経験は、どのように生きていますか?

ビルもマンションと同じく一気通貫で取り組みますから、多くの人を巻き込んでプロジェクトを推進していくという点は変わりません。ただ、地元の自治体や町会など、より多くの方から理解を得られるように、丁寧なコミュニケーションが必須になると感じています。時にはユニットのメンバーと一緒に、お祭りや町会のイベントに参加するなど、まちに深く入り込んで、地域の一員となることを心掛けています。
今後はどのようなキャリアを築いていきたいですか?
これまでも、目の前のことに一つ一つ全力で取り組んできたら今があるという感じなので、率直に言うと明確なキャリアのゴールはまだ見えていません。ただ、一つ言えるのは、とにかく楽しく不動産の仕事を続けてこられたということ。特に自分が生き生きしていると感じるのは、現場にいる時。ビル事業においては、まだまだ知識も経験も浅いので、たくさんの現場で学んでいきたいです。あとは、9歳と3歳の子どもがいますが、上の子はもう私がどんな仕事をしているのか、何となく分かっているようです。子どもに完成したビルを見せるのが、当面の目標ですね。