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2025.10.14
Culture
大切なのは「チャンスをどうつかみ取るか」。住友商事社長・上野真吾が母校で中高生に伝えたこと

教育をテーマに、住友商事が2019年からグローバル規模で取り組む社会貢献活動「100SEED」。日本での取り組みの1つである「Mirai School」は、役職員が全国各地の教育現場に出向き、自身の体験談や仕事観を伝えるキャリア教育支援プログラムです。プログラムを通じて中高生が自らの持つ「未来を拓く力」に気づき、大きく羽ばたくためのきっかけを提供することを目指しています。今回登壇したのは、住友商事社長・上野真吾。自身の母校でもある六甲学院中学校・高等学校で、約1,000人の生徒に向けて行った授業の様子をレポートします。
「100SEED」について詳しくはこちら:
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住友商事 代表取締役 社長執行役員 CEO
上野 真吾
1959年兵庫県生まれ。六甲高校卒業、82年慶應義塾大学商学部卒業、住友商事入社。入社以来30年以上鋼管事業に携わり、金属、資源・化学品分野で要職を歴任。21年に副社長として脱炭素分野の開拓を担う横断組織「エネルギーイノベーション・イニシアチブ」(現エネルギートランスフォーメーショングループ EII SBU)のリーダーを務め24年4月から現職。
予測不能だからこそ、変化を味方に。上野が語ったキャリア形成のヒント

兵庫県出身の上野の母校、六甲学院中学校・高等学校を会場に実施された今回のMirai Schoolは、上野による「授業」と、希望した生徒が参加する「座談会」の2部構成で行われました。授業のパートでは、高校3年生全員が大教室に集まり、他学年の生徒もオンラインで同時視聴。合わせて約1,000人の生徒が参加しました。
開始前はにぎやかな雰囲気に包まれていた大教室ですが、授業が始まると雰囲気は一転。真剣な表情で上野の言葉に耳を傾けます。


最初のパートでは、写真を交えながら、住友商事や「総合商社」の仕事について紹介する上野。 「住友商事が目指すのは、世界中の人々が幸せに、豊かに暮らしていける世界です。そのためには、ビジネスをサステナブルなものにしていかなければなりません。そして社会に対する貢献があってはじめて、ビジネスを長く続けることができます。これが私が最も大切にしている考え方です」と、自身の考えを生徒たちに真っすぐに伝えました。
「これがなければ社長になっていなかった」。入社32年目のターニングポイント
Mirai Schoolの授業で恒例となっているのが、講師自身の学生時代から現在までのテンションを示した「人生グラフ」です。
「学生生活はずっと楽しくて、大学受験や就職活動の期間を除くと、テンションが上がり続けていますね。住友商事に入社した時も、『この会社で頑張っていくんだ』と意気込んでいました。配属先の当時の鋼管部門(※)は、住友商事の中でも特にハードな部署の1つでした。海外の担当者との打ち合わせは時差の関係で夜からでしたし、残業もそれなりに多く、大変な時期でしたね」

※2025年現在は、鉄鋼グループ エネルギー鋼管SBUに当たる。主な事業は、石油や天然ガスの採掘(開発・生産)や輸送に使用されるエネルギー鋼管(油井管やラインパイプ)の販売、および付随する在庫・輸送・メンテナンス等のサービス(Supply Chain Management)やDXの提供。

その後、イランの首都・テヘランを皮切りに、イギリス・ロンドン、アメリカ・ヒューストンで海外駐在を経験。各国での生活を満喫しながら、鋼管分野で順調にキャリアを積んでいた上野に、大きな転機が訪れます。
「ヒューストンで支店長をやっていた時のことです。上司がやって来て、30年以上鋼管の仕事をしてきた私に、こう言ったんです。『本部長としてエネルギー分野を率いてくれないか』と。住友商事のエネルギー部門は、何十年もかけてビジネスを築いてきたメンバーたちが支える、専門家集団です。一方私は、鋼管は扱っていたが、石油やガスなどの資源を扱った経験はなく、 この分野のビジネスについては素人。それでも、私は『ぜひ、やらせてください』と答えました」
「好奇心」と「誠実さ」を持って、チャンスをつかみ取ってほしい
上野は「ここからが、この先キャリアデザインを考えていくみなさんに最も伝えたいことです」と強調します。
「エネルギー本部長に就いたことをきっかけに、他の組織も次々と任されるようになり、私の会社員人生は大きく変わっていきました。もしあの時、『30年も鋼管をやってきたのに、一から違う仕事をやるのはしんどいな』と思っていたら、私は社長になっていなかったでしょう。皆さんの元にも、この先たくさんのチャンスが転がり込んでくると思いますが、大切なのは『やってきたチャンスをどうつかみ取るか』ということです」

そして、チャンスをつかみ取る力を養うために必要なのは、「好奇心と幅広い分野への興味・関心」だと話します。
「個人のキャリアは、8割は予想していない偶然の出来事によって決定されると言われています。だからこそ、まずはあらゆる物事に好奇心を持ってください。今やりたいことが決まっていなくても、好奇心を持ち続ければ、やりたいことは自ずと見つかります。また、進む道が決まっていても、途中で興味・関心が変わることは往々にしてあるでしょう。それは『挫折』ではなく『進化』です。そういう考え方を持って、積極的にチャンスをつかみに行っていただきたいと思います」

続く質問タイムでは、上野のメッセージに応えるように、熱意にあふれた質問が次々と出てきます。「鋼管の分野に残っていれば、将来の道筋はある程度見えていたかもしれませんが、それでも新しい分野にチャレンジすることに不安やデメリットは感じませんでしたか?」という質問には、以下のように答えました。
「やったことのない分野を率いることに、当然不安はありました。でもそれ以上に、当時の私は経験の幅があまりにも狭かった。『ここで経験の幅を広げておくことは、必ず将来役に立つだろう』と考えたからこそ、踏み込む決断をしました。それに、当時の上司が『上野ならできると思う』と期待してくれたからこそ、その思いに応えたいという気持ちが大きかったですね。チャンスをつかみ取るためには、『人に誠実に向き合い、人との関わりを大切にする』ことも大切なのです」
最後に上野は、「これからは変革の時代です。世の中がどんどん変化する、皆さんはその真っただ中にいます。だからこそ、自ら変革を起こしていく、そんな社会人になっていただきたいと思います」とエールを送り、授業を締めくくりました。
成長機会、人材育成…中高生が社長に聞きたい、リアルな疑問
多目的教室に会場を移して開催された座談会パートにも、中学1年から高校3年までの、多くの生徒が集まりました。ここでは各自が自由に質問し、上野が回答します。質問は「英語を話せるようになるコツ」「海外での生活」「商社の社長ならではのマインド」など多岐にわたりましたが、その中から印象的なやりとりをいくつか紹介しましょう。

昔のように「上司に怒られながら成長する」という経験も減っていると思います。自分が成長する機会はどうやって作ればいいのでしょうか?
「行き過ぎた指導ではなく、成長するための適切な指導は、今でもしっかり行われていますよ。 例えば住友商事では、若いうちから海外のビジネスの現場に出て、様々な課題に向き合ってもらうなど、社員の成長機会を作るようにしています。ただ、成長は環境だけで決まるものではありません。そうしたチャンスを、自ら積極的につかみ取ろうとする意志も、成長のための大切な要素だと思います。」
発展途上国の子どもと交流した時、みんな積極的だったことに驚きました。僕たちがこれから世界と関わっていく上で、「これだけは日本人として持っていてほしい」というものはありますか?
「『日本人』という型にはめたくないですが、あえて言うなら、やっぱり失ってほしくないのは『誠実さ』です。海外とのビジネスの現場では、『約束したことは必ずやるし、言われた以上のことまでやる』という姿勢に対して、確かな信頼が根付いています。こうした誠実さは、これからも大切に受け継いでいただきたいと思います。一方で、住友商事は世界中に拠点を持つグローバル企業です。日本人だけで成り立っているわけではなく、各地の社員がそれぞれの地域で活躍しています。海外の社員も日本の社員と同じように人材育成を受け、共通の価値観を共有しながら仕事に取り組んでいます。」
社長として日頃から多くの判断をされていると思いますが、その際に大切にしている考え方があれば教えてください。
「どんなビジネスであっても『社会的な意義があるかどうか』をまず重視しています。経済的な価値だけを追い求め、社会へ悪影響を与えるような事業は長続きしません。『社会に貢献できるか』『持続可能な価値があるか』という視点が、私の判断の軸になっています。もうひとつ大切にしているのは、『誠実に人と向き合うこと』です。例えば社長に就任した際には、あえて演台でのスピーチはせず、社員と同じ目線で語る場を作りましたし、現在も、社員との座談会を通じて、直接コミュニケーションをとる機会を持ち続けています。そうした対話からも、たくさんの新しいアイデアや気づきが得られます。」


ここには「教育」を超えた意義がある。Mirai Schoolの可能性
最後に、今回の授業に参加した生徒と先生、そして上野に、Mirai Schoolの感想を聞きました。
まず、座談会にも参加した高校3年生の生徒は、「上野さんがおっしゃっていた『好奇心』と『誠実さ』は、共感できる部分がすごく多かった。広い視野でいろんなことに興味を持てば、人と話していても共通点が見つかりやすくなり、その人と向き合うきっかけにもなる。この二つが自分の中でつながったことが、大きかったです」と、授業で得た気付きを語ってくれました。
授業を見守っていた先生の一人も、「生徒たちは大変刺激を受けたと思います。特に受験を控えた高校3年生は、『これから自分はどうなっていくんだろう』という思いを持っているので、先輩の言葉が非常に響いたと思います」と話してくれました。
刺激を受けたのは、生徒たちだけではありません。上野もまた、「私自身とても刺激になった」と授業の感想を語ります。

「皆さんの質問一つ一つから、『今の若い人はこんな考え方をしているんだ』『そういうところに興味があるのか』ということが分かり、とても頼もしく感じました。これからの時代、私たち企業は、高いデジタルリテラシーを持った彼らの考え方やアイデアを、積極的に取り入れていかなければなりません。そして、彼らの力を借りることで、われわれもさらに成長していくことができる。そのことに改めて気付かせていただきました。このMirai Schoolには、『教育』を超えた意義があると思います」
今の時代を生きる中高生と、講師を務める役職員が、よりよい未来に向けて「これからどう生きるか」を共に考え、共に学ぶMirai School。住友商事は、今後も日本全国にこの取り組みを広げていきます。