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2025.5.22

Culture

住商からティファニー日本法人社長へ。心に秘める住商スピリット、「熱心な素人は玄人に勝る」

住友商事(以下、住商)で培った知識や経験を糧に、退職して自らの道を切り開く人は少なくありません。そうした別のフィールドで活躍するアルムナイ社員(=OB・OG/※1)にスポットを当てる本企画。住商で得た学び・価値観は、現在の仕事にどう生かされているのでしょうか。今回は、2016年に住商を退職後、現在はティファニー・アンド・カンパニー・ジャパンの代表取締役社長を務めている橘田新太郎さんにお話を伺います。

※1 住商では「アラムナイ」の呼称・表記を使用するが、本記事内では「アルムナイ」で統一。

  • ティファニー・アンド・カンパニー・ジャパン 代表取締役社長

    橘田 新太郎

    1992年入社。事業企画部で新規事業立ち上げに従事。2001年、合弁により「コーチ・ジャパン」を設立し、同社マーチャンダイジングVP(Vice President MD 統括)に就任。2007年、米国NYのColumbia Business School にてMBA修了・取得。2008年、合弁により「マーク ジェイコブス ジャパン」を設立、同社代表取締役社長就任(2016年9月30日付で住友商事を退社、転籍)。その後、「フェンディ・ジャパン」代表取締役社長を経て現職。

入社後すぐ経営の現場に触れ、「社長になりたい」という夢が芽生えた

まずは、橘田さんが住商へ入社した理由から教えていただけますか?

長く音楽活動をしていたので、学生時代はレコード会社や音響機器メーカーへの就職を考えていました。そのとき、父親の影響で受けた住商の面接で、社員の人柄に惹かれたことが最も大きな入社理由です。当時の私はミュージシャンになる夢を捨て切れず、面接で将来の目標を尋ねられると、「ワールドツアーです」と答えていました。他の企業では怒られたものですが、住商だけは「へぇ、どんな音楽やっているの?」と面白がってくれて。そのままの私を評価してくれました。

入社後は事業企画部に配属されていますが、当時はどのような業務に携わっていたのでしょうか。

いずれは海外勤務をしたいとの思いから、貿易分野での営業職を希望していました。それに、地元である関西で勤めたかった。しかし、ふたを開けたら貿易でもなく、営業職でもなく、しかも東京勤務。正直最初は戸惑いました。ただ、新設されたばかりで自由度の高い事業企画部に配属され、新規事業の立ち上げを通して経営の面白さに目覚めたのですから、運命だったのかもしれません。

最初に携わったのは、スーパーマーケット「サミット」の主管業務。この時、当時の社長である荒井伸也さんの経営手腕を目の当たりにしました。経営判断においては、白、黒、といったように簡単に答えが出ないことがほとんどで、グレーな状態で結論を導き出さなければならないのですが、荒井さんは科学的なアプローチを通じてより最適な判断をしていて、それを間近で見ることができたのは貴重な経験でしたね。

入社2年目には設立間もないドラッグストア「トモズ」に出向されたそうですが、橘田さんのキャリアにどのような影響がありましたか?

トモズでの経験が、入社当時は思いもよらなかった“経営者”としての道を歩むきっかけとなりました。500万円の予算でオフィスのプランニングをするところから担当し、約10名の少人数でスタートしたプロジェクト。当時の事業会社の社長と毎日のように議論する中で、自分自身が社長だったらどう判断するかを日々シミュレーションするようになりました。

そこで、社長になるために今の自分に足りないものは何なのかを考え、25歳の時に「30代で社長になる」という目標と、達成に向けた10カ年計画を立てたんです。

スピード感、大局的な視点、理念。経営に大切なものを1つずつ積み重ねた

入社10年目にして、合弁で立ち上げた「コーチ・ジャパン」へ出向していますが、ここではどのようなことを学ばれましたか?

日本とは全く違う、インターナショナルなビジネススタイルです。交渉や意思決定のプロセスが非常に合理的。契約交渉においてアメリカ側の経営陣は、Yes、Noが明確です。まどろっこしい言い方はせず、ダメなら“Unacceptable(受け入れられない)”という言葉が返ってきます。日本の場合、ミーティング一つとってもアジェンダすらないことも多く、何事も時間がかかる。それは国際基準とは異なることを痛感しました。そして、限られた時間とリソースの中で、最短距離でゴールに効率的かつ効果的にたどり着くことの重要性を学びました。

留学でMBAを取得した後は、「マーク ジェイコブス ジャパン」の代表取締役社長を歴任していますね。

合弁の話が舞い込んできた当初は、プレゼン資料作りのサポートという立場でした。ただ、またとないチャンスでしたので、コーチの合弁事業での経験と、MBA留学で得た知識を駆使した資料を作り、打ち合わせや交渉の場にも同席させてもらううちに、最終的にはプロジェクト主担当のポジションを勝ち取ったんです。契約交渉の際、先方が連れてきた凄腕の弁護士に押し切られないよう、専門知識の不足を「熱心な素人は玄人に勝る(※2)」の住商スピリットで乗り切って、結果として住商が一番望んでいた形で契約を締結できました。

先方が最終的に住商と組むと決めてくれた条件の一つが、私を社長にすること。コーチ・ジャパンでの経験があり、インターナショナルスタイルで交渉ができ、MBAで経営学の修士も取っていることが評価されて、目標だった30代での社長就任を実現できたのです。

※2 住友商事初代社長の田路舜哉が、社員を激励するために常日頃から用いていた言葉

マーク ジェイコブス ジャパンでの社長経験はどのようなものでしたか?

コーチ・ジャパンで得た経験と留学での学びを体現できた、第1フェーズの集大成といえます。住商の後ろ盾がある出向という形での経営だからこそ、“Think big(大きなことを考える)”で事業を進めることができました。リスクヘッジをしてこぢんまりとするのではなく、ブランドが日本でマーケットを拡大するために何が必要なのかを大局的な視点で考えて、経営判断ができたことは、自分自身を大きく成長させてくれました。

経営者として、難しさを感じた点はありますか?

人材育成ですね。100人100通りの価値観がありますから、人をどう育て、どうチームワークを作るのかは簡単ではありません。そこで、「われわれはお客さまのHappinessをとことん追求します」という企業理念を一から作り、「押し売りは一切いらない。お客さまにHappinessの種を植えるのが私たちの役割」とスタッフに伝えました。

お客さまに本当に似合うもの(=種)を提案すれば、お客さま自身が、花を育てるように商品を愛し、大切にしてくれます。「Happinessの種まきを通じてお客さまの心を元気にする、尊い仕事をしているんだよ」という私の言葉にスタッフが共感してくれて、みんなの士気が上がるのを肌で感じました。目先の利益に捉われないこの理念を生み出せたのは、住友の事業精神の一つである「浮利を追わず」が私の中に根付いていたからでしょう。

在籍時に得たスキル、経験、人との出会いが、今の自分を形作っている

2016年に住商を退社されたのは、どのような決断からですか?

単純に経営を突き詰めたかったからです。会社からは別の道を提示されましたが、ミュージシャンの夢を諦めてまで見つけた、25歳のときに心に決めた夢が経営者でしたから。将来の保証よりも夢を取りました。

24年間の住商のキャリアで得たものとは、何でしょうか?

橘田さんが生涯の師と仰ぐ、竹野浩樹(住友商事 常務執行役員 ライフスタイルグループCEO)。「橘田さんは新入社員の中でもひときわ個性が光っていました。言われたことを言われた通りにやらず、常にオリジナリティーあふれるアプローチを見せてくれたので、私も共に成長させてもらいました」と当時を語る

現場で培った経営者視点とグローバルで通用するビジネススキルに加え、一番は素晴らしい人との出会いです。特に事業企画部の先輩で、私の指導係でもあった竹野浩樹さんには、足を向けて眠れないほどお世話になりました。事業計画から社内稟議に至るまで全てを完璧にこなし、視座が高く、ユーモアもあり、本当に憧れの存在で。新規事業の立ち上げは過酷なものでしたが、おかげで楽しみながら仕事ができました。

入社7年目、自分は竹野さんのようにはなれないと感じ、「もう住商でやっていけないかも」と悩みをこぼしたことがありました。そのとき竹野さんから、「僕も橘田に学んだことがたくさんあるよ」と言ってもらえたからこそ、自分の個性を生かせばいいんだと気付いて気持ちを切り替えることができた。竹野さんとは、当時の事業企画部のメンバーも含めて、今でも食事に行くなど親しくさせていただいています。

退社から約9年が経過した今も、住商での経験や人脈が糧になっているんですね。

そうですね。特に住商ならではの価値観や住友の事業精神は、現在の仕事をする上でも大切な指針となっています。新しい付加価値を生み出そうと思ったら、チャレンジをしなければいけません。失敗を恐れる気持ちがチャレンジ精神を阻んだりするものですが、「熱心な素人は玄人に勝る」を思い出して自分を鼓舞しています。

この姿勢を貫きながら、ティファニーをナンバーワンの“luxury Jeweler”に育て上げるべく、今後はますますブランドのファン作りに励んでいきます。

最後に、これからのキャリアに思い悩んでいる若手社会人へアドバイスをお願いします。

若いうちから、キャリアのロードマップを作っておいてください。忙しさにかまけていると、5年、10年とあっという間に過ぎてしまいます。目的地を定め、道順や何かあった際の迂回ルートまで落とし込んだ上で、社会人人生を送ることをおすすめします。

また、起業する・しないにかかわらず大切なのは、アントレプレナー精神です。与えられたことをやるのは当たり前。その先に自分自身の付加価値を見いだしたり、リーダー的なポジションに就いたりしたいと思うのなら、自分で考え、自分で推進していくメンタリティとバイタリティが不可欠です。ぜひ自分から動き、異業種など自分とは別の世界にいる人たちと積極的に関わって、視野やチャンスをめいっぱい広げてください。

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