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2023.10.24

FEILER 日本上陸50年 〜リブランディングで100年続くブランドへ〜

住友商事グループのビジネスで、注目を集めているビジネスをピックアップしてご紹介。今回は、フェイラージャパン(以下、フェイラー)における挑戦の取り組みをご紹介します。

この記事は2023年7月に公開された内容です

  • フェイラージャパン
    代表取締役社長

    八木 直久

    住友商事入社以来、住商オットー、ショップチャンネルなど国内外の小売事業に携わり、2022年10月より現職。フェイラー事業の日本での業務拡大や蓄積されたノウハウを活かした市場開拓に取り組んでいる。

  • ライフスタイル事業本部
    リテイル事業第二部長

    今村 真也

    これまで数多くのブランド事業に携わり、2022年4月より現職。次世代を見据えたリテイル事業の構築を目指し、現場経営陣とともに、所管事業の価値最大化に取り組んでいる。

海外の上質なブランドを日本に

フェイラーの概要についてまずご紹介をお願いします。

八木フェイラーは、ドイツ東部、チェコとの国境近くにある人口1,400人のホーエンベルクという小さな街で生産されているシュニール織のライフスタイルブランドです。創業から75年、日本に上陸してからは51年を数え、主にハンカチやポーチなどを販売しています。女性から多くの支持を集めており、30〜50代が客層の7割を占めています。
「シュニール」とはフランス語で「いも虫」のこと。プクプクとした質感がシュニール織に使われるモール糸に似ていることからそう呼ばれるようになったといわれています。フェイラーのシュニール織は、柔らかで厚みのある肌触りと吸水・乾燥性に優れ、デザインの表現力も卓越しており、使うほどに肌になじみ長持ちする風合いが特長です。

今村フェイラー(国内事業)が住友商事グループの一員となったのは約20年前。当時のライフスタイル・リテイル分野では、海外の上質なブランドを日本に広めていく方針を掲げており、フェイラーはまさにそこに合致していました。日本にフェイラーを広めた創業者の山川和子氏からバトンを引き継いで事業展開を進めてきました。
2022年度、フェイラージャパンの売り上げは初めて100億円を突破。全国109店舗を展開(23年5月時点)しています。ECサイトでも全売り上げの20%以上を占めており、成長を続けているブランドといえるでしょう。そして、業績面での貢献はもちろん、顧客層の若返りに成功した、マーケットにおけるリブランディングの成功事例としても社内外から広く注目されています。

ファンマーケティングの地道な取り組み

どのようにしてリブランディングを進めてきたのでしょうか。

八木 取り組みを始めたのは9年前。当時、お客さまの年齢構成のピークは65歳に達していました。長年にわたってご愛顧いただいてきたお客さまを引き続き大切にしていくことは当然ですが、企業としての存続を考えれば、若い世代のお客さまの獲得は急務でした。日本上陸当時からお買い上げいただいている既存のお客さまを維持しながら、新規の若い世代をいかに獲得していくかが問われていたのです。

今村 住友商事とフェイラージャパンで方向性を共有し、具体的な施策については現場の皆さんが中心となって考えていただきました。商品面では、黒地に花柄を基調とする伝統的なデザインの他に毎年新作を投入し、売り場の変革も進めるなど全体的な見直しを進めてきました。そしてマーケティング施策で採用したのがファンマーケティングです。それは、デジタルのタッチポイントを活用し、インスタグラムユーザーとのコミュニケーションから始まりました。

八木 発信・共感・共創という3つのステージでファンマーケティングを進めていきましたが、一番苦しかったのはやはり導入時でした。
今でこそインスタグラムのフォロワーも約21万人(2023年9月時点)を数えますが、2015年4月に発信を始めてからの1年半は3,000人程度。フェイラー側から発信してもなかなか「いいね」がつかない状況が続いていました。社内からは「それが本当に収益につながるのか」「それよりももっと営業に行くべきでは」、そんな厳しい声もありました。そのような状況ではありましたが、お客さま自身での投稿は毎日定期的にあることに気づき、担当者が公式として一つ一つ投稿に対して丁寧にコメントをすることでお客さまの熱量を上げていく。そんな地道な活動をひたすら繰り返していったのです。

今村 お客さまとのやり取りを愚直に繰り返し、ファンのお客さまが少しずつ増えていくと、ブランドとファンがつながる顧客イベントを開催。イベントの中で今度はお客さま同士が自然とつながっていったことが、初期から中期にかけてドライブがかかるきっかけになりました。

八木 その広がりはハッシュタグに現れています。お客さまが自分のアカウントで「#フェイラー」のハッシュタグと商品の画像を投稿いただくことで、お客さま経由でのブランド浸透がさらに加速。発信から共感のステージへと変わっていきました。今では、1日150件を超える「#フェイラー」の投稿があります。
お客さまの共感を物語る事例を一つ紹介しますと、フェイラーの代表的な商品にドイツの野にいるてんとう虫にちょうちょ、小鳥たち、そして小さな花をモチーフにした「HEIDI(ハイジ)」というデザインがあります。お客さま同士のコミュニケーションの中で、語呂合わせで「8月12日をハイジの日としてお祝いしよう」という機運が高まり、お客さまの方からブランドを盛り上げるムーブメントが沸き起こっていったのです。

機能的価値と情緒的価値を訴求

お客さまは、フェイラーの商品のどこにそこまで魅力を感じているのでしょうか。

八木 吸水性や肌触りといった機能的価値に加え、情緒的価値を訴求できたことが大きかったと思います。例えば、育児で大変なお母さんが、赤ちゃんの胸元のハイジ柄のスタイを見て元気をもらう。大事なプレゼンの日にクローゼットから好みのデザインのハンカチを手に取って今日のプレゼンはいけると思う。そんな、フェイラーのある生活やフェイラーにまつわるストーリーを大切に、丁寧な生活を送っている方々に寄り添っていった姿勢が受け入れられたのではないでしょうか。
今は共創のステージが始まっています。3年前からフェイラーをこよなく愛するお客さまをアンバサダーとして公認しています。その一つの企画として、アンバサダーの方々からアイデアをいただき、社内の企画担当者と一緒に商品開発に取り組みました。そこから生まれたデザインのバッグやポーチを発売し、インスタライブにもご出演、宣伝もしていただいています。

今村 株主目線で見ても、ブランドが一変したことを実感しています。私は昨年まで5年間海外にいたのですが、赴任前と帰国後の違いにとても驚きました。
フェイラーの変革は、フロントエンドでのリブランディングに留まりません。裏側でビジネスモデルも変革しています。販売先との取引形態も卸売事業から、お客さまに直接販売する小売事業へと舵を切りました。

八木 自ら販売し、お客さまとのタッチポイントを直接持つことで、ファーストパーティーデータが蓄積され、お客さまの消費行動がフェイラージャパン自身で把握できるようになったことが大きなメリットです。顧客理解の解像度が高まり、それに合わせた戦略を打っていくことが今後の成長ドライバーになると考えています。

フェイラーのリブランディングについて、社内外からどのような反響がありましたか。

今村 社内外から多くの問い合わせを受けております。具体的には、先日、住友商事グループの海外事業会社の経営陣の方が来日された際、フェイラーの事例について話を聞きに来られました。DXなどを活用しながらエンドユーザーへの直接販売の拡大を目指す中でファンマーケティングの成功事例について興味があったようです。また、地方再生に取り組む社団法人との面談の機会があり、社内外問わずフェイラーの成功事例に対する関心が高いと感じております。

八木 ご家族でご来店いただいているお客さまを見ていると、従来のお客さまの娘さんやお孫さんへと家庭内で世代を超えて受け継がれているブランドであるという手応えを持っています。また、新しい企業との協業の可能性も探ってフェイラーをまだ知らないお客さまに積極的にアプローチしていきたいと思います。

消費行動の変化に対応するために

今後の事業の展望について聞かせてください。

今村 フェイラーの成功を見て痛感するのは、お客さまや人々の価値観は変化するので、同じことをやり続けてはいけないということです。リテイル事業第二部全体として、自分たちが主体的に変化を起こし、新しい消費行動をつくり、広げていきたいと考えています。
既存のフェイラー事業の変革はまだ現在進行形であり、新しい消費行動をさらにキャッチアップしていく必要があります。例えば、ライバーと呼ばれる中国の方がライブストリーミングで、自国のお客さまにフェイラーの魅力を伝えるといった活動に対して我々がどう答えていくか。まだまだできることはたくさんあります。
また、フェイラーで培ったファンマーケティングの手法を他のブランドに活用する可能性も探っていきますし、メタバースのような小売の形にとらわれない新しい消費行動につながる業態やSDGsの観点からのシェアリングについても検討を進めています。

八木 日本からの海外展開については、ドイツのフェイラーと連携して議論を深めていきたいと考えています。実はフェイラーは、コロナ禍前はインバウンドの需要がほとんどありませんでした。コロナ禍を転機に日本在住の中国の方が、本土側の視聴者へ商品紹介の動画を配信、オーダーを取って自ら発送する取り組みが加速度的に増えてきました。これは、ブランドの変革に加え、消費行動やトレンド収集のスタイルがデジタルツールの高度化とともにボーダレスになってきていることを表していると感じます。
ただし、小売業はあくまでローカルビジネスです。文化やライフスタイルの違いを認識して、売り方と商品は市場を見ながら適切に判断していく必要があります。

変えること、やり切ることが成功の鍵

フェイラーをどのようなブランドにしていきたいとお考えですか。

今村 リブランディングが成功した要因は、主管本部と現場の信頼関係がしっかりと構築できたことにあると思います。任せるところは、任せ切る姿勢が重要で、そこは私も、ずっと大切にしたいところです。

八木 そうですね。主管側と執行側、健全な緊張感の中、お互いをリスペクトする。過去のマネジメントの方々の覚悟があってこその今のフェイラーだと思いますし、我々もまたそうありたいですね。
目指すのは、世代を超えて、100年続くブランドに育てていくこと。機能的価値、情緒的価値の、何を変えて何を変えてはいけないかを見極めてブランドを進化させていきます。当社の中期経営計画では、「次の50年に向けてフェイラーをアップデートする」というスローガンを掲げています。お客さまの共感を基軸として、企画や営業などそれぞれの立場であるべき姿を追求していきます。

今村 ライフスタイル事業本部で、定量的にも定性的にも大きな存在になってほしいです。既存事業の延長、新しい価値創造を通じて、さらなる大きな成長を期待しています。

私にとっての“Enriching lives and the world”とは?

  • 八木 直久

    生活者に寄り添い、毎日の暮らしに幸せを届けること

  • 今村 真也

    子ども世代に対して胸を張って誇れる次世代リテイルビジネスを実現すること

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