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2024.6.6

Culture

「よかキビじゃ」
砂糖一筋30年の住商パーソンが種子島で育むサトウキビの輪

サトウキビから白砂糖の原料となる「粗糖」などを生産する新光糖業。前田浩之は、本社がある大阪から製糖工場のある種子島に赴任した、初めての住友商事出身社長だ。島では自ら畑を借りてサトウキビを栽培し、地元の人たちとの交流も欠かさない。収穫期の種子島を訪ね、島の基幹産業を担う思い、そして次世代へのメッセージを聞いた。

  • 新光糖業
    代表取締役社長

    前田 浩之

    1986年、住友商事に入社。生活物資経理部配属(東京)、90年に砂糖部(東京)に異動し念願の営業に。2000年、新光製糖㈱兼新光糖業㈱企画室長(大阪)に就任し、出向。11年糖質・飲料原料部長、16年住商フーズ 常務基礎食料グループ長を経て、19年より現職。

種子島の砂糖作りを担う新光糖業

色とりどりの花を咲かせる南国のフルーツを始め、豊かな作物が取れる種子島。台風常襲地帯でもあるこの島内唯一の製糖工場を有しているのが、新光糖業だ。

(上段左から)敷島製パン「種子島スイート安納芋」、セブンイレブン「たっぷり黒蜜のとろもちわらび国産大豆深煎りきなこ」、分蜜粗糖 (下段左から)国分「缶つま(九州産ぶりあら炊き)」、オリジン東秀「かぼちゃの煮物」、三立製菓「源氏パイ」
画像提供:住商フーズ

農家から買い入れたサトウキビを新鮮なうちに搾って煮詰め、砂糖の結晶だけを取り出した分蜜粗糖(原料糖とも呼ぶ)が新光糖業の主力商品。住友商事グループの日新製糖(2024年10月よりウェルネオシュガーに社名変更)で精製され、「カップ印」の精製糖として全国で販売されるほか、20kgの粗糖を紙袋に詰めた「種子島産粗糖SC」は、同じくグループの住商フーズを通じてパンや菓子などの食品メーカーで原料として使用されている。

経理生まれ、砂糖育ち。熱意でつかんだ営業キャリア

営業部への配属を期待していた前田の初期配属は、砂糖や小麦の経理業務を担当する「生活物資経理部」だった。希望は叶わなかったが、愚直に仕事を覚えた。
ある時、紙の伝票が営業部から経理部へ回ってくるまでのタイムラグに着目し、「伝票、ありませんか?」と自ら営業部署に通って伝票を集めて回った。地道な仕事を続けるうちに「仕事熱心」という評判が社内に伝わり、1990年に念願の砂糖部(現:食品流通ユニット)への異動がかなった。こうして、後に種子島の地へと連なる砂糖一筋の営業キャリアの第一歩を踏み出した。

集荷後のサトウキビ。収穫最盛期には1日約250台のトラックを受け入れる

2000年には新光糖業の企画室長(大阪)に就任。前田が糖質・飲料原料部長となった11年から翌年にかけて、種子島でのサトウキビ栽培面積は直近15年でピークを迎えた。しかし、その後は一転して毎年減少の一途をたどることとなった。
前田に白羽の矢が立ったのはそんな時だった。

危機感を抱いた当時の本部長から、前田に声が掛かった。
「社長として種子島に行かないか?」

九州の南端から約40キロ南にある種子島への赴任の打診。
前田の返事は、「いいですよ」。迷うところはなかった。

「家族も『単身でしょ?』と反対はありませんでした。ただ、種子島では賃貸で住める家はないだろうと思っていたら、ちょうど19年の春に完成するマンションがあると。それが今も住んでいる社宅です」と前田は思い返す。

こうして、種子島に駐在する歴代初の社長が誕生した。
「島に来て変わったことと言えば、車社会なのであえて毎日1時間は歩くように心掛けるようになった点。また、会社に食堂がなく弁当持参の人が多いので、自分でも作るようになりました。だし巻き卵が得意で彩りは大切にしています」と前田は話す。

初の島駐在の社長。大切にした社員との対話とサトウキビ栽培

前田が社長となって最初に手掛けたことは、社員との面談だった。
まずは社員の顔と名前を覚えることから始め、それぞれの業務内容や職場の課題など、対話を重ねながら一人一人の状況を把握していった。「社員からはもっと怖い人かと思ったという声がありました。こわもては損ですね」と前田は笑う。

繁忙期の12月から4月に新光糖業で働く季節雇用の社員と面談をした際、ベテランの男性が「季節(雇用社員)とも面談してくれるなんて。ありがとう」と驚いたという。「一緒に働く仲間ですから当然でしょう」と話す前田。さまざまな立場で働く社員一人一人と向き合うことを大切にした。

サトウキビ作りにも真摯な前田は、着任の翌年から自宅近くに畑を借り、自らサトウキビ栽培を始めた。
「主義とかポリシーではなく、自分でやってみないと分からないでしょ。どんなに小さな畑でも、今年の作柄がどうだとか、農家の皆さんと話ができるわけです」

前田が借りた畑は農協の集荷センターに近く、畑作仕事の様子が自然と島民の目に留まる。ある時、ちょっとうれしいことがあった。
「畑の前を車で通りかかったお年寄りから『随分朝早ようから頑張っちょる。よかキビじゃ(良いサトウキビだね)』と自分で育てたサトウキビを褒められて、とても嬉しくなりました」と前田は笑う。

新品種導入と副産物の高付加価値化で栽培面積減に歯止め

サトウキビの栽培面積減少に直面していた種子島では、前田の着任前から新品種「はるのおうぎ」の開発が進んでいた。機械刈りに適していることに加え、農家の収入に直結する収量も多い。関係機関の協力を得て、品種登録や生産者への普及をハイペースで進めた。その後、2019年から2020年に2,125ヘクタールと過去最低を記録した栽培面積が増加に転じた。

副産物の高付加価値化にも取り組んだ。島ではサトウキビの搾りかすを家畜の寝床に敷いたり、堆肥化したりと、古くから循環サイクルが根付いていた。前田も、「副産物は畑に返すのが第一。それでも余る副産物は、地域が潤う高付加価値商品に」と繰り返す。脱炭素社会を見据え、サトウキビ由来のバイオディーゼルが種子島を離発着する航空機燃料の一部に使われる夢も描いている。

若手商社パーソンに贈る言葉 「熱心な素人は玄人に優る」

新人時代は財務諸表の作成が苦手だった前田だが、営業に出ると取引先の状況把握や与信申請の場面で経理の経験が生きたという。「住友商事の中に無駄な部署はひとつも無いので、どの仕事が自分に合っているか探してほしい」と前田は話す。

「誰も最初は素人です。私が新人の頃は、『熱心な素人は玄人に優る』という言葉をよく聞きました。トレードを通じて業界に精通することが事業投資の判断に生きてきます」。

最後に、前田になぜ商社を選んだのか尋ねてみた。 「僕は基本的に人が好きなんです。だから、商社を選びました。だって、商社は『買って』、『売る』からメーカーの倍の人に会えるわけです。すごくシンプルでしょ?」。

そして将来的にはこうありたいと話す。 「お世話になった食品業界に恩返しがしたい。社内外を問わず若い世代を育成するお手伝いができれば」

人と人との関わりの中から、商機や仕事の醍醐味を見つけ出す商社パーソン。 そんな言葉が似合う人物だった。

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