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2024.2.26
Culture
住商の新人が現場訪問!福島・浪江町に「国内駐在」 先輩の素顔は
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リスクマネジメント第三部
上田 千夏
2023年入社、大阪府出身。入社後は寮生活を送っている。
所属部署ではグローバルな投融資の審査に携わるり、今回の企画で初めて事業の現場に立つ。
3年前から「国内駐在」する先輩と初対面
東京駅から特急「ひたち」に乗り込みおよそ3時間半。福島県浪江町は2011年の東日本大震災及び原子力発電所事故で町内全域避難を強いられた。その浪江町に3年前から「駐在」している先輩がいることを知ったのは、最近のことだった。
浪江駅に降りると気温は2度。駅に隣接する敷地で澤村なつみが迎えてくれた。上田の6年先輩だ。ここは住友商事が、カルチュア・コンビニエンス・クラブなど、様々なパートナーと共に運営するコワーキングスペース「ナミエシンカ」と、スノーピークと連携する「住箱カフェ浪江」。実は、澤村が携わる「水素」への取り組みがここで大切な役割を果たしている。
「ジュウテン? ジュウデン?」
「これから充填に行きますよ」。挨拶もそこそこに澤村先輩が車に乗るように促す。「ジュウテン・・?」。
二人が乗ったのは水素を燃料として走るトヨタ自動車の燃料電池車「MIRAI」だ。3分ほどで水素ステーションに到着。見かけはガソリンスタンドそのものだが…。5分もかからず水素のフル充填は終了した。気温にもよるが満タンで500km程度は走れるという。燃料電池車は水素で走ると同時に、大容量の発電機能も備えている。これが「ナミエシンカ」で威力を発揮しているのだ。
水素で沸かすコーヒーの味
「ナミエシンカ」に戻ると、澤村はすぐさまカフェ横の充放電器とMIRAIを接続し、給電を始めた。車1台でカフェのコーヒーメーカーや炊飯器など一部の電源10日分程度が賄えるという。澤村のルーティーンワークのひとつだ。
しばらくすると、カフェから澤村が嬉しそうにコーヒーを持ってきた。
「はい、水素コーヒーです」
「え?水素コーヒー???」
「さっき充填した水素で発電した電気で淹れたコーヒー。だから水素コーヒー」
「なるほど。なんかまろやかな気がする・・・」
上田の質問攻めが始まった。
「どうして、ここ浪江に来ることになったのですか?もともと馴染みがあったとか?」
「私は京都出身なので、特に馴染みがあったわけではありません。でも新しいことにチャレンジしたかったから」と澤村は答えた。
ゼロカーボンシティ構想と社員駐在
住友商事と浪江町、水素、そして澤村――何がそれをつないだのだろう。澤村の上司にあたる水素事業第一部の部長、近藤真史はこう説明してくれた。
「2020年東京オリンピック・パラリンピックに、浪江町で作った水素を供給する国家プロジェクトが発端でした。ただ住友商事がそれに関わっていたわけではありません。あとに残った施設をどう永続的に活用するか、浪江町から声がかかりました」(近藤)。
浪江町・請戸地区にできたFH2R(福島水素エネルギー研究フィールド)は、再生可能エネルギーを利用した世界最大級の水素製造施設。地元では「大きな会社が来て、国の金をもらって、やりたいことだけやって去っていく」という警戒感も根強かった。
浪江町の信頼を勝ち取る決定打になったのが、「ゼロカーボンシティー」を実現するために住友商事に何ができるか、その継続的な取り組みの提案。そして、そのために浪江町に社員を駐在させる決断をしたことだ。
「席に座っているのを見たことがない」
社内ではあまり例がない「国内駐在」。特殊な案件であったが、ちょうど新しいチャレンジをしたいと考えていた澤村と、澤村の元上司である当時の水素事業部長が会話するきっかけがあり、「様々なタイミングが重なって、本人の希望も踏まえて澤村の駐在が決まった」と近藤は振り返る。
2021年1月、住友商事と浪江町は水素の利活用及びまちづくりに関する連携協定を締結。澤村はその年の5月に浪江にやってきた。「ネットワークづくりがとてもうまい。役場の関連団体のプレハブ施設に一応デスクを確保してもらったのですがそこに座っているのを見たことがない」。近藤は笑う。外に発散するタイプではないが、内に秘めたエネルギーで地元企業、町役場職員、町会議員、そして町長へと澤村のネットワークは広がった。
水素コーヒーを飲みながら、話は尽きない。最初に浪江に到着したときはどんな感じだったのだろう。
「一人で駅から降りて、スーツケースをゴロゴロ引いてきて、しばらく歩いても、誰一人、会わなかった」。コロナ禍の2021年にはじめて浪江駅に到着したときを澤村は振り返る。「本来、私は出不精だった。でも、それだと町に馴染めないなと思って、自ら外に出るようにして、誘われた会合、飲み会は基本全て参加した」。
週末はご当地ヒーロー
プライベートの活動を聞いて上田は驚いた。
「ゴルフや地域活動とか。『なみえアベンジャーズ』というご当地ヒーローみたいなものがあって、そのキャラクターもやらせてもらっている」。澤村が見せてくれた別の顔だ。
「なみえアベンジャーズ」は10人ほどのボランティアの集まりで、浪江の特産品などをキャラクターに見立て、手作りのマスクやユニフォームで扮装する。たとえば極太メニューをイメージした『極太マン』、浪江名産品をもじって『ニンニクウーマン』や『エゴマン』。そして澤村が扮するのが『水素ウーマン』だ。浪江町を盛り上げるために、町のイベントなどに協力している。
一見クールな先輩の別の顔。どこにその熱量が隠されているのだろう。どうしたらそんなパワーが生まれるのか。
帰郷者は震災前の1割程度
「まだ浪江に人が戻ったとは言いがたいけれど、その分、自分がコミュニティに所属している感が強くて、人との距離感も近い。すっかり愛着が湧いた」(澤村)。
少しずつ復興が進む浪江町ではあるが、震災以前の人口2万人に比べると帰郷者は1割程度。そんな経緯があるからこそ、人々の温かみが身に染みる。
「商社というと何百億円とか、何千億円という規模の事業をやっていることが多い。それに比べたら、この取り組みの規模は小さい」。澤村は続ける。「でも、水素を活用する環境的な価値や、地域に貢献する社会的な価値といった定量化しにくい部分も評価して、会社は後押ししてくれる」
企業価値の新たな物差し
上田にも、うなずけるところがあった。学生時代、部活やサークルよりも経済学部でのファイナンス研究に熱中した。企業価値を上げるためには何が必要なのか、それを考えることが楽しかったからだ。さまざまな事業を持つ総合商社で企業価値向上に取り組みたい――。入社面接で伝えたまっすぐな思いが、上田を住友商事へ導いた。
【就活生へのアドバイス】
厳しい指導もイメージしていましたが、職場の先輩は「挑戦した結果、失敗することはウェルカム」と、上手くいかない時も明るく丁寧に指導してくれます。メリハリをつけた働き方を実践して、仕事とプライベートを両立している人も多いです。成長を実感できる環境なので、恐れず挑戦してください!