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2025.5.15

Business

世界を軽やかに支えるアルミニウム。住商のアルミビジネス最前線

アルミニウム(以下、アルミ)は、金属素材のなかで鉄に次いで市場規模が大きな素材です。住友商事(以下、住商)はアルミを扱ったビジネスにおいて、総合商社で権益数量NO.1・コスト競争力NO.1を誇っています。アルミビジネスの成長にあたって、大量の電力消費などの環境問題を避けては通れないなかで、こうした課題をどう乗り越え、今後どのようにビジネスを展開していくのか。資源グループ アルミSBU長の山際真義に、住商が誇るアルミビジネスの歩みと、これから描いていきたい未来について聞きました。

  • 住友商事 資源グループ アルミSBU長

    山際 真義

    1996年に新卒入社で軽金属部へ配属。コモディティビジネス部への異動を経て、約5年間にわたって欧州住友商事会社でロンドン駐在を経験。帰国後は再び軽金属事業部に戻り、地金チームリーダー、製品開発チームリーダーを歴任。2018年からラインパイプ事業部 環太平洋チームリーダーを務めた後、21年に軽金属事業部部長代理、24年に軽金属事業ユニット長を経て現職。

身近な存在なのに意外と知らない、アルミの特徴と用途

アルミにはどのような特徴があるのでしょうか?

軽くてさびにくく、加工もしやすいため、あらゆる製品で使用されています。特に軽量化は、燃費向上やCO₂排出削減に直結し、環境負荷の低減に貢献するため、多くの業界で重視されています。近年では他の金属からアルミへの置き換えが進んでおり、その代表例が自動車です。最新の自動車は機能が充実する一方で重量がかさみがちで、特にバッテリーを搭載するEVは重くなってしまいますから、多くのメーカーがアルミを用いて軽量化を図っています。

アルミは、自動車・航空機・電車などの輸送機、サッシなどの建築資材、飲料缶などの包装材に使用されている

そもそも、どのようにしてアルミは作られるのですか?

AL(アルミ)は酸素、シリコンに次いで地球上で3番目に多い化学元素です。ボーキサイトと呼ばれる鉱石に多く含まれており、それを水酸化ナトリウムで処理して、アルミナ(酸化アルミニウム)を作り、さらにアルミナを電気分解してアルミは作られます。

ボーキサイトは日本で産出されませんが、世界中に存在していて、純度が高いものは主に赤道付近で採れます。オーストラリア、インドネシア、ベトナム、ブラジルなどで採掘していますが、最近では中国企業がアフリカのギニアで開発している事例もあります。

アルミの需要は伸び続けているそうですが、どのくらいの伸び率なのですか?

先ほど説明したように、あらゆる製品における軽量化の流れによって、今後ますますアルミの需要増が見込まれます。アルミの価格変動は経済成長と連動しているため、世界のGDPと同じくらい、およそ3%ずつ右肩上がりで伸びており、今後も安定して成長し続けるでしょう。

トレード×投資の両輪で、商社NO.1のアルミビジネスを展開

住商は1970年代からアルミビジネスに参入しているそうですが、どのようなビジネスを展開しているのでしょうか?

参入当初からしばらくは、買い付けて売る、いわゆるトレードビジネスでした。そこから住商のアルミビジネスが盛り上がるきっかけとなったのが、2010年にマレーシアのアルミ製錬企業「プレスメタル」、2011年にアメリカのアルミ圧延企業「トライアローズアルミナム(以下、TAA)」へ出資したことです。これにより、トレードと投資の両輪でビジネスを推進できるようになりました。

プレスメタルの生産ライン(写真左)と、同工場で生産されたアルミ地金(写真右)

プレスメタルは、当時主流だった欧米式の製錬技術とは一線を画し、中国式の製錬技術を用いているユニークな企業です。リスクを懸念して投資を断念する可能性もありましたが、当時の若手社員が熱意を持って「検討すべき」と主張したことで潮目が変わり、投資の決断に至りました。もともとプレスメタルのアルミ製錬は年産12万トンでしたが、住商の投資後には年産108万トンへと製造量を伸ばしています。その若手社員の声がなければこの成果は得られていなかったでしょう。

アメリカ・ケンタッキー州にある、TAAが部分保有するローガン工場

TAAでは、素材の多くに回収したアルミスクラップなどのリサイクル材を用いています。スクラップを直接溶かすことができる炉を導入して、さらなる競争力アップを目指しているところです。圧延事業ではあるものの、リサイクル事業と捉えてまい進しています。

なぜ、住商はアルミビジネスにおける現在の地位を築けたのでしょうか?

もともと競争力と技術力を持っていたプレスメタルとTAAへの投資が成功したことが大きいですね。また、複数の日系企業がここ5年以内にアルミビジネスを縮小・撤退したことも大きな要因です。その理由の一つは、アルミ製造コストの約3分の1が電気代であり、石炭や天然ガス由来の電力の利用は、コスト面でも社会的な意義においても限界に近づいているからです。その点、プレスメタルは水力発電を積極的に活用しており、電力コストの抑制と環境負荷の低減の両面で優れています。 当社はその強みを生かし、持続可能なアルミビジネスの拡大を進めてきました。

トレードに加えて、投資に着手したことが成果につながったのですね。

そうですね。ただ、投資によって成果を出すには、トレードへの理解が欠かせません。収益規模では投資のほうが大きいものの、トレードとの両輪であることに大きな意味があると捉えています。投資ファンドと総合商社が大きく違うのは、投資先の経営に入り込んで、共にどうやって事業を大きくするかを真剣に考え、ビジネスをしている点です。投資先が何に困っているのか、どのように市場に入り込むのか、アルミだけでなく、原材料や電力の価格リスクにどう対応するかといったことは、トレードを経験していないと分からないですから。

原料であるボーキサイトもアルミナも、需給に応じて価格が大きく変化する市況商品ですし、電力も価格変動性が高い商品です。また、再エネ由来の電力で作ったアルミはカーボンクレジット(※)の文脈で価値があり、その取引も関連しますから、十分なトレードの知識が必要。そのため、住商のアルミSBUでは、まずトレードチームで3~4年ほど経験を磨いてから、投資事業を担当します。私は日頃から「トレーダーズマインド」を持った生産者になろうと、組織全体に呼びかけています。

※ 温室効果ガスの削減効果を企業間で売買し、市場で取引する仕組みのこと

アルミビジネスのトレンドに乗り、移り変わる市場や社会の一歩先を行く

住商のアルミビジネスにおいて、最新のトレンドを教えてください。

重要なトレンドが2つあります。1つは「低炭素アルミ」の製造です。天然ガスや石油由来の電力ではなく、水力・太陽光・風力の再エネ電力を利用して作られたアルミのことを「低炭素アルミ」「ローカーボンアルミ」と呼びますが、プレスメタルは2024年10月に低炭素アルミのブランド「GEM(ジェム)」を立ち上げました。

GEMをブランド化することで住商が低炭素アルミに取り組んでいることを周知し、それ以外のアルミとの差別化を図っていきたい。低炭素であることの付加価値を加えたビジネスを展開、カーボンニュートラルの取り組みに貢献して、持続可能な循環を生み出していきたいと考えています。

山際さんの胸元には「GEM」のバッジが輝いている

もう一つはリサイクル材の利活用です。アルミ市場は、再エネ由来のアルミ新地金とリサイクル材(スクラップ)が大きく伸びると予測されています。すでに事業投資を実行していますが、さらに推し進めていく予定です。

その先では、スクラップ回収、選別事業や、リサイクル素材の純度を上げるアップサイクル技術にも投資をしていきたいと考えています。日本では回収率が高いですが、海外では回収率が低い国・地域も多く、リサイクル材の量は増えません。また、アルミだけのスクラップは限られるので、アルミ合金として価値を維持して再利用するためには選別が欠かせません。スクラップは塗料などの不純物が混じっているため、溶解前に必ず選別の工程も必要です。デジタル技術を活用した選別技術の開発が進めば効率が上がり、市場も伸びていくのではないかと注目しています。

アルミビジネスを通して実現したい“Greenerな未来”

アルミという素材を生かして、住商はどのような未来を描きたいですか?

先ほどお話ししたとおり、アルミの一番の強みは軽いこと。この特性を活かしてアルミ市場を伸ばすことが社会全体のGreenerに繋がります。また、アルミをもっと普及させるのならば、同時にアルミ自体をグリーンにしていかなければいけません。100%リサイクル材でアルミが作られる社会はまだまだ先ですから、ボーキサイト由来で作られるアルミ新地金を、なるべく低炭素アルミに置き換えていく必要があります。

直近では、次世代エネルギー戦略を推進する住商の営業組織 エネルギートランスフォーメーショングループの様々な部署と協力体制を築き、再エネ電力の確保、そして、エネルギーマネジメントについて協議を進めています。アルミのための再エネ電力を作り、それを使ってアルミビジネスを発展させ、バリューチェーンをつないでいく。これは、総合商社である住商にしかできないことなのではないでしょうか。今後もトレーダーズマインドを胸に、住商の強みを生かしたアルミビジネスを続けていきます。

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