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2025.12.2

Business

航空機産業を支えるチタン。住商と大阪チタニウムテクノロジーズの70年に及ぶ成長秘話

軽くて、強くて、さびにくいチタンは、航空機の機体やエンジンなどの製造に欠かせません。住友商事(以下、住商)グループは、チタンビジネスの年間売上高約400億円と、総合商社のなかでも圧倒的No.1の地位を築いています。今回は、兵庫県を拠点とするチタンメーカー、大阪チタニウムテクノロジーズ(以下、OTC)との強いタッグで成長してきた70年の軌跡を、住商、実際のトレード業務を担う住商グループの住商メタレックス、そしてOTCの担当者が語り合います。

  • 住友商事
    非鉄製品事業 ユニット長

    工藤 晃

    2002年新卒入社。金属事業部門にて電磁鋼板等の薄板トレードに従事。欧州駐在での電磁鋼板のトレード、事業投資、米国駐在でのチタンのトレードなどを経て、22年から住商メタレックスに出向(駐在中の機構改正により資源グループ所属に)。非鉄製品関連のトレードに従事した。25年4月より現職。

  • 住商メタレックス
    高機能材料部長

    瀬間 昇

    2005年住商メタレックスにキャリア入社。主にトレードビジネスに従事し、アルミ圧延品、磁性材料、医療用部品、電池材料・製造設備等、さまざまな商材を取り扱う。電池関連では北欧のスタートアップ企業との提携実現や一部出資の業務も担当。25年4月より現職を工藤より引き継ぎ、チタン関連製品を核とした成長を目指している。

  • 大阪チタニウムテクノロジーズ
    チタン営業部長

    加藤 雅通

    1997年入社。高機能材料の製造スタッフとして工場勤務を経て、98年に営業部門へ。入社当時はOTCバドミントン部に所属し、全日本実業団へも度々出場。OTC全商品の営業担当を歴任。住商とは25年以上のお付き合い。2023年4月営業部長、25年4月より現職。

住商とOTCのタッグで、世界トップクラスのシェアに成長

まずは、大阪チタニウムテクノロジーズがどのような会社なのか教えてください。

OTC加藤 チタンは日用品から航空機まで、さまざまなところで使われていますが、OTCは源流の工程で鉱石からチタンを取り出す製錬を行っている会社です。1952年に日本で初めてスポンジチタンの製造に成功。住友金属工業の資本参加を得て、その後「大阪チタニウム製造」に社名変更し、53年から米国への輸出を始めました。製錬後のチタンは、スポンジのような多孔質の状態でできあがるため、「スポンジチタン」と呼ばれています。

航空機には最高品質のスポンジチタンが求められ、特にエンジン向けに供給の認定を受けたスポンジチタンメーカーは現在、世界に4社(日本2社、ロシア1社、カザフスタン1社)しかありません。うち1社がOTCで、世界トップクラスのシェアを誇ります。

最高品質を誇るOTCのスポンジチタン

OTCと住商・住商メタレックスの関係を教えてください。

OTC加藤 私どもは海外拠点を持っていないため、海外への販売は全面的に住商を頼ってきました。かつては米国のチタンメーカー(スポンジチタンを溶解し、チタン製品へ加工するメーカー)も原料となるスポンジチタンを自社で内製していたのですが、1993年頃から、それまで内製していたスポンジチタンを外部購入へと切り替える流れが起き、私どもの輸出量が拡大しました。その流れにうまく対応できたのも、住商とタッグを組んで追求してきた品質競争力、安定供給力、コスト競争力、顧客との信頼関係があったからこそ。おかげさまで創業当時、約300トンだった年間生産能力は、現在では4万トンにまで拡大しました。OTCの輸出ビジネスがここまで成長したのは、住商の後押しがあってこそだと感じています。

工藤 OTCが安定品質での製造に注力する中、住商グループはOTCの北米を中心とした輸出を一貫して担ってきました。住商の現地拠点が窓口となって商談を進め、輸出から現地販売までを行っています。2018年からはこの業務を、貿易ビジネスに特化している住商メタレックスに移行しました。一方で現地窓口に関しては、継続して住商の海外拠点が窓口となっており、欧米・東アジア・アセアンなど、各地域の顧客・取引先との日々のコミュニケーションではサポートしてもらっています。住商本体は住商メタレックスの主管組織として、戦略議論に参加するなど日々の実務とは離れたところで支援しています。

住商メタレックスでは現在、日常的にどのような業務を行っているのですか。

瀬間 日々のコミュニケーションを通じて顧客ニーズやマーケットトレンドを吸い上げ、OTCに現地の要望に応えた製品を製造してもらい、販売する。私どもが行っているのは、そんな商社の昔ながらのビジネスモデルです。住商メタレックスは仕入れ先と販売先の双方が見えている立場として、OTCや米州住商のメンバーとともに商談を進めています。

OTCと一緒にアメリカに出張に行った時の様子。中央が加藤部長、右が瀬間。左は米国住商の高瀬で、主要市場である北米顧客との窓口として、デリバリーなどの日々の業務から顧客ニーズの吸い上げ、長期契約交渉などに奔走している

立ちはだかる通商問題……ピンチをチャンスに変えてきた70年の歴史

70年という長い期間においては、試練もあったのではないでしょうか。

OTC加藤 チタンの需要が高い米国でのビジネスは、さまざまなリスクがあります。9.11やリーマンショック、直近ではコロナ禍による旅客需要の低下で航空機生産が落ち込み、チタンが売れない状況に直面しました。このような危機の度に、住商と力を合わせて乗り越えてきました。

中でも代表的なものが通商問題です。2010年代には当時はまだ自社でスポンジチタンを内製していた米国のチタンメーカーから「不当廉売」だと提訴され、大幅な関税を課せられる可能性が生じました。

工藤 提訴が認められ、OTCのスポンジチタンに関税が課されれば、私どもの米国の顧客が関税を負担することになり、誰もハッピーじゃなくなります。そこで私たちは主要顧客も巻き込み、この訴えに対抗して戦うことにしました。その過程では、膨大な提出資料をつくるための通関データの収集や法務面で米州住商に手伝ってもらったり、米国政府の対応に詳しい住商のワシントン事務所に相談したり、住商のグローバルな知見やネットワークをフル活用。その上で主要顧客とタッグを組んで、米商務省と粘り強く交渉していったのです。この時は、私が別部署でのヨーロッパ駐在時代に経験した、アンチダンピング訴訟の経験も役立ちました。

OTC加藤 おかげさまで最終的に関税は課されないこととなり、ホッとしました。我々を提訴していた米国のチタンメーカーは、結果的に自社でのスポンジチタンの内製継続を断念し、今ではOTCと住商にとって重要な顧客となっています。まさにピンチをチャンスに変えた出来事でしたね。

工藤 一緒に戦った米国の主要顧客からはすごく感謝されたし、絆が深まり、その後の関係強化にもつながりました。あの出来事により、世界のチタン市場における「Sumitomo(住商グループ)」のブランド力は、さらに確固になったと感じます。

住商ならではのネットワークと調整力で、みんながハッピーになれるビジネスに

長年のパートナーシップによって醸成・共有されている、OTCと住商グループに共通する文化や価値観はありますか。

瀬間 顧客尊重の精神ではないでしょうか。顧客に対しては、短期的な勝ち負けよりも長期的なパートナーシップを最重要視しています。OTCの最高品質の商品を顧客にタイムリーに納めることで、顧客とWin-Winの関係を構築する。担当者が変わっても、この精神は、3社で常に受け継がれていると思います。

OTC加藤 OTCは海外への物流部門を持っていません。そのため顧客の信頼を勝ち取るために重要なオンタイムデリバリーや安定供給体制を構築する上で、住商の存在は欠かせません。住商のグループ会社である住商グローバルロジスティクスの皆さんにも、いつも大変お世話になっています。予期せぬトラブルが起きたときも、「住商なら何とかしてくれる」といった安心感があります。例えばコロナの後、急に航空機需要が高まったため、米国内でスポンジチタンが足りなくて困っている顧客が現れましたが、あの時も見事に解決してくれました。

在庫不足の問題をどのように解決したのでしょうか?

工藤 反対に在庫過多になっている顧客に「スポンジチタン不足で困っている会社に売りませんか」と話を持ちかけたのです。言葉にすると簡単そうですが、そこにあるスポンジチタンが先方で本当に使えるかどうか問い合わせ、確認しながら調整するのは大変でした。

OTC加藤 航空機用のスポンジチタンは仕様を満たすことは当然、製造工程、検査工程なども厳しい管理体制が求められています。仮に異なる仕様のものが納入されれば、重大なトラブルにつながる可能性もあります。ですから、複数の拠点から複数の拠点へ、倉庫にある山積みの在庫から適切なものを探して発送する作業は本当に大変だったと思います。発案したのは私たちでしたが、実際に動いてくれたのはほぼ住商。「住商ならきっと何とかしてくれる」と思っていましたが、期待以上の仕事をしてくれました。

工藤 長年、タッグを組み、お互いのビジネスのことをよく理解していたからこそできたことです。とはいえ最初にOTCからお話をいただいた時は正直、「これは大変だな」と思いました(笑)。でも困難であればあるほど「必ず何とかしてみせる!」と燃えるのが住商スピリットです。結果的に、在庫過多・不足のお客さま双方に喜んでいただけましたし、在庫が余っていた顧客からの次の発注も早まり、私たちやOTCにとっても利がありました。みんながハッピーになれて、苦労したかいがありましたね。

チタンがなければ、飛行機は飛ばない。誇りを持って、高まる需要に応える

今後のチタンビジネスの展望を聞かせてください。

OTC加藤 現在、航空機用のチタン製品需要は年平均5〜10%で成長しています。中長期で見ると人の移動はさらに増え、航空機需要も高まります。軽量化・燃費効率の向上を目的とした新しい機体への入れ替えも活発です。そのためスポンジチタンの需要も今後、拡大すると予想されています。OTCでも昨年、現在の4万トンの生産能力にさらに1万トンの能力増強を決めましたが、それでも中・長期的には足りない可能性があるほどです。いずれにしろ今後、生産量の拡大に合わせて、ますます住商とのパートナーシップを強固にし、両社のビジネスを拡大したいと考えています。

瀬間 OTCとは2025年6月にGX(グリーントランスフォーメーション)推進に関する包括契約も結びました。50年のカーボンニュートラル実現に向け、太陽光に蓄電池を併設したグリーン電源の導入など、住商グループのGX関連の知見で貢献したいと考えています。70年間、タッグを組んできたOTCとの信頼関係をさらに深め、サステナブルなビジネスに進化させていきたいですね。

工藤 スポンジチタンは原料であり、直接、人の目に留まるものではありません。でもこの素材がなければ、飛行機は飛ぶことができません。また、最新型の飛行機は環境のために燃費効率を追求して軽量化が進んでおり、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が多用されていますが、最近はCFRPと熱膨張特性が近いチタンも組み合わせて使われるようになっています。このように社会的な意義が大きい仕事に誇りを持ちながら、人々の生活を豊かにする航空機産業をこれからも支えていきたいですね。

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