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2026.2.4
Business
新規ビジネスの創出でカーボンニュートラルな未来を目指す、エネルギーイノベーション・イニシアチブの挑戦
住友商事(以下、住商)は全社を挙げて、カーボンニュートラル社会の実現に向けた次世代エネルギー事業や新産業創出に取り組んでいます。中でもエネルギーイノベーション・イニシアチブSBU(Strategic Business Unit/戦略事業単位。以下、EII)では、全社内の横串機能を担い、組織間連携によって新規ビジネス、新市場の創出を目指しています。今回は、そんなEIIをけん引する北島誠二SBU長に、これまでの具体的な取り組みや今後の展望を聞きました。
※住商は、2026年2月にカーボンニュートラル化目標を更新し、併せて、関連する「気候変動問題に対する方針」及びマテリアリティ「気候変動問題を克服する」における長期・中期目標を改定しました。詳しくはコーポレートサイト内「気候変動特設サイト」をご覧ください。
気候変動特設サイトリンク
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エネルギーイノベーション・イニシアチブ(EII) SBU長
北島 誠二
インフラ事業部門で事業投資を担当後、ロンドンで欧州インフラ事業部門を統括。帰国後、EIIのサブリーダー兼企画・戦略部長として同組織の立ち上げに従事。欧州・米州・中国での駐在・ビジネス経験も長く、グローバルな視野から事業開発・組織運営に取り組む。2024年4月から現職。
従来の部門の枠組みを超え、社内の経営資源を集結
EII設立の背景を教えてください。
住商では従来から脱炭素・循環型エネルギーシステムの構築によるカーボンニュートラル社会の実現を目指し、各部門(現在の各営業グループ)で取り組んできました。しかしこの分野は共通の課題も多く、個別の取り組みでは効率が悪い。そのような判断のもと、従来の枠組みを超え、社内の専門的な知財や人財などの経営資源を戦略的に投下し、社会のカーボンニュートラル化に資する新規ビジネスを創出するとともに、住商の新たな収益の柱を生み出す組織として2021年4月にEIIが設立されました。
EII設立にあたっては、二つのこだわりがありました。一つは、完全な営業組織としてつくること。よくありがちなタスクフォースや組織横断サポート組織という形にするのではなく、「必ずここでビジネスをつくっていくんだ」という決意のもと、他の部門と同じような営業組織にしました。もう一つは、自分たちで新規ビジネスを開発するだけではなく、横串機能を持ち、他の部門の課題も一緒に解決しビジネスを生み出していくということ。それを体現するためにわざわざ会社の規則を変えて、あえて「部門」ではなく「イニシアチブ」という名前にしました。
新規ビジネスを創出へ。社外連携やルールメイキングにおける住商の強み
EIIではこれまでどのような新規ビジネスが生まれていますか?
例えば、イオンモールの駐車場に太陽光パネルを搭載した簡易屋根(ソーラーカーポート)を設置する事業があります。この取り組みは、これまで屋上にしか設置できなかった太陽光パネルを駐車場に設置することで、大幅に設置スペースが拡大し脱炭素化が促進されます。加えて、駐車場に屋根を設置することで雨の日や真夏の来客が増えるといった付加価値をもたらしていることや、多数の店舗への大規模な導入でコスト低減を実現させることが、顧客であるイオンモールさまからも評価され、26年1月末時点で9店舗に導入され、今後もさらに拡大予定です。太陽光発電設備の設置は昔からあるシンプルなビジネスですが、お客さまのニーズをしっかり汲み取りながら知恵を絞り、新たなモデルをつくることができているのは、EIIだからこそだと思います。
フュージョン(核融合)エネルギーの社会実装にも挑戦していますね。
22年に米国のベンチャー企業に投資するなど、国内外の企業と連携しながら、フュージョン(核融合)エネルギー(※)のサプライチェーン確立と発電の商用プラント化の実現を目指しています。フュージョンエネルギーは、核分裂の連鎖反応を伴う原子力発電とは全く別の技術。もしこの技術が本当に確立されれば、まさにゲームチェンジャーと言える、世界のエネルギーの大きな転換点になるのではないかと期待されています。実用化までは50年以上かかると言われてきましたが、欧米を中心とした政府の積極的なサポートに加え、大規模な民間資金の流入で2030年代にもしかしたら実用化の糸口が見えてくるのではという期待が生まれています。
また、フュージョンエネルギーは、その開発過程でさまざまな派生技術が出てくるということも分かってきました。私たちは、将来的なフュージョンエネルギー発電を目指しながらも、ここ数年のうちにそういった派生技術で収益化が図れる分野をいくつか特定し始めており、短中期でのビジネス化も視野に入れています。一般社団法人フュージョンエネルギー産業協議会(J-Fusion)では、バリューチェーンを俯瞰できるような企業にもヘッドに入ってほしいという政府からの依頼を受けて、私が副会長を務めていますね。
※ 水素などの軽い原子核同士を融合させ、ヘリウムのような別の少し大きな原子核となる際に、大量のエネルギーを放出する反応をフュージョン反応という。熱エネルギーを用いた発電技術は、温室効果ガスを排出せず、燃料供給も安定していることから、原子力や火力に代わる基幹エネルギー源として期待されている。
収益化まで異なる時間軸を持つ、多様な新規ビジネスを創出するうえで強みとなっていることは何でしょうか?
新規ビジネスを創出するうえでは、社外パートナーや公共機関などとの連携が不可欠です。そんな中、「0から1」の新規ビジネスの立ち上げではもちろん、できあがったビジネスモデルを横展開するうえでも、各SBUのネットワークが役立っています。マーケットインの視点で各SBUの持つ顧客ニーズの吸い上げ、各産業の置かれている気候変動対策に対するスタンスや困りごとなど、全ては現場から生まれてくるもので、さまざまなセクターに刺さっている住商の総合力をどこまで生かせるかが鍵になってきます。
また、新規ビジネス開発の種となる新技術へのアクセスにおいても、総合商社のネットワークを活用しています。EIIのインキュベーションチームでは国内外にある住商グループのCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)とも連携し、将来、ゲームチェンジャーになりそうな先端技術を持つイノベーティブなスタートアップやベンチャー企業には早い段階からアンテナを張っています。また、そういった情報を基に関係しそうなSBUに展開しビジネス化の可能性を一緒に追求しています。
新規ビジネスや新産業の創出ではルールメイキングも重要ですね。
とりわけ気候変動や脱炭素が関連する分野では制度や仕組みが未整備なものが多く、新規ビジネスを創出するためには規制の強化や緩和など、ルールや法律を変える必要もあります。例えば、蓄電池事業の立ち上げ期には、蓄電時・放電時の両方で託送料(※)が生じ、二重課金の状態が普及の妨げとなっていました。私どもはこの負担を減らすことが蓄電池事業の普及につながり、電力会社にとっても長期的にはメリットがあることを、経産省をはじめとする省庁に粘り強く説明し、実現に導きました。
ルールメイクはそれによって利益を得る人がいれば、損をする人もいます。自社の利益だけを考えていてはまとまりません。究極的に何を軸にするかというと、社会全体にとって最も利益があるのはどのようなかたちなのかという視点です。これは住友の事業精神の一つである「自利利他公私一如(じりりたこうしいちにょ)」にも通ずるところがあります。新しい市場にこれから参加する人が適正な利益を得られる仕組みをつくり、補助金などに頼らなくても自走できる、サステナブルな状態へと移行していく。その過程をつくることも私たちの一つの役割だと考えています。
※ 送配電網の利用料金のこと。小売電気事業者から一般送配電事業者に対して電力量に応じて支払われる。
蓄電池事業について、詳しくはこちら
【超図解】地球温暖化対策の切り札?世界に広がる巨大な蓄電池 | 住友商事
「今がまさに勝負の時」。営業現場の知見×脱炭素の発想で総合力を発揮
EIIの特徴である組織間連携は具体的にどのように進めていますか?
テーマごとに社内外の組織を連携させた「組織間連携プラットフォーム」を組成し、仮説・実証を繰り返し、具体的にカーボンクレジット、CCUS、バイオエネルギーなどのビジネスを追求する営業組織が誕生しています。
現在、組織間連携プラットフォームで取り組んでいるテーマはさまざまありますが、その一つに不動産のカーボンニュートラル化があります。不動産や鉄鋼など素材関連を扱うSBUと連携し、ビルの建設時に使う鉄骨やセメントといった建材の脱炭素化や、「AIスマート空調」というAIを使って空調運転を最適化し、オペレーションの脱炭素化・省エネを図るサービスのビジネス化に向けて活発に活動しています。
組織間連携を活性化させるためにした工夫はありますか?
商社は扱っている産業や商材が多岐にわたるだけに業務が細分化し、どうしても縦割りになりがちな面があります。そんな中、EIIが営業組織である以上、案件ができた時にどこに数字を付けるかといった議論を避けるため、設立時から他の営業グループと一緒に取り組んだ案件は、どのグループの成果であっても、全てダブルカウントして社員の評価につなげることで、縦割りの弊害を避けてEIIメンバーのモチベーションも維持できるようにしています。これは設立時のEIIリーダーだった現社長の上野の発案でこだわった点です。こうした工夫によって、組織間連携を通じた住商としての総合力が発揮できるようなプラットフォームや、より差別化の図れるイノベーティブなビジネスの創出を目指していきたいと思っています。
組織間連携プラットフォームの今後の構想はいかがですか?
組織間連携プラットフォームが力を発揮できるのは、住商にある43のSBUが持つさまざまな知見や顧客のネットワークがあるからこそ。「そこに脱炭素的な発想をプラスすると、次に何が起きるんだろう」という意識は全社的にもだいぶ高まってきたと思いますが、もっともっと掘り起こしていって、会社としての総合力が発揮できるようなプラットフォームをこれからも立ち上げていきたいと思っています。また、EIIの名前にあるイノベーションの種をしっかりと発掘し組織間連携プラットフォームでより差別化の図れるイノベーティブなビジネスの創出を目指していきたいですね。
最後にEIIとしての今後の抱負を聞かせてください。
EIIの設立から4年半が経ち、脱炭素への風向きも、横連携への意識もかなり変わってきましたが、中長期目線での気候変動問題に対処していかなければならないという事実は不変です。外的環境の変化にうまく対応しながら時間軸やリソース配分については迅速に調整を行いながらも、中長期目線での目標はぶらさずに進めていきたいと思っています。住商は今中期経営計画で、「GXで加速する新たな成長」を掲げていますが、その実現に向けて今がまさに勝負の時。幅広いテーマを扱う事業の中には、既に黒字のものもあれば、収益化までに時間を要するものもありますが、現時点でできることや課題を整理し、フェイズごとにやることを明確にしながら社会のカーボンニュートラル化に貢献していきたいと考えています。