1. TOP 
  2.  Enriching+ 
  3.  水素の可能性、未来へ 掛け算で水素のポテンシャルを引き出せ

2024.3.11

Business

水素の可能性、未来へ 掛け算で水素のポテンシャルを引き出せ

世界がカーボンニュートラルを目指す上で水素は不可欠なソリューションの一つだ。2015年にスタートした住友商事の水素ビジネスは、いまグローバルに広がり、地産地消、大規模サプライチェーンの構築のほか、独自のビジネスモデルも打ち出している。その基本戦略と今後の展望を聞いた。

撮影場所:MIRAI LAB PALETTE
多様な分野のパートナーと新たな価値の創造に向けたコラボレーションを推進する会員制のオープンイノベーションラボ

この記事は2022年4月に公開された内容です

  • エネルギーイノベーション・イニシアチブ(EII) / 水素事業部長

    市川 善彦

    基礎化学品・エレクトロニクス本部などを経て2020年10月の水素事業部発足と同時に現職。多様なバックグラウンドを持つ才能豊かなメンバーの力を結集して新たな事業領域の開拓に取り組む。

  • エネルギーイノベーション・イニシアチブ(EII) / 水素事業部

    宮田 和幸


    鋼管本部、シンガポール・マレーシア駐在を経て、水素事業部に配属。日本国内・アジア地域の水素事業開発および、マレーシア・サラワク案件のプロジェクトマネジメントを担当。

  • エネルギーイノベーション・イニシアチブ(EII) / 水素事業部

    澤村 なつみ

    化学品営業部にて、海外事業会社の管理業務および関連トレードへ従事した後、水素事業部に配属。福島県浪江町における駐在員として、現地の課題や可能性を感じながら事業構築に挑戦中。

地産地消モデルの横展開と
大規模サプライチェーンの構築

住友商事における水素ビジネスの基本戦略をお話しください。

市川 水素は脱炭素の手段の一つにすぎませんが、ほかの代替エネルギーと比較して、極めてポテンシャルの高いエネルギーだと考えています。長期貯蔵や、長距離輸送も可能で、高温燃焼プロセスにも利用ができ、炭素と結合させてカーボンリサイクルを促進することもできる――水素のこういった特徴を最大限生かす必要があります。

水素を利活用するにあたっての最大のボトルネックは輸送コストです。それを考えると、水素の製造地で利用する地産地消のビジネスモデルが最も効率がよいのですが、地域によって水素製造能力と需要は必ずしも一致しません。需給バランスの最適化を図るため、グローバルな水素サプライチェーンの構築にも力を入れています。いずれの場合も重要なのは、燃料電池自動車での利用にとどまらず、都市ガスへの混入、製鉄のプロセスの脱炭素化での利用、回収した二酸化炭素(CO2)を利用するためのメタネーション(※)など、水素の大規模な需要につなげていくことであり、これが全ての起点となります。潜在需要家のいる地域に水素製造能力がなければ、最適なサプライソースを開発し、サプライチェーンを構築するという戦略です。

※メタネーション:二酸化炭素と水素を反応させて天然ガスの主成分であるメタンを合成する方法

日本では海外からの水素の大規模輸入が前提になりますが、供給側と需要側だけでなく、受け入れ基地がないと水素を輸入することができません。いま、当社が参画する中部圏水素利用協議会では受け入れ配送事業の検討を進めています。

住友商事が推進中の主な水素関連プロジェクト

  • 【地産地消】日本 水素を軸にした街づくり(福島県浪江町)
  • 【関所型&サービスプラットフォーム】日本 水素受け入れ配送事業・水素利活用促進(中部圏水素利用協議会)
  • 【大規模サプライチェーン】豪州 ブルー水素製造(HESCプロジェクト/ビクトリア州)
  • 【地産地消】豪州 太陽光からの水素製造(クイーンズランド州グラッドストン)
  • 【大規模サプライチェーン】マレーシア 水力からの水素製造(サラワク州)
  • 【関所型&サービスプラットフォーム】アンモニア バンカリングの共同スタディ
  • 【地産地消】オマーン フレアガスを有効利用した改質水素製造
  • 【関所型&サービスプラットフォーム】英国 水電解装置の業務提携(ITM Power社)
  • 【新技術への投資】英国 水素分野新技術への投資(AP Ventures社)
  • 【関所型&サービスプラットフォーム】米国 水素デリバリー分野での業務提携(OneH2社)
  • 【新技術への投資】米国 光触媒新技術への投資(Syzygy社)

コストブレークスルーにつながる新技術への投資やサービスプラットフォーム事業などと組み合わせながら、それぞれの地域・用途ごとに異なる需要特性に即した最適なサプライチェーンの構築を目指す。

豊富な水力発電を生かした
CO2フリーのグリーン水素を供給

新技術導入やグローバル事業の現状はいかがですか。

宮田 物流の領域に水素エネルギーをあまねく普及させるためには、水素ステーションの建設が鍵になりますが、現状は建設費や維持費の負担が課題です。特に小口の需要家に向けては、簡易型ディスペンサーによる可動式水素ステーションという考え方が重要で、当社はその実績を持つ米国企業に資本参画しています。ほかにも、天然ガスの光触媒による改質で水素を製造する技術や、次世代の水電解技術をもつ海外ベンチャーなどに投資しています。さらには、スマートテクノロジーを活用したエネルギーマネジメント技術も不可欠になるでしょう。

それらの技術を一つ一つ検証しながら、商社に蓄積されたビジネスの目利きのノウハウを生かし、水素サービス・プラットフォームという全く新しいビジネスモデルに育て、それを各地で展開していきます。

海外では、豪州における太陽光からの水素製造やブルー水素大規模サプライチェーンの構築などのプロジェクトが進行中です。私が直接検討に関わっているものでは、マレーシア・サラワク州での水力発電由来の水素製造プロジェクトがあります。豊富な水力発電を用いて、数万トン規模のCO2フリーのグリーン水素を製造し、一部をマレーシア国内で消費すると同時に、効率的な水素の輸送形態の一つであるメチルシクロヘキサンに変換し、ケミカル船により日本などの需要地に海上輸送するというものです。

水力発電からの水素製造
~マレーシア・サラワク州~

サラワク州の豊富で安価な水力発電を活用したグリーン水素製造プロジェクト。年間数千トンの地産地消と年間数万トン規模の輸出を目指す。

マレーシア・サラワク州の周辺地図バクンダム(サラワク州既存ダムの一例)の写真

「ゼロカーボンシティ浪江町」
水素を活用した街づくりを支援

国内でも、福島県浪江町における水素を利用した街づくりというユニークなプロジェクトがありますね。

澤村2011年に深刻な震災被害を受け、一時は全町民が避難せざるをえなかった浪江町ですが、いま水素を軸に据えた新しい街づくり「浪江水素タウン構想」が進んでいます。私たちは町と連携協定を結び、住民の方に対する水素普及啓発イベント開催やマルチ水素ステーション設置に関する事業化調査、JR浪江駅前の再生エネルギーを活用した再整備事業などに取り組んでいます。建物や都市空間のデザインでは建築家の隈研吾氏、東京藝術大学COI特任教授の伊東順二氏とも連携しています。

水素を活用した街づくり支援
~福島県浪江町~

水素を活用し持続可能でにぎわいのある街づくりを目指す浪江町と住友商事。その一環として昨年夏、トヨタ自動車などの協力のもと、住民の方に水素をより身近に感じてもらうイベント「第1回なみえ水素まつり」が開催された。

画像

イベントポスター

写真写真写真

左:上:水素燃料電池で走るカートの体験乗車 中央:水素が発生する仕組みを学ぶ水素燃料電池教室 右:下:移動式発電・給電システム「Moving e」の展示(提供 浪江町)

澤村 これからの企業は経済的価値の追求だけでなく、事業を通して環境価値や社会価値を創出していく必要があります。また、インフラやハードを導入するだけでなく、住む人のライフスタイルに根差したエネルギーの利活用といった視点も重要です。社内他部署とも連携し、浪江町が現在検討中の産官学交流拠点作りや、交流・関係・定住人口の拡大に向けた施策等、ソフト面からも支援していきます。

需要開拓、事業構築に生かす
商社のノウハウ

総じて、水素ビジネスにおける住友商事の強みはどこにあるとお考えですか。

市川 2050年のカーボンニュートラル化の達成と持続可能なエネルギーサイクルの実現は企業としての使命であり、全社を挙げて取り組んでいるところです。水素は単体ではなく、何かと掛け合わせてシナジーを発揮することで大きなビジネス価値を生む素材。事業開拓にあたっては、これまで国内外で展開してきた多様な事業の経験や、さまざまなステークホルダーと培ってきたビジネスの関係性を最大限生かせるのが、商社としての最大の強みだと思います。

当社の水素関連ビジネスは2015年から始まり、水素事業部は2020年に発足しました。これまで、豪州における地産地消事業、マレーシアからの大規模サプライチェーン構築、中部圏受け入れ配送事業など、水素市場を切り開くための取り組みを率先して進めて来た自負があります。

住友商事の水素戦略

〜2025年:地産地消モデルの構築、〜2030年:地産地消の横展開&大型バリューチェーン(VC)の構築、2030年以降:地産地消の面展開&大型VCを複数地域に構築

市川 2021年4月には、カーボンニュートラル社会の実現に向け、全社最適で取り組む営業組織としてエネルギーイノベーション・イニシアチブ(EII)が発足し、水素事業部はEIIの一つのビジネスラインとして位置づけられました。従来にない掛け算によるシナジー創出こそがEIIの新たなビジネスモデルです。

私たち住友商事は、取引先、地域社会などさまざまなステークホルダーとの対話や取り組みを通じて新たな価値を創造していきます。

Recommend

編集部のおすすめ

2024.7.2

Business

議論の段階は終わった。どう実現する? 住友商事が取り組む「本気の脱炭素」

2024.3.11

Business

持続可能な森林ビジネス 全社横断「新部門」始動 森林資源を未来へ紡ぐ

2024.3.11

Business

EV用バッテリーをカスケード利用 大型蓄電ステーションで脱炭素・循環型社会の実現へ

2024.1.19

Culture

入社後1年で新会社設立。「Hakobune」が創出する新たなEVビジネスモデル

2024.1.10

Business

旅行はもっとエコになる。旅先での衣料シェアリング「Any Wear, Anywhere」とは

2023.11.14

Business

自動車部品メーカー・キリウのカーボンニュートラルへの挑戦

2023.11.9

Business

インドネシアで地熱発電に挑戦!住友商事が描く、サステナブルな未来とは

2023.10.26

Business

グリーン電力を全国へ。脱炭素を実現する、新たな電力ビジネスとは

Ranking

人気記事ランキング

2024.9.2

Culture

初期配属先確約のWILL選考とは?新卒採用担当がお答えします【内定者ES一部公開!】

2024.8.20

Culture

人とペットのQOL向上を目指して。新卒入社1年半でつかんだ手応えとは

2024.1.29

Culture

「体育会系ばかり?」「堅実すぎる?」 よく聞かれる10の質問に新卒採用担当がお答えします(前編)

2024.8.15

Culture

「TOMODACHI住友商事奨学金プログラム」設立11年目 元奨学生×メンター社員対談「留学が終わってからも、私の人生のメンターです」

2024.8.23

Business

航空機のリサイクル「アフターマーケットビジネス」に挑み続けるプロフェッショナルの舞台裏

  • twitter
  • facebook
  • facebook