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2023.11.14

自動車部品メーカー・キリウのカーボンニュートラルへの挑戦

住友商事グループのビジネスで注目を集めているビジネスを、ピックアップしてご紹介します。
住友商事 100%出資の自動車部品メーカー・キリウが、カーボンニュートラル化(以下、CN 化)に向けた本社工場の主要設備竣工式を迎えました。生産設備の電炉化で二酸化炭素排出量を減らしつつ、製品の競争優位性を追求するものづくり戦略について、2023年4月に同社初の住友商事出身社長となった武岡一満と自動車製造事業第一部の畑中孝介に、事業と今後の展望について聞きました。

  • キリウ
    代表取締役社長

    武岡 一満

    1991年入社。96年からタイ住友商事、2010年から米州住友商事にそれぞれ5年半駐在、その後自動車部品メーカーへの出向、輸送機・建機事業部門 自動車製造事業第二部長・モビリティ事業第一本部長補佐を経て23年4月よりキリウ社長に就任。

  • 自動車製造事業第一部

    畑中 孝介

    2013年入社。16年から上海住友商事に5年間駐在。21年11月よりキリウの主管業務に従事し、同事業のCN化検討の主担当として、EII(エネルギーイノベーション・イニシアチブ)や金属事業部門・コーポレート関係者との横連携を通じた取り組みをリード。

「一気生産」方式で業界屈指の開発力と提案力を実現

まず、キリウの事業概要について教えてください。

武岡 キリウは自動車用ブレーキ部品を製造する住友商事100%子会社の自動車部品メーカーで、主力製品のブレーキディスクは国内シェア25%、グローバルシェア15%と、世界トップクラスの市場占有率を誇ります。会社の設立は1906年で、織物準備機械の製造販売などを経て60年代から自動車関連部品を製造しています。

畑中 住友商事は2004年7月にキリウへ出資参画し、自動車製造分野への取り組みを強化していきました。当社グループのグローバルネットワークや顧客基盤、海外事業の経営経験を活かし、タイやメキシコ、インドなどへ海外拠点の拡大を進めてきました。現在、国内4カ所・海外12カ所で事業を展開しており、キリウの高品質な製品は国内外の自動車メーカーからも高い評価を受けています。2019年には同業の浅間技研工業の株式も取得しました。

武岡 キリウのものづくりを支えるのは、「一気生産」と呼ばれる生産システムです。金型・生産設備の内製を含め、開発・設計から生産、出荷までを自社内で完結することで無駄を徹底的に排除し、業界屈指の生産効率と、製品開発力・提案力を実現しています。CASE(※1)の進展、特にEVの普及が急速に進む中でも、ブレーキが「走る」「曲がる」「止まる」を司る基幹部品・重要保安部品であることに変わりはありません。人の命を守る「重要保安部品」の生産を通じて安全・安心・快適なモビリティ社会の実現をこれからも担っていきます。

※1 「Connected=通信機能」「Autonomous=自動化」「Share=シェアリング」「Electrification=電動化」の頭文字を並べたもの。クルマ・モビリティ社会の概念を大きく変えることが期待される、新領域での技術革新。

鋳造設備を刷新、品質向上とCN化の両輪で差別化を図る

工場のCN化はどのように進めたのでしょうか。

畑中 2019年12月、キリウ本社工場の鋳造工場を刷新する投資判断を行いました。コークス(※2)を熱源に鉄スクラップ(※3)を熔解する「キューポラ」は稼働開始から50年が経過していましたので、設備を刷新することでお客さまへの安定供給を守るとともに、環境負荷の低減、製造工程の自動化による生産性向上やコスト競争力強化を企図したものです。このほど竣工式を行った新工場は、電気エネルギーを熱源とする「電気炉」で、CO2排出量を従来比30%(住友商事グループの年間CO2排出量の約0.6%に相当する約10,000トン)減らすことができます。

武岡 自動車メーカー各社も部品ごとのGHG(温室効果ガス)排出量目標を設定したり、部品メーカーにGHG排出量削減目標やアクションプランの提出を求めたりと、業界全体としてCN化は待ったなしの状況です。キリウも独自のCN策が必要だと考え、住友商事とともにロードマップを策定しました。先陣を切ってCN化を実現することによって製品に付加価値を付け、競争優位性を得ようという狙いです。キリウだけでは実現できない課題に対しても、住友商事とともに知恵を絞り、グループ企業を含めたさまざまなリソースを活用する方策を検討しています。キューポラから電気炉への入れ替えの次は、電気炉で利用する大量の電力を再生可能エネルギー由来の電力に置き換えていくことを計画しており、住友商事グループのリソースを活用すべく、主管部の皆さんとも常に相談しています。

畑中 グループ内連携の具体例としては、省エネ領域で住商マシネックスと省エネ設備の導入についてご相談したり、再エネ領域ではEII、サミットエナジー・住友三井ファイナンス&リースの皆さんと、オンサイト・オフサイトPPA(※4)や、非化石証書・REC(Renewable Energy Certificate)(※5) の調達についてご相談したりするなど、グループ企業の連携によるCN化の取り組みでキリウを支援しています。

※2 石炭を蒸し焼きにして、炭素部分だけを残した燃料のこと
※3 製鉄や鉄鋼製品製造の過程、また鉄製品の破損、廃棄等によって生じる鉄くずのこと
※4 Power Purchase Agreement (電力購入契約)の略称
オンサイトPPA:発電事業者が、需要家の建物屋根に太陽光発電設備を設置し、所有・維持管理をした上で、発電した電気を需要 家に供給する仕組み
オフサイトPPA:発電事業者が発電した電力を特定の需要家に供給することを約束し、対象となる発電設備が電力需要施設と離れた 場所に設置された場合に、小売電気事業者を介してその需要家に電力を供給する契約方式
※5 非化石電源・再生可能エネルギーで発電された電気が持つ「非化石価値・再エネ価値」 を取り出し、証書として売買する制度

マザー工場としての機能を強化

新たに導入された設備で特に重要なものはありますか。

武岡 新商品の開発や製造技術の開発機能を担う本社工場に電気炉が導入されることは、「マザー工場」としての機能を強化することにもつながります。製品納入先の自動車メーカーも、新車種を立ち上げる際は全世界同時立ち上げとなるため、我々も本社工場で開発した技術をグローバルな生産体制に即座に組み込むことができると、お客さまに評価されるポイントになります。日本のマザー工場で一つのものが作れるようになると、同じ設備を導入している海外工場でも同じ品質のものが同時に作れるようになる。そんなものづくりの形を理想としています。

電気炉の導入は、品質の安定・向上や、現場で働く従業員の作業環境改善にもメリットがあります。キューポラでは熱源となるコークスからにじみ出る炭素量に合わせて、仕上がり時の製品を均質化するために炭素含有量を調整する必要がありました。このため、品質の均質化が作業員の勘・コツに委ねられるところもありましたが、電気炉の導入によって一層の均質化を実現できます。また、工程の自動化を進めることで、騒音や粉塵といった作業環境を改善し、重筋作業や重大事故の発生率を減らすこともできますし、少子化や人口減少による人材確保の課題への対応も可能になります。

新体制で目指す「チャレンジ精神」と「チーム経営」

新社長として会社をどのように経営していきたいと考えていますか。

武岡 4月に新体制を迎え、従業員の皆さんには「基本に立ち返ることと果敢にチャレンジすること」を呼びかけました。ものづくりの基本に立ち返り、これまで通りSQCD(Safe=安全、Quality=品質、Cost=コスト競争力、Delivery=お客さまへの納入責任)において真面目な仕事を続けてほしいと考えています。自動車業界は100年に一度の大変革期を迎え、今後CN化にも対応する必要があり、これまでの当たり前を疑って新たなことにチャレンジしてもらうため「チャレンジによる失敗は許容する」とも伝えています。

一方で、ここ数年はコロナや半導体不足により自動車の生産台数が停滞しており、キリウとしても受注数量が大幅に減少しています。原材料費や電気代・人件費の上昇も相まって、事業環境は厳しい状況が続いています。経営陣に対しては、「チーム経営」というメッセージを伝えています。会議でも経営陣・従業員の皆さんから自由闊達な意見を出してもらえるように変わってきました。まさに私が目指していきたい「チーム経営」の土台ができつつあるという手応えを感じています。

キリウ・住友商事一体で進めるCNものづくり

これからの展望と目指す姿を教えてください。

畑中 先ほど武岡さんから説明があったように、自動車業界全体としてCN化が求められていますが、キリウには業界をリードするポジションを取ってほしいと思っていますし、総合商社が株主であるキリウだからこそできることがあるはずです。CNは営業戦略・投資戦略の大前提となっていますし、例えば、鉄鋼や化学品業界でゼロカーボンマテリアルが開発されているように、我々も「ゼロカーボンブレーキディスク」を作りたい、と考えています。このためにキリウが持つ製造・開発の知見と、当社グループが持つ知見をかけ合わせることで、新たな価値・変革を作るチャレンジをしていきます。

武岡 電気自動車へのシフトや、自動運転化、新たなモビリティサービスの開発競争も熾烈(しれつ)な中、自動車の基本的な機能を構成するブレーキの必要性は今後も変わらないどころか、大型のバッテリーが搭載され重量が増す電気自動車のブレーキには、より強い制動力が必要とされるため部品の大型化や、一方では車体を軽くするために部品の軽量化も求められます。キリウのものづくり精神と、住友商事の総合力を掛け合わせ、激動の自動車産業の変革に対応していきたいと考えています。

私にとっての“Enriching lives and the world”とは?

  • 武岡 一満

    キリウが作っているものは「重要保安部品」です。当社の部品を使った車に乗ってくださる方々に安全・安心・快適性をお届けすること、そしてキリウ事業を通じて全世界6,000人以上の従業員およびそのご家族が幸せになれることが、私にとってのEnriching lives and the worldです。

  • 畑中 孝介

    クルマはいつも自分のそばにありました。クルマの中で過ごす両親・家族・友だちとの時間が好きです。これからもブレーキ部品から安心・安全なドライブを守る。これからモータリゼーションを迎える国・地域にクルマのある生活を届ける。自動運転でもっと快適な車内空間を実現する。グローバルの住友商事グループに輪を拡げながらこれらを実現していくこと。これが私にとってのEnriching lives and the worldです。

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