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2024.7.2
Business
議論の段階は終わった。どう実現する? 住友商事が取り組む「本気の脱炭素」
地球規模での取り組みが不可避である気候変動問題。環境負荷低減と経済成長の両立が必要となるなかで、多くの企業が次世代事業の創出を迫られている。
今回ご紹介するのは住友商事の取り組み。機械や不動産、メディアや金属、社会インフラ、エネルギーなどと多岐にわたる事業を展開するこの総合商社は、どのようにカーボンニュートラル社会を目指しているのだろうか。
この記事は2023年3月に公開された内容です
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エネルギーイノベーション・イニシアチブ(EII)
カーボンソリューションチーム 企画・戦略部 Design チーム 主任高橋ルイ
2017 年に入社し、サステナビリティ推進部へ配属。2021 年より EII へ異動し、カーボンソリューションチーム及び企画・戦略部を兼任。カーボンクレジットビジネスに関する企画・戦略立案及びトレードを担当。
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デジタル事業本部 デジタルソリューション事業第二部
カーボン・新エネルギーチーム 部長代理三澤卓司
入社以来、一貫してエネルギー畑を歩む。石油製品のトレード担当を務め、香港・ドバイ駐在、経済産業省出向を経て、2020 年より現事業部にて脱炭素マネジメントビジネス(GX コンシェルジュ)の営業ヘッドを務める。
気候変動は待ったなし。企業は脱炭素に舵切りを
地球環境にもっとも負担をかけているものは 石油、ガス、石炭などの化石燃料といわれている。石油やガスといったエネルギーの開発によって私たちの暮らしは便利になり、企業も成長を続けることができた。しかし、世界的な脱炭素社会への流れを受け、とくにエネルギー開発に取り組んできた企業や事業は大きな方向転換を余儀なくされている。
「もちろん住友商事も例外ではありません」と話すのは、入社以来、一途にエネルギー畑を歩み、現在は脱炭素マネジメントビジネスに携わる三澤卓司さんだ。
「企業がそれほど大きな方向転換を決断するぐらい、気候変動は“待ったなし”ということです。その一方で、人々に安定したエネルギーを供給することも住友商事のミッション。相反する 2 つを天秤にかけるのではなく、どちらも実現させていくための打ち手を考えていかなければなりません」(三澤さん)
2021 年 4 月、住友商事は「エネルギーイノベーション・イニシアチブ」(Energy Innovation Initiative、以下「EII」)を新設した。以下 3 つを重点分野とし、かねてより住友商事グループで推進していたカーボンニュートラル化をより加速させるためだ。
EIIの3つの重点分野
1.カーボンフリーエネルギーの開発・展開(水素・アンモニアの利活用事業などの大規模供給起点型)
2. 新たな電力・エネルギーサービスの拡大(大型蓄電事業や電力エネルギープラットフォーム事業などの地産地消型)
3. CO2の吸収・固定・利活用(森林事業、次世代バイオエネルギー開発、CCUS、カーボンクレジット関連事業など)
※CCUS:「Carbon Capture, Utilization and Storage」の略。排出されるCO2の回収、利用、貯留による温室効果ガス排出量の削減を図る技術
組織の枠を越えて、全社で取り組む。各部門の知見を掛け合わせ戦略をドライブ
イニシアチブの名が示す通り、脱炭素を主導するために各事業における意思決定の権限をこのEIIに持たせたというのが興味深い。さらに特徴的なのは、EIIは全社横断の最適化された営業組織であること。
EIIに所属する高橋ルイさんは、全社横断の組織づくりについて「気候変動や脱炭素の課題はどの事業にも関わるテーマであり、縦割りの事業部に横串を刺す必要があった。そうすることにより、それぞれの事業部門が蓄積してきた知見や取り組み方、強みを掛け合わせて戦略をドライブさせることができる」と話す。
そして2022年4月、EIIの直下チームとして新たに「カーボンソリューションチーム」が発足した。EII同様、全社を横断してカーボンクレジットビジネスのプロジェクト推進・トレードを担うことを目的としている。
「カーボンクレジット(排出権取引)」とは、広義では「温室効果ガスの削減・吸収量を、企業間で売買できるようにする仕組み」を指す。
脱炭素プロジェクトのなかには、マネタイズの観点から事業開発が困難なものがある一方で、カーボンクレジット化し、その販売収入によって、プロジェクトの開発・推進ができるものもある。また「脱炭素に貢献したいけれど、事業創出ができない、人材や技術が追いつかない」といった企業は、カーボンクレジットを購入することで、脱炭素プロジェクトを後押しすることができる。
「カーボンニュートラルを目指すなかで、カーボンクレジットの活用は非常に重要な手段となり得ます。しかし、カーボンクレジットの市場はまだ未成熟で移ろいやすく、取引や活用方法についてもグリーンウォッシュ(※2)とならないように議論が必要です。 今後、企業がカーボンクレジットをより活用しやすくなるよう、 引き続き知見を集めながら、カーボンクレジットのルールメイキングにも関与していきたいと考えています」(高橋さん)
※2 グリーンウォッシュ:地球環境に配慮されていると誤解を与えかねない商品やサービス
総合商社の強みを生かし、クライアントのニーズに寄り添う
カーボンニュートラルを目指す企業は多いが、選択肢はさまざま。そのため、住友商事は企業の規模や事業内容に応じてCO2削減の方法を提案する「脱炭素コンサルティング」及び「削減ソリューション提供」もおこなっている。 タッグを組むのは、高橋さんが在籍する「カーボンソリューションチーム」と三澤さん率いる「GXコンシェルジュ」だ。
この2つの連携を、三澤さんは「健康診断」に置き換えて説明する。診断で全身をくまなくチェックするように、まずは会社の事業や規模、温室効果ガスの排出量などを洗い出し、可視化するのがコンサルティングの第一歩。
「少し体重を減らしたほうがいい」となれば医師や管理栄養士などが食事や運動、生活習慣などをアドバイスするように、省エネ、燃料転換、設備の電化、太陽光発電といったさまざまな角度からその企業に合ったCO2削減ソリューションを提案していく。それでも「体重を落とせなかった」ときに解決策となるのが「カーボンクレジット」だ。
「GXコンシェルジュが入口で、カーボンソリューションチームが出口と考えるとわかりやすいかもしれません」と高橋さん。実際、カーボンニュートラル化に向けての課題解決の糸口を探るために、「弊社のGXコンシェルジュの扉を叩く企業が増えている」と三澤さんは話す。
「たくさんのリストから、お客様の好みや予算に応じておすすめのレストランを勧めるコンシェルジュのように、我々もクライアントのニーズに沿ってメニューの拡充やサービス開発をしている段階。それは総合商社である我々の強みだと考えています」(三澤さん)
結果がすぐに出ることと、待つこと。2つの時間軸で取り組む
EIIが設立して丸2年。認知度も高まり、カーボンニュートラルについて社内外でさまざまな対話が生まれるようになったことを実感しているという。
しかしまだまだ課題も残る。カーボンニュートラル化へのリミットが迫るなか脱炭素を急速に進めていかなければならない一方で、新技術の実現には時間のかかるものも多い。「そこがもどかしいし、今は辛抱のときでもある」と高橋さん。
「すぐに取り組めることと、水素エネルギーの活用や核融合といった時間のかかるものという2つの時間軸で脱炭素を進めていくことが大切です。足元の取り組みを積み上げていくとともに、中長期的な道筋を示すことが、株主をはじめとするステークホルダーの信頼にもつながると考えています。しかし、今は種まきをするときでもある。辛抱強く取り組みを続けながら、刈り取れる日を迎えたいですね」(高橋さん)
また、2050年の目標までに「あと20数年あるとは考えないでほしい」と三澤さん。同時に「2050年問題は国や企業だけが取り組むべきものと思わないで」とも話す。
もうひとつ、国や企業の取り組みと同時に、個人の意識・行動の積み重ねという両軸で考えることも大切ということも知っていただきたいですね。私自身も電化製品のコンセントを差し込むたびに日本のエネルギーミックス(電源構成)が頭に浮かぶようになり、電力消費を意識しながら生活するようになりました。すべてが積み重ねですから」(三澤さん)
最後に、今後EIIが取り組みを続けるなかで大切にしたいことを高橋さんに聞いた。ひとつは「仲間づくり」だという。気候変動緩和や脱炭素は、1社の取り組みでできるものではない。国や企業の垣根を取り払い、 さまざまな企業や団体、人が手を取り合い、仲間となってカーボンニュートラルを目指すことが重要だと語る。
そしてもうひとつは、住友商事グループが総力をあげてカーボンニュートラルを進めていく一方で、カーボンソリューションチームやGXコンシェルジュは課題を抱えているクライアントの課題を解決し、企業や社会の取り組みを支えていく立場でありたいということ。
「今は歯を食いしばって種まきをし、地に足をつけながら脱炭素の実践に取り組まねばいけないとき。目標を達成したとき『住友商事グループと組めてよかった、頼ってよかった』とおっしゃっていただけたら何よりうれしいです。そして2050年の先も、ともに大きな絵を描いていきたいですね」(高橋さん)
撮影/山口雄太郎