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2024.3.11
Business
EV用バッテリーをカスケード利用 大型蓄電ステーションで脱炭素・循環型社会の実現へ
ゼロエミッション社会に向け、再生可能エネルギーを主力にしていく必要がある。一方で、再エネは発電の安定化に課題が残るのも事実だ。それをカバーするのが蓄電池。電気自動車(EV)で使われたバッテリーを再利用して大型の蓄電システムをつくり、まったく新しいエネルギーのインフラを構築するプロジェクトが住友商事で始まっている。
この記事は2022年8月に公開された内容です
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エネルギーイノベーション・イニシアチブ(EII) / ゼロエミッション・ソリューション事業部長
藤田 康弘
EVの時代を予感し2009年に4R事業を社内で起案。新事業推進本部、電力インフラ本部、社会インフラ本部を経て、2020年4月にゼロエミッション事業部を立ち上げ、現職。
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エネルギーイノベーション・イニシアチブ(EII) / ゼロエミッション・ソリューション事業部 大型蓄電事業チーム
和田 聡
鋼管・鋼材分野のトレードおよび事業開発、米国の事業会社でのトレイニーを経て、2021年4月から現職。日本国内における大型蓄電事業開発、および4R事業の管理業務を担当。
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エネルギーイノベーション・イニシアチブ(EII) / ゼロエミッション・ソリューション事業部 大型蓄電事業チーム
横田 安里
化学品のトレード業務に従事した後、商社だからこそできる、環境課題への多角的なアプローチを目指して現部署へ異動。浪江町や千歳市など、地域社会との協働体制構築を中心に手掛けている。
車載用蓄電池を活用した新しい
エネルギーサービスを全国に展開
脱炭素社会の実現のために蓄電池が果たす役割は重要です。住友商事のゼロエミッション・ソリューション事業部では、再生可能エネルギーの拡大に貢献し、ゼロエミッション社会を実現するために、蓄電池を活用した新しい事業を進めています。その基本戦略をお話しください。
藤田 従来の発電所に匹敵するメガワット級の容量をもつ大型蓄電システム「EVバッテリー・ステーション」の建設を進め、これを軸にした循環型のエネルギーサービス事業を全国各地に広げていくことが、当社の基本戦略です。
蓄電システムに使われるのはEV用に開発された高性能で安全性の高い蓄電池。EVの普及に伴って大量の蓄電池が使われるようになりますが、それを廃棄するのではなく回収・再利用します。さらに、新品の蓄電池も加えてEVバッテリー・ステーションとすることで定置型の大型蓄電設備を構築し、一つの発電所のように稼働させるのです。途中で容量が目減りした分は、蓄電池の追加・交換を順次行っていく、いわゆるカスケード利用を実現することができます。蓄電池のリユースは2010年に日産自動車と共同で設立したフォーアールエナジー(4Rエナジー)が担当し、私たちゼロエミッション・ソリューション事業部が、エネルギー活用のプラットフォームを準備します。
蓄電池を活用し
ゼロエミッションモデル構築へ
Challenge
再エネによる電力系統混雑の解消へ
国内で初めての大型蓄電事業へ挑戦(経済性の高いリユース蓄電池システム)
Connected
大型蓄電池アセット等を市場で価値化する
エネルギーサービス事業
Carbon management
地域にターンキーソリューションを提供する
地域エネルギーサービス事業(「ゼロエミ」と「経済性」の両立)
いつごろ、その事業を立ち上げていくのですか。
藤田 蓄電池はこれまで発電所や変電所などに併設されてきましたが、2022年春の電気事業法改正で、これまで曖昧だった一定規模以上の蓄電池からの放電が、「発電」と位置づけられるようになり、事業環境が大きく変わりました。
大規模な蓄電システムに蓄えた電気を直接、電力会社の系統(送電設備)に流すことも認められるようになり、私たちの事業の追い風になっています。電力会社ではなく、当社のような事業者が系統に接続した大型蓄電設備を運用し、エネルギーサービス事業を展開する環境が整ってきたのです。
2024年には、電力の需要と供給を一致させる「調整力」を取引する需給調整市場が本格的にスタートします。さらには、系統側の電力が余っていて価格が安い時は蓄電池に電気をためておき、電力不足で価格が高くなったら、蓄電池から供給するという新たな事業機会も生まれます。
事業者自らが大型蓄電事業を立ち上げ、それを全国に展開し、IT(情報技術)やAI(人工知能)で需給バランスをコントロールしながら、適切なタイミングで適切な場所に電気を供給する。さらに事業を地域社会に浸透させることで、ゼロエミッションと経済性を両立させながら地域活性化につなげる。こうした蓄電池を活用したエネルギーサービス・プラットフォームを、今後の事業の柱にしていこうと考えています。
人工島から始まった実証事業
甑島、浪江、そして北海道へ広がる
これまでも実証事業を各地で展開してきましたね。
横田 私たちの実証事業は2013年、大阪市の人工島・夢洲(ゆめしま)で始まりました。日産のEV車「リーフ」から回収した車載用電池を再利用した、世界初のコンテナ型蓄電池システムです。その実績を踏まえて2015年に鹿児島県薩摩川内市の甑島(こしきしま)で、蓄電システムを電力系統に接続する国内初の事業を立ち上げました。2022年8月現在、事業者の蓄電システムが系統に直結する事例は、国内でここが唯一。現地にはスタッフはおらず、東京本社からシステムを遠隔監視し、一度もトラブルなく安全に運用を継続しています。島民の方々と共に取り組んできたこの事業は、蓄電事業の制度化実現への可能性を大きく広げるものでした。
和田 福島県浪江町には、日本全国から回収した中古電池を集約し再生する、4Rエナジーのリユース工場があります。しかし、リユースの工程には電気が必要なため、電力会社から電力を購入することで、少なからず二酸化炭素(CO2)を排出していました。
当社はこの課題に着目し、蓄電システムの大規模化に向けた開発拠点を浪江町に設置することを決め、2021年にEVバッテリー・ステーションの第1号機を建設しました。
大型蓄電池システムの技術開発を完了し、2022年5月からは本格的に4Rエナジー浪江事業所へのエネルギーサービス提供を開始しています。同時に設置した屋根置き太陽光発電の余剰電力をため、それを夜間や雨天時などに使うことで、同事業所は、再生可能エネルギーのグリーン電力だけで成り立つ、完全な地産地消を実現しました。4Rエナジーを拠点としたリユース・大型蓄電の二次利用・リサイクルと順次つなげていくことで、循環型エネルギー社会のモデル地域にもなります。
横田 浪江町はゼロカーボンシティの推進を宣言し、再生可能エネルギーの導入に積極的に取り組んでいます。当社は浪江町と協力し合って、再生可能エネルギーと大型蓄電池の導入で実現する地産地消のエネルギーモデルを、さらに地域全域に広げていきたいと考えています。町と一緒に全国に向けて情報を発信しながら、一緒に取り組んでくれるパートナー探しをしていきたいですね。
現在は、北海道の千歳市にメガワット級の大型蓄電所を建設中とか。
和田 これまで開発してきたEVバッテリー・ステーションの技術の集大成です。出願中の特許技術や、一連の実証事業で培ってきたITやAIを生かした運用ノウハウなどもつぎ込んでいきます。広さおよそ7500㎡の土地に、甑島に比べて40倍を超える容量を持った巨大な蓄電基地を建設する計画で、すでに工事が始まっています。
北海道は、電力系統の大きさに比べて再生可能エネルギーの導入量が圧倒的に多く、電力の需要と供給を一致させる調整力が不足しています。建設中の「EVバッテリー・ステーション千歳」の完工後は、2024年度から本格的に始まる需給調整市場に参入し、再生可能エネルギーの導入拡大に課題を抱える北海道全体の電力安定化に、少しでも貢献していきたいと考えています。
EVバッテリー・ステーションの開発と導入モデル化
左:鹿児島県薩摩川内市甑島の風景 中央:北海道千歳市に建設予定の大型蓄電所完成予想図 右:福島県浪江町に建設した「EVバッテリー・ステーション浪江」
サイエンスマインドで
ゼロエミッションの時代を自ら切り開く
単にゼロエミッション化というだけでなく、日本の再生エネルギービジネスのシーンに大きなインパクトを与える大事業だと思います。それが住友商事にできたのはなぜでしょうか。
藤田 当社単独でできた事業ではなく、国や自治体の応援を受け、日産自動車やシステム各社の協力があってようやくここまでたどりつきました。ただ、私たちがその中心にいて、絶えず推進力を失うことなく事業を前へと進めることができたのは、商社でありながら私たち自身がサイエンスマインドを忘れず、次世代技術の社会実装に一貫して取り組む姿勢がぶれなかったからだと思います。商社が複数の技術特許を持っているのも珍しいですね。
和田 発電所を持つ他事業者に投資するのではなく、自分たちがゼロからインフラをつくり上げていく点ではパイオニアと言えるかもしれません。住友商事では蓄電所の設計から開発・建設を自らの判断で実行し、エネルギー供給のプラットフォームまでを自ら運営する。さらには、EVという次世代モビリティーのサプライチェーンに、インパクトを与える新たな仕組みをつくろうとしている。従来の商社のイメージをガラリと変えるもので、それにやりがいを感じて、希望して集まってきたメンバーも多くいます。
横田 私もその一人です。蓄電所の設計図を部長自らがチェックしているのを見て、最初は驚きました。設計技術からITまで、多岐にわたる専門性が要求される仕事ですが、外部の専門家に任せっぱなしではなく、一人一人がプロフェッショナルになっていく必要があります。また、本事業は、設備を置く地域の住民の方々のニーズに応えていくことで、真に持続可能なモデルに近づけると考えています。浪江町をはじめ地域の皆さんに伴走しながら、これまでにない事業モデルを一緒に実現する醍醐味を感じています。
藤田 社内のエキスパート集団が、エネルギーイノベーション・イニシアチブという座組みの中で高度な専門性を持ち寄り、ゼロエミッションの未来を切り開く。4Rエナジーの設立から数えれば13年。夢洲での世界初の実証事業から数えれば10年かかって、ようやく蓄電池を活用した本格的なエネルギーサービス・プラットフォームが動き出しています。共感してもらえる社内外パートナーの皆さまとしっかりとタッグを組んで、EV用蓄電池に関わる「サーキュラーエコノミー(循環経済)」を構築し、地域の雇用促進、新しい産業の育成など持続可能なまちづくりを目指していきたい。今はとてもワクワクと、心が弾む思いでいっぱいです。