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2026.1.22

Business

現場の声を起点に介護業界を変える。住商×SOMPOケアの「FIKAIGO」開発秘話

住友商事(以下、住商)は、2025年4月に介護施設向けDXサービス「FIKAIGO(フィカイゴ)」を開発しました。職員のシフト作成をはじめとする介護現場の間接業務を自動化・効率化するこのサービスは、介護サービス業界大手のSOMPOケアから業務知見の提供を受け、誕生しました。一人の住商社員の介護経験が出発点となったこの新規事業は、現場の声をどのように反映し、介護業界にどんな価値をもたらそうとしているのか。本記事では、住商とSOMPOケアの関係者に話を伺い、開発の舞台裏に迫ります。

  • 住友商事 新事業投資第二ユニット

    菅谷 百合子

    1992年入社、鉄鋼製品の貿易実務を10年担当後、サステナビリティ推進部へ異動し、社会貢献活動を17年担当。親の介護を経験し、介護業界の課題解決に挑戦するために社内起業制度に応募。ファウンダーとして、プロジェクトに関わり、現在は営業担当。

  • 住友商事 新事業投資第二ユニット

    園山 健允

    大手総合電機メーカーにて法人営業、DXコンサルティング、国内外のデジタル事業開発、CVC業務を経験後、2023年住友商事にキャリア入社。FIKAIGO事業のプロジェクトマネジメントを担当。

  • SOMPOケア 内部監査部 行政課長

    大嶽 敏也

    2005年に入社し、約5年間は介護現場に従事。その後、内部監査部にて全国の事業所運営の適正性を確認する業務を担当。19年より、全国約1,700事業所の行政申請を本社に集約する取り組みを担い、申請実務の標準化と効率化を推進。

誰もが安心して年を重ねられる社会へ。社内起業制度で介護業界の課題解決に挑戦

まずは、FIKAIGOのサービス概要について教えてください。

菅谷 FIKAIGOは、介護施設におけるシフト作成をはじめとした間接業務を、一気通貫で支援するシステムです。職員がスマホアプリを通じて休み希望を出すと、その情報を元に早番・遅番・夜勤などのシフトが自動で組まれます。また、介護保険法に基づく「人員配置基準」や、介護体制を手厚くすることで取得できる「加算の要件」を満たしているかどうかを常時モニタリングし、行政に提出する書類も自動生成します。

本事業は、住商の社内起業制度「0→1NEXT(※)」から初めて事業化されたプロジェクトだと伺いました。挑戦の背景を教えてください。

菅谷 出発点は、私自身の介護経験でした。40代半ばから家族の介護に向き合い、2025年秋に父をみとり、現在は独居の叔母をサポートしています。父は寝たきりで胃ろうの状態でしたが、施設の皆さんが身体的なお世話のみならず、「人生最後の友人」のように寄り添ってくださいました。そのおかげで、父は幸せに人生を全うできましたが、一方で「私たちの世代はどうなるのか」という不安も強く感じました。

2040年、日本の3人に1人は65歳以上になり、高齢者が増える一方で、介護を担う人は57万人も不足すると言われています。こうした将来を前に「誰もが安心して年を重ねられる社会を作りたい」と考え、19年に「0→1NEXT」の前身となる「0→1チャレンジ」に挑戦しました。

※ 現場社員の一人ひとりが考える新たな事業アイデアの実現を住商グループとして後押しする社内起業制度。18年度に0→1 チャレンジという名称でスタートし、24年度から一部内容をアップデートし運営している。

アイデアが採択され、開発に至るまでどんな経緯がありましたか?

菅谷 仮説検証をひたすら繰り返し、最終的に得た最大の気づきは、介護職の負担は「介護そのもの」ではなく「事務等の間接業務」にあるという点でした。入居者へのケアはやりがいがあるのに、まさかの事務業務が負担になっていて、苦手意識も強い……。このギャップを放置したまま、介護の未来は守れないと感じたんです。

介護現場にはアナログな業務が多く、それが人間関係のもめ事にもつながっています。だからこそ、まずは最も負荷の大きいシフト作成を自動化しようと考えました。ただ、会社からは「サービスの真のニーズを確認するために、大手事業者から利用確約などを得ること」という条件が課されました。ちょうどその当時、SOMPOケアがシフト作成ソフトの導入を検討しており、当社から話をもちかけ、FIKAIGOを採用してもらえることになりました。

SOMPOケアが、製品開発初期段階のFIKAIGOを採用し、さらにはプロジェクト参画を決めた理由は何だったのでしょうか?

大嶽 最も心を動かされたのは、菅谷さんの真摯な姿勢です。ご自身の介護経験を原点に「現場に本当に役立つものをつくりたい」と語られており、その真っすぐさに強く共感しました。さらに、介護業界が抱える課題を丁寧に受け止めてくださった点も決め手になりました。「現場に届いてほしい部分」をしっかりくみ取り、可能な限り実装しようとする姿勢に本気度を感じ、本プロジェクトに伴走したいと思いました。

菅谷 住商は、介護事業を行っていないため、SOMPOケアの参画は大きな力になりました。システムの要件定義に加わり、介護保険制度や現場のリアルなニーズを丁寧に教えていただき、システムの「背骨」を一緒につくり上げていただきました。SOMPOケアは、お客さまではありながらも、共に良い高齢化社会を作り上げる仲間のようです。たくさんの志の高い社員のみなさんとご一緒できて、心から楽しくやりがいを感じます。

検証と改善のサイクルを繰り返し、「現場の声」を落とし込む

FIKAIGOは開発に約2年もの期間を要したそうですが、開発にあたり立ちはだかった困難を教えてください。

園山 アプリ開発はスタートアップに委託していましたが、大規模なSaaS開発ということで、徐々にスケジュールや品質面で課題が出てきました。そこで、エンタープライズ開発やWebデザインの経験が豊富な住商とグループ会社のInsight Edge、SCSKの関与を強化。グループ一丸となってスタートアップの開発プロセスに深く入り込む体制へ移行したことで、プロジェクトが軌道に乗りました。

介護施設向けのシステム開発という点で、難しさもあったのでしょうか?

園山 そうですね。介護施設は、単に業務を回せる人数を配置するシフトを組めればいいわけではないので、感覚値ですが、他業種と比較して数倍は複雑さがある印象です。

大嶽 というのも、介護施設のシフト管理は、介護保険制度に基づいて、人員配置基準や加算要件など、細かなルールがいくつも関わってきます。しかも、介護付きホームとデイサービスでは求められる要件も異なるため、一つの仕組みで幅広く対応するには、どうしても工夫が必要になります。そうした中で住商は、現場の運用や判断の流れを丁寧に整理しながら、「どうすれば現場が使いやすくなるか」を共通の軸に据えて改善を進めてくれました。そのプロセスをご一緒したことは、私たちにとっても大きな学びになりました。

そうした試行錯誤の末、リリースされたFIKAIGOはどんな強みがありますか?

園山 大きく2点あります。一つ目は、人員配置に関わる一連の機能をワンストップで提供している点です。①シフト自動組み、②人員基準・加算のモニタリング、③行政書類の自動作成(勤務形態一覧表・参考計算書)を一気通貫で実現しています。

介護現場では単に業務が回せるシフトであるだけでなく、介護保険制度の人員基準・加算要件を満たすシフトでなければ介護報酬が得られません。両方を同時に満たせるプロダクトは、現状FIKAIGOだけだと自負しています。

菅谷 中でも好評なのが、③行政書類の自動作成です。行政書類の準備は、手間がかかり、現場の負担になっている作業なのですが、SOMPOケアからのリクエストを受けて実装したところ、多くの介護事業者から「かゆい所に手が届く」機能として高く評価いただいています。

園山 二つ目は、業務ノウハウがシステムにふんだんに組み込まれている点です。自動組みのルールや計算ロジックには、SOMPOケアの知見や介護報酬の解釈を反映しているため、自動組みが可能で、基準違反による減算をすぐに防げます。従来製品は、ユーザーがゼロからシフトルールを作る必要があり、運用まで2カ月掛かってから断念するケースも多かったと聞いています。

現在はSOMPOケアの介護付きホーム約300施設に導入されているそうですが、現場から寄せられた反響を教えてください。

大嶽 運用が進んでいる施設からは「本当に1分でシフトができてびっくりしました」「希望休のルールがはっきりして、スタッフとも相談しやすくなりました」といったお声をいただくことが増えてきました。実際に、シフトづくりの時間に余裕が生まれて、その分ご利用者さま対応に気持ちを向けられるようになったと話してくださる現場もあります。

一方で、勤務パターンが複雑な施設では自動仮組みが現場の実態に十分寄り添えず、調整に手間がかかってしまったケースもありました。ただ、こうした率直なお声が次の改善に直結していて、「もっと現場に合わせた仕組みにしていこう」という気付きを与えてくれています。

10年後に誇れる未来へ。「FIKAIGO」がめざす業界変革のゴール

今後、FIKAIGOをどのようなサービスへと育てていきたいですか?

菅谷 シフトを起点に、現場のアナログ業務を全てFIKAIGOのプラットホームに乗せ、一つのIDで管理できる未来を描いています。また、シフト作成にとどまらず、介護施設に高齢者を預けている家族とのコミュニケーションや買い物などもこのプラットホームでできたらいいなと考えています。

このプロジェクトを通じて実現したいのは、どんな未来ですか?

菅谷 小規模施設を訪問すると、運営の根幹に課題を抱えているケースが多く見えてきます。介護の現場には努力家の職員さんが多く、限られた人数で必死に回しているところもあります。しかし、それではいつ事故が起きても不思議ではありません。だからこそ、システムを通じて「もっと安全な働き方」を提示したい。現場が良くなれば、入居者の安心にも必ずつながります。また、安全性を土台から高めるには、現場ごとの工夫だけでなく、業務の「型」の見直しも欠かせません。先日、SOMPOケアの業務標準化担当の方とも議論しましたが、業界全体の底上げのためにも、一定の標準化が必要だと感じています。

大嶽 SOMPOケアでは「日本の介護を変える。そして、日本の未来を創る。」というパーパスを掲げています。FIKAIGOのような共通システムを開発することによって、社会にとって重要な役割を担っている介護業界全体が良くなっていけばいいなと思っています。

菅谷 その考え方は、住友商事の経営理念である「自利利他公私一如(じりりたこうしいちにょ)」とも重なりますよね。組織の利益だけでなく、社会全体の価値向上を見据えて行動する。そうした高い視座を持つSOMPOケアとの座組みだったからこそ、社内起業制度から始まった一つのプロジェクトがここまで大きくなったのだとも思います。

私たちが最終的に目指すのは、単なる間接業務の削減ではありません。人件費が7割を占める介護業界では、最適な人員配置こそ最大の経営課題です。業務標準化と最適配置の実現によって経営が安定し、職員の働きやすさが高まり、入居者のサービス品質も向上する。そんな「介護業界の三方良し」の未来をつくることがゴールです。10年後、20年後に「FIKAIGOのおかげで持続可能な介護業界になった」と言われる未来を目指して、取り組みを続けていきます。

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