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2024.5.17

Business

「あったらいいな」から始まった、製造業DXサービス「moganadx」の可能性

住友商事(以下、住商)は2018年に、グループ全体でデジタルトランスフォーメーションを推進する専任組織「DXセンター」を立ち上げました。以降、300を超えるプロジェクトを生み出し、ビジネス変革に取り組んでいます。そのうちの一つ、23年に商用化が始まった「moganadx(モガナdx)」は、製造業向けのDXサービスです。総合商社である住商ならではの強み、サービス化にこぎつけるまでの奮闘、ビジョンの果てにある「周辺地域を巻き込んだDX」への思いなどを、プロジェクトの中核を担う田地正樹と寳代(ほうだい)隆太郎に聞きました。

  • デジタル戦略推進部

    田地 正樹

    2007年に新卒入社して以来10年間、金属事業部門にてタイ向けの薄板製品を担当。タイでの駐在等を経て、DXセンターの立ち上げに参画。24年3月まで(インタビュー時点)DXセンターでmoganadxのプロジェクトマネージャーを務めた後、4月からベトナムのハノイに駐在し、タンロン工業団地に出向中。社内起業制度「0→1(ゼロワン)チャレンジ制度」で、エネルギー貯蔵のビジネス案にて最終選考通過の経験あり。

  • デジタル戦略推進部 DXセンター
    プロジェクトマネージャー補佐

    寳代 隆太郎

    大手ITベンダーでのシステム開発や、コンサルティングファームでのデータ分析・デジタルマーケティング関連の業務を経て、2023年11月に住友商事へキャリア入社。インサイドセールスやプロダクトマネージャー(PdM)領域の統括として、営業活動の推進やプロダクトの開発・運用保守に関わるマネジメントを担当している。

製造現場の「あったらいいな」をサブスク・SaaSで提供

まず、製造業向けDXサービス「moganadx」の概要や特徴を教えていただけますか。

田地 紙の帳簿や伝票、エクセルデータなどのいわゆる「アナログ管理」が主流となっている製造現場の生産性を高めていくためのサービスが、moganadxです。個別のシステムで管理されバラバラになっている生産現場のデータをデジタル化し、一つに集約することで設備運営・事業全体の見える化・集約・課題発見を実現するサービスとなっています。

また、moganadxでは「DXにまず一歩踏み出してもらう」というコンセプトを掲げています。大規模なシステムを一括購入で導入いただくのではなく、毎月定額で利用できるサブスクリプションモデルかつSaaS(※1)でサービスを提供しているのが特徴です。初期投資を抑えられることに加え、導入までの手間や時間も少なくて済みます。特に、海外拠点の現地社長や工場長にとっては、システム導入となると、日本本社との折衝や決裁を仰ぐのに時間を取られがちだと思いますが、こうしたサービスであれば、現地の決裁権限で導入判断しやすい。そうした点もお客さまに喜んでいただけるポイントになっています。

ちなみに、サービス名の「もがな」は、古語で「あったらいいな」という意味です。プロジェクトメンバーで案を出し合い、選定しました。スタイリッシュな横文字ではなく、古語からの引用ということで、システム導入だけでは解決できないところまでサポートできる、かゆい所に手が届く商社ならではの「泥くささ」も表現したつもりです。

※1「Software as a Service」の略称。クラウドサーバーにあるソフトウェアを、インターネットを経由してユーザーが利用できるようにするサービスのこと

moganadx の導入イメージ

机上の空論ではなく実運用で使えるDXを

サービス開始までの具体的なプロセスや体制はどのようなものだったのでしょうか?

田地 住商はアジア各国で8つの工業団地を開発・運営していて、入居企業の多くが製造業を営んでいます。moganadxのサービス化にあたっては、約70社の製造現場の担当者や経営陣へインタビューを行い、社内で設定しているKPIや管理すべき指標についてヒアリングしました。インタビューを重ねていくうちに、従来の「経験や感覚に頼った経営」から、「データに基づいた高度な経営」へ移行したいというニーズが潜在的にあることに気付いたのです。

そこで、まずは「紙を電子化して、データを可視化する」という、一見シンプルな実運用に即したところからDXに着手し、そこから一気通貫のデジタルサービスの提供を目指していくことにしました。2021年から国内企業に実証にご協力いただき、机上の空論ではなく実際の現場から吸い上げた要望や課題をプロトタイプに反映し、ブラッシュアップを重ねていきました。その後、現在の営業活動の中心にもなっているベトナムのタンロン工業団地で、現地駐在員の紹介を受けながら、複数社にてトライアルを実施。そこで得られたフィードバックをもとに、製造現場で使えるプロダクトに育てていったのです。

寳代 PoC(概念実証)から実行段階へと移行していく際には、住商がDX推進のために設立した技術専門会社であるInsight Edgeの紹介を受け、ベトナムのオフショアITベンダーを開発先として起用。価格と品質のバランスや、本格展開後の運用体制などを勘案しながら、プロダクトを開発していきました。

田地 そうして23年度にまずはベトナムから商用化をスタート。今後は東南アジアに拠点を構える日系製造業向けに広げていき、サービスを拡張した上で、30年度には延べ600社での導入を目指しています。

moganadxのサービス拡張イメージ:日報・指示書のデジタル化からスタートし、一気通貫のデジタルサービスを提供する(QCDSE:品質、原価、工期、安全、環境を表す言葉)

日本の製造業のベストプラクティスを結集したプラットフォームに

プロジェクトを推進していく上で、困難はありましたか?

田地 サービス立ち上げ後から、現在も課題に感じているのは営業面とプロダクト面の2つです。営業面では、SaaSっぽくない、泥くさいスタイルになっていることが良いことでもありますし、標準化などの観点からは課題でもあります。

寳代 一般的にSaaSの営業スタイルというと、インサイドセールス(メールや電話での営業)とフィールドセールス(対面での営業)で役割を分担して効率化を図ります。しかし、現状では明確に分業ができていない面がありますし、お客さまの要望を聞きながら、お客さまの業務に合わせて、半ばコンサルのような感じで売っているので、BtoBらしいと言えばそうなのですが、独特な売り方になっていますね。

プロダクト面においても、現場ごとに業務プロセスが全く異なるという製造業の特性ゆえに、都度、お客さまのニーズに合わせて開発しているのが現状です。製造業の皆さまに幅広く使っていただくためには、汎用的な仕組みを作ることが理想的なのですが、なかなか難しく、当面の課題ですね。

逆に言えば、それだけお客さまに寄り添い、個々の課題に向き合っているからこそ、実現できることもありそうです。

田地 そうですね。大きな理想の話をしますと、日本の製造業は個社ごとのノウハウがあることがこれまでは強みだったと思うんですよ。ただ、今は他国の勢いがものすごい状況で、日本の製造業がどうやって戦っていくかっていうと、ノウハウを結集して、集合知を作り上げることかなと。moganadxの機能をこれからどんどん拡張していって、日本の製造業のベストプラクティスが集まったプラットフォームにできたらいいなと思いますね。

まち全体のデジタル化を通じて人々の幸せに貢献する

最後にプロジェクトの今後の目標や描いている将来像をお聞かせください。

田地 将来的には、プロジェクトを通して、住商の企業使命である「健全な事業活動を通じて豊かさと夢を実現する」を達成することが目標です。

現状のDXサービスは、日系製造業向けのtoB事業として展開していますし、まずはそれがメインですが、将来的には海外工業団地に住む人々や工業団地内とその周辺地域、例えば商業施設やまちのお店といったSMB(※2)向け事業やtoC事業にも拡大の余地があると考えています。私はタイで工業団地内の事業会社に駐在していた経験があるのですが、工業団地というのは一つの「まち」だと思います。工場で働く従業員の暮らしがあって、水道や電気などのインフラ、スーパーマーケットや薬局、飲食店もある。製造現場の外の「まち」にも目を向けて、デジタル化を通じて地域貢献できる「総合商社ならではのDX事業」を目指していきたいですね。

※2「Small and Medium Business」の略称。中小規模の企業のこと

寳代 一人の担当者としては、今のmoganadxを広げていく活動にも注力しつつ、社内外の協働先やアセットを活用しながら、現地市場に対し、より大きな付加価値を提供していくために尽力していきたいと思っています。

住商に入社する以前はITベンダーやコンサルティングファームに勤め、特定のお客さまに向き合った課題解決やソリューション提供を行ったり、技術的優位性を重視したプロダクト開発をしたりしていましたが、総合商社である住商の一員になってからは、社会的意義をより意識するようになりました。「この事業を通して社会をどうしていきたいのか」というより俯瞰的な視点を大切に、製造現場だけではなく、そこの都市で暮らす人たちが幸せでいられるような仕組みを作っていきたいですね。

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