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2025.8.8
Business
世界2位の航空機リース事業を基盤に飛躍する、住商の航空事業の軌跡

住友商事(以下、住商)では1980年代から航空事業に参入し、三井住友ファイナンス&リース(SMFL)とのタッグで、事業を拡大してきました。現在では世界2位の保有機数を誇る航空機リース会社「SMBC Aviation Capital(SMBC AC)」を通じてグローバルにビジネスを展開するとともに、エンジンやヘリコプターのリース、部品の再利用、持続可能な航空燃料(SAF)などサステナブルな新規事業にも挑戦しています。今回は住商の航空事業の歴史から強み、今後の展望までを一挙に紹介します。
トレードからリースへと軸足を移し、発展を遂げてきた航空事業の歴史

住商の航空事業は、1980年代のトレード業務に始まり、90年代からリース事業へと領域を広げてきました。2000年代以降は、世界各地でリース会社を設立・買収し、SMBCおよびSMFLと共同で12年にSMBC ACを設立。現在では、保有機数約700機を誇る世界有数の航空機リース会社となりました。また、エンジンやヘリコプターなど周辺領域にも進出し、事業の幅を広げています。

航空会社がリースを活用する4つの理由とは
住商の航空事業の基盤となっている航空機リースですが、世界の航空機のうち50%以上をリースが占めるなどその需要は高まっています。その理由として、主に以下の4つが挙げられます。
●初期投資を抑え、柔軟な資金運用が可能に
高額な航空機購入のための初期投資が抑えられ、資金繰りが安定します。加えて、航空機はドル建てで取引されるため、所有すると為替リスクを抱えますが、リースなら残価リスクを抑えられます。
●フリートプランの調整
航空機メーカーの発注残は大幅に積み上がっており(2025年7月時点)、新たに発注しても2030年までは引き渡しが受けられません。航空機リース会社を通じてリースによる調達を行うことで、早期に調達することが可能となります。
●ショックイベント時の資金創出
不況時には売却して、同じ機体をリースで借り直す「セール&リースバック」を通じてキャッシュフローを確保することもできます。
●環境性能の高い最新機への移行を後押し
航空業界では、環境性能に優れた機材への移行が急務となっています。最新機は15%以上燃費効率が向上するなど技術革新が進んでおり、こうした機材導入を促進することも、リース会社の重要な役割です。

このように市況や需要の変化に合わせて機材構成を柔軟に調整できる航空機リースの存在感は、特にコロナ禍以降、高まっています。一時落ち込んだ航空機需要も、短・中距離路線を中心にナローボディ機(単通路機)が先行して回復。昨今は長距離路線のワイドボディ機(中・大型機)のニーズも高まっています。
住商×SMFL×SMFGのシナジーで飛躍を遂げる航空事業
このような航空機リース事業の成長を基盤に、住商とSMFL、SMFGの3社は三位一体となって事業を拡張してきました。ここからは、その強みに迫ります。

まず挙げられるのが、知識や経験がものを言う航空業界における「目利き力」です。航空事業は、景気変動や突発的な事象に影響されるボラティリティ(変動性)の高いビジネス。航空機をはじめとするアセット(資産)の見極めが重要になります。SMBC ACでは保有機体の平均機齢を若く保つことで、⾼い資産価値を維持・コントロールしています。特に、その目利き力が存分に発揮されたのが、コロナ禍でした。キャッシュを必要とする航空会社に対して、非金融系のリース会社が足踏みする中、SMBC ACはアフターコロナの需要増を見越して、資金を拠出し、航空機を大量に調達。その時の判断が、直近のリース事業の急成長にもつながっています。
また、長年の経験で培ってきた「現場対応力」も強みの一つ。現在、SMBC ACは50カ国150社もの顧客を抱えていますが、紛争やテロなど地政学的なリスクを考慮して保有機体を世界の各エリアに分散させています。
そして、3社の中でも総合商社である住商ならではの大きな強みが、「0から1」を生み出す「事業開発力」です。世界各地の航空会社やメーカーとのネットワークを活用し、共同事業や合弁会社を立ち上げています。その代表例が、エンジンリース会社・SMBC Aero Engine Lease(SAEL)の設立です。航空機は何年かに一度、半年ほどエンジンを取り外し、大掛かりなメンテナンスをする必要がありますが、その期間におけるスペアエンジンのリース需要を見込み、新事業を立ち上げました。独立系エンジン整備会社として世界最大規模のMTU Aero Enginesとタッグを組めたのも、住商の航空事業での実績が評価されてのこと。エンジンリースという新市場への挑戦でしたが、整備を手掛けるMTUとの連携によって順調に顧客を獲得した後、SMFLへ事業移管。同社のファイナンス機能も生かして、現在では約100基を保有する世界第5位のエンジンリース企業へと成長を遂げました(メーカー系を除く)。


また、ヘリコプターのリース事業にも、事業開発力が生かされています。18年の組織再編でSMFLは、それまで住商:SMFG=45:55だった出資比率が50:50になり、事業協力体制をより一層深化。その翌年には、SMFL内に「航空事業開発部」が発足し、住商の事業開発力とSMFGの資金力の融合によって、事業の開発からスケールまでがよりシームレスになりました。その航空事業開発部の第1号案件が、ヘリリースです。SMFLを通じて25年に入って業界2位、3位のヘリリース会社を立て続けに買収。機材数は300超と今や業界1位に迫る勢いです。コロナ禍で航空機需要は一気に減りましたが、ヘリは緊急医療やレスキューのためにむしろ増えました。そうした社会のニーズを捉えた新規事業でありながら、事業の多様化によって、ポートフォリオ全体でのリスクヘッジにもつなげています。
航空機のライフサイクル全体を見据えて。SAF関連事業やアフターマーケットビジネスにも挑戦
今後は、50年のカーボンニュートラルに向けても新たな挑戦を続けていきます。その軸となるのがSAFとアフターマーケット。空のカーボンニュートラルを実現するうえで重要な鍵を握るSAFに関しては、SAFそのものを製造する川上から、空港までの流通を担う川中、航空会社にSAFを販売する川下まで、総合商社として各領域でビジネス化を図っていきます。
また、機体や部品の再利用、整備や解体などのアフターマーケットビジネスにも注力します。住商では22年から退役した航空機の調達や中古部品の販売を手がける米国のWerner Aeroとタッグを組み、使用済み機体の部品を再活用するパートアウト事業に取り組んでいます。再利用できない部材をリサイクルする取り組みを事業化するための研究開発も進めています。

住商グループが目指すのは、航空機・エンジン・ヘリリース事業における世界トッププレーヤーの地位を堅持し、世界の交通インフラの維持・発展に貢献すること。その上で、航空機のライフサイクル全体で航空業界の未来を支え、サーキュラーエコノミーの実現にも力を尽くしていきます。