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2025.4.3
Business
トラックへの「荷積み」が自動に?住商×新世代ロボットAIの物流革命

2024年6月、住友商事(以下、住商)と米国のユニコーン企業・Dexterity(デクステリティ)社による合弁会社「Dexterity-SC Japan」が設立されました。同社がまず目指すのは、Dexterity社が開発した新世代ロボットAIの実用化による、日本国内の物流課題の解決です。住商がRaaS(Robotics as a Service)事業に取り組む狙いや、Dexterity社が開発する新世代ロボットAIの強み、そして「荷積み」を可能にしたロボットシステムについて、同社代表の尾山昌太郎とCOOの市川広介に話を聞きました。
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Dexterity-SC Japan 代表
尾山 昌太郎
2006年、住商に新卒入社後、各種ICT関連ビジネスを担当。シンガポール赴任後に新事業投資部にてベンチャー投資業務に従事、投資とともに住商グループとの事業開発に取り組む。20年のDexterity社への出資以降、同社の事業開発を担当し、24年6月に「Dexterity-SC Japan」を設立。同社代表を務める。
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Dexterity-SC Japan COO
市川 広介
2008年、資源エネルギー部門の石炭部に配属。2年間のボリビアの鉱山駐在を含め、資源のトレード・事業投資業務に従事。19年に自動車グループに異動し、EV・バッテリー関連事業を担当。22年から出資先のEVスタートアップに2年間出向し、事業の立ち上げを支援。24年6月から「Dexterity-SC Japan」でCOOを務める。
新世代ロボットAIが「人間のような動き」を現実に
まず、 住商がRaaS事業へ参入した経緯を教えていただけますか。
尾山物流業界はドライバーの高齢化や人材不足が深刻化している他、Eコマース市場拡大に伴う荷物量の増加、さらには「物流2024年問題※」による輸送能力の低下・ドライバー不足といった多くの課題を抱えています。住商はこうした課題の解決を目指し、さまざまな取り組みを行ってきました。
課題解決の鍵となるのが、新世代のロボットAIです。長年、産業用ロボットは、自動化された生産ラインなどで活用されてきたものの、その多くはあらかじめプログラムされた単純作業を繰り返すことにとどまっていました。しかし近年は、生成AIに代表されるAI技術の発展により、大量のデータを学習することで、ロボット自身が状況を判断し、荷物の整理や仕分けといった業務を的確に行えるまでに進化しています。

※2024年4月に適用されたトラックドライバーの時間外労働の960時間上限規制と改正改善基準告示によって、ドライバーの労働時間が短くなり輸送能力が不足する問題。
市川その中でも、住商が注目したのが、AIロボティクスソフトウェアの開発等を行うアメリカのユニコーン企業・Dexterity社です。スタンフォード大学のロボット研究所からスピンアウトし、米国トップクラスのVCが支援する同社は、すでに米国の大手物流企業での導入実績を着実に積み重ねていました。
Dexterity社のロボットAIの最大の強みは、どこにあるのでしょうか?
尾山まず、人間のように、直感的な素早い動作とじっくり考えてから行う丁寧な動作を両立できる点ですね。DexterityのCEOであるサミール・メノン氏は、ロボット以外にも、人体の脳や筋肉の構造を研究してきた人物です。さまざまな動作をどのように組み合わせれば、シチュエーションごとに最適な行動を取れるかを、常に留意しながら開発が進められています。
また、AIだけでなくロボット側のセンサーからアーム、カメラといったハードウェアごとのソフトウェアも物流業務に合わせて再設計・最適化させていることも、大きな強みです。他のスタートアップが視覚認識などの単一の機能に特化する中、Dexterity社は全体を最適化することで計算処理時間の短縮を実現し、複雑・柔軟な作業に対して実用的な作業速度を維持することに成功しています。
私自身、初めて Dexterity社のロボットAIが搭載されたロボットシステムを目の当たりにした時は、対応できるオペレーションの多さと状況に合わせた柔軟な判断や対応に驚いたことを覚えています。
こうした経緯から、住商は2020年に同社への出資を行い、以降、日本の物流業界に対応させるためにローカライズを進めてきました。

市川Dexterity社の持つ独自のAIソフトウェアやロボット制御に最適化されたハードウェアの設計技術を活用すれば、労働力不足が懸念される物流はもちろん、建設や食品などさまざまな業界に応用できる可能性が高いことも、住商がRaaS事業へ乗り出す大きな後押しとなりましたね。
トラックへの「荷積み」を自動化するロボットシステム
現在実用化を目指しているという、「荷積み」が可能なロボットシステムの特徴や仕組みについて、詳しく教えてください。
尾山このロボットシステムで実現できるのは、「トラックへの荷積み作業の自動化」です。荷積み作業は、物流現場で最も自動化が困難とされ、これまでは人の手に依存せざるを得ませんでしたが、Dexterity社は世界で初めて、さまざまなサイズの荷物を1つのコンテナに直接積載できるシステムの開発に成功しました。
このロボットシステムがユニークなのは、高速で流れてくる荷物を崩れないようテトリスのように積んでいく動作が可能であること。しかもそれをコンテナという狭い環境において行えることです。

ロボットが直接トラックの荷台に乗り込み、カメラとセンターで荷物の形状やサイズなどを分析。さらに適当な配置場所を判断し、テトリスのように隙間なく積み重ねていく
尾山このロボットシステムは、最適な荷物のレイアウトを決めるパッキングアルゴリズムと、ロボットのアームを動かすモーションプランニングを軸に、荷積みを行っていく仕組みとなっています。基本的には、荷積みに必要な荷物の形状やサイズなどのデータをシミュレーターで分析、それを基にアルゴリズムが「どこに置くべきか」を計算し、配置場所を選択していきます。
事業者との実証実験で実用化を加速させる
23年から取り組んでいるという実証実験では、どのような学びや気づきがあったのでしょうか。
尾山実証実験は、SGホールディングス株式会社・佐川急便株式会社と共同で行っています。現在、日本特有のパッケージやラベル、トラック車両の耐荷重などのローカライズ対応を進めている状況です。一般のお客様からの荷物にはさまざまな梱包をされたものがあり、あらかじめ想定していなかった荷物に対して、いかにアジャストしていき、実際のオペレーション現場に即した形で実用化できるかが、今後の鍵になると考えています。
市川実証実験には3つのフェーズがあります。お客様のオペレーションをしっかり見て、どういう配送環境なのかを把握するのが最初のフェーズで、その次がアメリカのロボットシステムを日本向けにカスタマイズしていくフェーズです。そこから、アメリカで開発したロボットシステムを日本に持ってきて、実際の物流オペレーションの中で動かしてみるのが三つ目のフェーズですね。
尾山が話したように、実際に現場でのオペレーションを分析すると、さまざまな課題が多く生まれてきたので、それらを一つ一つクリアしながら実用化に向けて取り組んでいきます。
あらゆる産業の課題を解決する、ロボットAIの可能性
2024年7月には、住商とDexterity社による合弁会社「Dexterity-SC Japan」が設立されました。これには、どのような狙いがあったのでしょうか。

尾山二つ理由がありまして、一つは日本向けにサービスを提供していく際の体制構築を迅速に行うためです。現場に対して十分なサポート体制が整っていなければ、24時間365日稼働する物流オペレーションを止めてしまうリスクがあります。そのため、アメリカ側だけではなく、日本側でも手厚くサポートできる組織体制をつくる必要性があると考え、合弁会社を設立しました。
もう一つは、人手不足解消の打ち手となるロボット分野に高いポテンシャルを感じているからこそ、自社で幅広く開発できる能力を確保することが大事になるからです。DexterityのロボットAIを日本向けにローカライズしていく上では、先述した日米の物流課題や物流事情を抑えておく必要があります。そういう意味では、われわれが主体となって国内企業の課題と真摯に向き合い、日本の物流環境に適した形で、ロボット活用による解決策を提示していくのが最善だと考えています。
最後に、今後のDexterity-SC Japanの戦略や展望を教えてください。
尾山まず佐川急便を最初のお客様として、現在進めている実証実験を成功させ、その結果を踏まえて早期の実用化を目指していくとともに、「物流2024年問題」による労働力不足や輸送力不足の解消につなげていければと思っています。
市川Dexterity社の開発するロボットAIは、現場の環境やシチュエーションに順応し、柔軟に作業を完結できるという強みがあるので、物流業界以外からも多くの引き合いをいただいています。
例えば、ロボットを固定の位置に据え付けることができない工事現場、鉄道や船、飛行機などの輸送現場における問題の解決など、さまざまな産業の省人化・自動化に貢献できる可能性があるのではと感じています。私たちDexterity-SC Japanがその担い手になれるように、これからも尽力していきたいですね。