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2024.11.28

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海外駐在で変化した家事・育児の価値観とは?住商の男性社員2人の挑戦

共働き世帯が増える一方、日本ではまだまだ「当たり前」ではない家事支援サービス。国内の市場規模は、米国の5%以下にとどまっています。こうした中、住友商事(以下、住商)では、海外駐在を経た2人の男性社員が、現地で得た気付きをヒントに、ベビーシッターサービスと家事代行サービスをそれぞれ新たに開発しました。今回は彼らが海外生活で得た気付きや価値観の変遷に焦点を当て、事業が社会にもたらすインパクトに迫ります。

  • 経営企画部 部長代理

    奥瀬 信皓

    2009年の新卒入社後、財務部で資金調達や融資、為替リスクヘッジ業務を担当。16年に米国トレイニーとして赴任し、23年にはコロンビアビジネススクールでMBAを取得。23年度の社内起業制度でベビーシッター事業が採択され、現在は経営企画部で、新規事業開発に取り組む。共働き、かつ「実家サポートなし」で家事・育児に励む2児の父。

  • ライフスタイルグループ CFOオフィス

    植田 信

    2011年に新卒入社し、リスクマネジメントグループで投資案件の分析・実行を担当。14年から中国での語学研修を経て、22年に英国のロンドンビジネススクールでMBAを取得。22年度の社内起業制度で洗濯代行サービスが採択され、現在は、ライフスタイルグループで新規事業開発に従事。共働き、2児の父。長女の就学前に世界を見せるべく、欧州2人旅行を計画中。

社内起業制度を利用し、家事支援サービス立ち上げにチャレンジ

お二人とも、住商の社内企業制度「0→1(ゼロワン)チャレンジ」(※)を利用して、事業化に取り組んでいるそうですね。それぞれが考案した事業の概要について教えてください。

奥瀬 私が発案した「ピアシッター」は、同じ会社の同僚やその家族同士で子どもを預け合えるマッチングプラットフォームです。共働き世帯をターゲットに、大企業の人事担当者向けに福利厚生ツールとしての導入を進めています。2023年度に「0→1チャレンジ」で採択され、現在は事業化に向けた実証実験のステージ。社内外の方々と協力・情報交換しながらも、アジャイルに仮説検証すべく、アプリの開発から社内外でのトライアルの実施まで、全て1人で行っています。

ピアシッターアプリの操作画面
「洗濯のアライさん」のネーミングとキャラクターには、気軽に依頼できる「相棒のような存在」となってほしいという思いが込められている

植田 私が手がける「洗濯のアライさん」は、洗濯版のデリバリーサービスです。LINEで洗濯物の集荷時間を指定し、午前10時までの回収なら、その日のうちに、洗濯・乾燥、畳んで返却まで完結します。23年から東京・渋谷区でサービスの提供を開始し、現在は都内5区にエリアを拡大。クリーニング大手の白洋舍、マーケティングのプロであるTBWA HAKUHODOとタッグを組み、 社内メンバー2名と共に、事業の本格化を目指しています。

※所属・職位・年次を問わず、全世界の住友商事グループ社員を対象に、新たな事業アイデアの実現を支援する社内起業制度。24年度より「0→1Next」に名称変更。

海外で知った、「家事・育児」と「仕事」がトレードオフでない世界

どうして家事支援サービスを事業化しようと思ったのでしょうか?

奥瀬 自分が困っていたことが一番の理由です。私自身、2人の子どもを抱えながら夫婦共働きで、仕事と家事・育児の両立に悩んでいました。そんな中、家庭での負担を軽減し、安心して働ける仕組みをつくることができないかと考え、事業を構想し始めました。

大きなヒントとなったのは、アメリカに駐在していたときの気付きです。ニューヨークやアリゾナでは、現地の同僚たちがベビーシッターを活用しながら、仕事に全力を注いでいました。現地のベビーシッター利用率は50%を超えているそうです。例えば、勤務時だけでなく会社の飲み会に参加するときでさえ、彼らは気兼ねなくシッターに子どもを預けていて、最初は文化の違いを感じましたが、日本でもそれが普通になればいいなと思いました。

植田 アメリカの家事代行市場は約3兆円に達しているのに対し、日本は約1,000億円と、その規模には30倍もの差があるんですよね。私自身も、海外駐在を経てこうしたギャップを肌で感じ、日本に家事代行サービスをもっと広めたいという思いを強く抱くようになりました。日本でも、今後少なくとも5,000億円規模の市場に成長する余地があるとみています。

特に海外で印象的だったことはなんですか?

奥瀬 ニューヨーク赴任中に妻が出産したときのことです。私が米国内で長期出張することになり、妻は産後を1人で過ごすことになってしまったのですが、昔、妻が留学していたときの友人家族が、約2カ月ずっと妻子の面倒を見てくれたんです。日本だと、家族や親戚でもない人の家へ、産後まもなく長期で滞在することはあまり考えられませんが、現地ではそれが当たり前という感じで、懐の深さを感じました。街でもベビーカーを押していると、知らない人が手伝ってくれることも多かったです。アメリカは個人主義の国と言われることもありますが、みんなで子育てをシェアするというムードがありますよね。

植田 私は、中国と英国に駐在していたのですが、どちらでも「自身の幸福度を向上させるためにお金を使う」という文化が根付いていることを感じました。例えば、英国は保育料が高く、月30万から40万円かかることもありますが、片方の親の稼ぎがほとんどシッター代に消えても、その分思いっきりやりたい仕事や自分の楽しみに時間を費やしたいと考える人が多いのです。また、中国でも現地の友人が、両親に1週間子どもを預けて、友達と旅行をしていました。「親が人生を楽しんでこそ、子どもも人生を楽しむことができる」という考えが根底にあって、家事・育児をアウトソースすることによって、子どもとの時間を最大限楽しんでいるのだと思います。

「他人に頼りづらい」日本で、一歩目のハードルを下げるために

帰国後に新規事業開発に取り組まれる中で、日本の家事・育児においては、どのような課題があると感じましたか。

奥瀬 帰国して感じたのは、「他人を頼ることへの抵抗感」です。子どもを他の人に預けることで子どもの社会性が育まれ、人格形成に良い影響があるというデータもあるのですが、日本では家事や育児を他者に任せることに、罪悪感を抱く人がまだたくさんいます。

植田 私が気になったのは日本の「我慢を美徳とする文化」です。サービス利用料だけ見ると、日本は諸外国と比べても決して高くないことを考えると、家事代行サービスの普及が進まないのは、やはり心理的抑圧が大きいのではないかと思います。海外駐在員でさえも、現地では家事代行サービスを当たり前のように利用しているのに、日本に帰国すると「家事や育児を外注するなんて」という周囲の視線や、「家の中を他人に見られるのが嫌だ」といった抵抗感から利用しなくなってしまうというのも象徴的です。

そうした海外と日本の違いはどこから来るのでしょうか? また、それを踏まえた上で、サービスを設計するにあたって、どのような工夫をしたのでしょうか?

植田 日本で家事代行サービスへの抵抗感が強い理由の一つとして、文化的・歴史的な側面が大きいと思います。欧米で家事代行サービスを頼むと、大体人種の異なる、普段全く接点がない人が来ます。一方、日本でサービスを利用しようとすると、基本的にスタッフは日本人ですし、「友達の友達のお母さん」ぐらいの知り合いが家に来てしまう可能性もあり、「家を見られるのが恥ずかしい」と感じてしまうのだと思います。そうした日本独自の要素を考慮して、「洗濯のアライさん」はドア前で完結する非対面サービスにこだわりました。

奥瀬 植田さんが言ったような文化的な背景の違いは、やはり大きいと思うのですが、子どもを預けるとなると、より一層心理的ハードルが高くなります。これまでに社内外で延べ300人以上にインタビューを実施するなど、「本当に使いたいときに使える」子育て支援サービスについて調査してきましたが、高頻度で利用する層と一度も使ったことがない層に二極化しているんですよね。つまり、最初のハードルを下げることが鍵になる。そのためにはどうしたらいいのだろう、と試行錯誤をした末にたどり着いたのが、素性も分かって、コンプラ意識も同じくらいの、信頼ができる同僚同士で助け合う仕組みだったのです。

植田 どちらのサービスも、「まずは心理的なハードルを下げる」ことを目指しているのですが、「頼る人と顔を合わせない」のか、「顔をよく知っている人に頼む」のか、逆のアプローチをとっているのが面白いですよね。

奥瀬 たしかに。いずれにせよ、自分たちだけでなんとかしようとして無理に頑張りすぎず、もっと周りの人に助けを求めやすい仕組みをつくっていきたいですよね。

家事や育児を楽しめる、もっと心に余裕を持てる社会へ

最後に、今後の事業の展望と成し遂げたいビジョンを教えてください。

奥瀬 まずは事業化が目標ですが、その過程でサービスの使いやすさや利便性をさらに磨いて、より多くのご家庭で気軽に利用できるプラットフォームにしたいです。またトライアルを重ねる中で、特に胸に刺さっているのが、住商で働く女性社員の「本当はうちの子どもも幼稚園に通わせたり、もっと習い事に通わせたりしてあげたかった。自分がこんなに頑張っても働いていても、子どもが幸せなのか分からない」という言葉。こういう身近な人の人ごとではない悩みを解決するため、お互いに支え合えるような事業をつくっていきたいです。

植田 育児に「負担」という言葉が使われることもありますが、本来、子どもと過ごす時間は楽しいはずのもの。心に余裕を持って、子どもと過ごす時間をつくれるよう、家事のストレスを少しでも緩和していきたいです。そのために、まずは洗濯サービスの事業基盤を固め、ゆくゆくは家事全般の代行サービスの提供、人々が楽しく時間を過ごせるためのインフラとなることを目指していきます。

プロジェクトは別物だが、アイデアの壁打ちをし合ったり、情報交換をしたり、お互いに刺激を受けているという

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