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2024.4.23
Business
「ハーブ四元豚」プロジェクト担当者が語る、開発の舞台裏
住友商事グループは、1990年代から輸入豚肉ビジネスに参入し、2010年には「四元豚(よんげんとん)シルキーポーク」を開発。安定的な豚肉の供給と共に、「国産の銘柄豚より安く、美味しい輸入豚」という新たなカテゴリーの創出に取り組んできました。今回は、24年春に発売となる新ブランド「ハーブ四元豚」の開発プロジェクトメンバーである、米州住友商事の田村基毅と食料SBUの藤田陸に、進化し続ける輸入豚開発の舞台裏について聞きました。
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米州住友商事
田村 基毅
2013年に新卒入社。入社以来一貫して食料ビジネスに携わる。21年より米州住友商事に駐在し、豚肉の輸出ビジネスおよび新規事業開発を担当。今回のプロジェクトでは、新ブランド立ち上げに向けたアメリカのサプライヤーとの折衝や共同開発、生産体制の確立などをリード。
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食料SBU
食品流通ユニット藤田 陸
2015年に新卒入社。米などの食料ビジネス、米州住友商事へのトレイニーを経て、住友商事グループの食品専門商社「住商フーズ」に出向中。今回のプロジェクトでは、食のプロフェッショナルである住商フーズ関係者と連携し、新ブランドの提案や日本市場におけるマーケティングの推進、販路開拓などを担当。
安全・安心な輸入豚肉の安定供給で日本の食卓を支える
ブランド開発に至った背景を教えていただけますか?
田村 住商グループは、国内の景気低迷が続く2010年代に、当時「安かろう、悪かろう」というイメージだった輸入豚のイメージを払拭する、ハイグレードな輸入ブランド豚という新たな市場を築き、存在感を発揮してきました。フラッグシップブランドである「四元豚シルキーポーク」は、大手量販店や外食チェーンで広く展開されており、一度は手にされたことがある方もいるかもしれません。今回新ブランドの開発に至ったのは、21年ごろから、円安やコスト上昇による価格競争力の低下や供給不安の可能性が生じたことがきっかけでした。
藤田 シビアな外部環境の中、ブランドを継続しないという選択肢があったのも事実ですが、私たちには、国内消費量の約半分を占める輸入豚肉の安定供給を支える使命感がありました。これまで築いてきた商品開発の知見、販売店などのお客さまとの信頼関係というかけがえのない資産を最大限に生かし、さらに魅力ある商品を届けていくためにも、新たなサプライヤーと共に、四元豚シルキーポークを進化・発展させた新ブランドを開発することを決断しました。
特別な交配とハーブ給餌で唯一無二の豚肉をお客さまの元へ
新ブランド「ハーブ四元豚」には、従来品や他社ブランド、国産豚と比較して、どのような違いがあるのでしょうか?
田村 四元豚とは、4品種の豚を掛け合わせてできる豚肉で、今回の「ハーブ四元豚」は、特別な畜種掛け合わせと、飼料にハーブを混ぜていることが特徴です。少し専門的な話になりますが、日本で好まれやすい“肉のサシ”などの肉質に関わるデュロック種を2回も掛け合わせに組み込んでいる点は、他ブランドとの大きな違いと言えます。住商フーズでは、これまで四元豚とハーブ豚はそれぞれ別のブランドとして販売していたので、今回はそのタッグブランドといった位置付けになります。
そもそも輸入四元豚は、生産・管理に時間とコストがかかるためかなり希少です。今回のように、さらにハーブ給餌と組み合わせて生産している会社は他にありません。多くの面で他ブランドにはない要素を持ったハイエンドなブランドです。
藤田 こうした違いは、味や栄養にも大きく影響しています。外部機関の食味検査では、「従来の四元豚に比べて食味が勝る」という結果が出ていて、従来品よりも、サシが強く、柔らかく、臭みが少なく、ジューシーで、高栄養であることが評価されています。また、国産銘柄豚との比較では価格優位性を持っているのも強みですね。
まさに「四元豚シルキーポーク」の進化系と言えるブランドですが、どのように開発を進められたのでしょうか?
田村 アメリカで取引のある豚肉サプライヤーの一つであるClemens Food Group社(以下、CFG社)に声をかけ、共同開発プロジェクトを打診したのが始まりです。
自社農場を保有し、適切に管理された飼育環境で畜種管理やトレーサビリティ(※)が徹底されている面で安心感があり、高い品質基準を求められる日本市場向け商品を安定供給できる体制であることが、パートナーを選ぶ際のポイントとなりました。
具体的な交配については、CFG社から提示されたアイデアを元に試食テストを何度も繰り返し、各案のコストも鑑みつつ、CFG社と意見を出し合いながら最適な掛け合わせを決定していきました。
※商品の生産・加工に関する情報や流通・消費までの経路を追跡可能な状態にすること
藤田 住商フーズでは初の試みとして、「日記調査」という調査を行いました。主要顧客層の16世帯で「どのブランドの豚肉を買ったのか?」「どうしてその豚肉を選んだのか?」など、細かな動向を朝、昼、晩と数週間にわたって記録してもらい分析するというもので、豚肉購入に至るまでの感情や心理的背景を深堀りすることができる調査手法です。得られた結果や洞察をブランド開発やマーケティングに反映しており、味や品質にこだわりのある消費者が多い日本市場で、「お客さまの元にどう届けるか」「どうしたら満足してもらえる商品を作れるか」を常に追求してきました。
パートナーへのリスペクトが、より良い商品開発につながる
新ブランド開発に至るまでの過程で、苦労したことはありましたか?
田村 実は、サプライヤーへの共同開発打診の際に、山場がありました。CFG社の最初の反応は「面白そうだが、交配や給餌オペレーションを考えると難しい」というものでした。CFG社に納得してもらうために、日本市場でのブランドのポジショニングや、当社としてこのブランド開発に込めた思いを根気強く説明し、最終的に合意に至ることができました。
また、今回は共同開発の意思決定からブランドが完成し、初回の出荷に至るまでに約2年かかり、CFG社も私たちも相当な忍耐が求められました。緊張感が続く中、「他社が簡単に模倣できないものを作るからこそ、市場に支持され、長く続いていくプロジェクトになる」という私たちの思いを伝え続けることで、CFG社も共感し、モチベーション高く向き合ってくれたように思います。
藤田 住商フーズには、輸入肉ビジネスに精通したベテランの営業部隊がいます。業界に入って数年の私の知識では太刀打ちできないと、プレッシャーに感じることがなかったとは言えません。
できる限りの事前準備は全て行い、自分なりの仮説を持った上でメンバーとコミュニケーションを取ることで、信頼関係を築くことに努めてきました。今ではメンバーの貴重な経験値をプロジェクトに還元できることのありがたさと心強さを感じています。
最後に、担当されているビジネスのやりがいと、今後のプロジェクトに対する思いをお聞かせください。
藤田 「安全、安心」であることは当然ですが、物価が高騰する中で、味だけでなく価格も含めた満足感を消費者に届けられることに大きなやりがいを感じています。また、主要たんぱく源である豚肉の安定供給を陰ながら支えるという責任感もあります。
取り扱っている商品が「誰に」「どのように」届き、消費されているかを把握しやすいことも、身近な食肉産業を担う醍醐味ですね。供給側であると同時に、自分自身が消費者でもあるため、市場により良いものを届けたいという思いがあります。
田村とは長年一緒に仕事をしていて強い信頼関係があります。引き続き密にコミュニケーションを取りながら、取り組みを加速させていきたいですね。
田村 足元の円安状況もあり、輸入品の価格競争力は以前に比較すると縮小しています。しかし、国内消費量の半分以上を占める輸入豚肉市場で、住商グループの食料ビジネスの根幹を成すビジネスを担う自負と責任を感じています。
また、私がアメリカでの仕事を通して大きな学びとなったのが、パートナーと対等な関係であると意識することです。互いに尊重し合いながら対話を重ねることで、より良い商品開発につながります。今後もリスペクトし合えるチームで、サプライヤー、お客さまと共に、豊かな食の未来をつくることを目指します。