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2023.10.1

Business

種子島から日本に甘みを。 ~サトウキビ産業を進化させる新光糖業~

種子島——鹿児島県南西部に位置し、言わずと知れた鉄砲伝来の地。島の南東部には宇宙航空研究開発機構(JAXA)の種子島宇宙センターが存在し、ロケットの発射を一目見ようと訪れた方もいるのではないだろうか。温暖な種子島の主要産業は農業。中でも基幹作物としてサトウキビ栽培が盛んだ。

そんな種子島全土のサトウキビを原料として、砂糖を製造するのが住友商事グループの新光糖業である。新光糖業の創立は1964年、そして住友商事が出資参画したのは1980年のことだ。サトウキビの収穫シーズン真っただ中の1月上旬、種子島を訪れた。毎日のように口にする砂糖の製造工程、それにサトウキビ産業が抱える課題と、新光糖業の取り組みを紹介する。

この記事は2022年3月に公開された内容です

  • 報道チーム

    浅田 和明

    2019年入社。20年10月までは制作チームでコーポレートサイトやFacebookなどを担当。同年11月以降は報道チームで輸送機・建機事業部門、資源・化学品事業部門、財務・経理・リスクマネジメント、アジア大洋州を担当する。甘いものが大好きで、チョコやクッキーなどをつまみに酒を飲める。入社以降、休憩時のおやつにより体重が増加。危機感を抱き、ダイエットを公言してはや3年。最近は固いプリンを探し求めている。

サトウキビから砂糖までの長い道のり

サトウキビはイネ科の植物で、熱帯または亜熱帯地域で生育する。日本語では別名「甘蔗(かんしゃ)」と呼ばれ、沖縄では「ウージ」、種子島では「オーギ(※)」とも呼ばれる。サトウキビと聞くと、沖縄をイメージする方も多いと思うが、四国の一部地域での栽培を除き、種子島を北限として南西諸島部で広く栽培されている。青い海と青い空を背景にそよいでいるイメージがあるが、意外にも収穫シーズンは12月から4月頃と寒い時期である。

※ (小ばなし)「オーギ」の由来:
収穫直前の成熟したサトウキビの葉が「扇」のように広がっている様子から、種子島では「オーギ」と呼ぶようになったと言われている。(諸説あり)

近くで見るサトウキビは身長よりも高く、竹のようにしなやかだった。サトウキビに足を取られて転んだのはここだけの秘密

新光糖業は種子島唯一の製糖工場を持ち、島内で収穫される約15万トン/年ものサトウキビを農家より全量購入し、「粗糖」を製造・販売している。粗糖とはサトウキビのしぼり汁を煮詰めてショ糖分を結晶化したものである。見た目は薄茶色で粒は大きく、「原料糖」とも呼ばれる。この粗糖からミネラルなどをさらに分離して精製すると、スーパーマーケットで見かけるような白いさらさらとした「精製糖」となる。

では、ここから粗糖の製造工程を見てみよう。工程は(1)圧搾工程、(2)清浄工程、(3)濃縮行程、(4)結晶工程、(5)分離工程と大きく5つに分けられる。

(1)圧搾工程

サトウキビはまず初めに細裂機で細かな繊維状にし、ローラー状の圧搾機で糖汁を絞り出す。サトウキビは島の強い風にもしなやかに耐える植物で、茎にはぎっしりと繊維分が詰まっており、しっかりと糖汁を搾りだされたサトウキビの搾りかすは「バガス」と呼ばれる副産物となる。バガスは、工場内にあるボイラーの燃料として使用される。いわゆるバイオマス発電だ。なんと工場内の全ての電力はこのバガス燃料によって支えられている。また、余剰分は牛舎の床に敷く、「敷料(しきりょう)」として使用される。ふかふかのバガスじゅうたんは、牛の成育に良いそうだ。

めらめらと燃えるバガス。この発電方式は、2009年より地球環境にやさしい「グリーン電力発電設備」認定されている
(2)清浄工程

この工程では、搾った糖汁から不純物を取り除いていく。糖汁を約100度まで加熱し、沈殿槽で消石灰と混ぜることで、上澄みの「清浄汁」と不純物を固めた副産物の「フィルターケーキ」に分離される。フィルターケーキは、堆肥の原料として販売される。また、バガス発電で出た燃焼灰と混ぜ、特別な肥料としても販売される。これらはいずれもサトウキビ畑にまかれ、収穫量の増加につながっている。

(3)濃縮工程

清浄汁は、次に効用缶に送られ、シラップというとろみのある黒蜜のような液体になるまで煮詰められる。

(4)結晶工程

この工程では、液体状のシラップを粒状に変えていく。シラップは真空結晶缶に送られ、結晶の種となる小さな砂糖の粒とともに、濃縮される。そうすると、種が結晶として成長し、大きな粒状になる。ただし、この段階では粒と「糖蜜」と呼ばれる粘度の高い液体が混ざった「白下(しろした)」という状態。筆者は特別に許可を得て白下を試食したが、黒糖のような味わいがあった。

各工程を監視し管理している工場内のコントロールセンター
(5)分離工程

結晶工程で作られた白下を遠心分離機にかけることで、粗糖の結晶と「糖蜜」に分離される。ここでようやく粗糖の完成だ。分離された糖蜜は、家畜の飼料や発酵原料として活用される。発酵原料としての糖蜜は、アルコールやうま味調味料、イースト菌の製造に用いられている。

出来上がった粗糖は、種子島南西部の島間(しまま)港より大阪に運ばれ、住友商事グループである日新製糖(2024年10月よりウェルネオシュガーに社名変更)の工場でカップ印の精製糖となって日本全国で販売される。

このように複数の工程を経て、サトウキビから砂糖が出来上がる。すでにお気付きの方もいるかと思うが、それぞれの製造工程で発生する副産物は、ごみになることなく全て島内を中心に有効活用されている。まさにゼロ・エミッション工場だ。

日新製糖(2024年10月よりウェルネオシュガーに社名変更)の砂糖は全国の小売店で販売されている。カップ印が目印なのでぜひお求めいただきたい

農家の収益を向上させ、サトウキビ産業を救え

食べ物には欠かせない「甘み」を作り出している種子島のサトウキビ産業だが、2010年以降サトウキビ生産量の減少が問題になっている。原因は農家の高齢化による耕作面積の減少だ。2010年と2020年を比較しても、農家戸数は2,398戸から1,383戸まで約4割減少した。それに伴い、収穫面積は2,749ヘクタールから2,176ヘクタールに、生産量も約20万トンから12.5万トンへと減少している。このままでは島内の基幹産業でもあるサトウキビ産業の衰退に歯止めがかからないと危惧した新光糖業は、農家の収益向上と耕作面積の増加を目指した取り組みを進めている。

左側が従来の品種、右側が新品種「はるのおうぎ」。高く、曲がらず、うっそうと成長していることがわかる

その一つとして、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)が手掛ける新品種「はるのおうぎ」の開発協力だ。はるのおうぎは従来の品種に比べて、根が深く、繊維分が多いため強風や台風にも強い。また、茎数が多く、面積当たりの収穫量が多いため、農家の収入増が見込まれる。2022年度より島内で同品種の本格的な栽培が開始される予定だ。

さらには、機械化・効率化により省力化を推進し、行政や優良生産者と農地集約に取り組むだけでなく新規就農者のサポートも目指している。

耕畜連携で島内資源循環を目指せ

ゼロエミッションの取り組みを長年続けてきた新光糖業だが、近年は島内資源循環型モデルの構築に取り組んでいる。2014年に、島しょ地域の自然資源を生かした持続可能な社会モデルを構築するプロジェクト「スマートエコアイランド種子島構想」に参画。東京大学菊池准教授とともにサトウキビの農地から製糖工場まで、効率的な生産体制・生産方法の研究を開始した。また、2020年にはスマートエコアイランド種子島構想に関与する組織を中心とした「資源を循環させる地域イノベーションエコシステム研究拠点」プロジェクトが、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の「共創の場形成支援プログラム」育成型(共創分野)公募プロジェクトに採択された。

2020年12月より本格化させている取り組みが、耕畜連携による堆肥の製造だ。新光糖業では生産工程で出たバガスを工場内のボイラー燃料に活用し、余剰分を敷料に利用しているが、それでも年間約5,000トン近くのバガスが余る。また、新品種である「はるのおうぎ」は、従来の品種に比べて2割ほど繊維分が多いため、本格普及が始まるとさらに余剰バガスが発生する見込みだ。そこで余剰バガス処理のために手を組んだのが、種子島最大の酪農家「さかもと牧場」だ。さかもと牧場では、約550頭の乳牛を飼育しているが、家畜糞尿の処理問題に頭を悩ませていた。従来は糞尿を牧場内のプールに溜め、肥料として農家に提供していた。一方で、糞尿の直接利用は、周囲に悪臭を放つだけでなく、地下水汚染の懸念もあり、近年は処理が難しくなっていた。海外から木質ペレットを輸入し、糞尿と混ぜることで堆肥化処理を図ったが、木質ペレットの購入・輸入にコストがかかっていた。

それぞれ課題を持つ両者が手を組み、処理に困っていたバガスと糞尿を混ぜることで堆肥を製造し、島内の農家向けに安価で販売する。種子島では農業肥料を島外から船で運んでくる必要があるため、コスト高となり島内農家の堆肥使用量は大きく減少している。しかし、さかもと牧場が供給する堆肥は、必要なバガスを新光糖業が安定供給するため、島外から移入する堆肥に比べて、トン当たり3分の1以下の価格で販売される。堆肥を利用した農地では、通常の1.5倍ほどにサトウキビの収穫量が増加した事例もあり、多くの農家が格安な堆肥を利用するようになれば、農家の収入アップにつながるとともに、新光糖業で必要とする原料の増加にもつながる。まさに、循環経済の取り組みだ。

牛舎の床に敷き詰められているのが新光糖業から出たバガス。ふかふかのじゅうたんのようで牛のストレスも減少するうえに転倒事故も減ったそうだ
左から、さかもと牧場の羽生氏、新光糖業の長野と長田。耕畜連携の取り組みは長野の発案だ
堆肥センターの様子。1本50メートルはあるレーンに糞尿とバガスを敷き詰め、写真中央の撹拌機で混ぜ込むことで発酵させていく
堆肥は2か月ほどで完成する。糞尿のにおいもせず、発酵により少し温かかった

この他にも、新光糖業は島内で資源の有効活用を検討している。副産物である糖蜜を改質することで、「バイオエタノール」や「バイオディーゼル」の製造研究だ。これらが実現すると新光糖業の新たな収入源につながるだけでなく、島外からの持ち込まれる化石燃料由来の化学品・燃料の需要を減らし、種子島のカーボンニュートラル化にも貢献する可能性がある。

サトウキビ総合産業を作り、島とともにこれからも

砂糖の安定供給のみならず、農家支援や新品種の開発協力によりサトウキビ産業を支え、副産物の価値を最大化することで、島と共存共栄を図る新光糖業。その取り組みは、製糖一筋のサトウキビ産業を、新たな「サトウキビ総合産業」へと進化させつつある。今後の新光糖業に注目だ。

循環経済で種子島に貢献する
  • 新光糖業社長 前田 浩之

    世界中の製糖工場がバガス発電により工場を稼働しており、当社だけが特別なことをしている訳ではありません。その一方、有効利用しきれていない糖蜜や今後さらに増える余剰バガスの再利用を通じて、循環の輪を広げる可能性は残されています。循環経済をさらに大きく回すことにより、これからも地域社会へ貢献してまいります。

(おまけ)自然な風味で人気のきび砂糖

グループ会社の日新製糖(2024年10月よりウェルネオシュガーに社名変更)では、サトウキビの風味を生かした「きび砂糖」ブランドの商品が販売されている。今回、筆者は工場訪問のお土産として特別にきび砂糖をいただいたので、自宅で筑前煮を作ってみた。煮物にうってつけと聞いていたが大正解。一般的な砂糖に比べ、まろやかな香りとコクが出て箸が止まらなかった。日新製糖(2024年10月よりウェルネオシュガーに社名変更)のレシピサイトで、「もっちりイタリアンプリン」というプリン好きにはたまらないスイーツレシピを見つけたので挑戦してみたい。皆さんにもぜひ、日新製糖(2024年10月よりウェルネオシュガーに社名変更)のレシピサイトを参考にきび砂糖を使った風味豊かな料理をお楽しみいただきたい。

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