グローバル事例
蓄電池事業で再生可能エネルギーの普及、拡大へ
―甑(こしき)島リユース蓄電池プロジェクト―
日本
2015年08月掲載
地球温暖化問題が深刻化する中、再生可能エネルギー(以下、再エネ)の普及、拡大は、私たち人類が持続可能な低炭素社会を実現する上で、避けて通ることのできない課題といえます。わが国においても、2012年7月の固定価格買取制度(以下、FIT制度)の導入以降、太陽光発電を中心に再エネの普及が急速に進みました。
しかし、再エネは日照、風などの自然条件によって発電量が大きく変化するため、電力系統(電力会社の発電、送配電を統合したシステム)に大量に接続すると、電力の安定供給に支障を来す恐れがあります。そのため、想定を大きく超えるペースで太陽光発電の接続申請を受けた一部の電力会社では、電力系統の安定確保のため再エネ事業者の接続に一定の制限を掛けざるを得ない事態になっており、このままでは再エネの普及にブレーキがかかりかねません。
こうした中、今後の再エネの普及、拡大の鍵を握るソリューションとして期待されているのが、大容量の蓄電池を用いて電力の需給調整を実現するエネルギーマネジメント事業です。
自治体と共同し、離島に再エネの接続環境を整備する事業モデルの構築に着手
離島のように本土の電力系統から切り離された地域では、再エネによる発電量の変動が系統の安定性に一層大きな影響を及ぼします。そのため、小規模な離島の多くは、再エネを容易に導入できない状況が続いているのが現実です。
住友商事は、そうした離島の一つである鹿児島県薩摩川内(さつませんだい)市の甑島において、自治体と連携して、再エネの接続環境を整備する事業モデルの構築に着手しています。本プロジェクトでは、旧浦内小学校の校庭を活用し、電気自動車(以下、EV)のリユース蓄電池による大型蓄電システム(800kW)「甑島蓄電センター」と、太陽光発電設備(100kW)「甑島・浦内太陽光発電所」を設置し、電力貯蔵システムを活用した新しい電力需給調整モデルを構築する計画です。
甑島では、電力の大半がディーゼル発電によって賄われており、燃料の輸送にコストがかかる上に、二酸化炭素の排出量が多いという課題を抱えています。このディーゼル発電を部分的に再エネに置き換えることができれば、離島の二酸化炭素排出量を大きく削減することが可能になります。さらに、このモデルが実現すれば、台風などによってしばしば停電に見舞われる離島の電力インフラを安定させ、地域の災害対策機能の強化にも貢献することができます。
鹿児島県薩摩川内市甑島の位置
EVのリユース蓄電池を有効活用し、経済性の高い電力貯蔵システムを構築
本プロジェクトでは、電力貯蔵システムを活用した新たな電力需給調整モデルを構築するとともに、最終的には、これを事業として成立させることを目指しています。
そこで重要なポイントとなるのが、コストの安い「EVリユース蓄電池」の活用です。現状では、蓄電池のコストはまだまだ高く、それが電力貯蔵システム構築の最大のハードルになっていました。しかし、EV用としての使命を終えた蓄電池を再利用できれば、比較的低いコストで電力貯蔵システムを作ることができます。 当社は、2013年にフォーアールエナジー(日産自動車との合弁事業)と共同で、大阪の夢洲(ゆめしま)において、世界で初めての大型EVリユース蓄電池システムの実証実験を立ち上げ、技術面の検証を終えています。甑島では、この設計をさらにスケールアップし、日産自動車のEV「リーフ」36台分の蓄電池を再利用して、経済性の高い電力貯蔵システムを構築する計画です。
リユース蓄電池に貯めた電力で系統を通じて再エネの安定化に貢献
本プロジェクトではさらに、電力貯蔵システムを電力系統に接続して運用することに挑戦します。地域に設置される複数の再エネは一つの送配電網でつながっているため、個々の再エネに蓄電池を設置するよりも、電力系統の中でまとめて出力変動を安定化させる方が、より効果的に需給調整ができるからです。九州電力の技術的バックアップを得て、電力貯蔵システムを電力系統の中で活用することにより、再エネの出力変動を効果的に安定化させ、できる限り多くの再エネを島に呼び込むための接続環境を提供したいと考えています。
このように、電力貯蔵システムを系統に接続して、出力変動の安定化のサービスを再エネ事業者に提供する事業は、これまで国内には存在しませんでした。本プロジェクトの事業化を実現するためには、新しい電力関連事業を扱う制度面の整理や、取引の仕組み作りなどに取り組む必要があります。当社は、業界の先駆けとして甑島で本プロジェクトを立ち上げ、蓄電池を活用したエネルギーマネジメント事業を創出して、再エネの普及、拡大に貢献していきたいと考えています。
蓄電池システムの系統接続イメージ
離島から本土、そして海外へ―再エネ普及を通じて持続可能な社会の実現に貢献―
当社は、本プロジェクトの事業主体として、EVと再エネという低炭素社会を実現する二つのキーテクノロジーを橋渡しして、電力、エネルギー関連分野における新たな価値創造を目指します。この取り組みをショーケースとして、地域経済の活性化にも貢献したいと考えています。
蓄電池を核としたエネルギーマネジメント事業は、国内外の小規模な離島で役立つだけではなく、再エネの導入拡大が課題となりつつある本土の生活エリアでも活用可能です。そのためには、社会や環境に貢献すると同時に、安定的に収益を生み出す仕組みを作り、長期的に持続できる事業に発展させていくことが重要になります。
当社は、本プロジェクトを足掛かりとして、蓄電池による電力安定化サービスを提供する新たなエネルギーマネジメント事業を創出し、将来的には、海外の離島をはじめ、電力の需給調整に悩む新興国、電力自由化の進んだ欧米などさまざまな地域で同様の事業を展開し、再エネの普及、拡大による持続可能な社会の実現に貢献していきたいと考えています。
Sumitomo Spirits
電池事業開発部 部長代理藤田 康弘
ビジネスの力で社会が直面する課題の解決に挑む
現在のFIT制度は、太陽光パネルを中心に再エネへの投資を加速させましたが、たとえ環境性に優れた再エネの導入量が拡大したとしても、その発電の変動を安定化させるために火力発電の運転を維持しなければならないのが現実です。今後、再エネを継続的に拡大するためには、蓄電池などの電力安定化技術を含めた新しい電力システム体系を社会に構築していかなければなりません。
今回の甑島リユース蓄電池プロジェクトは、このような課題意識を共有する自治体と民間の共同事業としてスタートしました。国内では前例のないビジネスに取り組むため、技術面や制度面で課題にぶつかることも少なくありません。しかし、まずは一歩を踏み出さなければ、未知の領域を切り開くことはできません。
「再エネ普及を通じて社会に貢献する」という高い志を持ち、正しい道を歩んでいるという信念を持ち続けて、最後までやり遂げることが大切であると考えています。本プロジェクトに参加しているメンバーからの信用が、私たちのチャレンジの大きな支えです。
Stakeholder's Voice
鹿児島県薩摩川内市 企画政策部 新エネルギー対策監 兼 新エネルギー対策課長久保 信治氏
次世代エネルギーを活用した地域活性化のモデルを世界に発信
薩摩川内市では、2013年3月に「次世代エネルギービジョン及び行動計画」を策定し、次世代エネルギーを活用した街づくりを推進しています。その重要なステップとなる本プロジェクトでは、電力規模の小さな甑島に再生可能エネルギーを導入するための環境整備を行うと同時に、新たなエネルギーサービス事業の創出による地域活性化を図ります。
将来的には、再エネの電力を使って島内にEVを走らせ、EVの使用済バッテリーを利用して再エネの一層の普及を図る低炭素循環サイクルの構築を目指します。それによって、エコアイランドとしての甑島の魅力、ブランド力を高め、観光産業の振興にもつなげたいと考えています。
新しい取り組みだけに、技術面や制度面で乗り越えるべき多くの壁が存在しています。それだけに、住友商事の現場に足を運ぶ積極的な行動力と、関係者との調整を図り課題や規制を乗り越えるマネジメント力が、プロジェクト成功の鍵を握っていると感じています。
今後とも住友商事と密接に連携しながら本プロジェクトの実現を図り、次世代エネルギーを活用した地域活性化のモデルケースを、“KOSHIKISHIMA”の名前とともに国内外に発信していきたいと考えています。
キーワード
- エネルギートランスフォーメーショングループ
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- 電力・エネルギー
- 環境
- 輸送機・運輸