グローバル事例

東北に「エジソン」はいた!
~先駆的な金属サイディングを発明 アイジー工業~

広報パーソン探訪記

企画制作チーム多部田 麻子

営業部門にて秘書業務を担当後、2000年に広報部に異動。報道チーム員および住友グループ広報委員会事務局などの経験を経て、現在は企画制作チーム員として社内報、会社案内、会社紹介映像を担当する広報部在籍22年のベテランスタッフ。2児の子育てと仕事の両立に日々奮闘。最近では親離れを始めた子どもたちと一緒に過ごす時間も減り、自分の趣味を見つけることを模索中。

住友商事グループのアイジー工業は、建築用断熱外壁材や、屋根材などの研究開発・製造・販売を手掛け、快適な住まい作りを推進している。特に金属サイディング(戸建住宅用外壁材)の製造、販売分野では、リーディングカンパニーとして知られ、多数の発明特許や業界初の製品を生み出す技術力を持つ。ぜひ同社の経営者の話を伺い、現場を見学したいと思い立ち、山形県にある本社(東根市)と寒河江工場(寒河江市)を訪問。日本初、発泡材を複合した金属サイディングを発明した創業者の思いや、今なお大切に引き継がれるモノづくりの精神など感銘を受けたエピソードがそこにはあった。

「東北のエジソン」と呼ばれた創業者

創業者の石川堯(たかし)氏は、石川瓦工業を経て1968年に石川技建工業を設立。日頃から、冬の寒さが厳しく脳の疾患を患う人が多い東北で、「冬、温かく、快適な住まいを」という思いを抱いていたという。冷え込む冬でも寝床が暖かいのはマットレスを敷いているから。そこに着目し、マットレスの中身であるウレタンとカラー鉄板を一体化した外壁を作ろう……。

そう心に決め、特許庁に駆け込んでウレタンの製造特許を調べてみると、幸運にも有効期限が間もなく切れることがわかった。パテントフリーになれば誰でもウレタンを使うことができる。

1970年、石川技建工業を改組し、アイジー工業を設立して開発をスタート。「人のまねは決してしない」を信条とする石川氏の本領発揮である。優秀な人材確保、資金や原材料の調達、販売ルートの開設など、掲げた目標に向かって邁進する。そしてカラー鉄板とウレタン樹脂の発泡材を一体化した日本初の外壁材を世に出すが、断熱効果が評価され、数年後にはヒット商品となった。以来、金属サイディングのトップメーカーとして、外壁や屋根などの用途に数々の断熱外装材を生み出してきた。「特許王」「発明王」の異名を取り、1999年には勲章(旭日双光章)を受章し、他にも科学技術庁長官賞(現:文部科学大臣賞)、全国発明表彰、東北地方発明表彰など多数の賞にも輝いた。

アイデアと行動力の人、創業者 石川堯(たかし)氏

住友商事との出会い、広がる可能性

石川氏は、70歳を超えた2000年頃から、アイジー工業の精神を受け継ぎ経営を託せる相手を探し悩んでいた。「会社は公器で永続せねばならない。世襲ではだめだ」が彼の信念だった。そんな折、住友商事を舞台にしたドキュメント番組を偶然目にする。7人の住商パーソンが既存ビジネスの枠を取り払い、将来性がありそうな中小企業を見つけ出し投資するというもの。その番組を見た石川氏は、「その相手はアイジー工業がぴったりだ。当社の経営を託せる先は住友商事だ!」と確信。自ら東京・晴海にあった住友商事本社(当時)を訪れ直談判した。

ところが、当社内では、「商社に製造業が経営できるはずがない」などの慎重論があり、なかなか賛同を得られなかった。提携話が進展しないため、石川氏は堪忍袋の緒が切れ、他商社との提携を模索する事態に。そこで、当社の交渉担当だった森安弘(現在、アイジー工業に出向)は巻き返しを図る。彼は、「事業投資のパートナーは、業界2-3位でなく、トップ企業であるべき」を持論として、アイジー工業は相手として申し分ないと判断し、石川氏のチャレンジ精神や社員たちのモノ作りに対する真摯な姿勢にも共感していた。

そこで「百聞は一見にしかず」とばかり、社内関係者とともにアイジー工業を幾度となく訪れ、現場を肌で感じてもらうことで、ファンを増やしていった。アイジー工業創業時から旧住友金属工業製のカラー鋼板の供給窓口として、当社は、同社と長年取引関係にあったことなども功を奏し、2002年5月に業務・資本提携が実現。これが、アイジー工業にとっては、「第二の創業」となった。

2002年に、当社と業務・資本提携がスタート。新・アイジー工業の幕開け

独自のサンドイッチ構造による機能性と美しさ

現在、アイジー工業の製品は大きく分けて3分野。ひとつは「アイジーサイディング」で、住宅などに使われる金属板と断熱材を一体化させた“外壁材”だ。次に、「アイジールーフ」は、木造住宅向けの金属製“屋根材”。3つ目は「アイジーヴァンド」と呼ばれる“鉄骨建築用外壁材”。主に工場や物流センターなど、中規模以上の建築物に活用されることが多く、当社グループの物流施設「SOSiLA」の外壁にも採用されている。

同3分野の商品に共通する特長が、金属製でありながら断熱性に優れ、かつ軽量であること。ポリオールとイソシアネートを混合した断熱材(=発泡材)を、表面材である0.27~0.50ミリメートル厚の鋼材と裏面材で挟んだサンドイッチ構造になっている。この独自構造によって、厳しい冬の寒さや夏の暑さを遮り、屋内の冷暖房効果を高め、快適な住環境をサポートすることができる。機能性・デザイン性に加えて施工のしやすさも特長で、ニーズの高さがそれを物語っている。

こうした製品を生み出すアイジー工業の強みをひとことでいうなら、顧客の細かなニーズを収集する営業部、「挑戦・創造」をモットーに取り組む研究開発部、高い技術力を持つ製造部の3部門が巧みに連携し、開発・製造・販売を自社内で完結できることである。こうしてアイジー工業ではお客さまに喜ばれる製品を生み出すことが可能なわけだ。

2022年4月時点で、特許・商標・意匠登録数は603件を数える。創業当時からの自主技術の確立や独自製品を開発する精神は、このような形で結実し、受け継がれている。

意匠性と機能性を高いレベルで両立した外壁材「アイジーサイディング」
軽量で、耐久性、快適性が融合した屋根材の新しいスタンダートを目指す「アイジールーフ」。なかでも「スーパーガルテクト」は多数の受賞歴を持つ

金属サイディングの業界シェア約40%。飽くなき探求心

一般的に戸建住宅の外壁材は、窯業系と金属系があり、アイジー工業は金属系サイディングでトップシェアを誇る。製品バリエーションも年々増え、最近では金属の質感・美しさを活かしたシンプルモダンシリーズに加えて、窯業系の風合いに負けない木目やレンガ風の質感を表現したナチュラルシリーズも人気だ。

アイジーサイディングが製造される寒河江工場を見学させてもらった。東京ドームのグラウンド5個分という広々とした敷地内にあり、どこもゆったりとしている。

サイディングの工程は、大きく分けて4段階。なかでも断熱材を鋼板に注入するプロセスは、アイジー工業の技術の肝といえる。「断熱材を均等に流し込む方法や、養生機の温度、圧力のかけ方によっても製品にバラつきが出てしまうため独自のノウハウが集約された工程です」と工場長の武田和明は話す。

毎分30メートルのスピードで材料の鋼材が送り込まれ、製品が完成するまで約5分というスピーディーさ。製造ラインは6つあり、1つのラインで4つのバリエーションを作れるなど、工場には改良の積み重ねで随所に創意工夫がある。充実した工場設備も、すべてはお客さまの期待を裏切らない製品作りのために努力を惜しまず歩んできた結果だ。それがアイジー工業の姿勢でもある。

金属外装材アイジーサイディングの製造工程(YouTube)

サイディングの断面図。断熱材を鋼板に注入することで高い断熱性を確保
約80度の養生機に入れて鋼板と断熱材をしっかりと密着させる

これまでの50年、これからの50年

2020年に創業50周年という大きな節目を迎えたアイジー工業だが、企業理念策定のために、社内ブランディングプロジェクトが先行してスタートしていた。2016年度に社員アンケートや取引先インタビューを実施。翌年には、それらの結果で浮かび上がった「将来ありたい姿」と「課題解決」の2つのキーワードを軸に、選抜された社員を中心にして議論を重ねた。

そして、経営層の意見を踏まえて完成した企業理念が、「わたしたちは、豊かな発想力と確かな技術力でニッポンの建物を強く、優しく、美しく包みます。」というもので、2017年12月に発表し、本社では毎日朝礼時に、唱和しているという。

アイジー工業を訪れてみて感じたのが、明るくアットホームな雰囲気だった。その理由は、重要な企業理念を決めるにもトップダウンではなくボトムアップで決定するなど、社員の声を大切にすることで一体感が醸造されているからなのかもしれない。

そういえば、寒河江工場のエントランスには大きなワシの銅像がある。創業者の石川氏が中国から運び込んだものだという。地に足を着けつつ大きく羽を広げる雄姿は、これまでの50年を土台に、100年企業に向けてはばたくアイジー工業そのもののように見えた。

寒河江工場のエントランスにあるワシの銅像。これからの50年を見据えているかのよう

(おまけ)広報パーソン山形探訪記

アイジー工業の本社がある山形県東根市といえば、さくらんぼが有名。最寄り駅も「さくらんぼ東根」と、かわいい名称が付いている。取材に訪れた9月上旬、本社近くのファーマーズマーケット「よってけポポラ」には、桃やぶどう、ラ・フランスなど色とりどりの果物が販売されていて、まるでフルーツ王国。そして、食べ物でもうひとつ忘れてならないのが、肉そば。山形県は長野県に次いでそばの消費量が全国2位といわれている。そばの名店も多く、種類も多彩だが、地元民がこよなく愛するのが、肉そば。コシのあるそばに、しっかりとコクのある鶏だしのツユが相性抜群。肉はもちろん鶏肉。ただ意外なことに、一年を通じて冷たい肉そばの方が人気だそうだ。山形を訪れたら、ぜひ、ご賞味を。

季節の果物が並ぶ「よってけポポラ」
名物肉そばは食べ応えも十分。付け合わせは、いかげそ天ぷら

2023年02月掲載

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