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2023.12.15

もみがらから無限の可能性。新ビジネスを共創する「Rice Phone」のチャレンジ

農業廃棄物である籾殻(もみがら・米の外皮)からさまざまな物をつくり出すというアイデアを起点にして、「お米を通して、みんなが幸せになる世界を実現したい」と語るグリーンケミカル開発部の伊藤直也。今回は、2020年度に社内起業制度「0→1(ゼロワン)チャレンジ(※)」で採択され、Rice Phoneプロジェクトの事業責任者となった伊藤の、プロジェクトにかける思いに迫ります。

※所属・職位・年次を問わず、全世界の住友商事グループ社員を対象に、新たな事業アイデアの実現を支援する社内起業制度。今までにない新たな発想(ゼロ)から次世代のビジネス(ワン)を創造する、というコンセプトで、2018年にスタート。18年度から22年度の5年間で、約1,000件の応募があり、過年度のもの含め11件が事業化に向けた活動を継続している。

  • グリーンケミカル開発部

    伊藤 直也

    2009年住友商事入社。アグリサイエンス部で農薬トレードに従事した後、メディカルサイエンス部の化粧品チームに配属。17年、事業会社であるブラジルの化粧品素材ディストリビューターに駐在派遣。20年度「0→1チャレンジ」に応募・採択され現職に至る。「誰も登ったことのない山に登りたい」という飽くなき挑戦心を胸に、自然の中に身を置きながらアイデアを練っている。

シリカの原料を、エコなものに置き換えられないか? すべてはここから始まった

まず、Rice Phoneプロジェクト立ち上げに至るまでの歩みについて教えてください。

最初の配属部署アグリサイエンス部では、まさにRice Phoneプロジェクトの「米」に近い分野である農業関連の業務に従事しました。当時から、農薬を売り買いするだけでなく、収穫物である穀物などを含めた農業のバリューチェーンをつなぐことに興味を持っていました。

その後、2011年からメディカルサイエンス部に新設された化粧品チームに配属され、化粧品によく使われるシリカ(ケイ素)メーカーの研究者と出会い、地球環境に配慮した次世代の化粧品向けシリカ開発について話し合う機会に恵まれました。

当時から化粧品業界はサステナビリティへの関心が高く、新しいシリカを開発するのではなく、原料自体をエコなものに置き換えた方が、商品訴求が高いのではないかという議論になりました。仮説をもとに、籾殻からシリカを抽出することを検討し始めたのがRice Phoneプロジェクトの始まりです。

その後、私がブラジルに異動してから、いったん案件が止まっていましたが、後に「0→1チャレンジ」の制度を知り、応募に至りました。培った経験が生かせることや、所属の垣根を越えて、マネジメント層を含めた全社的な支援を得られる「0→1チャレンジ」制度に大きな意義と心強さを感じました。

あらためて事業の構想と、ユニークなプロジェクト名の由来を教えていただけますか?

廃棄される大量の籾殻。焼却時に発生する煙や悪臭のため、焼却処分が禁止されている地域も多い

前提として、世界の籾殻の年間発生量はアジアを中心に約1億トン以上、日本においては約200万トンともいわれています。一部は燃焼エネルギー源として利用されていますが、残りは廃棄物となり、環境汚染の原因にもなっています。

私が考えたのは、廃棄対象の籾殻からシリカを抽出して、化粧品や半導体、タイヤの素材などに活用するビジネスモデルです。さらに、籾殻自体をバイオマスエネルギーとして利用することも構想に組み込んでいます。

シリカは安定した物質のため、昔からさまざまな用途に使われてきました。現代でいうと、スマートフォンの素材となる半導体もその一つ。スマートフォンに籾殻由来のシリカが使われるような状況になったら面白いと考え「Rice Phone」と名付けました。

「籾殻」を取り巻く課題を、総合商社ならではの強みで解決したい

籾殻をスマートフォンや化粧品に生まれ変わらせるという斬新な発想ですが、アイデアを形にするまでの過程で苦労したことはありましたか?

実は籾殻の有効活用については古くから各地で研究されていました。特に日本企業や大学を中心に、すでに多くの先行研究論文やプロジェクトの存在があります。そうしたさまざまな知見を組み合わせて、現在のRice Phoneプロジェクトの形に着地しました。

籾殻シリカについても、多数の試みが行われており、技術的にも確立されているため、アイデアを固めること自体に苦労はありませんでした。

ただ一方で、籾殻の有効活用は農業・化学・研究など分野ごとにそれぞれ独立・分散していて、大きなうねりになっていませんでした。そのため、廃棄物としての籾殻問題は依然として残っていますし、市場も確立できていません。対して私たち総合商社は、異業種間のネットワークをつなぎ合わせることができるのが強みです。点と点を着実につなぐことで、新規事業としての勝機を感じました。

お米が主食の国に生まれた人間である以上、お米の籾殻が不要なものとして扱われていることや、籾殻の焼却処分で健康被害を受けている人、損している人がいるという課題を解決したいという思いがあります。

新規プロジェクトを立ち上げ、道を切り開いていくことに不安を感じることはありませんか?

近年では、バイオマス資源としての籾殻の利活用に注目が集まっている

不安感はあまりないですね。社内外にたくさんの仲間がいるからです。これまで日が当たってこなかった領域のため、同志が増えることを、周囲も前向きに受け止めてくれている感覚があります。

プロジェクトに興味を持った方が快く協力してくださることにありがたさを感じるとともに、いざプロジェクトが始まったら、個人としての力量が試されることへの、やりがいと緊張感はありますね。

新たな挑戦と、「0→1チャレンジ」を通して思い出した初心

Rice Phoneプロジェクトの現在地と今後の展望についてお聞かせください。

今回のプロジェクトは、ビジネスとして成立する市場をつくる意味でも、もちろん住友商事としても、ゼロからの挑戦になります。

総合商社ならではのネットワークが活用できる一方で、事業としてスケール化する上では、社外からも社内からも、Rice Phoneプロジェクトの事業としての核となる機能を問いただされることになります。自分たちは一体どんな機能を持ち、それらを発揮できているのか?と常に自問自答しています。これは非常にチャレンジングなことで、苦悩でもあるんです。

一方で、少しずつ事業としてのオリジナリティーも見えてきました。籾殻の燃焼ではなく、熱分解によるガス化・油化や、炭化物からの活性炭・バイオ炭などの製造などです。多様なアイデアを組み合わせることで、当社ならではの新しい価値を提供できると捉えています。

一例が、ソニーグループとの共同事業です。同社は、以前より籾殻から天然由来の多孔質カーボン素材を作ることに取り組んでいました。当社がシリカを抽出した後の籾殻を、この多孔質カーボン素材製造にも活用する。つまり同社と住友商事が共創することで、事業性も2倍になり、収益化の可能性も広がります。このビジネスモデルは世界的にも珍しいことで、23年10月には環境省の助成金も獲得しました。

また、国内だけでなく、20万〜50万トンレベルで籾殻を排出しているタイやベトナムの業者とも提携でき、事業規模も十分な大きさになってきました。事業の広がりを受け、化粧品やタイヤメーカーなどとの話も進んでいます。

廃棄されるはずだった籾殻に大きな可能性を感じますね。最後に、新しいことへの挑戦を迷っている方へ向けて、メッセージをお願いします。

「0→1チャレンジ」での経験を通して、住友商事に入社したときに抱いた「さまざまな人と共に新しいことを、グローバルレベルで実現したい」という熱意を思い出させてもらいました。実際に新しい業界に飛び込んだことで、アイデアを出し、事業構想を練り、外部を巻き込んで新しい事業を構築していくことに対して、勝手に抱いていた恐れも払拭できました。

新しいことに挑戦するかどうか悩むのだったら、挑戦した後で悩みましょう! 自分自身、Rice Phoneプロジェクトが採択されてからも、新たなプロジェクト案件を2年連続で計6件応募して、全部落ちてしまいました。だけどきっと、来年も応募すると思います。

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