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2023.10.2

「発明大国」イスラエルで、次世代スタートアップを発掘

「スタートアップ大国」として知られるイスラエル。
人口約950万人、四国程度の広さの国土に約6,000社がひしめく世界有数のスタートアップ集積地としてグローバル企業の注目を集めています。
IN Venture(イン・ベンチャー)はイスラエル国内にある住友商事のCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)で、2019年6月に設立されました。ディープテック、すなわち世界に大きな影響を与え、住友商事の多様な事業活動を一変させる可能性を持つ高度な科学・エンジニアリング技術を有するスタートアップ企業に投資することを目的としています。
今回はIN Ventureの4人のキーパーソンへのインタビューです。

この記事は2023年3月に公開された内容です

  • IN Venture

    エイタン・ナオール

  • IN Venture

    エイアル・ロスナー

  • IN Venture

    内村直矢(“Nick”)

  • IN Venture

    高田寛之(“Roy”)

イノベーションの原動力は「必要に迫られていること」

そもそも、なぜイスラエルのような小さな国に多くのスタートアップ企業が集まっているのでしょうか。
「必要は発明の母」―これこそ、イスラエルが発明大国となり、スタートアップが続々と生まれていることの答えです。国土が小さく、降雨量も少ないイスラエルでは、水や食糧、エネルギーといった天然資源が常に不足しています。また、近隣諸国と長年対立してきた関係で、防衛にリソースを割く必要もありました。こうした背景から、イスラエルは限られた資源を効率よく使い、長持ちさせる力を身につけたのです。人々は工夫して解決策を練り、独自の文化を築いています。

「イスラエルでは、サステナビリティへの取り組みはだいぶ前から始まっていました」とエイアル。「たとえば、私たちは50年前から太陽光を使って水を加熱しています。水の消費を抑えながら農作物の収穫量を増やす“点滴灌漑”という手法も発明しました。海水淡水化の技術も、世界でトップクラスです。このようにあらゆる障壁や困難を乗り越え、私たちは“問題解決力”を身につけました。人々は、持続可能性の高いイノベーティブな解決策を編み出すことに長けており、政府もそうした取り組みを支援しています」

「スタートアップ大国」から「スケールアップ大国」へ

新型コロナウイルス感染拡大の影響下でも、イスラエルは問題解決力を発揮しています。IN Venture設立からわずか半年後の2020年2月、コロナ禍が始まり、世界中の経済にかつてない混乱を引き起こしました。国をまたいだ移動はストップし、企業はリモートワークに切り替え、ベンチャー・キャピタルなどの投資家は非常に用心深くなりました。

しかし、イスラエルの人々は技術を駆使して危機に対処することに慣れています。政府が早々にワクチン接種計画を立て、国民もすぐに受け入れた結果、イスラエルは最も早く経済活動を再開した国の一つになりました。さらに言えば、ただ「再開」しただけでなく、「発展」もしました。その理由は、コロナ禍がデジタル・トランスフォーメーション(DX)を加速させたこと。在宅勤務者が増えたことで、インターネットやデータの使用量が急増し、通信速度や電力、そしてサイバーセキュリティのようなサービスへの需要が拡大しました。

特に大きかったのは、オンラインでの販売や取引が広がったことです。物理的な距離の制約がなくなり、イスラエルのスタートアップは、より対等な条件で大手のグローバル企業と戦えるようになりました。こうしたスタートアップの多くは、わずか2~3年で収益を数百倍に拡大。ユニコーン企業(企業評価額が10億円以上で設立10年以内の未上場スタートアップ企業)の数は増加の一途をたどっています。かつての「スタートアップ大国」は、今や「スケールアップ大国」となったのです。

住友商事グループの知見を活かし信頼を築き、価値をもたらす

「すでにご存じだとは思いますが、イスラエルは自国の市場が大きくありません」とエイタン。「米国では、大半のスタートアップ企業がまずは国内市場の独占を目指します。これに対しイスラエルのスタートアップ企業は、最初から国際市場を見ています。ただ、その視線が向かう先はイスラエルの“西”、すなわち米国やヨーロッパです。住友商事が拠点を置く日本など、イスラエルの“東”の国々に注目してもらうためには、どうすればよいか?そこで、私たちIN Ventureの出番です。住友商事とのつながりを活用して信頼の構築や価値の創出ができれば、より優良な案件にアクセスができ、起業家に住友商事や日本をターゲット市場として見てもらえます」

ただし、信頼関係を築くためには、きっかけが必要です。何のつながりもなく、いきなりイスラエルのスタートアップ市場に参入することは非常に困難です。そこで、IN Ventureは日本とイスラエルのハイブリッドなチームを構成しています。

高田は語ります。「住友商事の他のCVCは本社からの駐在員が主導していますが、IN Ventureは2人のイスラエル人のマネージングパートナーが率いている点でユニークです。IN Ventureの設立以前、住友商事はイスラエルでプレゼンスがありませんでした。それを短期間で高めることができたのは、すでに人脈を有し、イスラエルのビジネス・エコシステムに精通している2人の力が非常に大きかったです」

IN Ventureは通常、スタートアップ企業への投資時に、住友商事グループの知見を活用して協業を進め付加価値を提供できるよう、エイタンとエイアルが当該企業の取締役として参画をします。製品やソリューションをそのまま日本やアジア諸国に輸出・販売するケースもありますが、住友商事グループの既存製品と組み合わせ、モビリティーやエネルギー、ヘルスケア、農業などの領域で新たなビジネスの創出も目指します。IN Ventureが価値をもたらす理想的な戦略パートナーと見られれば、起業家やベンチャー投資家から共同投資者に誘われる機会もその分増えていきます。

小さな国土に集約された、巨大なスタートアップ・エコシステム

設立以来、IN Ventureは8社に投資し、1社はイグジットしています。投資先は、グリーン水素※製造の画期的な手法を開発したH2Pro(エイチ・ツー・プロ)社から、量子コンピューティングに使われるプログラミングの効率を高める製品を開発しているClassiq(クラシック)社まで、多岐にわたります。

イスラエルが比較的小さな国であることも、IN Ventureにとってメリットとなりました。「イスラエルがゲーム・チェンジを起こすような革新的なスタートアップを多数輩出していることは、10年以上前から知っていました」と内村。「例えるなら、米国のビジネス・エコシステムが、日本の四国地方ほどの面積に集約されている、それがイスラエルです。ほんの小さな国土に、数々の質の高いスタートアップが集まっているのです」。米国のような広大な国と違って、地理的に“集約”されたイスラエルのエコシステム。それは、IN Ventureがあらゆる有力企業に手広くアプローチすることを可能にしています。

※グリーン水素:再生可能なエネルギーから製造した水素

より良い成果を求めて、スピードと質の向上を

IN Ventureは今後、さらに事業を拡大・加速していく予定です。確固たる事業基盤を土台として、より良い成果を求め、スピードと質を向上させていきたいと考えています。「競争の激しい市場なので、誰も私たちを待ってはくれません」とエイタン。「また、ベンチャー・キャピタルの世界では規模が重要です。成果を上げても、資金規模が小さければ、小さな戦いしかできません。私たちの目標は、規模を拡大していき、イスラエルでより名をはせ、一目置かれる存在になること。そして住友商事グループのさらなる価値創出に貢献していくことです」

  • IN Venture

    エイタン・ナオール

    「若手の皆さんにお伝えしたいです。将来を担う皆さんは、実はイスラエルの投資家とさまざまな共通点を持っているように感じます。ぜひ、彼らと関わってみてください。お互いに得るものが大きいはずです」

  • IN Venture

    エイアル・ロスナー

    「日本とイスラエルは、お互いに補い合えるところが多いと思います。それが、両国の連携で生まれる大きな価値を生むことにつながると思います」

  • IN Venture

    内村直矢(“Nick”)

    「イスラエルは本当にわくわくする場所です。『百聞は一見にしかず』、ぜひイスラエルに来て、その目で確かめてみてください。お待ちしています」

  • IN Venture

    高田寛之(“Roy”)

    「イスラエルはビジネスという観点で注目されていますが、世界遺産や歴史的な場所、美しい景色、美味しいワインなど、他にも魅力がたくさんあります。ぜひ一生に一度は訪れていただきたいです」

IN Ventureの投資先企業の一部を紹介

H2Pro

H2Proは、イスラエル工科大出身の優秀な水素研究者により2019年に設立されました。現在、水素は産業で幅広く使われており、毎年7,000万トンが消費されています。しかし、その膨大な量の水素を製造するために、化石燃料を使って大気中に莫大な量のCO₂を排出しているのです。この問題を解決するため、H2ProはCO₂を排出しない新たな水分解の手法「E-TAC(電気化学―熱活性化学)」を開発しました。化石燃料を用いた場合と比べても遜色のない、95%以上の効率・安全性・価格競争力を実現できます。住友商事は投資を通じて同社の既存事業の成長と新規事業の創出に貢献し、水素社会実現に向けた取り組みを後押ししていきます。

Classiq

量子コンピューターをビジネスに活用できれば、さまざまな分野で可能性が広がるといわれています。ただ、現実の課題解決に量子コンピューターを使うためには、「計算モデルとなる量子回路を設計する」という人の手では不可能なタスクが必要になります。そこでClassiqは、標準的なプログラミング言語から量子回路を自動設計する技術を開発しています。成功すれば、量子コンピューターをより手軽に活用できるようになります。

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