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2024.8.7

Business

スタートアップ「つくりおき.jp」と伴走する、住商ベンチャー・パートナーズの有言実行力(後編)

住友商事(以下、住商)が設立した国内CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)の「住商ベンチャー・パートナーズ(以下、SVP)」。創業メンバーが企業理念などを語った前編では、強みの一つとして「事業プロデュース」が挙げられました。その「事業プロデュース」とは実際にどのようなものなのか。後編では、投資アソシエイトの秋庭祥平と、投資先の株式会社Antway 代表取締役社長CEO 前島恵に話を聞きました。

  • 住商ベンチャー・パートナーズ 投資アソシエイト

    秋庭 祥平

    2019年に住友商事に入社後、メディア・デジタル業務部にて、メディア・デジタル事業部門全体の戦略立案、業績管理、広報・IR業務に従事。22年7月より新事業投資部にて、グローバルCVCの統括運営、SVPの事業開発を担当し、23年6月より現職。

  • 株式会社Antway 代表取締役社長CEO

    前島 恵

    2015年、リクルートに新卒入社。保険系新規サービスの開発統括、美容系予約サービスの開発統括、新規事業立ち上げなどを経験。18年、リクルートを退社し、Antwayを創業。

急成長のスタートアップが期待したSVPとのシナジー

まずは、住商ベンチャー・パートナーズがAntwayに投資することになった経緯を教えてください。

秋庭 Antwayとの出会いは、他のベンチャーキャピタル(VC)からの紹介です。Antwayが運営する「つくりおき.jp」の事業内容に可能性を感じて、2023年5月に出資しました。

前島「つくりおき.jp」は、管理栄養士の監修の下、プロが手作りしたお総菜を、毎週ご家庭に冷蔵でお届けする宅食サービスです。1食あたり700円台で、毎日の夕飯づくりを丸っと代行します。サービスを通じて、拡大する共働き世帯や子育て世帯の家事負担の軽減を目指しています。

秋庭 SVPが注目したのは、「つくりおき.jp」の顧客満足度や顧客の獲得効率を示す指標が、他のtoC向け類似サービスと比較しても、群を抜いていたことです。「食事準備の時間不足・ストレス」というペインを抱えている共働き世帯の、潜在的なニーズの高さが表れていると感じました。

住商内ユーザーの評価が高かったことや、実際に試食してみて商品のクオリティーが非常に高かったことも、判断材料となりました。

Antwayは、SVPのどんなところに期待していましたか?

前島 SVPから出資を受けたのは、シリーズC(※1)の段階。顧客数は着実に伸びている状況で、Antwayとしては、さらなる認知度向上を狙う一方で、全国的な食材調達などバリューチェーン全体に対する課題感を持っていました。

その点、SVPは総合商社のCVCなので、食材の仕入れや営業において知見がある。また、住商グループは、スーパーマーケットのサミットをはじめ小売業も展開するなどさまざまなアセットを持っているので、独立系VCとは全く異なるシナジーがあるのでは、と期待していました。

※1 スタートアップの投資ラウンドにおいて、黒字経営が安定しており、IPO(新規公開株式)やM&Aといったイグジット(ベンチャービジネスや企業再生などにおける投資回収)を目指す段階

大手企業へのネットワークを生かし、BtoBビジネスを提案

投資後、SVPはAntwayの事業開発支援として、法人向けサービスを提案し、まずは住商内の福利厚生サービスとして「つくりおき.jp」を導入しました。どういった狙いがあったのでしょうか?

秋庭 スタートアップは、どうしてもリソースや人材が限られ、認知度アップに限界があるため、SVPはそこをサポートしていこうという狙いがありました。AntwayはtoC向け販売を中心にしていたため、SVPは大手企業へのネットワーク・販売という得意分野を生かし、toBの領域に拡大していくという企画・提案を行いました。そこで、共働き世帯が多く働く大手企業に直接営業する福利厚生型のサービスが最適だと考えたのです。

事業開発においては、SVPとAntwayでどのようなコミュニケーションを取っていましたか?

秋庭「BtoB事業をどのように展開していくか」という議論を始めるにあたっては、SVPとAntway、そして住商で食料・食品全般を取り扱う部署・食料SBUも含めた関係者で毎週定例ミーティングを実施しました。顧客のピックアップや提案方法から、社食にするか個別宅配にするか社内冷蔵庫の設置にするかといった商品設計まで、ミーティング以外の場でも日々細かくすり合わせていきましたね。

Antwayは急成長しているスタートアップ。日々状況が変わっていくため、お互いの進捗確認を密に行うことが重要でした。

ズレがあっても「一緒に乗り越える」。モメンタムの共有で事業開発を継続

事業開発を進める中で、課題や苦労したことはありましたか?

秋庭 当初、Antwayが解決したい課題とSVPが解決したい課題で齟齬があったことです。

前島 SVPはBtoB展開によって「つくりおき.jp」の認知拡大を支援したいという意向でしたが、Antwayは、曜日によってお客さま需要に差があるという喫緊の課題を抱えていました。月曜受け取りは一番人気で、逆に週後半の受け取り枠が余ってしまうという状況でした。

そうした優先順位のズレをどのようにすり合わせていったのでしょうか?

秋庭事業の成長にはBtoB展開の実現は必須と考えていたため、Antwayが解決したい需要の低い曜日の課題も念頭に置きつつ、住商でのトライアル販売を同時並行で進めていきました。工夫次第でどちらも実現できると思い、話し合いを重ねていったのです。具体的には、週ごとにAntwayの製造キャパシティーを確認しながら、需要の低い曜日と高い曜日の割引率を変え、需要の低い曜日の集客を強化するサービス設計にしました。一部の受け取り枠では需要が供給を上回る状況でしたが、Antwayの製造キャパシティーも少しずつ増えた結果、BtoB展開が可能になりました。

前島 結果として、中長期的なチャネル開発と短期的な需要の低い曜日の解消という、両方の課題に生きる策が講じられたのは、とても意味のある取り組みになりました。

秋庭実際、最初にそういう相違があると、「時間がたってからでいいか」など、事業開発がトーンダウンしてしまいがちなのですが、モメンタム(勢い)を失わずに取り組んでいくことを心がけましたね。

前島 スタートアップは、基本的に課題や問題ばかり発生して、成功するのはたまにしかありません。そんな中、「一緒に乗り越えよう」というモメンタムを共有できていないと、 絶対途中で立ち消えになります。そうした熱量の高さを維持するために、週1の定例ミーティングがあったのは、本当にありがたかったですね。

そういった「実現力」がSVPの他のVCとは異なる特徴・強みになるのでしょうか?

前島 まさにSVPの強みは、やると言ったら行動に移す「有言実行力」に尽きると思います。出資検討なども含め、今まで100社ほどのVCとコミュニケーションを取ってきましたが、SVPの有言実行力はお世辞でなくVC業界1位だと思います。

当初は、1例でも共創事例ができたらいいなと思っていたのですが、企業向け福利厚生サービスだけではなく、現在は製造キャパシティーの拡大を目的としたフランチャイズ事業においても支援していただくなど、何事にもスピード感を持って取り組んでいただいています。

需要から供給まで。「事業を作る」SVP流の支援でIPO目指す

先ほど製造支援というお話もありましたが、現在両社で取り組んでいる事業開発や今後の展望を教えてください。

前島 BtoB展開の営業や今後需要が拡大したときの食材供給、将来的には海外展開など、あらゆる領域で支援いただきたいなというのは前提としてあるのですが、まずは、SVPにもご支援いただきながら、フランチャイズ展開でさらに製造パートナーを増やしていけるように尽力していきたいです。

秋庭 投資だけではなく、一人の商社パーソンとして、スタートアップとともに「事業を作る」のがSVPのマインド。IPOを目指すAntwayにとっても、SVPとの取り組みが将来的に大きな価値になると信じて、これからも伴走していきたいです。

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