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2024.7.22
Business
創業メンバーが語る、商社流スタートアップとの向き合い方|住商のCVCとは(前編)
2022年4月に住友商事(以下、住商)の国内CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)として新設された「住商ベンチャー・パートナーズ(以下、SVP)」。住商が持つ既存アセットを活用し、次世代エネルギー、社会インフラ、リテール、ヘルスケア、農業など幅広いジャンルのスタートアップに投資しています。今回から2回にわたって、SVPだから提供できる価値や魅力に迫ります。前編は、SVPの創業メンバー、代表取締役社長 山木英裕と南昇吾に大切にしている信念や掲げるビジョンなどを聞きました。
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住商ベンチャー・パートナーズ 代表取締役社長
山木 英裕
大手総合商社での、IT・ライフサイエンス分野における事業投資・CVC・トレーディング業務を経て、官民ファンドにて、ベンチャーキャピタル業務に従事。その後、大手広告代理店にて、新規事業開発を担当。2019年に住友商事へ入社。2022年4月より現職。
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住商ベンチャー・パートナーズ シニアアソシエイト
南 昇吾
2020年に住友商事へ新卒入社。新事業投資部にて米国ベンチャー投資会社 Presidio Ventures,Inc、中国ベンチャー投資会社Sumitomo Corporation Equity Asia,Incの投資支援業務、および投資先の日本展開支援に従事。2022年4月より現職。趣味は、スタートアップトレンドを分析すること。
投資先の営業まで。有言実行の事業開発力やアセット活用が強み
2022年に日本国内のスタートアップに投資するCVC「住商ベンチャー・パートナーズ」が設立されました。その背景や事業概要を教えていただけますか?
山木 住商におけるCVCの歴史は古く、一番初めは1998年に米国シリコンバレーでPresidio Ventures(プレシディオ・ベンチャーズ)を立ち上げたところに端を発します。その後、中国、イスラエル、英国などにも拠点を設立し、グローバルで累計300社以上に投資してきました。2010年代以降には国内スタートアップの数や投資金額が増えていき、市場の環境が整ってきたことで、日本でも「国内でもスタートアップ投資における専門部隊が必要だ」という機運が高まりました。元々、日本国内でも商社としてさまざまな企業に対して事業投資を行っていましたが、やっぱりスタートアップ投資はまた別物ですから。
南 1件の投資規模は、5000万〜2億円。投資ステージは、主にシリーズA(※1)以降を対象としていますが、一部シード(※2)も扱っています。投資領域は、DX、リテールコンシューマー、アグリフード、次世代エネルギー、ヘルスケア、社会インフラと幅広くカバー。まさにオールマイティーに対応していますが、それができるのは多様な事業を展開する総合商社ならではの強みだと思います。
※1 スタートアップに対して投資を行う段階の一つ。製品・サービスをローンチし、本格的に事業をスタートする段階を指す
※2 大枠のビジネスが定まったものの、製品・サービスの具体的な内容や販売方法などは決まっておらず、プロトタイプを開発している段階
SVPが提供できる価値や強みは何でしょうか。
山木大きく二つあって、一つ目は「事業プロデュース」を行っている点。二つ目は、住商グループが持つグローバルなネットワークや多岐にわたるアセットを提供することができる点です。
一つ目の「事業プロデュース」とは、どういうことでしょう?
山木SVPは、CVCの中では後発なので、認知度や実績もない中、どこで勝負していくかというと、「事業を一緒に作っていく」という商社ならではの部分だと思います。スタートアップのために新規顧客を探し、彼ら単独ではできない新規事業を提案するというのが、私たちの「事業プロデュース」です。
私は、事業会社でのCVCや官民ファンドなど、ベンチャーキャピタル(VC)業界で多くの経験を積んできましたが、事業開発までやるCVCは、ありそうでないんですよ。「こんなことをやりましょう」ってプレゼンテーションするところは多いけれどそこで終わるのではなく、その先の一緒に営業したり、実際にそれを事業にまで落とし込んだりするところまで伴走することが大事だと思います。
実際、次世代型提携クレジットカードを提供するナッジへの投資が決まったときも、最初の半年くらいはSVPの社員総出で30社以上にクレジットカードの営業を行いました。ナッジは、アーリーステージ(※3)での投資だったので、とにかく売らないと何も始まらない段階。また、一緒に動いてみることで、ペーパー上の分析だけでは分からなかった発見もたくさんありました。投資するにあたってDD(※4)を行いますが、本当にその商品を担いでみないと分からない、あらかじめ立てた仮説の検証もでき、私たちにとっても学びがありました。
※3 起業前後、本格的に事業を始める前の準備段階
※4 デューデリジェンス(Due Diligence)。投資をするとき、投資対象の企業について、投資先の価値、リスク等の調査を行うこと
二つ目の「住商グループが持つグローバルなネットワークや多岐にわたるアセット」というのは、具体的にどのようなものが提供できるのでしょうか?
南住商は、国内外に900社以上のグループ会社があるので、スタートアップの事業拡大・海外展開に貢献することが可能です。
例えば、SCSKやJ:COMといったメディア・デジタル領域のほか、スーパーマーケットのサミットやドラッグストアのトモズのようにリテールビジネスを展開する事業会社を多く持つのが、他の商社と比べたときの特徴だと思います。
「南さんがいるから一緒にやろうと思った」。愚直に築いたスタートアップとの信頼
山木さんと南さんは、創業メンバーですが、立ち上げ時に苦労したことはありますか?
山木 実はSVPの構想自体は、早い段階から明確にイメージができていたので、そんなに苦労はありませんでした。私自身、さまざまなスタートアップ投資経験を積んできた上で、「投資スキルに加えて商社流の事業開発でスタートアップに貢献することを併せ持つCVCを創る」ことができれば、日本のスタートアップ投資業界で唯一無二の存在になれると考えていたからです。でも、やっぱり唯一の現場担当者として動いていた南さんは、いろいろ苦労したこともあったと思います。
南 そうですね。会社としての評価が、自分のソーシング(投資先企業を探すこと)次第で決まってしまうというプレッシャーは感じていましたね。投資先を探すためには、VC同士のネットワークが重要になるので、最初はとにかくVCとのランチや飲み会、ミートアップに参加し続けて関係構築に注力しました。そのかいあって、徐々に他のVCから紹介もいただき、実績ができてきました。
個人的に転機になったのは、Eコマース×M&Aでモノづくりブランドの承継や成長支援を手がけるforestへの投資が決まったときです。このときも、SNSでforestの社長ご本人にいきなりDMを送って、最初は怪しまれながらだったんですけど、自分で見つけてきたスタートアップと信頼関係を築き、投資までつなげることができたのは、自信につながりました。
山木 南さんがすごいなと思うのは、何事も愚直に取り組むところ。あとは、就職活動している段階から「スタートアップが好き」と言い続けていることも面白いです。
南 「スタートアップオタク」なんです。趣味と仕事の境目がなくなるくらい、世界中のスタートアップについて調べたり、トレンドを分析したりしています。将来はやる事業アイデアを想像し、VCや起業家と話しながら理解を深めることがとにかく好きで。だからこそ、投資先から「南さんがいるから一緒にやろうと思った」と言われたときは、すごくうれしかったです。
大切なのはシャープな視点。大きなビジョンを持つ起業家に伴走したい
「イノベーティブ大企業ランキング2024」(※5)というスタートアップ企業1,186社を対象としたアンケートに基づく人気ランキングでは、上位20位にランクイン、商社カテゴリでは昨年に続き1位を獲得。スタートアップとの連携を通じたオープンイノベーションが、実際に評価され始めているのを感じます。これまでの支援事例の中で、投資先からはどのような評価や反応がありましたか。
山木SVPを設立してから約2年間で、約500件のスタートアップと面談し、現在は8件の投資実績があります。
その中で例えば、Webtoon(縦読み漫画)事業を展開するソラジマのCEOから、「堅実に事業を伸ばせ、というアドバイスが多かった中、もっと大きな事業を作って世界を目指せ、と最初から言ってくれたのはSVPだけ」と言ってもらえたのは印象に残っています。
※5
今後のさらなる飛躍が期待されますが、最後にSVPとしての展望を教えてください。
山木CVC自体、まだまだ未完成のビジネスモデルであり、世界的に見ても成功パターンは確立されていません。だからこそ、SVPならではの事業プロデュースを通じて、スタートアップや業界から評価される実績を残し、「CVCのあるべき姿」を示していくことが重要になります。これからも世の中の未解決なペインを捉えて、それを私たちが想像もしないようなシャープな視点から解決しようと取り組んでいる起業家を全力で応援していきたいと考えています。
南 SVPは「事業プロデュース」を掲げていますが、実際に汗をかいて事業を作るということを、ここまでちゃんと明言してやっているところはかなり珍しいと思います。まだ実績は少ないですが、これが本当に軌道に乗り始めたら大きな強みになるはず。「新産業を開拓するスタートアップに投資し、日本の夢をプロデュースするCVC」として、大きな夢とビジョンを持ち、イノベーションを生み出す起業家に伴走していきたいですね。