グローバル事例

東北最大級の木質バイオマス発電所、
山形県酒田市で商業運転開始

広報パーソン探訪記

2018年11月掲載

報道チーム渡辺 ひかり

2017年入社。現在、広報部報道チームでインフラ事業部門、人材・法務・総務を担当。プロフィール写真は高さ50メートルあるボイラー棟の屋上で撮影したもの。ヘルメットが入らないこと(後に、緩め忘れだったことが発覚)と高所(わりと苦手)のダブルパンチでダメージを受けた際のワンショットである。

2018年8月、山形県酒田市で酒田バイオマス発電所が完工し、商業運転を開始した。酒田バイオマス発電所は、住友商事グループのサミットエナジーがサミット酒田パワーを通じて建設をした、サミットエナジーとして3カ所目の大型バイオマス発電所である。酒田北港に面する酒田臨海工業団地に位置し、東北エリアでは最大級の出力50メガワットを誇る。8月下旬、メディア向け見学会を実施した。

地元林業に貢献するサミット酒田パワー

庄内空港から日本海に沿って約30分車を走らせると、酒田臨海工業団地に到着する。酒田臨海工業団地は日本海沿岸に位置し、風力、太陽光、バイオマスの3つの再生可能エネルギーの発電所がそろう珍しい場所だ。工業団地の入り口から奥まで進んでいくと、立派な発電所が見えた。遠目に見るよりはるかに巨大な発電所であることが分かる。敷地は東京ドーム約1個分に相当する広さで、バイオマス燃料の受入棟、ボイラー棟、タービン棟などが合理的に配置されている。

酒田バイオマス発電所では、発電燃料として主に、年間16万トンの国内木質チップと年間10万トンの輸入木質ペレットを使用する。トラックに大量に積まれ続々と運ばれてくる国内木質チップは、トラックダンパーで受入口へ投入され、約1,050トンの容量を持つチップタンクに搬送される。荷揚げされた木質ペレットは、同じ埠頭に位置する広さ約1万2,500平方メートルの倉庫に一旦保管され、そこから毎日週7日トラックで約650トンの容量のペレットタンクまで運び込まれる。

日本海を背景にした酒田バイオマス発電所外観

「酒田バイオマス発電所の特徴は何か」という問いに対し、サミット酒田パワー社長の高瀬正道は、国内木質チップの利用を挙げていた。発電所で使用する木質チップは、山形県産を中心とした未利用材や林地残材などを活用しており、国内木質チップを年間16万トンも使用するバイオマス発電所は、国内では他にないそうだ。高瀬は、「地元産の木質チップを積極的に利用することで、林業の振興、地球温暖化への抑制に貢献できたらうれしい」と語っていた。

輸入木質ペレットは2カ月に1度、カナダのバンクーバーより酒田北港古湊(こみなと)埠頭まで運ばれてくる

木質チップをチップタンクへ投入!

筆者が見学した際、ちょうど木質チップの受入作業を行っていた。木質チップは1時間に約4台の頻度(1日平均約30台)で運ばれてくるそうだ。トラックの運転手は、車幅よりほんの少し広いだけのチップ受入れ棟内のトラックダンパーに、プロの技で正確に駐車する。荷卸しの作業者は、トラックのコンテナから木質チップを少し取り出し、機械操作室の棚に保管していた。これは木質チップに含まれる水分量を測定するためだそうだ。水分量が多いと、燃焼効率低下などの影響を及ぼすので、安定して発電するためには、水分管理が重要になる。

「危ないので離れてください」という声掛けと共に、トラックが載っている床が上にせりあがり始めた。何が起こるのだろうと見ていると、斜めになったトラックのコンテナ後部の観音開きの扉から木質チップが一気に放出され、受入口に投入されていく。大きなスコップのようなもので荷卸しをすると思っていた筆者にとって、その光景は衝撃だった。この油圧式トラックダンパーは最大50度まで傾くそうで、間近で見たときは圧巻だった。

筆者が見学した際、どのトラックも一回で正確に駐車していた (1分12秒)

最大50度まで傾くため、トラック内の木質チップは余すことなく投入される (3分04秒)

快適な職場づくりで安定稼働を目指す

次に、ボイラー棟、タービン棟、中央操作室を見学した。各燃料は、高さ45メートルある循環型流動層ボイラーに投入され、高温・高圧の蒸気を作り出す。ボイラーはもちろん完全密閉されているため、中の様子を見ることは出来ないが、循環型流動層ボイラー内では、火炉底部から風を送り込みながらバイオマス燃料を珪砂(けいさ)(※1)と一緒に燃焼空気に混ぜて、激しく循環・流動している。そうすることで珪砂が熱媒体として働き、火炉内の温度を均一に保つため、高い燃焼効率を実現できるそうだ。循環型流動層ボイラーで作り出された蒸気は、タービンの羽根車に当てられて、回転エネルギーに変換される。そして、タービンとつながっている発電機を回転させることで発電する。タービン棟に入ると、羽根車が回転する音がとどろきかなり驚いた。タービンへ送られて一度仕事を終えた蒸気は、復水器で水に戻された後、再びボイラー給水として循環使用される。

高瀬は「まずは20年間安定稼働し続けることが目標。そのためには、従業員に発電所へ愛着を持って働いてもらえるよう、快適で居心地の良い職場づくりをすることが重要」と話す。中央操作室の中にも、休息するのに最適なカフェスペース、フロアにはデザイン性が高く清潔に保たれた更衣室やお手洗いなどが設けられていた。筆者にも、従業員を大切にする発電所であることは、働く人たちのイキイキとした笑顔から伝わってきた。

※1 珪砂:珪酸分(SiO2)を主成分とする、石英の砂のこと

循環型流動層ボイラー内では、比較的低い温度で完全燃焼するためNOx(※2)の排出濃度を抑制 でき、環境負荷が低いことも特徴
※2 NOx:一酸化窒素や二酸化窒素などの窒素酸化物のこと。高濃度の窒素酸化物は環境や人体へ悪影響を与える
中央操作室では、発電施設の監視、運転制御が24時間体制で行われている
24時間体制で働く従業員の憩いの空間として、デザイン性の高いカフェスペースを設けている

(おまけ)広報パーソン酒田探訪記

ポップで可愛い印象を受ける、「おいしい庄内空港」。これはれっきとした、庄内空港の愛称である。「おいしい」という言葉には、味がよいという意味だけではなく、好ましい、優れている、見事だ、という意味があり、愛称には「人も食も、自然も文化もすべてがおいしい」という思いが込められているそうだ。出張中に食べたおいしいものとして、筆者はサミット酒田パワーの高瀬社長一押しの「こがし醤油ネギラーメン」が忘れられない。味が濃すぎないスープにもちもちの麺、上には焦がした玉ねぎとネギがのっている一品だ。酒田と言えば店名に「月」の字がつく月系ラーメンと言われているが、現地を訪れたらぜひこの「こがし醤油ネギラーメン」も食していただきたい。

絶品の「こがし醤油ネギラーメン」。月系ではなく、実は豚骨ではないが熊本系ラーメンに近い

酒田バイオマス発電所の建設から竣工式まで (11分56秒)


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