
グローバル事例
次世代通信5G・ローカル5Gがもたらす未来とは
広報パーソン探訪記
2019年11月掲載

報道チーム糠谷 治香
2018年入社。報道チームで、メディア・デジタル事業部門、人事関連の報道案件、メディアからのアンケートを担当。理想の休日は、宝塚歌劇をはじめとした舞台鑑賞や、名古屋の実家で愛犬・愛猫と戯れることであるが、距離がありなかなか叶わないのが現実。ドアを開ければ違う町、そんな日が訪れることを祈る今日この頃である。
IoTが広く浸透し、あらゆるモノがインターネットに接続されるようになり、通信ニーズも多様化が進んでいる今、大きな注目を浴びている5G(第5世代移動通信システム)。この5Gに加え、2020年から制度化が予定されている「ローカル5G」をご存知だろうか。ローカル5Gは、地域や産業の多様なニーズに応じて、自治体や企業などが「限定された地域」において「自前」で5Gの通信網を構築・運用できる仕組みだ。
住友商事は、2019年6月下旬、総務省より5Gの実験試験局免許を取得し、ローカル5Gを活用した国内初の屋内外実証実験を実施した。7月には、実験拠点の一つであるジェイコム東京で、メディア・関係者向け見学会を開催し、ローカル5G回線を利用した4K/8Kの映像伝送や、通信距離の変動による影響計測のデモンストレーションなどを行った。見学会には、東京都の小池百合子知事も参加された。計5回にわたる公開デモには500人超が参加し、関係各所からの注目の高さがうかがえた。ここでは、ローカル5Gの概要と住友商事の取り組みを紹介する。
さまざまな可能性を秘める、次世代通信5G・ローカル5G
無線通信の国際規格は、これまで約10年ごとに世代交代してきた。5G、すなわち「第5世代=5th Generation」は、「高速大容量」「低遅延」「多接続」という特長を持ち、さまざまな産業を根底から変える可能性があると言われている。
例えば、5Gによって高速大容量通信が実現することで、これまでよりも大量の映像データの配信が可能になる。スポーツ観戦では、スタジアムに設置した小型カメラの映像を手元のスマートフォンで受信し、自分の好きなアングルで観戦できるようになるかもしれない。これは、ネットワークの負荷がかかるため、5Gによって初めて実現できる。また、低遅延通信が実現することにより、映像や音声をリアルタイムで送受信することが可能となり、高精細映像を用いた遠隔手術や、建機・ロボットなどの遠隔操作が実現するだろう。さらに、農業でICTを活用するスマート農業や自動運転の実現などにも5Gは期待されている。
この5Gの商用化にあたって、大手通信キャリアが普及を進めるネットワークと別に、「ローカル5G」がある。ローカル5Gの特長は、小規模な組織のニーズに対応する自前の5G通信が構築できることだ。限られたエリアで利用するという条件の下、総務省から免許を取得すれば、5Gを自前の無線として利用できるようになる。

5Gは、4Gに比べて高い周波数を利用した通信を行っており、電波の届く範囲が狭い。そのため、5Gを全国に普及させるにはより多くの基地局整備が必要となり、時間がかかる見通しだ。しかし、ローカル5Gを活用すれば、大手通信キャリアのエリア展開が遅れる地域や、山岳部など電波が届きにくい地域でも5Gの恩恵が早期に受けられるようになる。また、独自のネットワークを構築することにより、サーバーの混雑などの通信障害や、他エリアでの災害の影響を受けにくい。スタジアムやコンサート会場、学校や会社など、区切られたエリア内で多数の端末が接続する環境には最適と思われる。
ローカル5Gの制度化により、より独創的なアイディアや、エリアニーズにマッチした新たなサービスが生まれることも想像でき、注目が集まるのもよくわかる。
ケーブルテレビ業界と連携し、ローカル5Gの知見を獲得する
住友商事がローカル5G実証実験に取り組むきっかけは、ケーブルテレビ業界の思いと当社の強みが一致したことだ。
ケーブルテレビ業界には、ローカル5Gが制度化され次第、真っ先に活用して地域活性化につなげていきたいという強い思いがある。ケーブルテレビ事業のインフラは、5Gネットワークに必須となる回線として活用でき、両者の親和性は非常に高い。一方、ローカル5G で利用する電波は周波数が高く、どのような環境で使えるのか未知数であった。実用化に向けた実証実験を行うには、数多くの関連事業者を束ねるまとめ役がいる。そこで白羽の矢が立ったのが、ケーブルテレビ事業に知見を持つ住友商事だ。
住友商事は1984年からケーブルテレビ事業に携わっており、日本最大のケーブルテレビ事業会社であるJCOMがグループにある。住友商事グループならではの総合力を生かして、総務省やケーブルテレビ業界、住友商事グループ各社と連携し、ローカル5Gが持つ無限の可能性を検証していく。

国内初のミリ波帯を用いたローカル5G実証実験
住友商事は、実証全体のオーガナイザーとして、関係事業者16社を取りまとめ、2019年6月から8月まで、ローカル5Gとして割り当てられる周波数帯域であるミリ波帯の電波特性検証や、ケーブルテレビのインフラをローカル5Gの回線として利用する実験などを行った。
ミリ波帯の電波特性検証では、遮蔽物に影響を受けやすく、反射しやすいなどの特性が、放送・通信サービスの品質に与える影響を測定した。窓ガラスの透過、降雨・降雪影響、通信距離の変化など、品質に影響を及ぼすと想定される約300項目を調査。例えば、窓ガラスの影響と一言で言っても、ガラスの種類や入射角、結露の状況などで屋内への透過度合いが変わってくる。
さらに、ローカル5Gを活用したテレワークでのVR(※)会議や、長野県北安曇郡の工場と東京大手町の本社をつないだ遠隔映像監視を行い、メディア・関係者向けの見学会も実施した。
筆者は、住友商事竹橋ビルと大手町本社をつないだVR会議を体験した。竹橋ビルでVRゴーグルを装着すると、目の前に本社の会議室が映り、360度立体的に見渡せる。顔を動かしても映像は途切れることなく入れ替わり、立体的かつ鮮明な映像が映った。さらに発言者の声も遅滞なく聞こえ、実際にVR会議をするイメージが湧いた。
また、TV画面とVRゴーグルを用いて大手町本社から長野県北安曇郡の工場を監視するデモンストレーションも体験した。工場内に4K360度カメラが設置されており、カメラから敷地内の無線基地局までの大容量通信をローカル5Gによって実現。VRゴーグルを用いることで、本社に居ながら360度視座での工場監視が実現した。将来的には、AI活用も組み合わせた機械不良・異物混入の自動検知など、監視の無人化も十分に予感できるものであった。
- VR:バーチャルリアリティの略。コンピューターによって作られた仮想的な世界を、あたかも現実世界のように体感できる技術。
5G ・ローカル5G に見る世界とは
携帯電話では、2G でメールができるようになり、3Gでネットができ、4Gで動画が花開いた。無線通信の進化が、モバイル環境の劇的な進化をもたらした。5Gでは、一体なにが起こるのか、今の段階では誰も明確に語れないだろう。4Gが本格化したときでさえ、予想を超えるサービスが生まれてきたが、5G はそれらをさらに超える、誰もが予想しないサービスを生むポテンシャルがあると、関係者たちは口をそろえる。
いよいよ2020年から5G 商用化が始まるが、ローカル5G もこの12月に制度化され、その利活用もすぐに始まっていくであろう。知れば知るほどワクワクし、まだ見ぬ世界に期待が膨らむ。

<おまけ> 5Gの基地局シェアリング実証も実施
住友商事は、東急とともに、5Gの基地局を各通信会社向けにシェアリングする実証実験も進める。2020年1月を目途に、渋谷駅周辺などで実施予定だ。5G は電波を飛ばせる距離が短く、既存の4G と比べると5倍から10倍の基地局が必要との試算があり、基地局シェアリングのニーズがあるとみている。さらに、基地局をシェアできれば、通信会社にとってもコスト減につながる。
住友商事は、ミャンマーでの通信キャリア事業など、海外における移動通信事業のノウハウを蓄積している。また、通信機器のサプライチェーンマネジメントや、ケーブルテレビ事業における通信インフラの保有など、多くの関連事業で知見を有している。これらを生かして、5G 基地局シェアリングの技術面の検証を実施し、実用化への足掛かりとする。

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