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2026.3.19
Business
「動けない」を動かす! 地域とともにつくる、新しい移動プラットホーム
「バス便数が減った」「高齢で運転ができなくなった」「荷物が届けられない」――今、日本各地でそのような「移動の危機」が多発しています。こうした危機を受け、地域の暮らしを支えるべく住友商事(以下、住商)が取り組んでいるのが、モビリティを軸とした未来の移動プラットホームの構築です。行政・企業・教育機関、最先端技術を持つ海外ベンチャーをも巻き込んだ、総合商社ならではの共創ソリューションとは? そして、その先に描くこれからの社会のあり方とは? 「モビリティ×社会課題解決」をテーマに新規事業を開発する専門組織・Beyond Mobility SBUを統括する大塚貴功に、話を聞きました。
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Beyond Mobility SBU長
大塚 貴功
1998年入社。航空宇宙部門で経験を積んだ後、06年に自動車部門へ。インドネシア・シンガポール・インドに駐在し、商用車の製造事業や自動車金融事業に携わる。19年より、インドにてCASE(コネクテッド・自動運転・シェアリング・電動化)関連の新規事業開発に従事。23年より現職。
なぜ「移動」の課題解決が重要なのか?
Beyond Mobility SBUが、「移動」に焦点を当てた事業開発に取り組む理由を教えてください。
今、人口減少や高齢化により、地方の路線バスや物流の維持が難しくなっています。人の移動においては、運転手不足や公共交通の収益悪化により、バス路線の減便や廃止が進んでいます。その結果、クルマへの依存度が高い地方で、買い物難民や通院が困難な高齢者が増えています。
物流においては、倉庫作業員や運転手の不足、2024年の規制強化の影響もあり、配送の遅延やコスト上昇が発生。地方の中小企業や商店がその打撃を受け、地域経済の活力が低下しつつあります。以前、ある方から「交通は町の血流」という言葉をお聞きしました。その言葉通り、今、その血流をいかに存続させるかが死活問題になっているのです。
そこで私たちは、行政や企業、研究機関と共創する新規事業によって、日本各地の移動や物流の課題を解決したいと考えています。交通空白や物流課題の解決は国も重要政策に掲げ、官民一体の取り組みを後押ししている状況です。
「領域」と「時間軸」を超え、新しい移動のカタチを生み出したい
Beyond Mobility SBUのビジョン・ミッションを教えてください。
モビリティとテクノロジーを通じて、まだ見ぬアクセスを創り出すことで、「一人ひとりの自分らしい生活」と「地域社会の持続的な発展」を実現する――。これが私たちのビジョンです。地方といっても、場所によって課題はさまざまです。そして同じ地域でも、高齢者と若者ではお困りごとは異なります。そんな一人ひとりのニーズに応えた上で、地域の全てのステークホルダーが幸せになるビジネスモデルを構築すること。それによって地域社会の持続的な発展に貢献することが、私たちのミッションです。
「Beyond Mobility」という言葉には、どのような意味が込められているのですか。
“Beyond”には「領域と時間軸を超えたい」との想いを込めています。領域としては今あるクルマやバス、タクシーなどの他に、ドローンや空飛ぶクルマ、AI搭載ロボットなどこれから普及するであろう“Mobility”も含みます。私たちはモビリティを単に「輸送手段」としてとらえず、「人・モノ・データ・サービスが移動する全ての流れ」と定義しています。そうした「移動」と異業種や最先端技術を掛け合わせることで、「新しい移動のカタチ」を生み出すことを目指しています。
さらに、現在という時間軸も超えていきたい。今の延長線上にあるソリューションではなく、未来の理想の社会から逆算し、全く新しい仕組みのビジネスを創出したいのです。
具体的に取り組んでいる分野を教えてください。
「自動化・省人化」「環境」「ライフスタイル」という3つの軸でプロジェクトを推進しています。「自動化・省人化」ではロボットやAIを活用した物流倉庫の自動化、自動運転の取り組みなど。「環境」においてはバスやタクシー会社へのEV導入支援、バッテリーのリサイクルやエネルギーマネジメントなど、サーキュラーエコノミーの実現に取り組んでいます。「ライフスタイル」ではメンバーの自由な発案により、他SBUや事業会社と連携してプロジェクトを進めています。具体的には、貨客混載(※1)のAIオンデマンド交通事業(※2)や地域包括ケア事業(※3)などが挙げられます。
※1 旅客送迎と貨物輸送を同じ車両で同時に行う輸送形態。バスやタクシー、鉄道、飛行機などの旅客向けの輸送手段の空きスペース、空き時間を活用して、貨物を輸送する。
※2 AIを活用した効率的な配車計算により、送迎/集荷/配送予約に対し、リアルタイムにルーティングと最適車両配置を行う交通システム。
※3 高齢者が要介護状態になっても住み慣れた場所で自分らしい暮らしを最後までおくれるように、地域が一体となり支援体制を構築する仕組み。
人脈・ノウハウ・技術を総動員して、総合商社にしかできない共創を
新規事業の開発において、特に大切にしていることは何ですか?
何より重視しているのが「現場を知ること」です。地域の方がどんなお困りごとを抱えているのか? そこをしっかりヒアリングすることから、事業アイデアは生まれます。山口県下関市における貨客混載AIオンデマンド交通事業の立ち上げでは、プロジェクトメンバー自ら地域のコミュニティバスに乗り、乗客や運転手の皆さまに「何がお困りですか?」と聞いてまわりました。下関市役所の皆さまと共に80回を超える住民説明会を重ね、運行事業者や地元スーパー、病院とも丁寧に対話を積み重ねながら、「本当に必要とされるサービスとは何か」を問い続けました。
地域の子どもたちがAIオンデマンドバスに乗り込み、園外活動へ向かう姿。買い物帰りの高齢の方が「助かるよ」と笑顔で声をかけてくださる瞬間。そうした何気ない日常の風景こそが、私たちの目指す“社会実装”の証だと感じています。ある住民の方から、「このバスは、私たち高齢者にとって夢のような存在。これからもずっと利用したい」という言葉をいただいたことがあります。その一言は、私たちにとって何よりの励みでした。現在では利用者数は昨年度比で4倍に拡大し、町に欠かせないモビリティとして、今日も走り続けています。
こうした全国各地の「現場の声」を知る上で欠かせないのが、国内最大のオートリース事業を展開するグループ会社・住友三井オートサービス(SMAS)や各地域の住商など、地域に深く根ざしてビジネスをしている仲間の存在です。彼らの人脈を活用し、日頃から自治体とコミュニケーションを密に取っていることが、地域が抱える課題やニーズを事業化に結びつけることにつながっています。
私たちが最終的に目指しているのは、住民の移動・物流・福祉・防災などの機能が一体となった「モビリティを軸とした生活インフラ」の構築です。そのためには行政や研究機関、幅広い企業との共創が欠かせません。住商グループのコーポレートベンチャーキャピタル(以下、CVC)が投資する世界の最先端技術、自動車に特化したコンサル会社・住商アビーム自動車総合研究所のインテリジェンス機能、グループ会社のシステムインテグレーター・SCSKのデジタル技術など、あらゆるリソースと共創のノウハウを一つに束ね、事業を組み立てる。このチーム編成力こそ、われわれ住商の最大の強みといえます。
結果が見えない不安を抱え、道なき道を切り拓く
新規事業を社会実装させるにあたって、日々、どんな障壁に向き合っていますか?
正直、新規事業開発は成功するほうがまれです。ですから、結果がわからない不安の中、試行錯誤を続ける強い意志、強いモチベーションが不可欠です。その点、Beyond Mobility SBUは「困難があっても新しいことに挑戦したい!」と自ら手を挙げて集まってくれたメンバーばかりで、うれしく感じています。
とはいえ、どんなに高邁な社会的意義があっても、利益を出さないことには持続可能な仕組みになりません。そこで、事業の妥当性を検証する実証実験ではプロジェクトごとのKPIを定め、持続的な事業として成り立つかどうかをチェックしています。それをクリアした上で住商のビジネスとして事業化に踏み切るプロジェクトもありますし、より適切な事業者に事業を移行することもあります。いかなるアプローチを取るにせよ、いずれは地域の事業者が自立的に運営できる仕組みに育て、それが全国に広がっていくことが理想です。
実証実験から社会実装へ。未来の事業の芽を、大きく育てる
現在、進行中の代表的なプロジェクトを教えてください。
物流業界の労働力不足を解決するためには、AIやロボットの活用が欠かせません。そこで住商は米国のCVCを通じて出資していたユニコーン企業・Dexterity社と合弁会社を設立し、AI搭載ロボットを活用した物流倉庫の自動化・省人化に取り組んでいます。日本でも物流倉庫の自動化は進んでいますが、トラックへの荷積みはドライバーが人力で行わざるをえませんでした。私たちの取り組みはそこを自動化する画期的なソリューションで、すでに国内の物流センターで導入に向けた調整を進めています。
海外の先端技術を活用したものとしては、福岡の西鉄グループと連携した「レトロフィットEVバス」もあります。台湾最大手のEVバスメーカー・RAC社の技術を活用し、使用中のディーゼルバスをEVバスに改造する取り組みです。こちらはすでに別部署の主管事業として、関東でも展開されています。
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レトロフィットEVバスの取り組みでは、海外技術の探索や事業スキームの構築など、私たちだけでは難しい部分を住友商事さんが担ってくれています。グローバルネットワークと事業開発の知見を持つ、住商というパートナーがいることで、脱炭素化と持続可能な公共交通の実現に向けた取り組みを進めることができています。
(西日本鉄道株式会社 自動車事業本部 技術部 技術担当 課長 安丸 諭)
先ほど話のあった山口県下関市での実証実験など、地方自治体と連携したプロジェクトも活発です。
AIオンデマンドシステムと貨客混載を組み合わせた「Mile One(マイルワン)」の実証実験ですね。利用者の予約をもとにリアルタイムで最適な配車を行い、一つの車両で人も荷物も運ぶ。このプロジェクトでは、そんな効率的で、人流も物流も持続可能にする地域モビリティサービスの提供を目指しています。
その他、熊本では市と連携した官民一体の取り組みとして、住商ら5者が連携したレベル2の自動運転バスの実証実験を。大阪では名古屋大学や地域の自動車教習所と連携し、モバイル型ロボットを活用した高齢ドライバ向け運転支援ソリューションの実証実験を行っています。
最後に今後の意気込みを聞かせてください。
「移動」は地域の全ての流通の根幹であり、暮らしを支えるライフラインです。地方の交通インフラを維持することは、災害時の救急輸送などの備えにもなります。そんな地域の暮らしを支える未来の「移動のカタチ」をつくるために、私たちはこれからも新しい事業の芽をたくさん育て、事業化に果敢に挑戦していきます。どうぞご期待ください。