グローバル事例
ローカル5Gで実現する未来の形
~スマートファクトリーの取り組み~
広報パーソン探訪記
2021年07月掲載
報道チーム糠谷 治香
2018年入社。主にメディア・デジタル事業部門、生活・不動産事業部門、インフラ事業部門の報道業務を担当。つい最近まで趣味といえば、実家の愛犬・愛猫の写真をSNSにアップし、犬猫好き仲間と自己満足に浸ることだったが、ついに自分でも犬を飼い始めた。お気に入りのおやつは、米国のペット用品ブランドHartz®(ハーツ)のベビーチューデント(チキン味のソフトガム)。米国で大人気のHartz®の商品は、当社と当社グループの住商アグロインターナショナルが日本展開している。犬猫を飼っている方は、チューデントシリーズなどをぜひお試しいただきたい。
「5G(※1)元年」と言われた2020年。さまざまな分野のプレーヤーが5G・ローカル5G(※2)事業への進出を表明した。ケーブルテレビなどの通信事業をはじめとした幅広い事業分野を持ち、デジタルトランスフォーメーション(DX)を経営戦略に据える当社もいち早く参入。各事業分野のニーズに応じた「5Gインフラ × DX」の実現を目指して検証に取り組んでいる。その一つが「ローカル5G × スマートファクトリー(※3)」だ。
当社は、21年1月から約3カ月間、当社グループの住友商事グローバルメタルズの子会社であり、金属加工業を営むサミットスチールの大阪工場にて、ローカル5G環境下で「目視検査の自動化」および「遠隔からの品質確認」の実証実験(※4)を行った。ローカル5Gを用いてさまざまな課題を解決するのが目的で、工場の未来像を見据えた取り組みである。筆者は3月、現場視察に参加した。(5G・ローカル5Gの特徴や、当社が5G事業に取り組む背景については、19年11月に掲載したこちらの記事もぜひご覧いただきたい。)
- 5G:第5世代移動通信システム。高速大容量、低遅延、多接続という特長を持つ
- ローカル5G:自治体や企業などが、限定された地域において自前の5G通信網を構築・運用できる仕組み
- スマートファクトリー:工場へAIやIoTを導入し、デジタルデータを活用することで、品質や生産性の向上、作業の自動化・見える化などを実現すること
- 総務省の「令和2年度地域課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」に選定されたもの
ものづくりを支え続ける サミットスチール大阪工場
サミットスチール大阪工場は、大阪市此花区の湾岸地域に位置する国内最大規模の鋼板加工工場だ。鉄鋼メーカーから仕入れた巨大なコイル(鉄を薄く延ばしてロール状に巻き付けた鋼板)を顧客のニーズに応じて切断・加工する。製品は、家電・OA業界、住宅・建材業界、自動車業界向けに供給され、私たちの身近にある製品へと姿を変える。同工場は3,000トン級の船が接岸可能な専用岸壁と大型倉庫を持ち、接岸から荷役・保管・加工・運送までを一貫処理できるのが特徴である。
筆者は初めて鋼板加工工場を訪問したが、巨大なコイルが100個以上保管されているというスケールの大きさに圧倒された。その一方で、非常に繊細な取り扱いが要求されるコイルの特性に驚かされた。コイルは、小さな衝撃でも押し傷や打痕がついてしまい、傷があるものはスクラップ(細切れにして廃棄)されるという。そのため、傷の検知は加工工場において非常に重要な役割を担う。
ローカル5Gを活用したスマートファクトリーの取り組み
今回の実証実験では、何重にも巻かれているコイルをほどき、縦に切れ目を入れ、幅を変える加工を施すスリッターラインで、表面の傷の「目視検査の自動化」と「遠隔からの品質確認」を行った。
従来の手順はこうだ。
加工中のコイルを現場の作業員が目視検査する。傷を発見した場合は、傷の状態(深み、大きさ、色など)を確認。写真を撮り、サミットスチールの本社営業部に共有する。本社営業部では、写真を見ながら、取引先別の条件に照らし合わせて、製品の出荷可否を判断する。写真で判断できない場合は、工場を訪れ、直接確認する。
ローカル5Gの活用で手順は一変する。
「目視検査の自動化」では、連続高速撮影が可能で検査精度が高い8Kラインスキャンカメラでコイルを撮影、高精細画像をAIサーバにローカル5Gで無線伝送し、AIが傷の有無を判定。コイルの傷の位置もデータで検出する。「遠隔からの品質確認」では、現場の作業者が4Kのカメラを使い高精細映像を本社営業部に伝送することで遠隔からも細かい傷まで確認することができる。
コイルの傷は最小幅0.3ミリメートル程度と非常に小さいため、目視検査は経験豊富な作業員の力量に頼ってきた。作業員は、しゃがんだ姿勢でコイルを見続けることもあったという。サミットスチールの執行役員 生産本部副本部長 兼 生産管理部長の桐村秋晴は、「現場から、心身双方の負担削減につながるというポジティブな声が上がっている」と話す。また、本社と工場が離れているため、現場確認が必要な場合は往復1時間以上かけて移動していた。近年は、新型コロナウイルスの影響で工場への出入りも難しく、遠隔からの品質確認のニーズは高まる一方だ。作業工数の削減、心身の負荷軽減、それに稼働中のライン近くでの危険な作業削減など、安全性や生産性の向上を通じた現場の課題解決が期待される。
これらは、8K画像・4K映像といった高精細画像・映像の伝送が必要なため、「大容量伝送」を可能にする5Gと親和性が高い。また、有線ケーブルは工場の床に配線されるため安全面と拡張性に課題があり、無線が望ましい。限られた領域において安定したネットワークが確保できるローカル5Gこそ、正確性が求められる「目視検査の自動化」・「遠隔からの品質確認」を実現する通信インフラに適していると言える。
さらに高まるローカル5Gへの期待
今回の実証実験では、課題実証(工場の課題解決)と技術実証(ローカル5Gの電波の飛び方や速度などの性能評価)を行い、それぞれ以下のような結果を得た。
課題実証
「目視検査の自動化」では、構築したローカル5G環境にて8K高精細画像伝送に成功。AIの検査精度に課題が残るものの、今後さらなる精度向上により、目視検査工数を削減できることを確認。また、現状は目視で傷を確認するため、分速20メートルと比較的低速度でコイル加工をしているが、AIによる傷検知に代替した場合、分速100メートル超の速さで傷検知とコイル加工が可能になる見込みだ。検知時間を削減しながら、より多くのコイルを加工できることがわかった。
技術実証
ローカル5Gには、Sub6(4.5ギガヘルツ帯)とミリ波(28ギガヘルツ帯)という2種類の周波数帯域が総務省から割り当てられている。20年12月に制度化されたSub6は、通信事業者の4Gの周波数に近く、比較的遮蔽物の影響を受けづらいため、屋内における無線エリア設計がしやすい。一方、19年12月に制度化されたミリ波は、直進性が強く遮蔽物の影響を受けやすいが、周波数幅が広いので、Sub6に比べてより高速大容量伝送が可能だ。これらは、現場のニーズに応じて選択する。
当社は、19年6月にミリ波帯での実証実験を実施(※5)しているが、今回は、遮蔽物の多い稼働中の工場が実証環境となるためSub6を利用。技術性能評価の結果、縦64メートル×横344メートル×高さ14メートルの広い工場内を、1つのローカル5G基地局アンテナでカバー可能なことを確認した。また、工場内にはさまざまな金属加工製品や機材があり、電波にとって遮蔽となるものが多数ありながらも、広いカバレッジを実現できたことから、Sub6の高い回折性能・反射性能が確認できた。
実証実験を通して、「スマートファクトリー」すなわち工場のDXにおけるローカル5Gへの期待感は非常に大きいことが明白となった。サミットスチールの社長 秋田康弘は、「現場の苦労を減らし、より生産効率を上げることで、会社としてもう一段ステップアップできる。また、工場内は安全第一。人が機械に近づかないことが一番の対策であり、今回の施策により安全性を一層高めることができる」と話す。将来的には、他の拠点にも同じ仕組みを導入することで本社と他の工場、あるいは工場同士を繋ぐことや、取引先や仕入れ先、設備メンテナンス会社とのリアルタイムな情報共有をするなど、さまざまな用途での使用が見込まれる。
- ミリ波帯を用いた国内初の屋内外実証実験を実施。通信距離の変化や建物などの障害物の有無、気象環境の変化が無線通信に及ぼす影響を屋内外で検証した
グループの総合力を生かした実証実験
今回の実証実験は、当社グループを中核とした体制で行った。
住友商事グローバルメタルズにて課題実証を推進し、サミットスチールの大阪工場を実証現場に選定。住友商事グローバルメタルズは、世界各地に鉄鋼加工工場があり、受発注や貿易実務といった「商社機能」と「工場現場」を合わせ持つことを強みとする鉄鋼商社で、自社のDXも積極的に進めている。
実証実験に参加した背景として、住友商事グローバルメタルズ デジタルイノベーションチームの鈴木宜佳は、「以前から、工場の稼働データを取得して可視化する取り組みを進めていたので、大量データの利用が可能になるローカル5Gに興味はあった。19年7月に住友商事5G事業部から働き掛けがあり、面談を実施。ちょうどサミットスチール大阪工場におけるデジタル技術を活用した高度化プロジェクトを推進していたので、その一環として始めた」と説明する。
そこから約1年半かけ、社内外総勢約20人のチームで実証実験を進めてきた。鈴木は「今後も現場のニーズを吸い上げながら、費用・工数・期間を算出して、効果を見極めながら検討を続けていく。引き続きデジタル技術を活用した改善や高度化を進めたい」と話す。
また、現場の指揮や環境構築など技術実証については住友商事マシネックスが担い、ローカル5Gの各種システムについては、19年にインターネットイニシアティブ、ケーブルテレビ会社数社および当社で設立したグレープ・ワンのサービスを利用した。同社は、ローカル5G展開に必要な基幹制御システムを保有し、基地局や端末の販売・運用・保守など、ローカル5Gに関する総合的なサービスを提供する。
さまざまなパートナーへ展開
当社5G事業部の石黒真人は、「幅広い事業に携わる住友商事グループだからこそ、総合力を生かして、ローカル5Gの知見を深めることができる。今後も『DX × ローカル5Gインフラ』の実装を見据えた取り組みで知見を積み、ローカル5Gを活用して各産業分野のDXをより加速させていきたい」と意気込む。
ローカル5Gは自社専用のネットワークを構築するため、通信事業者の5Gと比べて、自社ニーズに応じた柔軟な設計ができ、回線混雑に起因する通信障害を受けにくいと言われている。また、通信事業者の5G整備が及んでいない地域でも、免許を取れば各自で構築することができるので、工場や建設現場、農地、河川などの防災分野を中心に導入が進むと見られている。
石黒は、「現場課題をどう解決したら良いか、また、ローカル5Gをどう活用するのが良いか、悩んでいる方も多いのではないか。住友商事グループ連携で蓄積した新しい知見を生かして、こういう工場をつくったらどうか、建設現場ではこういう方法が可能、といった具体的な活用方法の提案をしていきたい」と話す。
現場視察を通じて、「スマートファクトリー × ローカル5G」の仕組み構築には、非常に多くの人の知恵と努力が詰まっていることがわかった。「コロナ禍、さらには稼働中の工場での実証実験であり、ハードルが高いなか、工夫を凝らして進められてきた。だからこそ、培ったノウハウはさまざまなパートナーと共有し、改善していきたい」と担当者たちは意気込む。あらゆる分野で可能性を秘めているローカル5Gの活用、興味のある方は気軽に当社にお問い合わせいただきたい。
(おまけ)5Gネットワークの早期構築に向けた5G事業部での取り組み
当社は、1984年からケーブルテレビ事業に携わり、ケーブルテレビ業界や各地域との深い繋がりと、電話やインターネットといった通信サービスから得た知見があるからこそ、いち早く5Gの取り組みを進められてきた。ローカル5Gの取り組みに加えて「5G基地局シェアリング事業」にも力を入れている。
5Gは、高い周波数帯を使用することから電波の届く範囲が狭く、4Gに比べ5~10倍の基地局を必要とするといわれ、各通信キャリアにとっては設備投資の増加が負担となっている。さらに、人口密集地である都心では新たな土地を確保することが難しいため、5G基地局設備を共用化する「基地局シェアリング」の需要が高まっていくと考えられる。
総務省も「ICTインフラ地域展開マスタープラン3.0」などの中で、基地局シェアリングの推進を目標の一つに掲げており、注目度の高い取り組みだ。さらに基地局シェアリングは、SDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けた取り組みとしても、期待が高まっている。設備・資材の共用化は節電に繋がり、環境に配慮した事業モデルといえるからだ。
当社は、5G早期整備への貢献を目指して、21年2月に東急と共に、基地局シェアリングサービスを提供するSharing Design(シェアリングデザイン)を設立。同社は、各社バラバラに行ってきた基地局設置を中心としたインフラ構築を担う。複数の通信会社が設備を共有すれば、投資負担が抑制できる上、電気代などの運用費用の軽減にもなる。
シェアリングデザインは、21年10月には携帯通信事業者向けにサービスを開始し、21年度中に東急線各駅および東急の商業施設を中心に約100拠点で基地局の設置を目指す。自治体、鉄道事業者や商業施設事業者などとの協業も推進し、全国展開を目指す。
さらに基地局シェアリングの実証実験も複数推進している。
大阪市高速電気軌道と共に日本初の鉄道トンネル内での実証実験
日本電気(NEC)と共に、東京都とスマートポール設置に関する協定を締結
ジェイコム東京と共に、東京都港区と連携協定を締結。同区が保有する公共施設などにインテリジェントポールを設置
その他にも当社は、海外における移動通信事業のノウハウを蓄積。また、通信機器のサプライチェーンマネジメントや、ケーブルテレビ事業における通信インフラの保有など、多くの関連事業で知見を有する。培ってきた知見・ノウハウやグループの総合力を発揮し、5G・ローカル5Gを活用した次世代ビジネスの創出に取り組んでいく。
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