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- AI時代に「No.1」を目指す
※本記事は、NewsPicks連載「日本再興論」に掲載されたインタビュー記事を、転載許諾のもと掲載しています。
コンサルティング大手A.T. カーニーでアジア太平洋代表を務める関灘茂・日本法人会長が、各業界のトップ経営者たちに未来への戦略と持つべき視座について語り尽くす連載「日本再興論」──。
今回は、総合商社・住友商事で代表取締役社長を務める上野真吾氏が登場する。2024年4月の社長就任と同時にスタートした中期経営計画が掲げるのは、「No.1事業群」という大胆なメッセージだ。41のSBU(戦略事業ユニット)それぞれが「自分たちのNo.1」を定義し、勝ち筋を描く──。
1兆8000億円の投資を束ねる成長8分野の狙いとは何か。そして、創業以来最大となる8800億円でのSCSK完全子会社化に込めた、デジタル・AI戦略の核心に迫る。(前編/全2回)
この対談は2025年12月に実施しました。
【本記事は全2回の前編です】
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住友商事株式会社 代表取締役 社長執行役員 CEO
上野 真吾
1959年兵庫県生まれ。六甲学院高校を経て、慶應義塾大学商学部を卒業後、1982年に住友商事に入社。以来、油井管やラインパイプなどの鋼管事業に長く携わり、イラン、欧州、米州での駐在も経験。2013年に執行役員に就任後、常務・専務・副社長を経て、2024年4月、代表取締役社長執行役員CEOに就任。社長交代は6年ぶりだった。66歳。
「ナンバー1」にこだわる理由
2024年4月に社長に就任し、5月に「中期経営計画2026(2024〜26年度)」を出しました。経営者の視点から会社をどう見ていましたか。
2024年度から始まった現在の中期経営計画は、私が社長に就任したのと同じタイミングでスタートしました。前の中期経営計画(2021〜23年度)の3年間では、構造改革を断行してきました。その結果、当社の事業ポートフォリオの下方耐性が確実に強化されたと考えています。そうした取り組みを経て、私は住友商事が「ここからは視線を上げ、新たな成長ステージに入っていく」局面だと考えていました。
現在の中期経営計画のテーマとして「No.1事業群」(英語では「No.1 in Each Field」)というキーワードが目を引きました。この「ナンバーワン」という言葉に込めた思いとはどのようなものだったのでしょうか。
私が最も住友商事に必要だと感じたのが、社員一人ひとりのマインドセットの転換でした。そこで中期経営計画では、「No.1事業群」という明確なメッセージを掲げました。これは各事業が自らの競争軸を定め、資本効率と成長性の両立を実行していくという経営の意思表示であると同時に、「No.1になるんだ、なれるんだ」という意識を高めるためのものです。住友商事全体でNo.1になるという発想ではなく、それぞれの事業が、どの市場で、どのようなNo.1を目指すのかを明確にすることを求めています。経営として「No.1」を掲げるだけでは十分ではありません。現場が自らの言葉で戦略を定義し、KPIに落とし込み、実行に移せる状態にすることが不可欠だと考えました。
41事業それぞれの「勝ち筋」
現場には、どう投げかけたのですか。
まずは、社内で「それぞれの事業がNo.1を目指す」という考え方について共通認識をつくりました。その上で、「それぞれの事業ユニットとして、どのようなNo.1を目指すのかを考えてほしい」と伝えました。すると、「この業界には強いプレーヤーがいて、我々のポジションではNo.1になれません」という声も上がってきます。
そこで私は「あなたが言うNo.1とは、具体的に何ですか」と問い返しました。利益なのか、売り上げなのか、数量なのか、将来の成長性なのか。あるいは、ROEなのか、ROICなのか、リスクアセット(RA)なのか。
多くの場合、No.1の定義が曖昧なまま「なれない」と結論づけているケースが見受けられました。私は「必ずしも大きな市場である必要はない。ニッチであっても、特定のセグメントにおいて、この価値を提供できるのは、私たちしかいない、という領域があるはずだ」と伝えました。
その後、半年ほどかけて、社内の各部署で活発な議論が起こり、「自分たちはどのようなNo.1を目指すのか」が共通の問いになっていきました。結果として、各ビジネスラインがそれぞれの「No.1」を見出していったのです。
1兆8000億円投資の「本命」
その「No.1」を、どう実行に落とし込みましたか。
まず各事業に、「どのようなNo.1を目指すのか」を言語化してもらい、次にそのためのアプローチを整理しました。その上で、KPI(重要業績指標)やKAI(重要行動指標)を設定する、というプロセスを踏みました。No.1を単なる理想論に終わらせるのではなく、実行計画として具体化する。そのために、戦略と指標の両方を明確にしたのです。
住友商事には、41のSBU(戦略事業ユニット)があります。それぞれが異なる時間軸で、異なる切り口のNo.1を目指して構いません。3年で達成できるものもあれば、10年かかるものもあるでしょう。それぞれの事業が自ら定めたNo.1を実現できれば、企業としての競争力は大きく高まる。そうした考え方の集合体として、「No.1事業群」という言葉を使っています。
*編集部注:住友商事は、2024年4月の組織改正において、従来の事業部門制から、より迅速な意思決定と自律的な経営を可能にする「SBU(Strategic Business Unit)」体制を採用。現在は41(2026年5月時点)のSBUで構成されている。
「強みを核とした成長」を掲げ、8分野を「ど真ん中」と表現しました。①アグリ、②建機、③リース、④エネルギーソリューション、⑤鉄鋼、⑥デジタル、⑦ヘルスケア、⑧不動産──この8分野を掲げた狙いは何なのでしょうか。
今回の中期経営計画の軸は「強みを核とした成長」です。強みのない領域に広く資源を配分するのではなく、競争優位を持つ、あるいは持ち得る領域に、経営資源を重点的に投下していく。その方針を明確にしました。
中計で掲げている「1兆8000億円の投資」も、その考え方を具体化したものです。投下資本を積み上げる対象として、アグリ、建機、リース、エネルギーソリューション、鉄鋼、デジタル、ヘルスケア、不動産の成長8分野を選定しました。いずれも経験と実績があり、環境変化が生じた際にも柔軟に軌道修正できる分野です。ここに資金を投じ、強みをさらに磨いていきます。インオーガニック(非連続)なものも含め、積極的に成長を期待する領域です。一方で、その他の分野については、既存の投下資本を活かしながらオーガニックに成長する、あるいは自律的な改善を進めていく、という位置づけです。
航空機リースで世界首位を追う
御社は2025年9月に、航空機リース大手の米エアリースコーポレーションの買収を発表し、2026年4月に完了しました。その先には、どのような景色を見ておられますか。
リース事業は8分野の一つであり、その中でも航空機リースは「ど真ん中」、つまり中核的な位置づけです。エアリースコーポレーションへの投資は、「No.1事業群」を目指す戦略の一つとして判断しました。
航空機リース事業はSMBCアビエーション・キャピタルとも共同で取り組んでおり、住友商事と保有・管理機数を合算すると約1800機になります。これは、世界最大手であるエアキャップ社に肉薄する規模です。「No.1事業」を目指した取り組みの一つなのです。
航空機メーカーは、実質的に欧州のエアバスと米ボーイングの二強で、両社の受注残は、かなり先までひっ迫し、生産枠が埋まっている状況です。だから、今回の買収は、エアリースコーポレーションの保有機材・管理機材と発注残を一気に手に入れることが狙いの一つでした。人の移動がすさまじく、飛行機が不足している現況において、機材を安定的に確保できるポジションを築けたことは、競争力の観点からも重要な投資だったと考えています。
8800億円でSCSKを取り込む
2025年10月には、大手システムインテグレーターのSCSKを、約8820億円で完全子会社化すると発表しました。SCSKは、2011年に住友商事グループのIT子会社とCSKが合併して誕生した会社です。改めて、今回の完全子会社化の背景には、どのような狙いと理由があったのでしょうか。
私たちのデジタルにかける思いは明確でした。SCSKに8800億円でTOB(株式公開買い付け)をかけ、2025年12月に成立しました。8800億円という投資額は、住友商事が始まって以来の巨大な投資額でした。同じ年に史上最大の投資案件を2回立て続けに行ったことになります。もともと住友商事はSCSK株を50.6%保有していましたが、SCSKは13期連続最高益で成長しており、この会社を今後どうさらに成長させるかは、常に議論になっていました。
足元ではデジタル、AIが進展しています。次々とアップデートされている生成AIは日常生活のみならず、ビジネスの世界の仕事や業務にまで恐るべきスピードで入り込んでいます。この状況を見て、私は「もはやAIを使わないことが住友商事の最大のリスク」だと考えました。
デジタルに関しては、SCSKの完全子会社化があろうがなかろうが、当社グループとして目指す分野はここだということがはっきりしていたのです。SCSK側も、デジタル・AIの進展に対してすでに動いていました。2025年3月に、ネットワーク構築大手のネットワンシステムズを約3600億円でTOBにより子会社化しました(2027年4月に合併予定)。ネットワンシステムズ買収により、システムインテグレーターに加えて、ネットワークインテグレーターとセキュリティサービスを持つ会社になりました。
SCSKの成長スピードをさらに速めながら、成長戦略をフルにサポートしていくという考えから100%化に踏み切りました。SCSK側もこの考え方に賛同してくれ、今回の100%化が進んだのです。だからこそ、強みを活かせる領域があるなら融合していきたいし、SCSKが一気に成長できる部分があるなら「ぜひともやってほしい」という思いです。
AI時代「最大の資産」とは何か
デジタル・AI戦略による成長加速を掲げていますが、具体的には、何を推し進められるのでしょうか。
例えば、住友グループと関係の深い大手電機メーカーからAI開発の技術の進歩について説明を受ける機会があります。その技術はたしかにすごいですが、「現場で試す機会がない」「実証ができない」という課題もあると聞きました。
一方、住友商事には900の事業会社があります。顧客・パートナー企業は10万社います。デジタルやAIを使える現場が、それだけあると考えています。SCSKも同様です。ノウハウは現場があって初めて生きますが、その現場を我々は持っているのです。だから、「ぜひ我々の現場を徹底的に活用してほしい」と伝えています。現場には成長や変革の種があふれているので、それを一緒に成長させればよいのです。これがデジタル・AI戦略の中心となる考え方です。領域は重要ではありません。「鉄のビジネスをやっていたからデジタルは関係ない」ではなく、すべてのビジネスラインが変革を遂げなければいけない時に来ているということです。AIによる変革はビジネスライン横断的な取り組みです。私が入社以来長く携わった鋼管業界でも、AIで世界の在庫を一手に管理し、有効に活用し、顧客ニーズに応えるという方向に一気に振れています。
そのほかには、どのような取り組みがありますか。
ほかには、小売りの世界では「AI値引き」が当たり前になっています。例えば、当社の100%子会社のスーパーマーケット「サミット」では、総菜を中心に時間帯によって何の商品を投入し、いつ値引きすれば売れるかをAIが分析し、最適な戦略を導き出しています。
また、同じく100%子会社のドラッグストア・調剤薬局チェーン「トモズ」と、「サミット」の会員ID(=ポイント会員)を2025年10月に統合しました。両社が別々に保有していた購買データをつなぎ合わせ、顧客データ量が増えました。その結果、顧客の解像度が上がり、例えば健康状態や嗜好に合わせた提案までAI化できないか。一人ひとりの購買行動や生活様式に合った商品・サービスを、より細かく提案・提供できるようになります。
こうしたことをSCSKの協力を得て一気に進めることができるのではないかと考えています。SCSKには、自分たちのクライアントのために働いてもらって構いません。実際に、売り上げベースで住友商事以外のクライアントが85%で、我々は15%ぐらいです。それでも、その15%の中で、現場がアイデアを持ち、取り組みが進めば面白いと思っています。買収によって、ノウハウとともにアプリケーションが一気に生まれていく。
こうした現場発のアプリケーションこそが、次の成長エンジンになりうると考えています。
*第2話(後編)に続きます。
聞き手:関灘 茂(A.T. カーニー)
執筆・構成:谷口 健、山崎 孝多朗
デザイン:岩城 ユリエ
写真:佐々木 龍


