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2026.7.9

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CO2と廃棄物から、産業資源「炭化ケイ素」を創出。東北大×住商が挑む素材供給の革新

太陽光パネルなどの処分時に発生するシリコン系廃棄物と、温暖化の原因となるCO2。ともに削減が求められるもの同士を反応させ、次世代パワー半導体をはじめ、これからの産業に求められる材料「炭化ケイ素」へと生まれ変わらせる。そんな東北大学と住友商事(以下、住商)の産学連携プロジェクトは、どのように始まり、いかにしてパートナーシップを築いてきたのでしょうか。東北大学の福島 潤先生と、エレクトロニクスSBU電子・機能材ユニットの上田光平の二人に聞きました。

  • 東北大学
    工学研究科 応用化学専攻 助教

    福島 潤

    2012年着任。一貫して非平衡材料プロセッシングの研究に従事し、主にセラミックス材料の新規合成法確立や準安定相合成、セラミックスを用いたCO2資源化方法などを研究してきた。日本電磁波エネルギー応用学会副理事長、日本鉄鋼協会高温プロセス部会ノーベルプロセッシングフォーラム主査。

  • 住友商事 
    エレクトロニクスSBU 電子・機能材ユニット

    上田 光平

    2012年入社。無機化学品ユニットで半導体原料・ガラス原料関連のビジネスを担当し、韓国での海外赴任も経験。現在は電子・機能材ユニットに所属し、EV・AIデータサーバ向け素材(シリコンカーバイドウエハ)やセンサ等、半導体関連ビジネスを担当。23年より、前任者から引き継ぐ形で本プロジェクトの担当に。

捨てられるもの同士から、期待の材料「炭化ケイ素」を生み出す

まず、この産学連携プロジェクトでは、どのような取り組みを行っているのでしょうか?

上田 福島先生らのチームが発見された、シリコン系廃棄物とCO2を反応させて「炭化ケイ素(以下、SiC)」を合成する技術の、実用・事業化を目指すものです。現在はNEDO(※)からの委託事業として実証フェーズに入っており、住商では原料となるシリコン系廃棄物とCO2の安定調達ルートの調査、SiCの活用先の開拓、サプライチェーン構築などを担っています。

福島 SiCは高い硬度と耐熱性を備えており、次世代パワー半導体材料はじめ、耐火物、研磨剤、セラミックスなど幅広い産業で使用されていますが、従来の製造法では製造過程で大量の電気を消費し、大量のCO2を排出してしまいます。また、太陽光パネルの処分時や半導体の製造工程で発生するシリコン系廃棄物は、リサイクルの難しさが大きな課題となっていました。このシリコン系廃棄物をCO2と反応させてSiCという有用な材料に変えられれば、「廃棄物をどう処理するか」という問題を「次の産業を支える材料をどう生み出すか」という前向きな議論へと進めることができます。

上田 この技術を社会実装できれば、現在約8割を輸入に頼っているSiCの一部国産化に寄与できるうえ、「産業廃棄物の再資源化」と「カーボンリサイクル」を同時に実現することができます。サーキュラーエコノミーの実現を目指す住商としても、非常に大きな可能性を感じているプロジェクトですね。

住商としては、本技術のどのような点に「事業としての可能性」を感じたのでしょうか?

上田 まず1つ目は、ニーズがあるという点です。社会課題ともなっている二酸化炭素の削減とシリコン系廃棄物の処理は、住商の取引先企業も抱えている課題です。本技術は、そのソリューションの一つになると考えています。2つ目は、コストの点です。廃棄物をベースとした原料に、既存の製造手法よりも少ないエネルギーでSiCを製造できることは、コスト面でも競争力を有する可能性があります。実際にプロジェクトを推進する中でお会いした、シリコン系廃棄物を排出する企業の方やSiCの需要家の方からも、本技術の早期事業化に向けた強い期待感をいただいており、その期待に応えたいという責任感も、継続的に取り組む原動力となっています。

加えて、本技術を社会実装していくうえで不可欠なパートナーとして、福島先生と率直に議論を重ねられる関係性を築けたことも、事業として前進できる重要な要素だと感じています。

本プロジェクトを通して社会実装後に想定される「カーボンリサイクル型炭化ケイ素(SiC)」の活用イメージ。次世代パワー半導体の材料をはじめ、モビリティやエネルギーなど、さまざまな分野で活用される可能性を秘めている

福島先生は、どのようにこの技術を発見されたのですか?

福島 実は最初から計画していたものではなく、偶然のたまものでした。ある時、マイクロ波装置でシリコンとCO2を反応させてみたところ、予想外に激しく発熱し、燃え上がったんです。最初は「随分激しく反応するな」と思っただけで、何が起きているのか十分に分かっていませんでした。その後、電子レンジに近い装置でSiCが合成でき、さらに分離して取り出せることが明らかになり、22年にプレスリリースを出したんです。

合成後のカーボンリサイクル型SiC粉末
マルチモード型マイクロ波照射装

上田 22年当時、電子・機能材ユニットでは「脱炭素ワーキンググループ」を立ち上げ、新規事業を模索していたのですが、前任者の村上が、東北大学のサイトでプレスリリースを見つけ、この研究に可能性を感じ、福島先生にコンタクトをとらせていただいたと聞いています。

福島 プレスリリースでは、技術の詳細にはほとんど触れていないにも関わらず、約30件もの問い合わせがあり、多くの方がこの技術に社会的な価値を感じていただいているのだなと驚きましたね。その中でも、これまでお話したこともなかった商社の方から問い合わせをいただいたことには驚きました。私の研究に興味をもってくれたことが、素直にうれしかったですね。

上田 実は村上も私も、ともに東北大学の卒業生なんです。母校との不思議な縁を感じましたね。

※国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構。エネルギー・地球環境問題の解決や日本の産業技術力の強化のため、委託事業や補助金などの形で支援を行っている

この技術を社会実装するため、住商には何ができるのか?

その後、福島先生と住商はどのように連携し、ビジネスモデルを磨いていったのでしょうか?

上田 私が23年に案件を引き継ぎ、まず取り組んだのが、「住商として何ができるか」を先生にお示しすることでした。商社はメーカーと違って、製造設備を持っていません。ですが、シリコン系廃棄物を集める知見や、SiCの活用先となるお客さまとのネットワーク、CO2の調達先の調査結果などを提供することができます。

実際、私が所属している電子・機能材ユニットでは、シリコンウエハとSiCウエハのビジネスを手がけていますし、過去、無機化学品ユニットでは金属シリコンを、住商メタレックスではポリシリコンを扱っている他、SiC粉のビジネスにも取り組んでいる部隊もあります。さらに住友商事グループには、太陽光発電事業や耐火物向け材料など、この技術を社会実装するために欠かせない豊富な商品知識と、幅広いネットワークが揃っています。先生の研究にこうした強みを掛け合わせれば、事業化に向けて一歩踏み出せるということを、お伝えさせていただきました。

福島 当初の最大の課題は、「SiCの製造設備を大型化できるか」でしたね。ここを乗り越えないことには、事業化は不可能です。この手法で製造されるSiCの性能も不明確でしたし、正直なところ、実際に商品としてSiCを製造できるようになるまでには大きな壁があると感じていました。

そのような段階から、住商の皆さんは仙台まで何度も足を運んでくれましたが、感謝以上に「申し訳ない」という気持ちが強かったですね。こんな見通しが不透明な技術に住商さんを巻き込んで、迷惑をかけるのではないかと。その不安も率直にお伝えしました。ただ、大型化を実現できれば、原料の調達や販売、活用先の開拓が次の課題となります。この部分は、まさに住商さんの得意分野です。そこは心強く感じていましたね。

上田 とはいえ、生産設備を持たない商社と共同研究を進めることには、福島先生の中にも少なからず不安があったのではないかと思っています。でも、腹を割った本音の意見交換を繰り返し、お互いの思いを共有する中で、信頼関係が深まっていったように感じますね。

福島 24年春に広島県・大崎上島に大型装置が完成し、一緒に見学に行った時は感慨深かったですね。シリコン系廃棄物の回収先やSiCの活用先となる企業・現場も、住商の皆さんと見学することができ、大変勉強になりました。

福島先生の中で、住商の印象は当初と変わりましたか?

福島 最初は「スマートなビジネスエリート」というイメージだったのですが、お付き合いが深まる中で、それだけではないことがよく分かりました。皆さん、課題があれば、現場に何度でも足を運び、粘り強く交渉し、周りを巻き込みながら乗り越えていく。エネルギッシュで、非常に泥臭い一面を持っているなと。何より、常に何事も本音で、前向きな議論をしてくれることがありがたいです。

「研究者」と「商社」が組むからこそ、生み出せる価値がある

25年からは、住友商事との共同実証として、NEDOの委託事業が新たにスタートしました。

上田 実証事業では、シリコン系廃棄物のサンプル収集、回収スキームの検証、CO2調達元の調査、SiCの活用先の開拓、事業化における採算性の検証を進めています。実は住商では、産学連携によるNEDOの委託事業は前例がありませんでした。しかし、CO2削減や廃棄物の有効活用、輸入に依存しているSiCの国内での新たな供給選択肢を広げるなど、これだけ社会的意義の大きい事業に対し、私たちの培ってきた知見を最大限に生かして取り組める機会はそうそうありません。そのため社内でも、「われわれがやるしかない」とポジティブに受け止めてもらえました。

福島 住商さんとの議論は、ときには2時間、3時間にも及びます。その度に、「研究者」と「商社」というフィールドが異なる者が意見をぶつけあうからこそ、新しい価値が生まれてくるのだと、つくづく感じています。

上田 実証も2年目に入り、具体的な成果が上がり始めていますね。シリコン系廃棄物については、太陽光パネルなど20種類程度のサンプルを、10社以上と連携のうえ収集することができました。CO2についても、複数の事業者へのヒアリングを進めており、安定調達に向けて引き続き検討中です。さらにSiCの活用先の開拓についても、SiCウエハの原料としての検討などが新たに動き始めており、着実に前進しているという実感があります。

最後に、今後の展望と事業にかける思いを聞かせてください。

上田 このプロジェクトは事業化までに、まだたくさんの課題を抱えています。今も社会実装のために必要な情報を集め、課題が見つかるたび、その解決法について福島先生と協議しています。今後も技術の進み具合や世の中の環境を含め、さまざまな要素の確認・検討を続けていくつもりです。

福島 目先の目標は、28年3月までのNEDOプロジェクトの中で、半導体の原料として使えるレベルに持っていくことですね。同時に、純度の低いシリコン系廃棄物によるSiCの合成や、将来的な選択肢としてDAC由来のCO2活用なども視野に入れています。現在はあらゆる可能性を探り、選択肢を広げている段階で、これから事業の形を絞り込んでいくことになります。今後はよりビジネスの領域へと入っていくので、ますます住商さんの力をお借りすることになりそうですね。

上田 もともと住友グループには、銅の製錬で生じた亜硫酸ガスからつくった硫酸・過燐酸石灰を肥料にし、農業に大きな貢献をしてきた歴史があります。長期的な視座を持ち、社会にとっての価値をつくり出す――このプロジェクトも、その系譜に連なるもの。今後もさまざまな課題を福島先生と乗り越え、理想的なビジネスモデルを築き、サーキュラーエコノミーの確立、さらには脱炭素社会の実現に貢献したいと考えています。

福島 SiCは、EVや再生可能エネルギー、データセンター、省エネ機器など、これからの暮らしや社会インフラにとって、ますます重要になってくる材料です。この技術が広がれば、環境負荷を抑えながら社会に必要な材料を供給できるだけでなく、廃棄物を出す企業にとっては処理の負担を減らすことにつながり、材料を使う産業にとっても新たな調達の選択肢にもなっていく。そして巡り巡って、私たちの暮らしの支えとなってくれるはずです。脱炭素化を「コスト」として捉えるのではなく、「新しい産業価値を生み出す取り組み」に変えていける社会を、住商さんとともに実現していきたいと思います。

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