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2023.10.1

Business

「欧州のパンかご」から「世界の食糧庫」に。ウクライナ農業を支える直販事業とは

住友商事は1970年代に農薬輸出事業、90年代には世界各地で農薬輸入販売事業を始めた。その後、バリューチェーンはさらに川下に向かい、2010年代には農家に農業資材を直接販売する事業に進出した。11年にはルーマニアのアルチェド、15年にはブラジルのアグロ・アマゾニア、18年には今回の舞台、ウクライナのSpectr-Agro(スペクター・アグロ)に出資し、同事業を展開する。20年末にオープンしたスペクター・アグロのサービスセンターにオンラインで訪れた。

この記事は2021年5月に公開された内容です

  • 報道チーム

    浅田 和明

    2019年4月に入社。20年10月までは制作チームでコーポレートサイトやFacebookなどを担当、同年11月以降は報道チームで輸送機・建機事業部門、資源・化学品事業部門、財務・経理・リスクマネジメント、アジア大洋州を担当している。好きな食べ物はドネルケバブ、ブリトー、バインミー。ジャポニカ米よりインディカ米を好む。周囲からは本当に日本育ちか疑われるが、生粋の大阪人である。

世界の食糧需要を支えるウクライナ

ウクライナの人口は約4,000万人、国土は日本の約1.6倍にあたる約60万平方キロメートルの広さを有する。「ボルシチ」は、実はウクライナ発祥であることはあまり知られていない。

ウクライナの主要産業の1位は、国土東部の豊富な鉄鉱山と広大なドネツ炭田に支えられた鉱工業である。次いで大きな産業は農業だ。農作物は同国主要輸出品目の1位となっており、輸出品全体の約50パーセントを占める。一昔前までは「欧州のパンかご」と呼ばれていたウクライナだが、現在では欧州のみならずアフリカやアジアにも農産物を輸出する「世界の食糧庫」となりつつある。

突然だが、「チェルノーゼム」という言葉をご存じだろうか。ウクライナ語で「黒い土」を意味するチェルノーゼムは、枯れ草などの有機物を微生物が分解した後に残る腐植という豊富な栄養を含んだ肥えた土壌のことである。世界の黒土の約3分の1から4分の1はウクライナに存在すると言われ、豊かな農業生産を実現する大きな要因となっている。

そんなウクライナの農業生産を支え、着実に成長している会社が住友商事グループのスペクター・アグロだ。農家に直接種子や肥料、農薬などの農業資材を販売する事業を手掛ける同社について紹介したい。

ウクライナにより良い農業を広げる

チェルノーゼムの恩恵を受け、言葉の通り「まけば生える」くらい恵まれた環境にあるウクライナの農業は、生産力、輸出力共に優位性を持つ。確かに他国ほど肥料や農薬を使わずとも農作物を生産できるが、近代的な資材を投入しさえすれば、増産が可能となり、急増する世界の食糧需要を満たすことができる。

そのようなウクライナで農業指導をし、農家の生産性向上に努めているのがスペクター・アグロだ。ウクライナ全土で21の支店を展開、約4,000の顧客を持ち、農家に寄り添ったビジネスを行うことで、その「スペクター・アグロ」ブランドを確かなものにしている。

2018年、当社は同社に51パーセント出資し、参画した。農業資材のバリューチェーンの最も川下、農家に直接資材を販売する事業は、当社の農業ビジネスの特徴的な取り組みだ。

出資参画を決めた背景には、総合商社の強みであるネットワークがあった。住友商事は1990年代から、「サミットアグロ」「スミアグロ」ブランドを用い、世界各地で農薬輸入販売事業を展開している。そして、そのうちの一社であるサミットアグロ・ウクライナが、重要顧客であったスペクター・アグロの強みを日々の付き合いから見いだしたのだ。

出資後は、住友商事グループとのシナジーを十分に発揮しつつ、出資時の業界4位から業界2位に躍進するなど着実な成長を遂げている。農薬と種子に強みを持つスペクター・アグロの次の一手は、農業機械(農機)の販売拡大だ。2020年12月末、首都キーウ郊外に大規模なサービスセンターをオープンさせた。

農家を“レベルアップ”させるサービスセンター

新型コロナウイルス感染症の影響により一時帰国中であった細田の案内のもと、このサービスセンターをオンラインで探訪した。ぜひ、皆さんもオンライン「探訪」し、そのスケール感を見ていただきたい。(枠内をクリックすると、サービスセンター内をくまなく「探訪」できます)

サービスセンターの敷地入り口には、日本では想像できないような巨大な農機がずらっと並んでいる。日本の一農家経営体当たりの平均農地が約3ヘクタール程度なのに対して、ウクライナの農家は数百~数千ヘクタールという比べ物にならない広大な農地を相手にしている。それを考えれば、納得のサイズ感だ。

次にサービスセンターのエントランスに入る。美術館のような内装に、置き場所を間違えたのかと感じるような巨大な農機。搬出口はあるのだろうかと心配になる。スペクター・アグロ初のサービスセンターの目玉は農機の販売とアフターサポートだ。1991年までソビエト連邦の一部であったウクライナでは、社会主義体制下に導入された農機が現在でも使われているケースが少なくない。一方、大型であれば一台数千万円もする農機の購入は、農家にとって一大決心。スペクター・アグロの販売員は農家の視点からアドバイスを行い、納得して必要な農機を購入してもらえるように努めている。

敷地、設置された農機の大きさもさることながら、サービスセンターの内部も広大だ。かわいらしいトラクターがあしらわれた廊下を抜けると、スペアパーツ置き場に出る。複数種類のスペアパーツを常備することで、一日一瞬のタイミングが重要な農家の作業が、機器の故障によって止まることを防ぐ。パーツの販売だけでなく、メンテナンスにも対応可能だ。

他にはウクライナ各地から集まった従業員のための宿泊所やキッチン、農業指導会などに使用される会議室などさまざまな設備がある。スペクター・アグロの従業員は、ほとんどが工学や農学の学士を持ち、農機に関する専門技術を有する。同社で、さらに農業に関する知見を共有、研鑽することで適切な農業指導の知識を習得して、農家に助言を与えており、そのこともスペクター・アグロのブランド向上、信頼獲得につながっている。

スペクター・アグロは今後3~4年を目途に、サービスセンターをさらに3店舗程度増やすことで、ウクライナの農業生産エリアを面でカバーしていく方針だ。同社は、ジャストインタイムの農業資材提供、適切な農業指導、万全のメンテナンス体制などの機能を発揮し、世界の食糧庫となりつつあるウクライナの農業生産性を向上させることに大きな使命感を持っている。また、今後の住友商事の農業資材直販事業の拡大に期待している。

我々が住友商事を選んだ理由
  • スペクター・アグロ代表 Volodymyr Lobach 氏

    スペクター・アグロは2009年の設立以降、順調に成長していましたが、我々から湧き出てくるアイデアを実現するにはリソースの確保が間に合いませんでした。そのため、優秀な人材、投資余力、グローバルな信用力・知見を有する住友商事をパートナーに迎え、さらなる成長を目指しました。その結果、出資後2年間で顧客数を3割以上増やし、従業員も新たに100人迎えることができるほどに成長を重ねてきました。

    我々の決断は正しかったのです。そして、今回のサービスセンターは農家への支援を拡充する重要な投資であり、我々のパートナーシップの結晶とも言えます。今後も住友商事と共にウクライナ農業へ貢献していきます。

出資参画当時を振り返る

スペクター・アグロへの出資に尽力し現在出向中の細田薫は、「出社初日は、まるでエイリアンを見るような目で見られた。最初の1~2カ月は大変だった」と出向初期を振り返る。それも無理はない。同社はウクライナ国内向けの商売を行う会社であり、370人の従業員のうち英語スピーカーは片手で数えられるほど。そんな会社を日本という遠く離れた国の会社が出資参画し、外国人が一人乗り込んできたのだから不審がられるのも容易に想像できる。そんな中、細田は「For スペクター・アグロ」の精神で提案を続けた。細田の熱心な姿勢が伝わり、現在では「言語の壁もリモートの壁も関係なく、ファミリーとして仕事ができている」と語る。

ネットワークやナレッジ、資金力など総合商社の強みはさまざまあるが、やはりその土地、社会、組織に深く刺さっていく現場力は重要な要素であると感じた。最前線で活躍する細田の背を見て、筆者も負けていられないと鉢巻きを締め直した。

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