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2026.7.2
Business
フュージョン発電を夢で終わらせない!フュージョン派生事業から発電実装へと向かう、住商の戦略
無尽蔵に近い燃料を用い、太陽のエネルギー生成の原理を地上で再現することで、温室効果ガス(GHG)を排出せず膨大なエネルギーを生み出す「フュージョン(核融合)発電」。現在、各国が開発プロジェクトを推進していますが、もしこのフュージョン発電が実現したら、世界のエネルギー問題が軒並み解決に向かうことも夢ではない、「エネルギー界のゲームチェンジャー」になり得る存在として大きな期待を集めています。
住友商事(以下、住商)は、将来的なフュージョン発電の社会実装を見据えるとともに、開発の過程で発見された「派生技術」にも注目し、派生技術を生かした事業(以下、派生事業)の商用化及び産業基盤の構築を着々と進めています。住商は、この構想にどんな未来を重ねるのか?エネルギーイノベーション・イニシアチブSBUに在籍し、来たる時代のエネルギーの種を社会に届けるべく静かな情熱を注ぐ西辻陽平に、話を聞きました。
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エネルギーイノベーション・イニシアチブ(EII) SBU
EII企画戦略ユニット西辻 陽平
2008年、地球物理の専門職として石油開発会社に入社。13年より、オランダ・デルフト工科大学にて外国公務員として「月面イメージング」と「AIの最適化」の研究開発に従事し、PhD取得。17年より資源開発会社で経験を積んだ後、20年に住商に転職。翌年、EIIに所属し、現在に至る。
地球上に太陽の力を生み出す「フュージョン(核融合)発電」
まず、フュージョン(核融合)発電とはどのようなものですか?
フュージョンとは「融合」という意味。フュージョン発電は、水素のような軽い原子核同士が結合(融合)するときに発生するエネルギーを用いた発電方法です。原子核の中の陽子と中性子の結合エネルギーが変化して、一説には原子力の4倍もの膨大なエネルギーが生まれると言われています。「核」という言葉から原子力発電と混同されますが、全くの別物です。GHGを排出しないクリーンなエネルギーであるうえ、運転中に発生する微量の放射線は、適切な管理によって安全性を確保できること。また、燃料や電源を切ればすぐに停止し、原理的に暴走が起こらない仕組みであることから、次世代の基幹エネルギー源として期待されています。
このフュージョン発電は、「地球上に太陽を再現する試み」とも表現されます。なぜなら、太陽が光や熱を放つエネルギー源は、フュージョン反応によって起きているものだから。それゆえフュージョン発電の実現には、異なる専門分野を統合させた複雑かつ広範な技術が必要で、難関の極みとされています。
国内においては高市政権の主要ミッションの一つとして注目されており、世界的にもあらゆる国が国家主導でプロジェクトを推進しています。それに加え、2010年頃からはスタートアップ企業の参画が本格化。20年代以降は民間投資が急増し、現在では重工業や素材・部品メーカー、AI・IT企業など、多種多様な民間企業が参入しています。その甲斐あって、いまだ技術的な課題が残るものの、商用化に向けた動きが一気に加速してきました。
西辻さん自身は、フュージョンエネルギーの独自性をどう捉えていますか?
フュージョンエネルギーは「究極のエネルギー」と言われています。圧倒的なエネルギー量や開発の難しさなど「究極」の意味するところは人それぞれですが、私自身はそれを「宇宙の起源に迫るものだから」と解釈しています。138億年前のビッグバンで私たちの宇宙が生まれ、その直後に水素など軽い元素がつくられました。その水素を燃料に、星々はフュージョンを起こしてエネルギーや多様な元素を生み出してきました。だとすると、太陽・風・土といった自然物はもちろん、生物や私たち人間もみな、「フュージョンの子どもたち」と言えるのではないでしょうか。フュージョンエネルギーは、「次世代エネルギー」という呼び名を超越した、別次元の存在だと私は捉えています。
「派生技術」に着目し、短期〜長期の一気通貫で産業基盤を築く
発電の技術開発の過程で、さまざまな「派生技術」が生まれているそうですね。
地球上で発電に向けたフュージョン反応を起こす時、1億度を超える超高温の熱が発生します。発電事業を成立させるには、その熱に長時間耐えうる素材や、過酷な環境を維持・制御する設備、低レベル放射性物質の安全管理技術が必須です。これらの開発を進める中で、高度な派生技術がいくつも誕生しています。「フュージョン発電」というはるか高みのゴールを目指すからこそ、そこから派生した技術もハイレベルで、大半の産業をカバーできるほど裾野が広い。それらの技術はすでに、医療分野や宇宙・防衛分野で活用され始めています。
住商は、この派生技術の「裾野の広さ」に注目しました。私たちは、フュージョン発電の社会実装という最終目標を見据えながらも、ここ数年のうちに派生技術で収益化が図れる分野を特定し始めており、短期・中期での派生事業開発に着手しています。
発電一筋の組織も多々ある中、住商がフュージョン発電と派生事業を「短期〜長期の一気通貫」で考えているのには、いくつかの理由があります。まず、短期・中期(派生技術)で得たノウハウを、長期目標(発電)に役立てられることが一つ。次に、派生事業でマネタイズができれば、フュージョン企業は他社からの出資のみに頼らず、自力で研究開発を続けることができます。加えて、派生事業が展開する先々でフュージョンエネルギーの存在が知られるようになれば、「このエネルギーは私たちにとって大切なもの」という認識と共感が社会に浸透するはずです。そうした理由から住商は、「派生技術の活用こそが発電実用化への近道」と考えているのです。
フュージョン業界への参入は、日系企業としては最も早いタイミングでしたね。
はい。22年に米国・TAE Technologies社に出資したのが始まりです。次世代の再生可能エネルギーにアンテナを張る中で、目に止まったのがフュージョン発電でした。その存在を知った時、「もしこれが本当に実現したら、さまざまな社会課題を解決する桁外れのソリューションになるに違いない」と、私たちチームメンバーはロジカルにも感覚的にも理解し、フュージョンエネルギーと徹底的に向き合うことを決意。以来、戦略的にフュージョン企業への出資を重ねてきました。
アジアでの派生技術の商用化に向けて、面的協業をスタート
26年3月にSHINE Technologies社(以下、SHINE社)に出資しました。何が決め手になりましたか?
SHINE社は、フュージョン発電の実現を目指しながら、世界で唯一、実際にフュージョンを起こした派生事業の商用化に成功している企業です。例として、フュージョン由来の中性子を用いて医療用アイソトープを製造し、がんの診断および治療に貢献するものがあります。
医療用アイソトープは各国で生産されているものの、既存の製造方法では安定供給に課題があり、将来的に日本を含むアジア地域への輸入量が極端に減ると予想されます。SHINE社のこの製造技術を活用すれば、安定した供給体制を速やかに確立できるため、革新的なソリューションとして期待されています。
SHINE社の派生事業の展開において、住商はどのような役割を果たしますか?
日本を起点としたアジア展開の窓口として期待されています。すでに住商では、医療用アイソトープの展開において医薬業界の知見を持つ医薬事業ユニットや、放射性物質輸送や原子力業界の知見を持つ原子燃料ユニットなど、複数のSBUとともに面的協業をスタートさせています。治療を待つ患者さんに安心して医療用アイソトープを提供するためにも、アジアでのビジネス展開は非常に重要です。
もう一つ、住商に求められているのが、派生技術を事業構想へと昇華させる役割です。フュージョン企業の中には、優れた技術があっても、事業展開のアイデアや事業化のためのネットワークを持たない企業が少なくありません。そこでSHINE社と密な関係を築く中で「技術」と「事業化」のギャップを見つけ、構想力を働かせてビジネスを具現化すべく動き始めています。
産業を超えて有機的につながる、巨大な「フュージョンエコシステム」を
フュージョン発電を起点にした産業は、私たちの未来を変える可能性を秘めているのですね。
その通りです。最初にフュージョン発電について「究極のエネルギー」だとお話ししましたが、そんな夢のエネルギーを人類の手で実現させるには、組織の垣根を超え、業界の垣根を超え、世代すら超えて全員が総力を結集し、あらゆる技術・産業・市場を有機的につなぐ「巨大なエコシステム」を創造する必要があります。
派生事業の展開先で多くの社会課題を解決しながら、最終目標であるフュージョン発電を社会実装させる――。このビジョンを成功へ導くために、住商はフュージョンエコシステムの中で各プレイヤーをつなぐハブとなり、相乗効果を広げながら発電実現の可能性を高める役割を担っていこう。そう強く決意しています。