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2026.6.18

Business

進化途上のカーボンクレジット市場、「つくる・つなぐ・つかう」の全方位で切り拓く

住友商事(以下、住商)が展開するカーボンニュートラル化社会の実現に向けた多様なビジネスの中で、企業間で温室効果ガス(GHG)の排出削減量を売買できる「カーボンクレジット」に特化した事業を担うのが、エネルギーイノベーション・イニシアチブSBUのカーボンソリューション事業ユニット。現場で得た豊富な知見と肌感覚を武器に、クレジットの創出・流通・活用支援を手掛けながら制度のルール策定にも参画するなど、サプライチェーンに幅広く関与して黎明期にある業界をけん引しています。

住商はなぜ、カーボンクレジットに着目したのか? 発展途上の新たな市場において、実績を積み上げられた理由とは? 今、急成長を遂げる業界のトップランナーである二人に、話を聞きました。

  • エネルギーイノベーション・イニシアチブ(EII) SBU
    カーボンソリューション事業ユニット長

    木下 裕介

    住友商事に新卒入社後、セメントビジネス、森林・木材ビジネス、投資・商取引審査等のリスクマネジメントに従事。2021年4月のEII設立後、住友商事のカーボンクレジットビジネスの立ち上げをリード。2024年7月から現職。

  • エネルギーイノベーション・イニシアチブ(EII) SBU
    カーボンソリューション事業ユニット

    内藤 秀治

    民間シンクタンクにて経済産業省・環境省のカーボンクレジット政策支援に従事し、J-クレジット制度運営や「カーボン・クレジット・レポート」の作成、検討会運営等を担当。2022年より住友商事にて、ボランタリークレジット・JCMクレジットの創出、国内企業を中心にクレジット調達支援等に従事。

GHG削減量を取引可能な価値に変える「カーボンクレジット」

そもそもカーボンクレジットとは何ですか?

内藤 近年、世界各国が連携し、「カーボンニュートラル」の実現が目指されています。その達成手段の一つとして注目されているのが、「カーボンクレジット」です。大手を中心に企業にはGHG排出量の削減努力が求められていますが、自社だけでは目標の削減量を達成できない企業も存在します。そこで生まれたのが、第三者が削減もしくは吸収したGHG量を「CO2 1トンあたり1クレジット」として数値化し、相互に取引することで足りない削減量を補う仕組み。ここで取引されるのが「カーボンクレジット」です。

カーボンクレジットにおけるビジネスの全体像を簡単に教えてください。

内藤 カーボンクレジット市場には、省エネ設備や再生可能エネルギーの導入、適切な森林管理などによってクレジットを「つくる人(売り手)」と、つくられたクレジットを「つかう人(買い手)」がいます。

両者の間には取引を仲介する「つなぐ人(仲介者)」がいて、健全な取引を促しています。取引価格は一定ではなく、どのようにつくられたのか、安定的な創出が見込めるのかといった「品質」や、取引が行われる形態などによって流動的に変化します。

木下 カーボンクレジットの取引には“何のために使うか”という目的で見ると、「ボランタリー(自主的な取り組み)」と「コンプライアンス(制度対応)」の大きく2つに分けられます。

ボランタリーは、企業が自主的にカーボンニュートラルを進めるためのクレジット利用で、取引の中心となるのは、売り手と買い手が直接交渉する「相対取引」です。自主的な取り組みである分、クレジットがどのような背景で生まれたのか、どんな価値を持つのかといった「品質」や「ストーリー性」が重視されるのが特徴です。

一方、コンプライアンスは「排出量取引制度(GX-ETS)」(※1)など制度上の義務を果たすためのクレジット利用で、政府機関による監督下で運営されるオープンな取引所を介して、売り手と買い手の注文をマッチングさせる「市場取引」が中心です。制度に基づいて利用されるクレジットは公平性や信頼性が求められるため、取引のルールや価格が明確で、誰もが安心して参加できる「整った市場」が必要になります。

※1 2050年のカーボンニュートラル実現に向け、日本政府が年間10万トン以上のCO2を排出している事業者に対して一定の削減目標を定め、管理する制度

「GX-ETS」の始動が、日本の市場活性化の転換点に

近年、日本でカーボンクレジットが盛り上がりを見せている理由は何ですか?

木下 2026年度から、日本政府がGX-ETSを本格的に始動させたからです。企業努力によって削減量が目標値を超過してしまった場合には、余った排出枠を売却することが可能です。一方、削減目標を達成できなかった場合は、排出枠を購入して補填する義務が課せられます。EUや韓国などには以前から国が定めるこうした制度が存在しましたが、日本全国で本格的に導入されるのは初めてです。

制度の対象となる企業は300~400社ほど。大企業が大半ですが、これらの企業の排出量を合わせると日本全体の約6割を占めますから、制度が与える環境への影響と経済規模は大きいと言えるでしょう。

内藤 GX-ETSは一義的に排出枠が取引される制度ですが、政府は同時に「J-クレジット(※2)」や「JCM(※3)」と呼ばれる国外との二国間取引を推進し、これらのクレジットについても一定の使用を認めており、今後、GX-ETSにおいてこれらのクレジットの取引が活発になっていくと予想されます。

※2 省エネ設備の導入、再生可能エネルギーの活用、森林管理等による国内の温室効果ガス排出削減・吸収量を、国が認証する日本のカーボンクレジット制度

※3 二国間クレジット制度(Joint Crediting Mechanism)。日本がパートナー国と協力して、温室効果ガスの排出削減に取り組む仕組み

自らの品質基準に従っているか? 「相対取引」における住商のこだわり

住商は、カーボンクレジット業界においてどのポジションにいるのでしょうか?

木下 「つくる・つなぐ・つかう」の全てに関与していると言っていいでしょう。「つくる」においては、アジア・アフリカ地域を中心に、ボランタリー需要に応えるべくマングローブ植林のプロジェクトを推進する他、先ほどご紹介したGX-ETSにおける潜在的なお客さま需要に応えるべく、JCMのプロジェクトを開発するなどしてカーボンクレジットの創出に取り組んでいます。「つなぐ」においては、相対取引の仲介役はもちろん、2023年に東京証券取引所に開設されたカーボン・クレジット市場での流通活性化など、市場取引にも大きく関与しています。「つかう」においては、大手企業を中心に数十社のカーボンクレジット活用を支援しています。

では、相対取引(ボランタリー)においては、住商は具体的にどんな役割を果たしていますか?

木下 「自然由来の活動による高品質なボランタリークレジットの取り扱いでトップクラス」を目指して、事業を展開しています。カーボンクレジットには品質の良しあしが存在し、それが価格や需要に大きく影響を与えるのです。

そのクレジットがどこで、どのようにつくられたのか。つくられたクレジットは、どのように測定・数値化されているのか。創出プロジェクトは、どんな付加価値を生んでいるのか。出どころ不明で数値の真偽を語れないものが存在する中、詳細かつ丁寧に説明できるクレジットは高品質だと評価されます。例えば、森林を増やすことで現地の生物多様性を促したり、植林や森林管理の雇用が生まれたりする場合は付加価値が高いと判断されて、高価格で取引される傾向にあります。

住商は、「自分たちの品質基準を持ち、そこに合致しないクレジットは扱わない」という姿勢を貫き、さまざまな面からかみ砕いて納得できるクレジットを取り扱っています。未成熟なこの市場において皆さまから信頼を得られているのは、クレジット創出の現場に身を置いてカーボンクレジットそのものを深く理解するとともに、他社が創出するプロジェクトにおいても構想段階から伴走するなど、売り手と買い手の双方と丁寧に対話を重ねているからこそ。そう自負しています。

住商は、インドネシア、マダガスカル、モザンビークでマングローブの植林プロジェクトを推進。技術的に難しく、長い時間軸で運用するマングローブ植林は、CO2の吸収に加え、地域コミュニティの活性化や津波被害の軽減といった付加価値も大きい

活発な取引を促し続ける、「市場取引」のキープレーヤー

次に、市場取引(コンプライアンス)においては、住商はどんな役割を果たしていますか?

木下 成熟度が低い現在の日本市場において、「市場を成立させるプレーヤー」としてカーボンクレジットの流動性向上に力を注いでいます。「流動性が高い」とは、「市場が活性化している」ことを意味します。カーボンニュートラルを達成するには、売り手と買い手の双方が積極的に市場へ参画して、売買が盛況な状態をつくることが重要なのです。

住商は、東証が設立したカーボン・クレジット市場の開設当初から、継続的に売り・買いを行うことで売り手と買い手が安心して取引に参画できるよう、市場の活性化に尽力してきました。その実績が評価され、東証が定めるすべての目標基準を達成した証として、3年連続「ベストマーケットメイカー」(※4)に表彰していただきました。

今後目指すのは、「GX-ETSにおけるクレジット供給でもトップクラス」になること。総合商社である私たち住商は、あらゆる事業において需要と供給の双方の視点を理解し、それをつなぐことを本業としてきました。新しい市場においてもこれを自身の役割と心得て、「仲介者」としてより一層、存在感を示していきたいですね。

※4 マーケットメイカー制度とは、金融市場において、証券取引所から資格を得たマーケットメイカーが継続的に売買の気配(価格および数量)を提示することで、市場の流動性(取引しやすさ)を確保する仕組み

「大義」を胸に、社会にとって価値あるカーボンクレジットを

日本の市場が発展することで、社会的・経済的にどのような影響がありますか?

内藤 これまでGHG削減に寄与する技術やプロジェクトは、「社会のために良いことをしている」という評価を受けるものの商用化には至らず、企業の成長や経済の活性化とは結びつかないものもありました。けれど、市場が生まれたことでしっかりとマネタイズできるようになり、これまでなかった技術の開発やビジネスを活性化するきっかけになっています。

木下 その一方で、ここ数年で一気に注目度が高まったとはいえ、まだ多くの企業が市場へ参画するレベルにまで達していないのが現状です。カーボンクレジットは非常に倫理観が問われる仕組み。例えば、自社でコストをかけてGHGを削減する努力をしなくとも、第三者からクレジットを買ってきたほうがラクだし安上がりとなれば、購入を選択するでしょう。削減量を数値化したものに価値をつけているだけですから、詐欺まがいのことが起きる可能性も大いにある。専門組織の立ち上げ時には、その点について徹底的に議論しました。疑いなくカーボンニュートラルに資することができ、社会にとって重要な意義を持つものでなくてはならないという「大義」を掲げ、私たちはこのビジネスを始めたのです。

だからこそ、単に「売る・買う」の仲介をするだけではなく、「何のためにするのか」「社会情勢を鑑みたうえで今優先すべきは何なのか」……といった対話を重ね、カーボンクレジットの意義を理解していただくことを優先して、一人一人のお客さまと向き合っています。大切な「大義」を胸に、カーボンニュートラル化が「我慢」や「コスト」ではなく、前向きな「投資」として機能する社会を目指して、これからも日本のカーボンクレジット市場を育てていきます。

東証からみた、カーボン・クレジット市場における住友商事の取り組みについて

日本の排出量取引の制度や政策が大きく変貌する黎明期・揺籃期という難しい環境下、住友商事様による積極的なマーケットメイク参画には感謝しかありません。住友商事様は市場に精通し、国内外の制度・市場動向への深い理解、幅広い顧客網を持つ専門家チームであり、今後の市場発展の不可欠なパートナーとして協働していければと存じます。

東京証券取引所 カーボンクレジット市場整備室長 松尾 琢己(写真右)

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