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2023.12.21
Culture
日本の技術を世界へ。プロフェッショナル人材が描く鋼管事業の未来とは
「日本の技術で、世界と戦えるビジネスを創り出したい」
現在、欧州住友商事のノルウェー支店に駐在中の黒岩壮吾は、そんな熱い思いを抱いて、2018年に住友商事(以下、住商)にキャリア入社しました。次世代の鋼管事業を担う黒岩の目標は、日本の優れた技術を活用してエネルギー産業の発展に貢献すること。外資系企業で活躍していた黒岩が、なぜ住商を選んだのか、住商で成し遂げたいことは。その思いに迫ります。
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欧州住友商事 金属事業部門 ノルウェー支店
黒岩 壮吾
2018年に国際的なエネルギー開発サービス企業から住友商事へキャリア入社。鋼管本部エネルギー資機材サービス事業部を経て、20年から現職。ノルウェーでは、出向先のSekal AS社で新たなデジタル技術を基盤とした石油・ガス開発における効率化、低炭素化の事業開発に取り組んでいる。
日本の技術×住商のリソースで、世界をより豊かに
前職の大手外資系企業での10年以上のキャリアを経て、なぜ転職先に住商を選んだのですか。
前職では、石油・ガス上流市場にさまざまなサービスを提供しており、現場のオペレーション全般や研究開発に携わってきました。同社は事業内容から働き方まで真のグローバル企業と呼ぶにふさわしく、グローバル人材として成長するには格好の場でした。
一方、一人の日本人として、日本の技術が衰退していくことに危機感を持つようになりました。日本には世界に誇れる技術が多くありますが、残念ながら世界にあまり知られていないものが多くあります。年齢や経験を重ね、自分自身の成長だけでなく、「日本のため」に何かしたいと志向が変わってきたのが転職のきっかけでした。
そんな思いから日系企業への転職を考え始め、目に留まったのが住商です。エネルギー業界のサービス・ソリューション分野に深く刺さっている日系企業は珍しく、住商のリソースやネットワークを活用することで、「日本の技術で世界を豊かにしたい」という目標を実現できるかもしれないと思いました。
前職時代から日本の中小企業・超電導センサテクノロジー(以下、SUSTEC/サステック)に注目し、住商へ転職後に同社への出資を実現されていますね。
SUSTECが扱う超電導技術は、エネルギー分野で世界を変えるポテンシャルを秘めていると思います。私自身も大学では超電導をテーマに研究していたのですが、超電導とは、特定の物質を極低温に冷却することによって起こる「電気抵抗がゼロになる現象」です。
電気抵抗とは電気の流れにくさを表す言葉ですが、通常、送電には電気抵抗由来のロスが出ます。超電導技術を応用すれば、送電ロスを限りなくゼロに近づけることも可能となり、世界的なエネルギー問題の多くを解決できる潜在能力を持つ技術だと考えています。
実際に、サハラ砂漠に太陽光発電所を建設し、超電導電線で世界中に送電するという壮大なプロジェクトも存在します。実現にはまだまだ時間がかかると思いますが、超電導のポテンシャルの高さを感じさせると同時に、夢を抱かせてくれる一例ですよね。
SUSTECが数十年かけて研究・開発してきた超電導技術も同様に、エネルギー業界における効率化やコスト削減・脱炭素化といった面で大きなインパクトをもたらす可能性を秘めています。
実は外資系企業に在籍していた当時、SUSTECに「共同研究開発をしたい」と申し出たことがあったのですが、その時は残念ながら実現しませんでした。しかし、超電導を研究していた頃から同社が持つ技術のポテンシャルを確信していたこともあって諦められず……。そこで住商へ転職して2日目、すぐにアプローチをかけました。
転職してまで協働を熱望。脱炭素化を後押しする日本の技術
しかし、SUSTECへの出資が決まるまでは、一筋縄ではいかなかったそうですが。
SUSTECからは「住商だったら喜んで」と快諾を得られたのですが、社内を説得するのに時間がかかりました。
SUSTECの技術は、新しい概念のソリューションであり、資源探査・開発用途としてニッチではあるものの、世界的に見てもかなりの優位性を有しています。SUSTECのSQUID(超電導の特色である量子効果を利用することにより、従来の磁気センサをはるかにしのぐ感度を持つ量子センサ)と呼ばれる特殊な技術を応用した製品を利用することで、二酸化炭素の地下貯留「CCS」や地熱開発も含めた地下資源探査・開発において、かゆい所に手が届くようになったんです。諸条件次第ではあるものの、コスト削減・脱炭素化にも貢献することが可能と考えています。
とはいえ、いくら技術力やマーケットがあると語ったところで、前例のない先進的な取り組みへの理解は、すぐには得られません。SUSTECが技術の根底とする「量子」と、石油・ガスといったエネルギー業界の関連性は乏しいと言わざるをえなかったので、なおさらハードルは高くなります。
出資の賛同を得るために、どのように社内を説得したのでしょうか。
懇切丁寧に説明することが最良だと考え、ひたすら関係者に説明を続けている中、コロナ禍が訪れました。チャレンジングな状況に追い込まれましたが、私の夢に共感してくれた仲間が本件を強く推進してくれたことや、アフターコロナのエネルギー業界における「効率化」や「脱炭素化」の波に乗ることもでき、2023年9月に出資が実現しました。
転職時に私が掲げていた「住商のリソースやネットワークと日本の技術を掛け合わせて、世界を豊かにしたい」という目的において、「ようやくスタートラインに立てた」と感じた出来事の一つと言えます。現時点では出資をしただけであり、まだ何も成し遂げていません。真のゴールは果てしなく先であり、ここからが本番です。
現在取り組んでいる「マレーシアの人工魚礁プロジェクト」も先進的なブルーエコノミーの領域ですよね。
石油・ガス開発事業で不要になった資機材(鋼管等)を人工魚礁に再生させることで、サーキュラーエコノミーの実現および生物多様性の回復(ネイチャーポジティブ)を目指すプロジェクトです。人工魚礁は漁獲量増加という地場のコベネフィットを生み、食糧問題への貢献にもつながると考えています。人工魚礁の技術面・国内ビジネス面で最大手の日系企業と組み、マレーシアの水産庁および同国国営石油・ガス開発会社であるペトロナス社と共に取り組んでいます。
歴史をさかのぼると人工魚礁の技術は約400年前、江戸時代から日本で活用されてきました。しかし、これほどの歴史と実績のある技術も、世界にはまだまだ知れ渡っていないと私は感じています。SUSTECとの協業と同様に日本の優れた技術・実績を世界に発信する取り組みの一環と言えますね。
日本の技術で世界の海を豊かにし、ネイチャーポジティブへ貢献。さらにはエネルギー業界のサステナビリティ・サーキュラーエコノミーを実現し、SDGs・ESGへの取り組みとビジネスが両立するようなモデルを確立する。その思いが本プロジェクトのモチベーションになっています。
エネルギーが平等に分け与えられる世の中に
サステナブルな事業が企業に求められる昨今、エネルギー業界に携わる一員として、どんな使命感を持っていますか。
業界に携わる誰もが考えていることだと思いますが、石油・ガスを扱う企業は温室効果ガスの排出量を正味ゼロにする「ネットゼロ」を達成すべきです。一方で、化石燃料から再生可能エネルギーへの置き換えが進む中でも石油・ガスの需要が急になくなることはありません。
だからこそ、技術的に石油・ガスの開発や生産の省エネ化、省人化、脱炭素化を推し進めることと、商業的に二酸化炭素の地下貯留「CCS」等を実現し「ネットゼロ」を達成することを総合的に進める必要があると考えています。
住商ではコーポレートメッセージとして「Enriching lives and the world」を掲げていますが、ご自身の価値観と共通する部分があれば教えてください。
私がエネルギー業界を志したきっかけは、学生時代にバックパッカーとして世界を回り、貧困など発展途上国で起きている不平等な現実を目の当たりにしたことでした。さらに前職時代のアフリカ駐在を経て、そうした不条理を変える力がエネルギーにあると確信しました。石油やガスは人の生活を豊かにする資源であると同時に、争いごとの種にもなり得ます。
一言で「Enriching(豊かにする)」といっても、発展途上国と先進国では「豊かさ」の概念は大きく異なります。世界共通の認識で語ることが難しい「豊かさ」に一つ共通するものがあるとすれば、それはエネルギーではないかなと思います。
自然がつくり出すエネルギーを、地球上のあらゆる場所に住む人々に平等に分け、サステナブルに発展させていくことが私の大きな目標です。